薬局は薬を渡すだけの場所ではない。「かかりつけ薬局」としてきめ細かなケアで患者を守る株式会社ハーモニー
薬局は薬を渡すだけの場所ではない。「地域のかかりつけ薬局」としてきめ細かなケアで患者を守る株式会社ハーモニー
◆取材:綿抜幹夫
地域の「かかりつけ薬局」としてきめ細かなケアで患者を守る!
「薬局は薬をもらうところ」。そう思っている人がハーモニーの薬局を訪れたら、さぞ驚くことだろう。
宇都宮市内に4店舗を展開する「地域のかかりつけ薬局」ハーモニーでは、迎えてくれるのはいつもの薬剤師さん。薬の相談や服薬指導はもちろん、時にはより患者に合う薬を考えて、処方医とも意見を戦わせてくれる頼もしい存在だ。
創業者で代表取締役の髙野澤昇氏に、現在の医療界の状況や創業の思いを語ってもらった。
営業当初から変わらぬ地域の「かかりつけ薬局」
西3丁目店の店舗外観
2015年5月21日、厚生労働省の規制改革会議の作業部会で、大病院の門前に位置し、その病院の処方箋だけを集中的に受けるいわゆる「下請け調剤薬局」の報酬を減らす方針が示された。一方、1人の患者が通う複数の病院の処方箋をまとめて扱う「かかりつけ薬局」については、2016年度以降段階的に報酬を積み増すことも決定。6月4日から開かれた専門家検討会で、その認定基準の協議が始まっている。
厚労省の調査結果によると、全国の「下請け調剤薬局」の数は全体の約70%にも及ぶ。一連の流れを受けて、来年に控えた2年に1度の薬価・診療報酬改定を案じ、「2016年の改正はひどいことになる」と右往左往する調剤薬局も多い中、株式会社ハーモニーは少しも焦る所がない。
「うちがやってきたことが、後追いで政策になるんだなという感じ。だから余裕を持っていられるんです」と話す髙野澤氏を中心に、今日もいつも通り、地域の「かかりつけ薬局」として営業を続けている。
薬局のファン、増加中
市民セミナー「風邪対策と正しいマスクの使い方」の様子 がん患者支援イベント「リレーフォーライフ」に毎年参加
現在の日本の医療は、基本的には医薬分業だ。簡単に言うと、医師が薬の処方箋を書き、その処方箋に基づいて薬剤師が調剤する体制のことで、ヨーロッパで生まれ、明治時代に日本に伝わった。医師は医学・薬物療法の知識はあっても薬学の専門家ではなく、複数の薬を併用した際の安全性については薬剤師の方が詳しいこと、また過去に起きた、医師が処方する薬剤料による利潤目当てに必要以上の薬を処方するという事態を抑制するためにも、現代の医療を支えるなくてはならない制度と言われている。
医薬分業元年と言われる1974年以降、調剤を院外に委託する医療機関が全国で増加。それに伴い調剤薬局もその数を増やし始めた。しかし多くは俗に「コバンザメ商法」と呼ばれる、客層の95%~98%を隣接する大病院に依存する門前薬局で、この傾向は薬局の店舗数が全国で約5万7000件あまりに増えた現在でも大きくは変わっていない。
しかし、宇都宮市内に4店舗を展開する同社の薬局では、来局者のうち、最も近くの医療機関の処方箋を持ってくる人は80%程度。残り20%は自分の「かかりつけ薬局」として、あちこちの病院から出た処方箋を持ってくる人たちだ。この20%を40%にするのが目下同社の目標。髙野澤氏はそのような「地域に密着した姿が本来の薬局のあり方」だと力強く話す。
1人ひとりを知るからできる、適切な医師への照会
患者からの相談と薬剤師のアドバイス(西小学校前店)
大手チェーンの門前薬局の問題点は、転勤などの理由から、薬剤師が1人ひとりの患者と長期的な関係が築けないことだ。
「大きな病院だと、医師は半年ぐらいで移動してしまうこともざら。カルテは引き継げても、信頼や親しみまでは引き継げません。患者さんも会ったばかりの医師相手では、話したくても話せない場合もあるだろうし、重要な情報が見過ごされてしまう場合もある。それは薬でも同じです」と、髙野澤氏。
同社の薬局では一度配属の決まった職員は転勤せず、ずっと同じ店に勤務するのが基本。利用者と長い関係を築くことを大切にしており、利用者にいつでも自分のことをよく知り総合的にみてくれる薬剤師がいる安心感を与えている。
さらにもう1つ、現在の門前薬局には、医薬分業のメリットである2重チェック体制が有名無実化しているという問題もある。薬剤師の任務や業務について定めた薬剤師法の第24条には、薬剤師は医師の処方箋に疑問や不明点がある場合、処方医に問い合わせて確認し、疑問が解決した後でなければ調剤をしてはならない旨の規定がある。
医師の処方箋を薬剤師がチェックすることで、より安全な医療の実現を目的として設けられたものだが、顧客の95~98%を1病院に頼っている状態では、薬剤師と医師の力関係は歴然。たとえ疑問を感じてもクレームや圧力を恐れて、意味のある照会はほとんど行われていないのが現状だ。
これに対し、「うちの社員の自慢話みたいなものですが」と前置きしてから紹介してくれたのは、ある患者の処方箋に、2種の血圧の薬がどちらも通常より用量を増して処方されていたというケースだ。記載された薬の処方量に問題があるわけではないものの、患者とも長い付き合いで、処方した医師の癖も知る担当薬剤師は疑問を感じたのだと言う。
