オビ 企業物語1 (2)

日本初、木質バイオマス発電で地球を救え! 株式会社ZEエナジー

◆取材:綿抜幹夫 / 文:渡辺友樹

 

株式会社ZEエナジー (2)株式会社ZEエナジー/代表取締役 松尾直樹

 

間伐材を電力に変える発電所で、エネルギーの地産地消を目指す東京都港区の「株式会社ZEエナジー」。化石燃料依存からの脱却を目指す松尾直樹社長に話を聞いた。

 

バイオマス発電のビジネスモデル

「かぶちゃん村森の発電所」竣工

去る6月2日、長野県飯田市で同社製造の小型木質バイオマス発電装置が稼働する「かぶちゃん村森の発電所」の竣工式が行われた。間伐材を熱分解ガス化して発電する仕組みは国内初だ。

 

地産地消のエネルギーを作りたい

株式会社ZEエナジー (4)ガス化装置
株式会社ZEエナジー (1)ガス冷却装置

同氏の狙いは、エネルギーの地産地消モデルを実現すること。木材等、乾燥系のゴミは熱分解してガスにし、生ゴミや糞尿等、湿潤系のゴミは、菌を使い発酵させてガスにして、それぞれ発電する。この2つのガス化発電により、地域から出るゴミを全てエネルギーに変えられる。また、発電の他に、熱利用のコジェネレーション、CO2を利用したトリジェネレーションを目指す。

そして、得られた売電収益から一定の割合を、地元地域と木材の供給元である林業等に還元する。さらに、発電所自体を証券化し、金融商品として地域住民に買ってもらう。地域住民は発電所から得られる収益をベースに、毎年利益を得られる仕組みだ。

さらに、20年分の利益を先に償還することができるため、これを利用して新たな発電所を建設する。発電所を作って証券化し、売りながら全国に小型の発電所を作っていく。

 

 

林業への支援

株式会社ZEエナジー (5)チップヤードに保管されている発電用木質チップ

この発電モデルは、間伐によって出た木材だけで持続可能だ。現在、林業は経済合理性が成り立っておらず、森を育てるために必要な間伐も十分に行われていない。適切に間引かなければ、光が入らないため幹が細くなってしまう。上部でしか光合成が行われず、面積あたりの光合成量が下がる。根が張らないために水害に弱い山林となる。

また、間伐した木をそのまま放置する「切り捨て間伐」も問題だ。間伐しても売れないために放置されてしまうのだが、切り捨て間伐があると、雨が降ったときに自然のダムのように水が溜まってしまったり、腐ってCO2の何倍もの温暖効果があるメタンガスが発生したりする。

 

こうして多くの問題を抱える林業。一本切るごとに国が助成金を出しているような現状を考えれば、経済合理性を成り立たせて持続させることができる同社のバイオマス発電所が果たせる役割は大きい。

「このビジネスを成功させ、いずれは海外に展開したい。特にゴミの問題とエネルギーの問題の両方に苦しむ新興国に対して、それらを同時に解決するソリューションとして打って出たいと思っています」

 

 

金融資本主義と電力業界への怒り

2つの怒り

東京大学法学部在学中に「株式会社ネットワークインフォメーションセンター」を友人と起業し、コンタクトセンター、IT、動画ニュース、ブライダル、チョコレート、飲食など様々なビジネスの立ち上げ、経営に関わってきた同氏。

環境問題解決に取り組む学生時代からの友人が起こした株式会社ZEエナジーには、まず社外取締役として加わったのち、2012年に代表取締役に就任した。発電・売電ビジネスに可能性を感じ、社長になることを決めた背景には「2つの怒り」があった。

 

金融資本主義への疑問

1つめは、金融資本主義に対する怒りだ。生き方の根底に「フェア」という価値観を持つ同氏。ここで言うフェアとは、リスクに挑戦し、汗を流して頑張った者が多くを手に出来るチャンスの平等が守られているという意味だ。

例えば1千万円の資金で事業を行い、年間30万円の利益が出た場合と、銀行に1千万円を預けて金利として30万円を得る場合。世の中に対して与えるバリューを比較すると、消費者がその商品・サービスで喜びを感じ、雇用が創出され、税収が上がり、仕入業者への支払い等のお金を廻し、経済を活性化させるなど、前者の方がはるかに高い。

しかし、資本家からは、あくまで同じ30万円の儲けと見做されるのが金融資本主義だ。ギャンブルが多くの国家や宗教で禁じられているのは、人間の勤労意欲を減退させるからだが、株式投資や為替投機、と名前を変えた途端にそれが許されてしまう。お金を持っている者が、自分で汗を流さず、他者に便乗して資本を元手に楽に大金を手にする。

金融資本主義はグローバル過剰の世界を生み出し、実体経済で世界に1年間に作られるGDPの10倍以上ものマネーが世界中に溢れ、実体経済を脅かしている。こうした現在の世界の在り方そのものに対する強い怒りだ。

 

