K2マネジメントソリューション株式会社 – 「ドバイを日本製品で溢れ返らせたい」
ドバイを日本製品で溢れ返らせたい
日本国内中小企業の中近東アフリカ進出を支援する「K2マネジメントソリューション株式会社」。ドバイでは、政府によって設置された経済特区「ジュベルアリ・フリーゾーン(JAFZA)」における日本の正規代理店にも任命されている。黒田昌史取締役に聞いた。
◆取材:綿抜幹夫 / 文:渡辺友樹
ドバイ経済特区「JAFZA」日本の正規代理店
ジュベルアリ・フリーゾーン(JAFZA)日本正規代理店
2020年にはドバイ万博が、2022年にはカタールでFIFAワールドカップも開かれるなど、新たな発展過程にある中近東アフリカ地域。その中でも成長著しく、世界の注目を集めるドバイに、政府主導により設けられている経済特区が「ジュベルアリ・フリーゾーン(JAFZA)」だ。2013年に設立された「K2マネジメントソリューション株式会社」は、フリーゾーン内への日本の中小企業のドバイ進出や進出後の事業をサポートすべく、ドバイ政府から日本正規代理店として任命されている。
「ドバイ政府が政策として設けている経済特区がJAFZAです。JAFZAに日本企業を誘致するための代理店契約をジュベルアリ・フリーゾーン庁と結んでいます。お客様からも、『そういう立場の会社だったらお任せできる』と信用をいただいています。中国や東南アジア、アメリカ、ヨーロッパなど、ほかの地域への進出支援を行っている企業はほかにもたくさんありますが、ドバイは我々にしかできません。ほかに誰もいないんです。できると言っている方はいますが、実際はできないですから」
中小企業のドバイ進出を支援
日本からも、大企業は自力でドバイに進出している。しかし、中小企業はそうはいかない。誰の助けもなく、独力で進出することは困難だ。そこをサポートするのが同社の役割。むしろ、同社が大企業を誘致したのでは現状と変わらない。税理士として中小企業の経営者と関わってきた立場から考えると、同氏の目指す事業は大企業の誘致ではなかった。
「大企業は自分でどんどん行っているのに、中小企業は全然行けていない。でも、中小企業にも、ドバイに進出したいニーズはあるんです。気持ちはあっても、どうしていいのかわからない。お金もかかる。『誰か助けてくれ』という声が聞こえるんです。それなら、自分はそちらの力になりたい。せっかく中小企業のお手伝いができる立場にあるのだから、それをしようと思ったんです」
中近東営業から税理士に転身
サウジアラビアに赴任
同氏は1986年に大阪外国語大学のアラビア語学科を卒業後、松下電器貿易株式会社(現・パナソニック株式会社)に入社。大学で学んだアラビア語を活かし、一貫して海外営業の部門で中近東地域を担当、16年間を過ごした。1998年にはサウジアラビアに赴任し、現地の販売会社に立ち上げから全般的に関わることになる。
「経営部門・マーケティング部門の責任者として最前線で陣頭指揮を執り、サウジアラビアでパナソニック製のテレビやビデオを販売していたのですが、現地拠点の立ち上げと同時にすんなり黒字というわけにはいかず、ずっと赤字続きでした。日本からは黒字になるまで帰って来るなと言われ、現地では黒字になるまで帰さないと言われ。これは本当に黒字になるまで帰れないなと」
帰国とともに退職
5年間を費やしてようやく黒字化に成功し、2002年に晴れて日本に帰れることになった同氏。しかし、そのまま戻れば、大会社パナソニックのどこかの部門へと帰っていくことになる。それではまた歯車のひとつにすぎない。今後のキャリアとしてどこか面白くない気持ちがあった。加えて、パナソニック本体に比べてはるかに小規模なサウジアラビアの販売会社は、いわば「中小企業」。経営陣として携わり、赤字から黒字にする苦労や喜びも味わった。
「あ、同じなんだろうなって。日本の中小企業の社長さんは、こういう苦労をいっぱいしてるんだろうなって思ったんです。そうしたら、もっとそんな中小企業と関わりたくなって。そのとき38歳だったのですが、不惑を目前にして最後のチャンスなのかなと思い、退職しました」
税理士に転身
中小企業の経営者と触れ合い、役に立てる職業として選んだのが税理士だった。帰任と同時に退職した同氏は、税理士を目指し専門学校に通い始める。職に就かず受験勉強に専念し、2年後、41歳で税理士試験に合格。実務経験を積むため大阪の会計事務所で勤務したのち、2008年に「日本マネジメント税理士法人」を立ち上げる。
