最先端の技術に日本古来の良俗をマッチしたIT業界の新機軸とは? ‐ 株式会社エムトラッド
最先端の技術に日本古来の良俗をマッチしたIT業界の新機軸とは? ‐ 株式会社エムトラッド
◆取材:綿抜幹夫 /文:大高正以知
IT is お・も・て・な・し!?
オリンピックの招致ではないが、エンジニアと呼ばれる人たち、とりわけIT関連の業務に携わる人たちにこそ、ホスピタリティ(おもてなし)の心が不可欠だと、この人は口を酸っぱくして言う。顧客企業への業務支援型システムサポート事業を柱に、ここ数年見る見る頭角を現してきたWEBトータルソリューション会社、エムトラッド(東京港区)の社長、伊藤康弘氏(41歳)だ。
実際に会って言葉を交わすと分かるが、いわゆるIT長者やヒルズ族の類とは、匂いも毛色もまったく違う。敢えて言えば〝近江商人〟のそれに近いかも。その意味では、業界のニュー・ウェーブと言っていいだろう。
チャンスの女神に後ろ髪はない
バブル崩壊後の日本経済の新たな担い手として勃興し、急成長を果たしてきたIT産業も、今や一社一社が、その〝真贋〟を問われる成熟期に入ったと言える。要するに、猫も杓子もITを名乗ればもて囃される時代では、もはやないということだ。このことに逸早く気付き、むしろ、
「だからこそチャンスがある」
と一念発起し、会社を起こしたのが当時30歳の伊藤康弘氏である。
「元々、独立志向が強い方ではありましたけど、まさかIT企業を起こすなんて夢にも思いませんでしたよ。だって25歳になるまで、パソコンなんて触ったこともなかったんですから(笑い)」(伊藤氏、以下同)
現に今でも、昔の会社の同僚や同級生らに会うと、
「ええ!? お前がIT企業?と必ず驚かれますよ」
ということでまずは、氏がIT業界のどこにどんなチャンスを見い出し、どういう考え方を基にエムトラッドなるベンチャーを立ち上げたか、それまでの足跡を少しく交えながら、話を進めていこう。
氏が大阪の大学(四天王寺国際仏教大学。現・四天王寺大学)を出て最初に入社したのは、地元のとあるビルメンテナンス会社だという。
「そこで可もなく不可もなく2年ほど過ごしましたけど、どうも飽き足りなくてですね。このままじゃいけない。何かステップアップを考えなくちゃ。そのためにはもう少しレベルが高いというか、時代やインテリジェンスを感じられる業界に移るしかないと思って、転職を決意したわけです」
そこで移った先が、例のパソコンに初めて触れたというシステムコンサル会社である。しかし移ったはいいが、ほどなく氏は思いがけない事態に見舞われる。業績不振から親会社に吸収されたのを機に、社命で東京へ転勤することになるのだ。
「突然のことで、しかも生まれ育った大阪を離れるんですから少々戸惑いはありましたけど、それ以上に、よりステップアップしたいと思う気持ちが強かった記憶があります」
よほど水が合ったのだろう。氏のTビビジネスマンとしてのセンスや才覚が、これを機に一気に芽を吹き出すから、世の中、何が転機になるか分からない。2年も経った頃には、あちこちからヘッドハンティングの声が掛かるほど、めきめきとITビジネスに上達するのである。
「いろんなことにトライできるのも若いうちだけだと思って、ベンチャー企業を2社ほど経験させていただきました。これがまたボクにとって凄く勉強になりましてね。その意味では皆さんに感謝するしかありません。何しろシステムコンサルの勉強に加え、ビジネスの現場の生きた学問ですからね」
結論から先に言おう。この強い上昇志向と独立心が、今のエムトラッドを築き上げたと言ってまったく過言ではない。チャンスの女神に後ろ髪はないというが、まさにその通りと言うほかあるまい。
採用は理系文系より人間性重視
とまれ氏は、何をどう勉強したか。ひと言でいうと、〝IT業界の虚と実〟である。
「よく虚実取り混ぜてと言いますが、これまでのIT業界はほとんどが虚構、フィクションの世界なんですね。私と同じくらいの歳の人が簡単に何十億、何百億という金を、証券会社と手を組んで動かすんですから。もはやIT企業というよりファンド会社ですよ。もっとはっきり言えばサギ師紛いの金集め会社ですね。それなりに優れた技術力が背景にはあるんでしょうけど、それをそのまま商品として提供するのならともかく、顧客にとっては何の意味もないカタカナ語の飾りや、オーバースペックをいっぱいつけて、上場、上場と叫んでいれば金が集まると未だに思っているんですよ、業界の多くの人たちが」
