オビ 企業物語1 (2)

リングロー株式会社 ‐ 利益度外視、追い求めるのは顧客満足のみ!

◆取材:綿抜幹夫 /文:渡辺友樹

 

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リングロー株式会社/代表取締役 碇敏之氏 「自分が目指すビジネスでなければ会社を続ける意味がない」

 

用途に見合った機能・価格の中古パソコンを提案

法人・個人向けに、中古OA・IT機器の販売・買取・修理・卸売を手がけるリングロー株式会社。パソコンやスマートフォン、タブレットなどを扱い、8割がリサイクル・リユースといった中古品だ。

「中古を活かした素晴らしきIT社会を実現する。リングロー」をブランドスローガンに、目先の利益には執着せず顧客満足を追求し、15年目を迎えようとしている。儲け主義の蔓延る業界で、理念を曲げず孤軍奮闘を続ける碇敏之社長に聞いた。

 

音楽活動のため、30万円のパソコンを購入

プロを目指し、音楽活動をしていた同氏。21〜22歳のころ、音楽のデータを加工・編集するために、それまで使ったことのなかったパソコンを購入する。発売されたばかりのWindows95は話題を集め、インターネットなるものが人類社会にもうひとつの世界を作り上げようとしていた。

当時、パソコンは同氏が購入した安いモデルでも30万円ほど。難しいイメージがあって敬遠していたパソコンだが、自分の音楽を世界中の人と共有できるならと、大きな投資に踏み切った。

 

 

アルバイト先での中古パソコンとの出会い

パソコンを使い始めた同氏はやがて、「パソコンを売る会社で働けば、今後自分も安く買えるのでは」との思惑から、パソコンを扱う会社でアルバイトを始める。同氏と中古パソコンとの出会いはこのときだ。

「自分が音楽を編集するのに必要なパソコンが、中古なら3万円で買えたんです。10分の1じゃないか、これはなんなんだ!と衝撃を受けました」

 

中古パソコンという存在自体をまったく知らなかった。見た目は多少古くなっていても、システムを入れ直せば十分に使えた。

「こういうものが世の中に広まっていない、知られていないのはいけないと思って。その時点で、中古パソコンのビジネスをしない選択肢はありませんでした。自分がやらないで誰がやるんだという使命感ですね。社会的な意義があると感じました」

 

 

リングロー・碇氏が譲れないこと

同社が目指す事業は創業時から変わっていない。リユースの仕組みを構築し、世界中の資源の有効活用を進めること、そしてパソコンの機能がもっと有効活用される世の中を創ることだ。

大量に生産されたパソコン、スマートフォン、タブレットは、短期間で買い換えられ、まだじゅうぶんに使えるものが日々廃棄され続けている一方で、世界には普及自体が進んでいない国もたくさんある。リユースを進めていくことで、そういった不均衡を解決することが事業目的のひとつだ。

また、機器を適切に使えていないユーザーは限りなく多い。確かに、最先端の技術が詰め込まれた新製品は、驚くほど高機能だ。しかし、その機能のすべてを使いこなしているユーザーなど、ほぼいない。法人が高いコストを払って導入した最新のシステムも、実際はそこまでの機能は必要ないケースがほとんどだ。

新しい技術が社会に馴染むには数年を要する。それまでの間、現在のユーザーのニーズに即した使い方を提案するのが同社の役割だ。

 

 

追い求めるのは顧客満足のみ。収支ギリギリを徹底。

08_Ringrow_04海外の商談会には積極参加。高品質な製品を、世界中で使ってもらうための取組みだ。
08_Ringrow_03組織力強化のため、7年前から新卒採用を導入。中核は若手社員が担っている。

同社の目的は、商品を売って利益を得ることではなく、その商品を使うことでユーザーにどれだけのメリットがあるか。商品を提供することではなく、提供された商品でユーザーが何をできるかにある。

顧客満足を追求すれば、利益は後からついてくる。買取を依頼されたパソコンも、少し手を入れれば使える場合、そう提案する。売上が欲しいなら、下取って別の商品を販売するのが通常だ。しかし、同社は「これなら数千円で直りますよ。まだまだ使えますよ」と提案してしまう。ユーザーの買い換えコストを浮かせるばかりでなく、使い慣れたマシンに愛着があるユーザーであれば、なおのこと喜んでもらえる。

鼻先にぶら下がった利益は眼中になく、顧客の満足だけを追求する。収支はギリギリを徹底。顧客が必要ないものを無理に売りつけることは絶対にしない。それがリピーターを獲得するコツだ。

 

 

企業の存在価値は理念の中にあり

『中古を活かした素晴らしきIT社会を実現する。リングロー』

これが、同社のブランドスローガンだ。目的は利益ではない。仮にどれだけ規模が拡大しても、自分が目指すビジネスでなければ意味がない。同氏は何度か、「そういう売り方をしなければいけないなら、こんな会社やらなくていい。続けなくてもいい」と言い放ったことがある。