「転身して良かったと思っています。社長さんから『ありがとう』と言ってもらえて、お役に立てたことをヒシヒシと感じられるんですね。やっぱり臨場感がありますよ。それに、お付き合いは税務以外のこともたくさんあります。税理士というのは看板で、単に切り口・接点に過ぎないんです。経営に関するアイデアを出して、その通りにしたらうまくいったとか、私の人脈から人を紹介したらビジネスになったとか。お役に立てる角度というのは無数にあって、純粋な税務はむしろ少ないですね。私の持っているものの全てが、何かのことで役に立てばいいなと思っています」
税理士として差別化を図るためドバイに着目
零細事務所が生き残るために
税理士事務所の代表という立場は、中小企業経営者と変わらない。10名規模の「日本マネジメント税理士法人」は、さながら零細企業だ。税理士が飽和状態にあり、厳しい状況の税理士業界。税理士や税理士事務所の数が増える一方で、顧客となる企業数が減っている。以前は税理士一人あたりの企業数は120社と言われたが、現在は60社と半減しているという。パイが減り、競争が激化すれば、単価がどんどん下がってくる。同時に、技術革新によって、税理士でなくとも行える税務が増えている。税務申告書すら、自分で作ろうと思えば作ってしまえる。
「結局、パナソニックのテレビの事業と同じになっているんです。テレビも、誰でも作れるようになって数が増えて値段が下がっていますよね。せっかくパナソニックを辞めて税理士になったのに、税理士の仕事がテレビ販売みたいになってしまっているな、と。しかし、それでもそういう中で生き残っていかないといけない。そのために追求しないといけないと思ったのが、自分にとっての『業界』の範囲自体を広げることと、何かのナンバーワンになること。このふたつが、私がこの業界で生き残っていく術だと思ったんです」
ドバイへ
自分は税理士として何のナンバーワンになれるか。この発想から、ドバイ進出支援事業が生まれた。日本企業がドバイに進出するサポートを手がける税理士は他にいないだろうと考えたのだ。そして実際、いなかった。これで、税理士としての独自性を大いに打ち出せる。また、ドバイに目を付けたのには、もうひとつ理由があった。パナソニックでの長年の経験から、中近東は非常に親日であることを知っていたのだ。頭打ちの欧米諸国とは異なり、経済成長も著しい。ドバイは、日本にとって非常に良いマーケットなのだ。とは言え、この10年で韓国が進出し、中国が進出し、日本は押され気味になっていることもまた事実。
「日本が好きで日本のモノを待っている人たちに、日本の良いモノ、日本の良いサービスをなんとかして届けたい。やっぱり日本人として、中近東の人たちに喜んでもらいたいんです。めちゃくちゃ喜んでもらえるだろうなって、それがわかっていますから」
日本食の進出が堅調
同社はメーカーではない。進出したい企業がいれば、連れて行きサポートするのが仕事だ。どう出会うか、どうつながるかによって、サポートする顧客の業種業態はさまざまだが、現在までの傾向としては、食料品も含めた和食・日本食関係の進出が盛んだという。
「実際に中東に住んでいたから知っているのですが、和食はほとんどなかったんです。食品に限らず、雑貨やほかのモノも同様です。でもそれは、誰も中小企業を助けなかったから進出できなかったに過ぎないんです。ドバイの人々は、日本の商品やサービスを待っていますよ」
◇
「日本とドバイの架け橋、その第一人者になりたいんです。日本とドバイの橋渡しをすることで、日本の中小企業も元気になってほしい。同時に、日本の良いモノが入ってくることによって、ドバイ側も元気になっていく、そんな風に、両国に貢献できたらいいなと思っています」
同社は、疲弊する日本の中小企業の前に現れたオアシスだ。ドバイの繁栄が砂漠の蜃気楼ではないように、「ドバイを日本の製品で溢れ返らせたい」という同氏の夢が、摩天楼の街に実現する日は遠くない。
◉プロフィール
黒田昌史(くろだ・まさし)氏…
1963年 奈良県大和高田市出身。
1986年 大阪外国語大学卒業(現・大阪大学 外国語学部)卒業。
1986年 松下電器産業株式会社(現・パナソニック株式会社)入社。一貫して海外営業畑(中近東)を歩む。
1998年 サウジアラビアに赴任、現地販売会社の経営企画部門・マーケティング部門の責任者として最前線で陣頭指揮を執る。
2002年 日本帰国とともに退職、税理士へと転身。
2008年 「日本マネジメント税理士法人」を設立。法人代表に就任。
東京・大阪・九州に拠点を置き、全国展開で拡大中。
海外進出・国際税務、国際相続、M&Aに強みを発揮。
2013年 「K2マネジメントソリューション株式会社」取締役就任。
●K2マネジメントソリューション株式会社
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