2001年に崩壊した、いわゆるITバブルの幻影である。
「しかも現場は現場で、〝エンジニア馬鹿〟みたいなその当時の悪しき慣習から、まだまだ抜け出せないでいる。これが業界の実情ですよ」
簡単に言えばこうだ。
例えばホームページの作成である。キレイで、機能的にもデザイン的にも優れていれば(カッコ良ければ)、それでこと足りるというデザイナーがほとんどで、そこには「お客さまに喜んでいただきたい」というサービス業に従事する者としての心構えや、ホスピタリティの精神がスッポリ抜け落ちている。言うまでもないが、企業がホームページを立ち上げる目的は、意図するターゲット、またはターゲット予備軍の関心を惹き付け、営業活動を側面からサポートしたり、あるいは直接売上に繋げることである。一般論で言うとカッコ良いに越したことはないが、それだけでは必ずしもCS(顧客満足)には繋がらないのだ。ではどうするか。
「我々自身が顧客企業の立場、というより顧客企業のシステムを担当する部署の一員になったつもりで、汗をかき、業務に取り組む必要があります。これは一人ひとりのエンジニアに、高い技術力はもちろんですが、質の良い人間性もしっかり備わっていないとできることではありません」
早い話が人である。教育である。更に言うと、どんな人材を採用するかである。
「通常、エンジニアといえば理系の学生を採っているようですが、私どもでは理系、文系は問いません。くどいようですが、ホスピタリティの精神がもっとも大切で、分かり易く言うと、どんなに技術者としての優れた素質があっても、挨拶ひとつきちんとできない学生は採りません。その意味において人間性を重視しています。技術は後からいくらでも身に付けることができますからね」
ちなみに同社の社名、エムトラッドのエムは人としてのMINING(掘り下げる)のMで、トラッドは日本古来のTRADITION(伝統)を意味しているという。要するに、いわゆるIT長者やヒルズ族、またはそれに与するサギ師紛いのエセIT企業とは、はっきりと一線を画しているというわけだ。
トータルソリューション&ワンストップ
最後に同社の今後の事業展開について、簡単に触れておきたい。
主にWEB系システムの開発を中心としたトータルソリューション企業であることは、今後も変わりはないという。それも単なるアプリケーションの開発にはとどまらず、コンサルティングフェーズから、既存するアプリケーションの保守・運用、ネットワークの構築、サポートまで、文字通りワンストップでソリューション(問題解決)しうる体制を、今後は更に拡充・拡大する計画のようだ。
とりわけコンサルティングフェーズには力を入れており、エンジニアを顧客企業に常駐、または半常駐させる形をとり、開発フェーズでの切り取り案件から業務支援まで柔軟に対応するほか、エンジニアの教育・指導など、人的要因まで支援するという。
「今ひとつは〝モグラEC〟と命名していますが、私どもが運営する顧客開発型のショッピングサイトです。単なる通販ではなく、〝日本のいいモノ〟を合言葉に、世界中に向けて発信していきたいと思っています。運営に当たっては、顧客を絞り込むテストマーケティングから、実際のサイトの構築・管理、更にはトランスポートまでトータルで代行します。それも生産者や発信者の顔がはっきりと見える形でやっていきますよ。余談ですけど、この〝顔が見える〟というのが、先ほど言いました〝汗をかく〟ということと併せてとても大事なことでしてね。単なるデータのやり取りだけでは、もはやIT企業は生き残れない時代になっているんですよ。その辺りでも顧客の一員になったつもりで、これまで以上にしっかりやっていきたいと考えております」
なるほど。虚実取り混ぜてとはいうが、おそらく今後は、こういう〝実〟の利いたIT企業が伸びていくのだろう。ここ当分は注目していたい一社であり、人物である。
プロフィール
伊藤康弘(いとう・やすひろ)氏…1972年、大阪府生まれ。四天王寺国際仏教大学(現・四天王寺大学)を卒業と同時に地元のビルメンテナンス会社に就職。約2年間勤務した後、システムコンサル会社に転職。転勤で上京したのを機に、本格的なITビジネスの勉強をするようになる。2002年に独立し、エムトラッドを設立。代表取締役に就任する。
株式会社エムトラッド
〒107-0061 東京都港区北青山2-7-29WEEZ北青山ビル7F
℡03-5785-1050
http://www.mtrad.co.jp
従業員数:37名
年商:2億円(2014年度)