株式会社パットコーポレーション – 人材派遣業界の「当たり前」をひっくり返す!
人材派遣業界の「当たり前」をひっくり返す!
株式会社パットコーポレーション 代表取締役 尾﨑卓治氏
◆取材:綿抜幹夫 /文:渡辺友樹
社員の成長が会社の成長へと繋がる
東京都渋谷区の人材派遣業、株式会社パットコーポレーションは、優秀な派遣チームの投入で業績を伸ばし、2本目の事業の柱として保育園経営にも乗り出している。人材業界を黎明期から知る尾﨑社長は「社員が誇りに思える派遣会社を作りたい」と語る。
プロのシンガーを目指して上京
昭和44年(1969年)、愛知県岡崎市に生まれた同氏。20歳になると同時に上京した理由は、高校時代に始めたバンド活動の延長でプロのシンガーを目指すためだった。ボイストレーニングに通いながらオーディションやライブ活動に明け暮れる日々。音楽活動の妨げにならないよう、不定期で働ける職を探していて出会ったのが、当時はまだ珍しい登録制の派遣の仕事だ。
仲間たちと一緒に登録し働き始めた同氏だったが、引っ越しや事務所移転、イベント会場など、数十名規模の現場でリーダーを任されることも多く、現場での評判も良かったという。やがて働きぶりを評価され、仕事を紹介「される側」から「する側」、登録しているスタッフたちに仕事を振り分けていく内勤へと立場を変える。会社からも重宝されていた同氏だが、当時はあくまでも音楽を人生のメインに据えており、仕事は生活資金を稼ぐ手段に過ぎない。このままでは埒が明かないと、音楽に集中するために2年間という期限を切ってもう一度、紹介される側の登録スタッフの立場に戻る。しかし2年後、残念ながら音楽の道は拓けておらず、家庭を築いていたこともあり音楽の夢を諦め、この派遣会社に社員として就職する。これが28歳のときだ。
派遣会社に就職、業界への疑問
内勤を挟んで登録スタッフとしての6年間で、社長はじめ社員からの信頼を得ていた同氏。その頃、上場を目指すようになっていたこの派遣会社から、即戦力として強い誘いを受けていたといい、これに応える形での就職だった。
同氏を獲得したこの会社は、上場のために設定した目標を達成するため、拡大路線を突き進み次々に拠点を新設。社員教育と新規拠点に関わる部門の責任者に就任した同氏は、新規拠点の場所選びから立ち上げ、スタッフの募集や面接などの採用業務、入社後の社員教育まですべてに関わり、夜を日に継いで仕事に打ち込む激務の数年間を送ることになる。
しかし、会社の急速な拡大ペースに中身が追いつかず、社員教育や現場がおろそかになっている状態に疑問を感じていた同氏は、いったんペースを落としてでも今一度しっかりと土台を作る期間を設けたいと進言。上場志向は変更しないという会社側と最後まで意見が分かれ、20歳から13年間を過ごしたこの会社を退職する。
2004年に独立。「業界を反面教師に、社員が誇りに思える派遣会社を作る」
退職した時点では人材業界に留まるつもりはなかったという同氏だが、前職で同氏を慕っていた部下や理解のあった上司、懇意にしていたクライアントなどから、「アルバイトを含めて13年間にも渡る業界での経験を無駄にして欲しくない」との声が次々にかかる。同氏が独立した場合の協力の申し出も多かったという。これらの惜しむ声に加えて、「週末も仕事がある、残業が付かない、有給も取れない、給料もボーナスも安い……」という状態が当たり前だったという人材業界を反面教師として、今までにない派遣会社を作ってやろうというモチベーションから、人材業での独立を決意。「残業はさせない、有給もしっかり取れるようにしよう、業界の『当たり前』をひっくり返してやろうと思いました。社員が誇りに思える会社を作りたかった」と語る同氏。平成16年(2004年)9月、35歳で株式会社パットコーポレーションを立ち上げる。
業績は順調、「作ってきた売上」
昨年、設立10周年を越えた同社。「ほとんどが派遣スタッフから社員になった」という社員数は現在30名弱、業績も年に1億円ずつ伸びているという。登録スタッフは1万7千人に上り、うち350名ほどが日々稼働している。「自分が思っていた以上に成長しました。自己採点は80点」と語る同氏は、同社の成長が「作ってきた売上」であることを強調する。「時代や外的環境に影響されてなんとなくできてしまった売上ではなく、意識的に作ってきた売上なんです。人材(社員)も同様で、意識的に作ってきたものです。これは同業他社にはできない、当社にしかできないことだと思っています」と胸を張り、「私は、社員が成長して初めて企業が成長すると思っています。その考え方で、社員と一緒に一丸となって会社を作り上げてきました。結果、私が想像している以上に社員が成長してくれて、それが当社の想像以上の成長に繋がりました」と続ける。
