山佐時計計器株式会社『万歩計誕生50年の物語』・万歩計メーカーに聞く、ロングヒット商品作りのコツ
山佐時計計器株式会社『万歩計誕生50年の物語』・万歩計メーカーに聞く、ロングヒット商品作りのコツ
取材:加藤俊 /文:大木一弘
誰もが知っている「万歩計」。実は2015年8月31日に発売開始から50年を迎えるという。今や歩数計の代名詞として広く親しまれている万歩計は、如何にして現在のブランドを確立したのか。そこには数々の物語があった。
工業計器メーカーへ持ち込まれた「歩数計」のアイディア
「万歩計」と「歩数計」の違いがわかるだろうか。歩数を数える機能面に大きな違いはない。「万歩計」は山佐時計計器株式会社(東京都目黒区)の登録商標であり、オムロンやタニタに代表される他社製品は「歩数計」と呼ぶ。
山佐は上述2社に比べれば、事業規模の小さな中小企業である。しかし、歩数計の売上に於いては、他社を圧倒している。何より50年ロングヒットする製品というのは、他にあまり例がない。はたして、歩数計の代名詞として広く親しまれている万歩計は、如何にして現在のブランドを確立したのか。
万歩計開発秘話
1942年に創業した山佐。戦前は航空機メーターの製造を行っていた。しかし、戦争が終わり、航空機の需要が少なくなった時点で事業の転換を迫られることとなる。主に工業計器用の時計のムーブメントを製造していたようだ。転機が訪れたのは1963年。ウォーキングによる健康法の推進活動を行っていた東京クリニックの大矢巌院長が、同社を訪れたことによる。
当時は自家用車が普及し始め、首都高や新幹線が開通した高度成長期。大矢氏は、農耕民族であった日本人の生活がやがて欧米化し、歩かなくなり、肥満や運動不足が問題視される日がくることを危惧していた。それで、ギアの噛み合わせを熟知している山佐へ歩数計のアイディアを持ち込んだ。当時の山佐社長加藤二郎氏はこうした大矢氏の考えに賛同し、万歩計の開発に着手することとなった。
市場の開拓から始めた「万歩計」
1号機 万歩メーター。これまで350種類以上の万歩計を開発し発売
はたして万歩計の開発開始から2年が経過した1965年。第一号の製品が完成する。歩数を計測する文化のない時代、誰も製品が何かを知らなかった。商品名をどうするか。そこで、「運動不足解消のためには1日1万歩を歩きましょう」と直感から想定した「1万歩」を目安に掲げ「万歩メーター」と命名(のちに1万歩には正当性があると証明される)。
そして発売にあたって、歩く団体に使ってもらおうと「日本万歩クラブ」および「歩け歩けの会(現日本ウォーキング協会)」へタイアップを持ち込んだ。万歩計があると目標に対する歩行の充足度を調べることができる。一度使えば歩くためのモチベーションになることは明白だった。実際広く受け入れられ、瞬く間に世の中に認知されていった。
海外進出と他社の参入
発売後は日本人の健康意識に乗っかり、大ブームが起きた。当初1965年当時、歩数計を製造していたのは世界で西ドイツの企業と山佐の2社のみだった。1988年頃の他社参入まで約25年の間、富士通やタニタなどへのOEMでのPB供給を含め、山佐がシェアの100%を独占していた時代もあったという。最盛期の年商は33億円。
しかし、使用の詳細を明かすPBでの製造を行ったことにより、数年後には取引先がライバルメーカーとなる、中小企業に有りがちな展開を辿ってしまう。
そこで活路を求めた山佐は、1987年頃から海外戦略として海外専用ブランド「YAMAX」を展開し、日本国内のみならず海外でも生産、販売シェアを広げた。しかし、海外生産を委託した企業と一時ライバル関係となり、最終的に山佐は「価格競争に巻き込まれないMade in Japanという品質」で勝負することに舵を切る。
YAMAXブランドの万歩計
現在、日本国内に流通しているYAMASAブランド商品は7割を中国や台湾で製造しているが、海外向けのYAMAXブランドは100% Made in Japanを継続している。
アナログからデジタルへなど、万歩計の進化
万歩計は機能面では着実に進化していっている。第一号機「万歩メーター」は、一般に「万歩時計」などと親しまれた。所以は、万歩メーターがアナログ時計と同じ2針式であったことによる。長針で○十歩、短針で○百歩や○千歩をカウントした。しかし円形であったことから、最大360個の目盛りを設けることしかできず、1歩1歩をカウントすることができなかった。「1歩1歩計測したい」というニーズの高まりにより、山佐は1987年にデジタル万歩計を発売する。
ペット用万歩計はペットの健康を気遣う愛犬家が増えたことで大ヒット
また、人間用のみならずペット用の万歩計も発売した。小型犬・都市型生活・超富裕層という大変に狭いターゲットであることを想定して発売したが、発売から33年が経過している現在も山佐の大ヒット商品となっている。ゲーム要素を持たせたゲーム万歩計や、腕時計型万歩計も現在は山佐のみが開発している商品の1つ。
万歩計というワンアイテムでもって50年。これだけのロングヒット商品となった裏には、加藤・大矢という両名の先見の明があったことは間違いない。50周年を迎えた山佐は、今後も新しい市場を取り入れたこだわりの商品開発を続けて行く。
万歩計だけを作り続ける専業メーカー「山佐時計計器株式会社」の営業本部・取締役営業本部長の木村正美氏へのインタビュー!
