オビ 企業物語1 (2)

開成→東大法学部→弁護士から起業したエリート。今までの勉強のコツを詰めこんだサービス「資格スクエア」とは?

◆取材:加藤俊 /文:山田貴大

オビ ヒューマンドキュメント

株式会社サイトビジット 代表取締役社長 鬼頭政人氏

学生時代、要領の良い人間、地頭が良いと思える人が一人や二人周りにいた。あまり勉強しているようには見えないが、なぜかテストの点は良い。そんなスゴい奴に話を聞くと、どうずれば効率よく学習内容が身につくのか、その「勉強方法」に工夫がある人が多かった(記憶力の差は抜きにして!)。

さて、読者の皆さんは、効率のよい「勉強方法」を考え実践したこと、ないしは教わったことはあるだろうか?

 

勉強の鬼、鬼頭氏

学校や塾ではあまり教えることのないこの学習方法を考えに考え抜き、開成から東大法学部、そこから弁護士になって、果ては学習業界で起業した人がいる。著書『頭のよさとは「ヤマを張る技術」のことである』(KADOKAWA/中経出版)が勉強の方法論として好評を得るなど、拡大傾向にあるeラーニング市場で圧倒的な存在感を見せる株式会社サイトビジットの代表取締役・鬼頭政人氏である。

なぜ独立へと自身を導いたのか。幼いころの秘話から自身の経験に基づいた新サービス、最終的に見据える先までインタビューを通じて新たな一面を明かしていく。

 

 

資格スクエアとは?

サイトビジットが運営する「資格スクエア」は、人気講師の授業動画がオンラインで従来よりも圧倒的低価格で受けられるサービス。資格と名がつくように、「弁護士」「弁理士」「司法書士」を始めとした士業資格向けコースが中心ラインナップ。その他「公務員」や「簿記資格」などが並ぶ。オンラインによって固定費を大幅カットしたうえで講義の質を落とすことなくサービスを展開できたことで、2013年12月のローンチ後、会員は5,000人を超えるサービスだ(2015年9月現在)。

 

実際どれほど安いのか。人気の弁理士資格コースは月額4,000円。その他のサービスも概ね月額6,000円前後といった次第だ。LECやTACなどの予備校の弁理士資格コースは年間30~40万円前後かかることを考えると、確かに安い。

 

ただ疑問が湧く。オンラインかつ独学で難関資格に合格することは本来難しいはず。会員の多くも専門学校などに通いながら、補完する形で資格スクエアを利用しているのではないのかと。この点に関して比率としては資格スクエアだけで学んでいる人の方が多いという。

 

資格スクエア 広報井上さん

サービスを説明する広報・PR担当の井上加菜さん。いつでもどこでも勉強ができる動画配信によって、学習の在り方そのものが変わっていきそうだ

「利用者の8割が社会人の方。つまり専門学校などに通う時間は捻出しにくい。その点、資格スクエアは空き時間を活用して学べるので私塾と併用せずに学ぶ方が多いようです」(鬼頭氏、以下同)

 

事実30代後半から40代の会社員が一番多く、次に50・60代と30代前半が来るそうだ。

内容の方も業界における有名人講師陣の講義がずらりと用意されている。講義は動画配信で何度でも受け放題。それでいてオンライン講座なので、予備校に比べて破格の授業料と来れば、確かに人気がでるのも納得がいく。

 

実際、会員の資格取得の目的も一番は「職を変えたい」という切実なもの。自分の将来に不安を抱えている人が、手に職を付けたいと思って気軽に勉強を始められる。これは生涯一社という雇用形態が崩れた中、職を変える際の障壁を小さくする点で、eラーニングに期待された目的をきちんと体現したサービスと言えそうだ。

ではそのeラーニングの市場はどのように推移しているのか見てみよう。

 

 

