オビ 企業物語1 (2)

アイデアの卵を恐竜に! 起業の思いが実現するまで徹底支援する株式会社ボーンレックス

◆取材:綿抜幹夫/ 文:渡辺友樹

株式会社ボーンレックス (2)

株式会社ボーンレックス/代表取締役 室岡拓也

 

ビジネスのアイデアを、起業から軌道に乗るまで一貫してサポートする「株式会社ボーンレックス」。三井物産に就職した若者がわずか4年で独立して立ち上げた会社だ。夢の守り人、室岡拓也社長の人間力に迫る。

 

三井物産から29歳で独立

弁護士志望だった学生時代

室岡家は、室町時代から徳島県に代々続く家系だ。父が上京したことから、目黒区で生まれ育った同氏が同家初の東京出身者ということになる。慶応大学経済学部では現・同大名誉教授でアジア開発銀行研究所所長も務める吉野直行氏に師事、マクロ経済学や計量経済学といった金融分野を専門として学んだ。同時に、少年時代から弁護士を志していたため、大学生活のかたわら資格学校に通い、法律も本格的に勉強する。しかし、大学3年次の司法試験に失敗してしまう。

「僕は、決めたら絶対やらないと気が済まないタイプなんです。でも、司法試験に現役で受かるって決めたのに、受からなかった。そのとき、これは神様から『お前、その道は違うぞ』って言われてるんだなと思って。それでほかの道を探し始めたんです」

 

三井物産から独立

経済と法律とは表裏一体。しかし、両方をある程度のレベルで学んだ人は少ない。それなら、この二つを使って世の中に資することはできないかと考え、就職活動を始めた同氏。最終的に就職先に選んだのは、三井物産だった。インフラ事業投資、プラント輸出事業、CDM事業等を経験したのち、2013年に退職。すぐに同社を立ち上げた。学生時代から、「人生を賭けて何をするか」を話し合う「夢を語り合う会」を開催していたという同氏。同社も、「思いを形に」がミッションだ。創業者の「思い」によって立ち上げられたベンチャーや中小企業の運営が軌道に乗り、商品やサービスが世の中に認知されるまでをサポートする。

 

「人生を賭けて何をするかをテーマに、学生時代から7年半をかけ、総勢1000人以上に会って、話を聞いてきました。その結果わかったのは、『こういうことをやりたい』と夢を語るのに、なかなか踏み出さない人が多いということだったのです。踏み出せない理由はいろいろあると思います。その理由のひとつひとつを僕らが手助けし、橋を渡すことで、最終的にはそれぞれが自分で踏み出し歩いていける環境を整えたい。そういう立場の仕事をしたいと思ったことが起業のきっかけです」

 

 

「起業支援」強みと現状

立ち上げ支援に自信あり

前職の三井物産では、事業投資にも携わった同氏。一言で事業投資といっても、法務、会計、税務、企業価値の算出と、その内容は多岐にわたる。こうしたノウハウは、中小企業やベンチャーこそが知っておかなければいけないと考えたことも、起業の理由のひとつだ。同氏自身、ベンチャーの立ち上げに関わるのは同社で3社目にあたる。

会社の立ち上げとはこういうものという感覚も、だんだんと掴んできた上で、事業の立ち上げには12の分野が必要と捉えている。たとえば、法務、会計、社労、資金調達系、営業の戦略立て、実際の営業、Webプロモーション、Web開発、アプリケーション等がそれにあたる。

パートナー企業と協力し、クライアントに代わってそれら12の分野をカバーしていくことが同社のサービスだ。現在、パートナー企業は120社ほど集まっている。

 

「僕の頭には、2年以内にパートナーを100社以上作るというステップがありました。そのパートナーも、必ず一度は一緒に仕事をして、この人いいな、この会社いいなって思った会社と、担当者レベルでコンタクト出来るパートナリングが組めるようにする、それを100社以上というのが目標だったんです。ちょうど1年半ほどのタイミングで、当初描いていた仕組みづくりはある程度達成できました。現在のクライアントは、90%以上がリピーターやクライアントからの紹介なので、これから次のステップとして、より多くの人に知ってもらい、この仕組みを使って頂く方々を増やすステージに進みたいと考えています」

 

 

3年目に向けて

子会社2社のうち1社は海外にあり、もう1社は動画のCMなどを作る映像制作の会社だ。この「はじめプロジェクト株式会社」はもともとパートナー企業の1社だったが、「一緒に仕事をする中で、この人たちは想いもあるし、もっともっと密にやりたいなと思って合流してもらった」という。この合流時の増員も含めて、現在の同社は14名。