-2015年は50周年の記念の年。特別なことを予定しているのか?
50周年記念ロゴを作ってクリアファイルに印刷したり、総合カタログの表紙を1号機「万歩メーター」の画像にしたりしています。メインイベントは創業記念日となる8月31日に、お取引さまへ記念の小冊子と御礼文、非売品の万歩計をお配りすることを考えています。
―ここまでロングヒットとなった秘訣は?
やはり開発に携わった人達に時代を読む目がありました。そして「日本人を健康にしたい」という思いが込められた製品です。今日の健康ブームの高まりや気運をもって考えるとわからなくなりますが、50年前に今日こうなることを考えることができたということが、ヒットの秘訣です。
-山佐時計計器株式会社の近年の年商や従業員数、現在の商品アイテム数は?
昨年の年商は8億5千万円ほどです。今年は9億円を超える見込みです。東京を本社とし、大阪営業所と別法人としてアメリカにも事業所を設けています。グループ全体の従業員数は24名です。商品は国内20機種、カラーも合わせると50アイテムあります。国内は全てがYAMASAブランドです。海外で展開しているYAMAXブランドは、黒を基調としたカラーのみとなっており、20商品あります。
―売上が伸びる見込みの背景は?
厚生労働省や文部科学省も「アクティブウォーク」など歩きを推奨しています。実際、万歩計市場は更なる広がりを見せています。特にダイエットブームのトレンドが続いています。
―昨今人気のダイエット応援機器「活動量計」のことか?
ええ、歩行だけではなく家事やデスクワークなど、さまざまな活動を測定し、1日の総消費カロリーを計測する活動量計は、当社でも開発しています。万歩計は健康増進目的。活動量計はダイエット目的で利用されるアイテムです。当社は両製品により、ユーザーの健康づくりをサポートしていきます」
―紳士服販売チェーンやスポーツ用品店とコラボレーションしているが、どういったことを行ったのか?
おっしゃるとおり、当社は以前、紳士服販売チェーンへ万歩計を10万個納品しました。顧客へ万歩計を販売し、「歩いた歩数に応じてギフト券をキャッシュバックします」というキャンペーンを行いました。「健康寿命を延ばすことによりスーツ生活を延ばす」という狙いや、「体形変化によるスーツの新調」を狙いとした同キャンペーンは、大変好評だったようです。
また、スポーツ用品店が、店舗のレジ横に置いたPOSで顧客の歩数を読み取り、歩数を自店のポイントに交換するキャンペーンも行っています。同キャンペーンは頻繁な来店を促し、貯めたポイントを用いたついで買いを誘発するという好結果を生みだしているようです。来店データの蓄積ができることも好評頂いています。
―今後の山佐時計計器の展望は?
一過性にならない、大人向け商品に特化したこだわった商品づくりを続けて行きたいと考えています。第三者が関与する健康づくりが一層広がって行くでしょうから、新しい市場を取り入れた商品開発を行って行きます。
―ありがとうございました。
木村正美(きむら・まさみ)…営業本部・取締役営業本部長。1957年埼玉県生まれ。高千穂商科大学(現 高千穂大学)卒業後、1982に入社して現在に至る。
山佐時計計器株式会社
〒152-8691東京都目黒区中央町1-5-7
℡03-3792-4111
http://www.yamasa-tokei.co.jp/
従業員数:24名
年商:8億5,000万円