市場規模が拡大する『B to C市場』 

サイトビジット 図

2014年度の国内eラーニング市場規模は、2013年度1,378億円から120.8%の1,665億円と拡大した。

これは法人向けのB to B市場が微増推移となる一方、個人向けの B to C市場が大きく伸長し、市場拡大を牽引したことによる(B to C市場は前年度比134.6%の1,090億円と大幅拡大)。

その中でも、通信教育、学習塾などの大手教育事業者の情報通信技術を使用した学習コース導入もさることながら、資格スクエアなど新しいプレイヤーによる影響が大きい。

市場の動向としては、今後より一層無料ないし低価格で提供されるサービスが中心となることが予測されている。

(データ引用:株式会社矢野経済研究所/eラーニング市場に関する調査結果2015より)

 

 

鬼頭氏の生い立ち

幼いころから考える癖が身についていたという。財団法人に勤務している父親と専業主婦だった母親の間に生まれた鬼頭氏。

「議論が好きな家庭環境でした。父親は日本の政治や事件について小学生だった自分に問いかけてきましたから」

 

おかげで自分なりの意見を考える癖が身に付いたようで、中学は難関の開成中学に入学。しかしそこは秀才や天才の巣窟。ただ努力しただけでは、とてもトップに立てない世界だった。そこで鬼頭氏が編み出したのが、教師のクセを探り、過去問を読み、ヤマを張る技術。ヤマを張るといっても、凡人のようにただ無鉄砲にではない。

例えば試験は過去問と問題の出題者が重要になるので、出題者に連絡することを試み、クセやどの分野が得意なのかを意識する。曰く一学期は観察期間になるらしい。

 

「出題範囲の中でよく出る範囲は限られています。その範囲を過去問や教師のクセから知ることです」

と、簡単に言う。それができないから凡人なのよと嘆きたくなるが、著書『頭のよさとは「ヤマを張る技術」のことである』を読むと、確かに目からウロコ。なんだか自分にもできそうと思わせる勉強方法が数多く紹介されている。何よりも勉強の方法をここまで考えぬいている人がいるのかという事実に驚かされる。惜しむらくは、筆者然り読者の大半も試験問題や資格取得とは無縁の年代に差し掛かっているだろうこと。

 

さて(ここからはさらりと流すが)、鬼頭氏は小学生時代に父親のリストラを経験。それを機に、将来的な独立願望を抱きながら勉強のコツを探ってきた。ヤマを張って開成高校を優秀な成績で卒業。現役で東京大学法学部へ入学、そして弁護士を志す。3年ほど顧問業務を中心に行う事務所で弁護士活動をしていたが、友人の誘いもあって産業革新機構に転職。

そこでは様々な経営者と触れ合う機会があり、新たな刺激を受けるようになっていた。そのような日々を過ごした結果、「熱にあてられ」起業を決意。分野はやはり自分が最も得意だった勉強。

「自分も世の中にインパクトを与える仕事がしたかった」と鬼頭氏は振り返る。

 

 

業界の常識を覆す新たなサービスの展開

現在、他社サービスとの差別化を値段以外にも広げようと新サービス「資格スクエアクラウド」を提供中。更に付加価値を高めるため新たな問題演習機能も続々追加中だ。どうやら鬼頭氏の勉強法を落とし込んだものになるらしい。採点をするにあたって正解したか否かの答えを見るのではなく、きちんと理解できているかの習熟度を見る仕組みらしい。

 

「ある問題に対して自分が“100%”理解出来ているかどうか。正解の選択肢を「もちろん○」「たぶん○」などと複数分けることを考えています」

 

資格スクエア 図

「もちろん○」「たぶん○」と理解度に応じた選択肢が用意されるようだ

自信がなく正解した問題は復習の対象になり、また範囲を増やすとともに、適切な順番で復習ができるシステムのようだ。また、他者が出来る問題を確実に解くことも重視しており、その観点から正解率を採用して、客観的に周囲が出来ているのかを把握できる指標を導入している。

この問題演習機能は年内での完成を目指しているという。そこで今回は、業界で急成長を遂げる株式会社サイトビジットについて鬼頭氏に今後の展望などを示して頂いた。

 

オビ インタビュー

資格スクエア 鬼頭政人氏

 

起業当初からこれまでに苦労をしたことは?

