株式会社リブラン – 「業態」ではなく「目的」を承継 自然素材を使用するオンリーワン・マンションデベロッパー
「住宅産業は人間産業」との観点から、自然素材の内装材を使ったマンション『エコヴィレッジ』や音楽家向け防音マンション『ミュージション』など、個性的な住宅を次々と世に送り出す「株式会社リブラン」。
2015年3月号で巻頭・表紙を飾った鈴木静雄会長に続き、事業承継をテーマに鈴木雄二社長を取材した。
◆取材:綿抜幹夫 / 文:渡辺友樹
自然素材を使用するオンリーワン・マンションデベロッパー
父から息子へ、それぞれの思い
日商簿記専門学校を卒業後、20歳で株式会社大京に入社した同氏。ここで4年間を過ごし、父の静雄氏が創業した株式会社リブランに入社したのは、1992年の3月末だ。
「その年の元日、熱海の別荘で父が『俺ももう歳だ。そろそろどうだ』って。振り返ってみると、父はその時50歳。『もう歳だ』というほどの年齢ではないですよね。10年後、35歳で社長を引き継いだのですが、30代で勝負させないと使い物にならないと考えたのでしょう。
30代は一番動けるし、まだまだ未熟、しかしだからこそやれることがある。万が一、私にやらせた結果うだつが上がらず、企業目的に即した事業を行わないようなら、父は私をクビにしたでしょう。その場合に自分が再び社長に戻ることができる年齢という意味で、60歳で引退と決め、準備期間を10年として逆算し、50歳で私を呼んだのだと思います。
いま私は47歳ですから、あと3年でそのときの父の年齢になるんですね。そんなことを、今よく考えます」
「キッズプレース」は成功。しかし……
国連は1994年を「国際家族年」と定め、その5年前の1989年には「児童の権利に関する条約(通称・子どもの権利条約)」を採択している。こうした流れを受け、同社は子どもが遊べる環境を整えた分譲マンション「キッズプレース」ブランドを販売開始する。子どもの健全な育成のため、敷地内に子どもたちが遊べるスペースを設け、そして子ども同士が友達になることによって、親同士の交流も生まれる。そうした関係の中から小さなコミュニティーが形成されていく。このコンセプトはマーケットに受け入れられ、他社も続々と追随した。
「しかし、キッズスペース以外の部分やマンション内部は他社のものとそう変わらなかったんです。お客さんはキッズプレースのコンセプトが良くて買ったのではなくて、実際のところは、やっぱり駅からの距離とか、面積、間取り、価格、そういった要素を総合的に判断して購入したんだろうと。加えて、模倣されることで差別化も図れなくなってしまいました」
人間本位の住宅で更なる社会貢献を
全社員で「企業目的」を制定
生き残っていくためには、大手企業の商品が形成するマーケットとは別次元の商品が必要と考えた同氏。同時に、その方向性が社会的に正しいことが必須だった。マーケットが孕んでいる課題に対して、それを解決する住宅を提案できれば、中小企業としての存在意義がある。
こうして、同社では企業目的の作成がスタート。当時社長だった静雄氏がそれまでに内外に発信した言葉をまとめる形で草案を作成。これを土台に1年間にわたって全社員で議論を重ね、最終的な企業目的として完成させた。
「当社は企業目的で『住宅産業は人間産業』と定義しています。また、企業目的のイントロダクションでは深刻な社会問題の責任の一端は住宅産業界にある、という内容も述べています。社会問題とはマーケットの裏返し。リブランという企業は、その社会問題にきっちり切り込み、解決できるソリューションビジネスを行わなければいけない、という意思決定を全社員で行ったわけです」
住宅にも自然素材を
ちょうどその頃、「シックハウス症候群」が問題視され始める。内装建材に使われる床やビニールクロスにはホルマリンが含まれるが、このホルマリンが気化し、ホルムアルデヒドという物質に変わって空中に放出される。ホルムアルデヒドを吸い込むと、肌荒れやかゆみ、目の充血、鼻水、耳垂れなどさまざまな症状を引き起こす。
この問題に対し、同社ではホルマリンを含む建材を使わず、自然素材を使用したマンションを作り始めた。自然素材の板には吸放湿性があるため、反りが生じるが、この「反り」がクレームにつながるリスクを恐れて、他社は使用を避ける。自然素材を使うマンションデベロッパーは同社のみだ。