同氏が目指すのは、社会に価値を与えるビジネスだ。もちろん、言動の不一致は許されない。だからこそ、同氏は社員への理念教育を徹底し続けている。

 

 

メーカーの制約を受けない中古販売

OA・IT機器販売は、販売店にメーカーの制約があるのが当たり前。A社と特約を結ぶと、ライバルB社の製品は扱えないなどの「縛り」が発生する。ユーザーが求めているのは、A社とB社の製品特徴を比較した提案を受けることだが、それが許されない巨大な卸売システムが出来上がっている。

そこに巻き込まれず、ユーザーの満足を優先した販売を行う手段のひとつが、同社のような中古販売というわけだ。中古品であれば、メーカーによる制約はない。さまざまなメーカーの製品を扱え、ユーザーに適した提案ができる。

 

単に儲けたいのなら、どこかのメーカーの傘下に入れば良い。売上も立てやすく、販売店・代理店としてさまざまなサービスを行えるようになる。しかし、同社はすべて蹴ってきた。

 

 

パートナー企業も巻き込んで

08_Ringrow_053月からは、留学インターンの受入を開始。社員にとって大きな刺激となっている。
08_Ringrow_06現場の声をひろうため、社員とのコミュニケーションは活発だ。

同氏は、顧客満足の追求こそが、リユース業界発展のカギであると考える。中古には、「汚い」「壊れる」といった負のイメージが未だ付きまとうからだ。これらを払拭させるためには、顧客の声に耳を傾け、価値ある中古を提供していかなければならない。

しかし、これは一企業の取組みだけでは限界がある。だからこそ、パートナー企業と手を取り合い、顧客満足を追求することで、リユース業界を発展させていきたいのだ。そうでなければ、地球規模で起こっている資源の枯渇や、不均衡を解決することはできないと考える。

 

 

新しい企業の在り方を模索するからこそ、経営ではなく現場にいたい

7月には創業15年目を迎える同社。同氏は、以前から経営は後継者に任せて、現場に戻りたいと考えている。会社の規模は大きくしたいが、空虚なものにはしたくないからだ。経営は信頼できる5~6人に任せ、自分は新規事業や既存部署のテコ入れ・修正に回りたいと、ここ5年ほど考えている。

「常に私自身が現場にいて、お客様の声を残さずキャッチしたいんです。どんなに会社の規模が大きくなろうとも、一人一人のお客様のニーズに真摯に答える会社でありたいですから。だから、本音としては経営は任せたいんです」

 我が道を進みながら顧客に喜ばれるサービスを提供していくには、それだけの高いスキルが要求される。地道な取り組みだからこそ、社会からの認知も時間がかかる。理念を共有する社員を一人でも増やし、広めようとしてはいるが、時間がかかることはわかっている。

それでも、同氏はこのビジネスから離れるつもりはない。「仕事とは自己実現」といわれるが、利益の追求以外に自己を見出した人生は充実している。

 

 

◉社員の声

取材には、同社の未来を担う若手女性社員3名が同席。同社について、また同氏について、彼女たちの言葉も紹介しよう。

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・佐藤智実さん(代表取締役補佐/入社5年)

「弊社は、利益追求ではなく、お客様に満足していただくことを目的としています。それができないならやらないという理念が社内に浸透し、その理念に共感する新たなスタッフが増えていくといういい流れができていると感じます。私自身も、社長がいつも言っていることに共感しています」(佐藤さん)

 

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・蓮実由衣さん(管理部門 広報課/入社3年)

「社長には理念を曲げないという太い軸があり、お客様が喜ぶことをする意識を常に持っています。私も、社長に出会い弊社で働くようになって『何か行動を起こすときは、利益ではなくお客様が求めていることをやらなければ』という意識を持つようになりました」(蓮実さん)

 

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・髙柳恵子さん(経営企画室/入社1カ月)

「自分が良いと思ったものをお客様に届ける仕事がしたかったので、理念に共感し入社しました。昨年までカナダのバンクーバーに留学していたのですが、日本はリサイクル、その中でも特にリユースに関してとても遅れていると実感しました。日本にはリユースがまだまだ浸透していませんし、意識自体が薄いと思います。弊社でそういった部分の改善に取り組みたいです」(髙柳さん)

 

オビ ヒューマンドキュメント

碇敏之(いかり・としゆき)氏…1973年、北海道出身。2001年、有限会社リペアシステムサービス設立。2004年、株式会社RSSに組織変更。2013年、リングロー株式会社に社名変更。

 

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株式会社リングロー

〒171-0014東京都豊島区池袋2-77-5 フォーラム・アイエス4階

TEL 03-5944-8866

情報社会に、新しいジャンルを創る。

 

2015年6月号の記事より
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