オビ 企業物語1 (2)

税務の枠を超えたトータルサービスで経営者を支える むさしの税理士法人

◆取材:綿抜幹夫

オビ ヒューマンドキュメント

むさしの税理士法人 奥村太久実

むさしの税理士法人/代表社員・税理士 奥村太久実氏

目指すは持続可能な事業の発展

税理士は税務会計の専門家。もちろんその通りだが、「むさしの税理士法人」について言えば、それだけではないようだ。

「仕事の本質は税金計算ではない」と言い切る同法人の元に持ち込まれる案件は、法人の設立から資金調達、事業計画立案、上場や業務提携の支援、人材の紹介依頼、事業承継までさまざま。それらにワンストップで対応し、税務の枠を超えた経営者のパートナーとして、地域企業の持続可能な発展を支えている。

仕事の本質はパーソナル・サービス

税理士業界は、ここ十数年の間に大きな変化が起きている業界の1つだ。2000年度には6万5144人だった税理士登録者数は、2010年度には7万2039人、2015年度6月末日時点で7万4946人へと大幅に増加。一方、税理士の主要な顧客である中小企業の数は、総務省の平成21年経済センサス―活動調査によると2009年から2012年の4年間で420万社から385社へと8.3%減少した。税理士の供給過多で事務所間の過当競争が始まり、税理士事務所には厳しい時代となった。

税理士の仕事の内容も多様化している。以前は税理士の仕事と言えば、顧問契約に基づく企業の月次決算書類の作成やチェック、決算期の報告書の作成や節税策の提案など税務会計業務がほとんどだった。しかし現在では、新規の法人設立や資金調達の相談、経営計画のシミュレーション、事業承継など、経営に深く関わる問題に対し、経営者に最も身近なアドバイザーとしての役割も求められるようになっており、このような新しいニーズに対応しないかするかで、税理士事務所・法人の中でも二極化が進んでいる。

 

そんな中、1983年に個人事務所として誕生し、2008年に新たに法人としてスタートを切った「むさしの税理士法人」は、後者の代表と言ってもいいだろう。「もちろん税理士事務所として顧客の税金計算の代行はしますが、仕事の本質はそこではありません。顧客の課題を解決するためのトータルサポート、ホテルのコンシェルジュのようなパーソナル・サービスが目標です」と話すのは、同法人の代表社員で税理士の奥村太久実氏。事務所には個人から法人まで様々な相談が持ち込まれるが、特に力を入れているのは、多くの中小企業にとって頭の痛い問題である事業承継だ。税務から一歩踏み込んだ、経営者の頼れるパートナーとして日々活動している。

 

 

アメリカ留学を転機にベンチャー企業支援へ

奥村氏は、もともとは日本長期信用銀行(現・新生銀行)に勤める銀行員だった。国内企業の融資や国際業務などを担当していたが、入社5~6年目の時にMBA取得の為に留学したアメリカでベンチャービジネスの活況を目の当たりにしたことが、1つの転機になったという。

 

「自分自身が起業することは頭にありませんでしたが、ベンチャー企業の支援に非常に興味を惹かれました。銀行は本来そういう役割もあると思うのですが、当時の日本はバブル経済崩壊直後。バブルの間にいろんなものが崩れてしまい、社会全体がとにかく儲かる方へ走るという流れになっていたので、先を考えてやりたいことをやろうと思うようになりました」

帰国後数年たち、山一證券や拓殖銀行の破綻が相次ぐ中、方針転換を決意。ベンチャー企業の支援を仕事にしながら、7~8年かけて税理士の資格を取得し、税務会計と財務コンサルティング業務を手がける静間税理士合同事務所勤務を経て、2004年に独立した。その後、2010年に静間俊和税理士と共に、後継者のいなかった静間税理士合同事務所を母体に「むさしの税理士法人」を設立するわけだが、ベンチャー企業の支援から広く中小企業の経営問題の相談、特に事業承継に力を入れるようになった背景には、もう1つの転機があった。

 

 

ベンチャー未成熟の日本だからこそ、広く中小企業の問題に注目

むさしの税理士法人 (3)

平成27年度経営計画発表会での集合写真。同社では少数精鋭で企業や個人のニーズに応えていく

ベンチャー企業が成長し上場に至る過程は一種のダイナミズムを感じさせる。それが日本経済を牽引するとまではいかなくても、ベンチャー企業により経済は活性化するのではないか。そう考えた奥村氏は銀行を退職後、一貫してベンチャー企業の支援に取り組み、起業や上場のサポートの仕事を手がけてきた。

たとえ素晴らしいアイデアを持った起業家がいたとしても、実際に企業を興し成長していくためには銀行やベンチャーキャピタルなどによる資金供給をはじめ、資本や技術、人材を補給しやすい環境が不可欠だ。しかし、そういうベンチャー企業を育むのにかかせない土壌は、日本にはまだ根付いていない。それをよく表していたのが、2006年1月に起こったライブドア・ショックだったと奥村氏は言う。