「アクの強いメンバーが揃っていますよ」という自慢のスタッフだが、そうは言っても14名で対応できるクライアント数は月に数十社。50社弱が限界だ。人を増やせば固定費がかかるが、同社の事業には、ある程度の初期投資は避けられない。質の整ったパートナー企業を増やすことで、対応できるクライアント数を増やし、足場の整ったいま、規模拡大も視野に入ってきた。

 

「立ち上げからの1年8カ月は、すごく大変でしたよ。でも、大変だけどやっぱり楽しいんです。僕らのクライアントは『何かをやりたい』と思っている人ばかり。『何かをやりたい人たち』って、夢やエネルギーに溢れているんです。その思いがそのままぶつかってきますから、こちらの時間や手間の使い方も工夫しないと受け止めきれない。そんな大変さも、やりがいのひとつです。夢に溢れている人、エネルギーに溢れている人ってこんなにいるんだな、世の中捨てたもんじゃないなって、僕自身はそう感じています」

 

 

夢が社会に根付くには

「戦略なき起業」大歓迎

同社を支えるメンバーの皆さん(飲みの席にて)

「何かをやりたい人たち」は、資金、売上、またマクロ的な動きにおいても、必ずしも戦略を立てた上で動いているとは限らない。しかし、同氏は「起業には戦略あるべし」とは考えておらず、むしろ「何かをやりたい人たち」にはそういうことは得意分野ではないという前提で仕事にあたるという。同氏に言わせれば、ベンチャーや中小企業を始める人は、多くの場合、自分にできることを仕事にしようとしているからだ。

 

「僕自身、以前は『そんなんじゃダメだ』と考えていたんです。でも今では、戦略なんかなくても何かを始めようとしているその『想い』自体が素晴らしい、と思うようになりました。同時に、その芽を潰しちゃいけないなと。『起業しようというのに、その程度しか考えていないのか』という感覚は、かつて自分がそうだったこともあって、非常に横柄だと感じますね」

 

 

ひとりではできない

「この写真は荷物を一手に持たされている図です。通常ぼくは、このような形で社員の駒使いをさせられています(笑)」(室岡社長:談)

だからこそ、自分ひとりでベンチャーを立ち上げようとしている人には、「それだけはやめろ」と警告するという。その人にできる範囲で、その人にできることしかできない会社になってしまうからだ。たとえば前職の三井物産でも、ひとつの案件を単一の部署で行うことはほとんどなかった。法務、会計、税務、さまざまな部署がチームとなって動くことで、案件が進んでいく。これは小さな会社でも同じだ。

「それでもひとりでやりたいなら、せめて自分にできることとできないことを明確に把握するように伝えるんです。人それぞれできることは限られているのに、できないことまで一生懸命やろうとしても、それは時間の無駄ですからね」

 

 

何のための会社か

チームを組んで、自分たちの意志として共有した理念が、世に花開いていく。そのための集合体が会社であり、個人の枠を超えて経済の中で生きていくということだ。だとすれば、ある個人に何ができるか、どんなスキルがあるかということは、同氏の言葉を借りれば「重要だけど、重要じゃない」ということになる。真に重要なのは、世の中に対して何を成し遂げたいか、そのために自分にできることは何か、そしてできないことは何かを把握することだ。把握したら、できないことは同社に任せればいい。同社はそれができる土壌を作って待っている。

 

「いつも言っているのは、あと何年生きるのか、ということ。たとえば、僕はいま30歳なので、仕事を続けられるのは残り30年か40年。その後は死が待っています。死んだら灰ですよね。灰になったら、自分が世の中に成し遂げたいと思っていたことを継続していくことはできなくなる。だから会社を立ち上げるんです。これは、起業する人皆に気付いてもらいたい考えなので、経営マインドを持ってる人には、いつもこう伝えているんです」

 「いまの日本は、『できる』と考えるより『できない』と考える人の方が多い。良く言えばすごく真面目なんですが、そういう社会では、夢を諦めてしまう人も多いはず。もっと多くの人に、自分には何かができるはずだと思ってほしい。その夢を守りたいんです」

閉塞した社会の殻を破るのは若い力しかない。高度成長も、バブルも知らないIT世代にも、幸せを掴み取る権利はあるだろう。夢を実現するためには、まずは夢をみることだ。

 

オビ ヒューマンドキュメント

◉プロフィール/室岡拓也(むろおか・たくや)氏

東京都目黒区出身。慶応大学経済学部卒業。2009年、三井物産株式会社入社。2013年、株式会社ボーンレックス設立。代表取締役。

 

株式会社ボーンレックス

〒135-0064 東京都江東区青海2-5-10テレコムセンタービル東棟14F

http://www.bornrex.com

 

2015年8月号の記事より
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