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東京都立 本所工業高等学校  少人数教育の定時制工業高校

◆取材:加藤 俊 / 文:田村 康子

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校舎 窓

4年間の学びの中で自分のよさを実感し、自信を持って羽ばたいてほしい!

工業高校で、かつ定時制のみという東京都立本所工業高等学校。総合技術科の工業高校として1年時は共通科目を履修し、2年時からは「機械類型」「電気類型」「電子類型」を選択。卒業までの4年間、インターンシップなどの就業体験を含めて、じっくりと基本的な技術を身に付ける。高校生といっても、昼間は働くことを奨励し、ほとんどの生徒が勤労と学習を両立しているという本校。校長の三田清一氏をはじめ、副校長、そして進路指導の先生に、4定時制高校ならではの生徒の育成、企業や地域との連携についてうかがった。

 

昼間は働き、夜は勉強

三田清本所工業高等学校 三田清一 校長一 校長(以下三田) 本校は昭和10年に本所区工業学校として創設されました。新制高校になり定時制のみになったのは平成18年からですが、現在は1学年1クラスという少人数教育を行っていますので、生徒一人ひとりに目が行き届き、就職支援も親身になって行える点が強みです。

 

 

本所工業高等学校 佐藤和博 副校長佐藤和博 副校長(以下佐藤) 本校は定時制なので、卒業までに4年間かかります。いろんな事情があり、定時制を選んだ生徒が多いのですが、学校としては基本的に昼間働くことを奨励しています。ただ、私たち大人の社会に照らしても、昼間は働いて夜は勉強するという生活は、非常に大変なことです。学校の授業の時間が少ない分、バイトなども通して生徒に成長の機会を与えたいと思うのですが、本当によくやってくれています。

 

三田 その生徒の頑張りが目に見えるのが、本校の文化祭です。全長50mほどの鉄道を作ってミニ電車を走らせたり、四輪駆動のゴーカートなどを作るなど、モノづくりに積極的に取り組んでいます。ミニ電車の作成にあたっては、車両本体の内部、モーターなどを積み込む部分を、ひたすら削り続ける必要があるのですが、そうした地道な作業を通して、仕事とはどういうものなのかという手触りを感じ取ってもらう良い機会になっています。また、近年は生徒会活動も盛んです。文化祭の後夜祭を生徒自ら企画して開催したり、スポーツ大会の運営も生徒が主体となって行っています。

 

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学校 校舎 写真

Q・在学中に社会との接点を持ったり、地域とのつながり・連携という意味で、具体的に展開されている活動はありますか?

 

本所工業高等学校 永井和博 主任教諭

永井和博 主任教諭(以下永井) 昨年からは、東京都教育委員会が実施している高校生の中小企業見学会に他校と一緒に参加しています。定時制高校に入学してくる生徒は控えめな性格の子が多く、よくいえば純粋で素直ですが、やはり、積極的に外に出て行くことが苦手な子もいます。ですので、他校と合同で開催する企業見学などの機会は、社会性を獲得する上での良い機会になりますので、今後も活用していきたいですね。

 

また地域との繋がりという点では、毎年10月半ばに開催される「葛飾区産業フェア」には長年参加しています。2週にわたって金土日、合計6日間開催されるイベントですが、1週目が工業・商業・観光展、2週目が農業・伝統産業展として開催されています。本校では毎回ブースを出展して、生徒の作品展示と、地域の子供やその母親たちを対象にした体験コーナーを設けています。

 

いつもは教えられる立場の生徒も、人に教える経験を通して、得るものが多いようです。教える喜び、あるいは教えることの難しさなど、学校の授業だけではできない体験ができる、とてもよい機会になっています。

 

Q・全日制高校と比較して定時制高校の特徴、また、定時制高校の生徒ならではのよいところは?

 

三田 社会に出ることをより意識できる立ち位置にいることでしょうか。定時制のため、昼間は働くように言っています。アルバイトの子が多いのですが、正社員として働いている生徒もいます。学校で勉強させるという枠を越えて、社会や地域と一緒になって育てていくという意識が強いです。そのため、教師が生徒とともにハローワークに通って就業支援を行うようにしています。

 

Q・御校のような定時制高校、工業高校に求人したいという企業には、どんな特徴があるんでしょうか?

 

永井 やはり、機械類型、電気類型、電子類型ともに、それぞれ基礎的なことを学んでいるので、一から教えなくても基礎がわかっている者が欲しいという企業でしょうか。また、卒業生が継続して就職している企業ですね。信頼関係ができていますし、「君たちの先輩が頑張ってくれているから、ぜひ!」という企業もありますね。

 

Q・定時制高校ならではの課題、全日制高校に比べて、教育や就職支援においての難しさはありますか?

 

佐藤 やはり授業時間が少ないということでしょうか。夕方6時前から登校して、授業が夜9時まで、部活の時間も40分しかとれず、最終下校が10時ですから、限られた時間の中で、教育しなければなりません。インターンシップを受け入れてくれる企業や、参加する生徒を増やしていくことも喫緊の課題ですね。それからインターンシップは経験したものの、そこで感じたことをフィードバックする機会の設定でしょうか。

 

Q・葛飾区は、大企業を支えるような部品工場や、細かなプラスチック製品を製造する町工場、玩具、アパレル、さらに伝統工芸の方など様々な企業がいます。そうした地域の企業との連携をどう考えていますか?

 

三田 葛飾区の企業ネットワークとしては「かつしか異業種交流会」という組織がありまして、非常に活発に活動されていますね。そのメンバーでもある歯車などを専門につくっている株式会社チバダイスの社長・千葉英樹さんは本校の学校運営連絡協議会にも参加してくださっています。千葉さんら異業種交流会の人脈を活かして、地域の企業との連携を深めていきたいと考えています。
また、毎年2回、同窓会長等を招いてキャリアガイダンスとしての講演会なども行っています。これには就職を控えた4年生だけでなく、全校生徒が参加していますが、同窓生のルートを活用して地域や企業との接点を見つけ、就業体験や就職活動に結びつけていくことも考えています。

 

Q・生徒へのメッセージをお願いします。

 

三田 昔は、「ぜひ工業高校で学びたい」と入学する生徒も多くいましたが、最近はそうした生徒が減っています。ただ、入学時には工業高校でなくてもよかったのにと思っていた生徒が、本校で学んだことにより、「工業高校だから面白い実習ができた」「工業高校だからやりたいことが見つかった」「工業高校を卒業してよかった」と思ってくれるようになれば、嬉しいですね。また、一人でも多くの生徒にそう思ってもらえる学校づくりをしていくことが、私たち教師の使命です。

それぞれ、いいところがたくさんある生徒です。「君の、こんなところがいい」と声に出して伝え、自分の良さを気づいてもらうことを教員としても、もっとしていかないと。生徒には、そうした学校で学んだことを励みに、自信を持って社会に羽ばたいてほしいですね。

 

課題も含めて、率直な提言を、どうもありがとうございました。

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東京都立本所工業高等学校
東京都葛飾区南水元4-21-1
TEL 03-3607-4500
http://www.honjokogyo-h.metro.tokyo.jp

 

2014年1月号の記事より

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