 

「事件後、ライブドアに全く関係がないベンチャー企業に対しても、上場できなくなる、資金調達が困難になるなどの影響が広がりました。日本でもベンチャー企業が育つ環境を作ろうと一時期非常に盛り上がっていましたが、まだ上辺だけ。何か事が起きるとすぐしぼんでしまうんです」

1人でできることに限界を感じ、徐々に空しさも感じるようになっていた頃、「元々続いている企業を永続させられるような手伝いをした方が、自分としては楽しいのではないか」と考えたことが、税務という枠に囚われず、現存する中小企業の問題解決全般に目を向けるきっかけとなった。

 

 

税務の枠を超えて経営者のパートナーへ

現在、「むさしの税理士法人」では、法人なら新規設立から資金繰りサポート、事業承継まで、個人なら起業の相談から老後のライフプラニング、相続に至るまで、税務という枠を超えて企業や個人のニーズに応えることに焦点を当てている。

事業承継にあたっては、株式の生前贈与や売買に関する所得税の処理、節税対策など、税金面でも処理するべき項目は多い。しかし奥村氏によると、そういう税務の仕事は全体のごく一部に過ぎないという。「最も重要なのは〝今後事業としてどのように展開していくのか〟という問題。その辺を、例えば創業者である親父さんと跡を継ぐ息子さんといろいろ話をしながら進めていくというのが一番その会社のためになるし、私自身にとっても、人のためになっていると思える方法なんです」

 

一口に事業承継といっても、親族内承継、従業員を後継者とする承継、M&Aによる第三者への承継などさまざまな手段があり、また同じ手段でもそれぞれに抱える問題は千差万別。最も多い親族承継にしても、例えば父親は創業者のプライドと自負があるから、息子といえど簡単には渡したくない。社長を引いても会長に就任し、実質オーナーとしてやっていきたいという思いがある。一方跡を継ぐ息子の方も、今後どうやっていくのか本当の所はしっかり考えていなかったりするなど、両者の思いが食い違っていることも珍しくない。これらは税務とは全く関係ないが、そういうところをサポートするのが重要だと奥村氏は語る。

「当事者だけで話をしても、反発しあったりして通る話も通らないことが多い。けれど第三者がそこにいることで上手くいく場合もあります。だから先代と息子と3人でミーティングすることはしょっちゅうですね。そういう積み重ねで双方納得できる形を作っていくわけです」

親子が対立した時、古くからの社員が全員先代社長についていくというようなケースでは、新しい人材を雇用する手伝いや銀行との話し合いもサポート範囲だ。すでに顧問税理士がいる企業でも、事業承継を「むさしの税理士法人」に依頼しているケースがあることも、同法人が単なる税務を超えて企業経営者のパートナー的役割りを果たしていることを示す一例だと言えるだろう。

 

 

M&Aは誰のため?

跡を継ぐ親族がいない、自分でないとできないから息子には譲らないなどの理由で関係者への事業承継を諦め、M&Aを選ぶ中小企業も増えている。しかし、中小企業は地域経済の担い手としてなくてはならない存在。ノウハウも技術もある会社なら確かに高い値は付くとしながらも、奥村氏は敢えてオーナーに異を唱える。

 

「M&Aは資本家にとっては良いかもしれませんが、企業や地域にとって必ずしも良いとは限りません。M&A仲介大手は地域の銀行とも連携しており、銀行はM&Aが成立すれば手数料が入るので後押ししている状態ですが、地域の銀行の本来の役目は地域の優良企業を存続させることのはず。地元企業の売却を勧めることは、長い目で見ると金融機関にもマイナスにしかならない、と一生懸命主張しているのですが、なかなか銀行には届きません。しかし、今まで築いてきた地盤がどうなるかわからないし、後継者がいてやりたいというならやらせたらどうですか、サポートしますからオーナーさんも継承を考えてください、というのがわれわれの立場です」

 

 

経営者の本質は人間的魅力

奥村氏によると、現在最も多いのは昭和1桁生まれのオーナーが戦後すぐに創業した企業の事業承継。2代目は50代前後で、大学教育を受け、大企業一筋でやってきたインテリタイプというパターンが大半だが、このような場合、2代目が大企業を辞めて新社長に就任したとしても社員たちがついてこないことが非常に多い。その原因はただ一つ、人間的魅力に尽きるという。

「税務や手続きは上手くいっても、ここのところだけは本人が頑張ってやるしかないんですね」という奥村氏。「むさしの税理士法人」が多くの経営者に信頼される理由も、またその人間的魅力にあるのだろう。

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◉プロフィール/奥村太久実(おくむら・たくみ)氏

1962年10月生まれ。奈良県出身。1986年に一橋大学経済学部を卒業後、10年余り銀行員として勤務。後、ベンチャー企業支援に携わり、静間税理士合同事務所勤務を経て2004年に独立。2008年に静間俊和税理士と共同でむさしの税理士法人を設立し、代表社員に就任。現職。

 

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