 

2014年当初は弁理士のカリキュラムしか提供をしていませんでした。まだ認知されていないなかどうやってサービスを広げればいいか、そこに腐心しました。

契機となったのは弁理士の短答試験。お金や人材がなかったので本試験に向けたビラ配りを事実上、私を含めた少人数で始めたのです。配っている最中は休む場所もなかったので、暑い車の中で寝ていました。どのぐらいの反響があるのか想定を出来ていない不安はありましたが、兵庫県にある甲南大学で700~800枚のビラを配ったところ、月4000円という価格を打ち出していたことも影響して問い合わせの電話やメールが殺到したんです。

 

―価格破壊的な低価格でサービスを提供しているが、塾業界などからの反響は?

 

意識はして頂いていると思います。ただ、今のところは何もありません。今後、うまい形での協業もあり得るのではないかと思っています。

 

―勉強のコツに特化しているが、一般的な塾でもそういったことは教えているのか

 

勉強法について教える塾というのは少ないと思います。ほとんどの塾はインプットに力を入れていますから。当社のコンテンツは勉強ができない人でも、勉強ができる人のレールに乗れることを目的にしています。イメージとしては野球の長嶋茂雄氏の理論が、自動的にインプットされるみたいなものです。それを学習分野で行っているという。

 

最終的に見据えているところは?

 

最終的な展望としては人が働くところそのもの。誰もが矜持(プライド)を持って働ける社会と表現しているのですが、もう少し突き詰めた言い方をすると楽しく働ける社会にしたい。楽しさの源泉はプロフェッショナリズムにあると思っていて、一定のスキルがないと仕事を楽しむことはできません。その手段として資格習得のサービスを提供していますが、我々だけでやらないとしても、どこかの企業と提携して人材サービスを展開していきたい。それに資格を習得した後もフォローできる仕組みを提供したいですね。

 

―士業や公務員試験など職そのものから離れたサービスは展開しないのか?

 

現時点でも、簿記やビジネス会計など、一般のビジネスマン向けサービスを提供しています。従業員に簿記を習得させたい企業などにはご好評頂いています。現在、実験的に進めているのが、派遣会社に福利厚生的な側面で簿記のコンテンツを導入すること。これは会社がまとめ買いをするのではなく、社員が通常価格の半分で購入するという仕組みです。それに併せて、試験に合格したら全額をキャッシュバックする制度も試みています。入社したばかりの若手社員が企業の利益追求に貢献できたり、世界経済を理解できたりすることは、今後の企業や社会にとって大きなメリットになると思っています。

 

―有難うございました。

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

鬼頭政人(きとう・まさと)…1981年生まれ。開成中学、開成高校を特別優等の成績で卒業後、東京大学文科1類(法学部)に現役で合格。同大学法学部卒業後、慶應義塾大学法科大学院に現役で進学し、同大学院在学中に司法試験に一発合格。司法修習を経て都内の法律事務所に弁護士として勤務。ベンチャー企業を多面的に支援したいと考え投資ファンドに転職した後、2013年12月に資格試験対策をオンラインで提供する「資格スクエア」を創業、現在に至る。著書に『頭のよさとは「ヤマを張る技術」のことである』がある。

 

株式会社サイトビジット

所在地:東京都品川区西五反田8-1-2 第2平森ビル4階

TEL:03-6417-3493

http://sight-visit.com/

https://www.shikaku-square.com/

資本金:1億1662万円(資本準備金含む)

社員数:15人(2015年8月現在)

 

WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!

雑誌版の購入はこちらから