「マッキンゼーアンドカンパニーを経て、多くの企業を改革してきた稲田将人氏は、著書の中で『人、性善なれど性怠惰なり』と書いています。私は、人間は8割が欲得で2割は美しい心だと思っているんです。8割の欲得もうまく刺激し、2割の美しい心の部分をうまく巻き込んでいくことが出来たら、必ず成長するビジネス組織になると思います。そして、人間の欲得を刺激することによって、自動的に世の中に善意が蒔かれていく仕組みを作ることが今後のあるべきビジネスの役目なんです」

 

電力業界への怒り

2つめは、電力業界に対する怒りだ。東日本大震災では、福島第一原子力発電所で未曾有の大事故が起こったにも関わらず、電力会社は全く責任を取らず、国に救われた。学生時代からベンチャー企業を起こしてきた同氏は、当然ながら国に助けられた経験などなく、自分の力で必死に働いてきた。

中小企業が倒産しても、誰も助けてくれない。経済全体のためなどという建前のために、弱者は自己責任、強者は救ってもらうというのでは、あまりにアンフェアではないだろうか。加えて、電力会社は子どもでも経営できるような「原価総括方式」を当然という顔で採用しながら、高い料金を徴収している事を同氏は知った。

 

「競争のない独占企業、かつ私企業が、もっとも腐敗しやすい。国民の監視の目がある官営の方がまだましです。何のために、独占禁止法があるんですか? こういう事を防ぐためですよ。業法で企業が守られて、消費者の法益が蔑ろにされている状態。悔しいから、他で電力を買いたいと思っても、電気は東電から買うしかないという現状。戦う手段が無かったんです。

しかし、電力の固定買取制度が生まれ、ZEエナジーの地産地消の小型バイオマス発電というビジネスモデルは、この怒りを同時に解決する事が出来ると確信しました。

そして、本年4月に2000kW未満の未利用木材を使った1kWあたりの買取価格が上がり、事業的にも非常に追い風。日本は世界でも有数の木材産出国ですから、まずはその木材を最大限利用して小型の木質バイオマス発電所を作り、日本各地に普及させていこうと考えています」

 

 

人間・松尾直樹、その死生観と4つのライフテーマ

予想できる未来は面白くない

人生を選ぶにあたって、「予想できる未来は面白くない」と考えた同氏。エクセルで生涯の賃金が計算できてしまう人生はつまらないと思ったという。根底に流れるのは、学生時代に尊敬していた先輩の死を経験したことによる死生観だ。人間、いつでも死ぬ。自分はどう生きてどう死ぬか。この価値観に基づいて自分が納得できる生き方として選んだのが、就職せずに自分でビジネスを行うことだった。

目的はもちろん金ではない。どれだけ稼いでも、最終的には裸で死に、骨になる。死ぬまでにどんな物語を綴るのかが人生の意味だとすると、人生が分かってしまうことが一番面白くない。だから、小さな損得ではなく、予想できない未来を選んだ。

 

4つのライフテーマ

同氏には、ライフテーマが4つある。1つは「ゼロから1を作る環境を作ること、そしてゼロから1を作る人材を生み出す環境を作ること」だ。2つ目は、「若者を刺激し支援すること」。教育という言葉を嫌い、「変化の激しい時代なので、自分の成功方法は通じないかもしれない。若者には自分の感性で自分の道を見つけてもらい、それを支援したい」と考える。

そして3つ目は、チャンスの平等を世界に広げていくこと。これは前述の「フェア」の考え方だ。最後の4つ目は、持続可能な社会づくりに貢献すること、この4つのライフテーマに自分の命を使うと決めている。

 

破綻している金融資本主義

「みんなで手をつなぎましょう」と牧歌的な理想を掲げながら、実質は権力が集中し腐敗していく共産主義。一方で、世界中がラスベガスを目指すような資本主義もまた、間違っていると主張する同氏。地球には物理的な限界がある。資源やエネルギー、食糧についても、どれだけのポテンシャルを有するか、すでに科学によって明らかにされている。

しかし、資本主義は地球に物理的な限界があることを前提としていない。19世紀には、地球のポテンシャルは無限という前提で良かったかも知れない。しかし、今はもうそうではない。

 

「結果は僕らが決めることではなく、歴史が決めること。僕らにできるのは、必死で生き残ろうとすることだけ。生き残るために最善の手を打っていくことしかできない。壊れていく地球や、破綻している資本主義の問題をどうするかが僕らの世代の最大の歴史的課題。子や孫の世代になったとき、僕らが課題解決出来なかった、パラダイムシフト出来なかったことで、『私達の世界と地球は本当にひどい事になっている!』と責められないようにしないといけないんです」

社会を糾し、地球を救う反骨の正義漢。夢をエネルギーに変え、今日も奔走する。

オビ ヒューマンドキュメント

◉プロフィール

松尾直樹(まつお・なおき)氏…1974年 愛知県岡崎市出身。1998年 東京大学法学部卒業。1997年 大学法在学中に友人と「株式会社ネットワークインフォメーションセンター」を設立。その後も現在まで様々なビジネスを手がける。2012年、株式会社ZEエナジー社外取締役から代表取締役に就任。

株式会社ZEエナジー

〒105-0013 東京都港区浜松町1-10-14住友東新橋ビル3号館7階

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2015年8月号の記事より

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