直ちに照会し、「処方通りに」という医師に、「2種の薬が出ている場合、先生はいつも1種類ずつしか用量を増やさないはず。今回は2種類一緒に増量しているのはおかしいのでは?」と食い下がった所、2種類一緒に用量アップしたのは医師の記入ミスと発覚。「教えてくれてありがとう」と、医師からも感謝されたというものだ。
もちろんこのようなことは、頻繁にあることではない。けれど薬剤師が患者と医師の処方の癖、双方をしっかり把握していたからこそ見つかったミスであり、「こういう仕事ができる薬剤師や薬局が近所にある、というのが正常な姿だと思う」と髙野澤氏。同社のめざす薬局の姿を、端的に現したエピソードだと言えるだろう。
本来あるべき姿をつらぬき31歳で独立
地域の「かかりつけ薬局」こそ、薬局のあるべき姿との構想は、早い時期から髙野澤氏が持っていたものだ。高校生の時、進学先として薬学部を選んだのは「直感だった」が、時は1980年代半ばの調剤薬局が本格的に増え始めた頃。大学では薬局経営研究会に所属し、医薬分業などについて理解を深めるうちに、ゆくゆくは自分で薬局を経営したいとの思いを持つようになったという。そして卒業後の進路を考えていた時、入院・外来患者の調剤を担当する大学病院の調剤室で2週間の実習体験をし、衝撃を受ける。
「そこはそれぞれの薬剤師が、錠剤の数の勘定なら勘定、粉を作るならそれだけを担当する完全分業体制。メニューの通りに早く正確に揃えることが重視される職場でした。学生だから、材料の薬を数えて棚から出す仕事しか任せてもらえなかったんですが、薬品名が読め、薬の飲み方のパターンが分かり、日数×1日量の計算ができれば、小学校低学年でもできる仕事だと思ってしまったんです」
その体験から大学病院への就職はやめ、まず業界全体の実体を把握するために薬メーカーに営業職で就職。3年が過ぎ、業界の事情にも通じてきた所で、再び髙野澤氏に転機が訪れる。老舗の調剤薬局の社長から誘われ、中途入社することになったのだ。
「何でも意見したことは任せてくれたので、仕事はおもしろかった」と当時を振り返り、骨を埋めてもいいかとも考えたが、時代はバブル末期。調剤薬局も「出店すれば儲かる」状態で、いつしか地域の薬局であることより、新店を出すことを重視し始めた会社と袂を分かち、31歳で独立した。
次代のために道を残す
無菌調剤室での無菌調剤は、栃木県の薬局では初となる。
薬の販売価格は、国の定める薬の価格「薬価」に左右される。薬価は2年ごとの改定で必ず引き下げられるので、仮に1店舗に持ち込まれる処方箋の数が変わらなければ、単純に年数が経つほど売り上げは減少する。その減収をまかない成長を続けるためには、次々と出店を続ける必要があるとされ、業界では大病院に頼らない同社のような経営は無理だとも言われてきた。
しかし、地元の「かかりつけ薬局」としてファンが増えれば、自然持ち込まれる処方箋の量は増え経営も安定する。そうやって「まっとうなことをして、それでいて経営が成り立つのをやって見せることが自分の仕事の1つ」だという髙野澤氏。
理想は全国津々浦々まで「かかりつけ薬局」が浸透することだが、1代でそれができるとは思っていない。「自分の役割は時代をつなぐこと。後につながる人にこの仕事の魅力を伝えられれば」と話し、仲間が増えることを歓迎するのも、同社ならではの特徴だと言えるだろう。
「仕方ない」であきらめるか、やるだけやってみるのか
そんな同社のあり方を支えているのが、同じ理想を共有する社員の一体感だ。人材教育では、まずは〝こうあるべき〟という理想を社員に伝えること、そして現状ではその理想を達成できないとなれば、達成するためにどういう案があるのか、どうすればいいのかを自分で考えていくことが何より大事にされ、その繰り返しにより全体で一歩一歩理想に近づいていく。
それは、業界で当たり前になっている「門前薬局」に対し、「おかしい。本来はこうあるべきだ」との思いを貫いてきた髙野澤氏の生き方そのもの。
「〝仕方がないよね〟で諦めて気持ちの悪いまま棺桶に入るのか、それともたとえある程度のことしかできなかったとしても、〝やるだけやった。よかった〟と思って死ぬのか」。開業当初から変わらないその思いを原動力に、同社と髙野澤氏の挑戦は続いている。
髙野澤昇(たかのさわ・のぼる)氏…49歳。栃木県宇都宮市出身。昭和63年(1988年)に東北薬科大学を卒業後、薬剤メーカーで3年間営業職を経験。後、調剤薬局での勤務を経て、平成10年(1998年)に31歳で独立、代表取締役に就任。現職。
株式会社ハーモニー
〒320-0861 栃木県宇都宮市西3-1-11ハーモニー薬局3F TEL 028-651-3217
【ハーモニー薬局 店舗】
・西3丁目店
〒320-0861 栃木県宇都宮市西3-1-11
TEL 028-610-0153
・柳田店
〒321-0902 栃木県宇都宮市柳田町1286-4
TEL 028-683-3808
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