「板という字は木偏に反ると書きますから、反るのは当然なんです。カフェやお寿司屋さん、イタリア料理屋さんなど、ちょっと良いお店なら、床や家具、壁にはきちんとした無垢板や珪藻土などの塗り壁を使い、心地よい見た目はもちろん、調湿性を備えた作りになっています。
同じ気温でも、湿度が低い方が快適ですからね。お客さんも、そうした場所で質の良い建物を目にし、体験しているんです。ところが、住宅だけはホルマリンだらけの新建材が使われ続けている。いまマンションデベロッパーで自然素材を使っているのは当社のみですが、自然素材志向は今後必ず広がっていくと思います」
「ミュージション」
同社のもうひとつの主力商品が、音楽家向け防音マンション『ミュージション』だ。日本建築士協会が定める「特級」の基準であるD55よりも遥かに高いD70という遮音性を誇るマンションだ。D70とは、125Hz〜4kHzの各周波数帯の音圧レベル差で70dBをカットできる遮音性で、100dB程度の演奏であればほとんどの人が無音に感じるレベルだという。
1974年に平塚市で発生した「ピアノ騒音殺人事件」は、マナーの問題という観点での議論が大半だった。しかし、同氏はマンション自体の作りに問題はなかったのかと疑問を呈する。マンション業界がマナーの問題にすり替えて「逃げた」という見方だ。加えて、現在音楽大学や専門学校で音楽を学ぶ学生の総数は、関東圏だけで年間約1万人ずつ増えている。高度成長期に建てられたマンションでは、楽器の音は漏れてしまう。思うまま楽器を演奏できる住まいへのニーズは、間違いなく多い。ミュージションはこうした背景から生まれた。
「たとえば駅徒歩5分で、25平米で、賃料10万円/月という同じ条件のマンションが、リブランと大手デベロッパーとで並んでいたら、多くの人は大手デベロッパーを借りるでしょう。私もそうしますよ。でも、音楽をやろうと思ったらミュージションしかないんです。大手デベロッパーの方が、信頼性は高い。ミュージションは、賃料も相場より2、3割ほど高い。建てるのにもお金がかかるし、手間もかかりますからね。でも、夜中の3時にピアノを叩けるんです。
本当に音楽が好きで、楽器をやっている人だったら、『音楽マンションは良いけど、大手じゃないと嫌だ』と果たして言うのでしょうか。音楽をやっていないなら、大手デベロッパーでいい。でも、音楽をやりたいんだったら『リブランのマンションに住まないでどこに住むんだ』って私は言える。そこに関しては、大手さんにも勝てるんです」
「業態」ではなく「目的」を承継した
企業は、その商品構成が企業目的に合致しているかを常に省みなければならない。自分たちが提供している住宅はどんな社会問題を解決するのか、人間らしさを本当に堪能できる住宅なのか。大手と戦ったとき、あるいはマーケットに放り込んだときに勝てる商品なのか。企業という枠の中で、代から代へ名と実をつなぐことが、同社の事業承継だ。
「登記上の事業承継に過ぎない社長交代をしても、譲る側は辛いと思います。そして譲られる側としても、うちの事業はこうしなさいといって渡されるのは辛い。マーケットも、人口動態も変わっていく中で、先代からの事業を続けた結果マーケットはなくなりました、でも私は悪くありません、ではダメですよね。だから、私は『業態』ではなく『目的』を承継した。それが当社の事業承継なんです」
◇
分譲マンションのデペロッパーという業態に捉われず、すでに土地活用の企画やノウハウを提供するフィービジネスも始めている同社。「当社の企業目的は、社長より偉い」という企業目的を軸に、人間本位の住宅を提案し続ける。
◉プロフィール/鈴木 雄二(すずき・ゆうじ)氏…
1967年 東京生まれ。日商簿記専門学校卒業。
1988年 株式会社大京に入社。
1992年 株式会社リブランに入社。
2002年 代表取締役に就任。
[役職]
株式会社リブラン 代表取締役
株式会社リブランマインド 代表取締役
イノーヴ株式会社 監査役
NPO法人緑のカーテン応援団 理事長
一般社団法人スポーツ能力発見協会 副理事長
◉株式会社リブラン
〒173-0023 東京都板橋区大山町17-4
TEL 03-3972-0072
http://www.livlan.com/
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