ピラミッド型の組織を派遣。資格や免許の取得もサポート
「登録スタッフ」「クライアント」「派遣会社(同社)」の三方すべてにメリットのある事業を理想とする同氏。同社の派遣システムで特徴的なのは、同社内でチームを作り、そのチームを丸ごと現場に派遣していることだ。同社の派遣先に多い物流センターなど50~60名規模の現場であれば、トップに社員を一名、その下にリーダー経験者、さらにサブリーダー、経験者、そして今後を担う新規登録者、という「ピラミッド型」の組織を作った上で現場に送り込むのだ。クライアントはトップにいる社員とやりとりをし、それがピラミッドの下層へと共有される。組織ごと送り込むこのシステムは業界内でも珍しく、請負に近いイメージで仕事をできるためクライアントからの評価は高い。チームであれば、不安を感じることの多い登録スタッフたちをフォローする効果もある。
さらに、同社ではたとえば物流センターで活躍しているスタッフにはフォークリフトの免許など、優秀なスタッフに対して免許や資格の取得をサポートしている。これが、より価値の高いピラミッドの形成を可能とし、その上、スタッフ本人も免許や資格などの付加価値によって時給がアップし、より稼ぐことができる。
同氏は「スタッフは稼ぎたがっている。クライアントは働き手が欲しい。双方の目的が合致しているのですから、当社が適切に調整することで、より気持ちのよい現場を形成できますし、みんなにメリットを生むことができるのです」と語る。
2010年、音楽保育園『キラキラキッズナーサリー』オープン
人材業で順調に業績を伸ばし、事業を軌道に乗せた同社は、平成22年(2010年)には渋谷区代々木に音楽保育園『キラキラキッズナーサリー』をオープン、子育て支援事業にも進出した。社員が誇りや働きがいを感じられる企業になるために、企業価値を高めたいと語る同氏。そのためには社会的意義のある事業に取り組むことが必要と考えたことが、子育て支援事業を始めたきっかけだ。自身の娘が待機児童となった経験や、仕事の合間を縫っての保育園への送り迎えなどの実体験からも、保育園を増やすことや、理想の保育園を作ることへの意欲があったという同氏。保育園業界にも、低賃金、過酷で劣悪な労働環境、事故の多発、高額な費用など問題が多いことを知り、人材業で同社を創業したときと同様「それをひっくり返そうと思いました。今までにない保育園を作りたかった」という気持ちがあったという。
同氏は「『人材業の会社が子育てという社会的意義のある事業も手がけているのか』と思ってもらうこと、また逆に『この保育園を運営している会社の本業は人材業なのか』と思ってもらうことで、当社の差別化やイメージアップを図りたい。社会的に意義のある事業を行うことによって企業価値を高め、社員から愛される会社にしたい」と語る。
「派遣は決してなくならない。堅実な成長を」業界の今後と同社の展望
「常に物事を前向きにとらえ、一歩一歩着実に前に進んで行く」という理念を掲げる同社。同氏は今後について、実現可能な目標を立て、そこに向けて逆算しながら一段飛びや二段飛びをせずに成長していきたいとし、「社員の成長が会社の成長に繫がるという考え方の下、今いる社員たちを成長させ、それによって会社が少しずつでも伸びていけば」と、社員ありきの堅実な成長を口にする。
派遣業界の今後について同氏は、医療や建築、警備など、現在は派遣労働者を働かせることができない業種に対して徐々に規制が緩和されると見込んでいるほか、業種・職種に特化した派遣会社が増えると予想している。派遣元・派遣先ともに派遣労働に対する意識は高くなってきているといい、「派遣は決してなくならない」と語る。
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「人材派遣業は、企業と人材を結びつけることで社会に貢献できる事業」と語る同氏。「人」を大切にする同社が、非正規雇用社会の良心となる。
◉尾﨑卓治(おざき・たくじ)氏…昭和44年(1969年)、愛知県岡崎市出身。派遣会社での勤務を経て、平成16年(2004年)に株式会社パットコーポレーション設立。代表取締役。ほか、西武ニューリーダーズクラブ21会長、株式会社クォーボ・ピクチャーズにてプロデューサーを務める。
◉株式会社パットコーポレーション
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