オビ 企業物語1 (2)

ニーズシェア株式会社 ‐ 人間重視の生き方が、 人間軽視のIT業界を変える!

◆取材:綿抜幹夫 /文:渡辺友樹

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ニーズシェア株式会社/代表取締役 道下秀世氏

社員に愛される企業を築く秘訣とは? 

定着率が低く、短命な企業も多いIT業界にあって、離職者を殆ど出さずに成長しているのが、東京都渋谷区のニーズシェア株式会社だ。営業出身ならではの経営姿勢で、社員に愛される企業を築いた道下秀世社長に聞いた。

 

塾講師のアルバイトにのめり込んだ学生時代

同氏の社会人としての第一歩は、学生時代に経験した塾講師のアルバイトだった。兄の友人から誘われたことがきっかけで始めたアルバイトだったが、すぐに適性を発揮、学生にとっては破格の時給だったこともあって、大学から足が遠のくほどのめり込む。アルバイトの学生ながら責任のある立場を任され、塾の運営や方針決定にも関わる中で、遂には正社員のスタッフと数人で独立を考え始める。

この塾があった横浜地域の人口分布や、小学校の分布などを調べてマーケティングを行い、地元の建設会社に資金調達の交渉に行くなど、本気で独立を目指していたというが、最終的には同氏が「塾は特殊な世界。まずは一般企業に就職して、世間を知りたい」と考えたことにより、独立は数年後に持ち越しという結論に至る。

 

ファイナンスリースの営業を9年間

就職先は事務機器や光学機器のメーカーである株式会社リコーのグループ会社、リコーリース株式会社。当初は4、5年で独立するつもりだった同氏は、ここでファイナンスリースの営業職を9年間、務めることになる。横浜の支店で、仕事にやりがいを感じ、仲間にも恵まれた充実の7年間を経た後、ちょうど30歳のときに福岡の支店への転勤を命じられる。

風土も異なる新天地に単身乗り込み、新規開拓から始めた同氏は「福岡はいい人が多い土地。お客さんにも恵まれ、楽しく過ごしていました」と振り返るが、一方で「このままリコーリースで全国を転勤しながら、それなりの役職をいただいて生きていくこともできる。

 

でも、もともと自分は独立したいと思ってたよな、と考える時間が増えてきたんです」と語る。技術があるわけでも、モノを売るわけでもないファイナンスリースの営業職では潰しがきかない不安はあったが、「何も考えずに」辞表を提出してしまう。32歳のときのことだ。

こうして、無計画のまま退職し東京に戻って来た同氏。退職金や貯金に加え自家用車を売るなどして作った資金で、安アパートを借り、資格の学校に通い始める。というのも、リコーリース時代のクライアントに税理士が多く、彼らの「税理士は簡単になれるから」という言葉を覚えていた同氏は、税理士の資格を取得した上で、ファイナンスリースの知識や経験を活かしてコンサルタントを開業する計画を立てたのだ。

こうして3年間ほど、「人生で一番勉強した」という期間を過ごした同氏だが、努力も虚しく資格の取得には失敗してしまう。

 

IT業界との出会いから独立へ

資格を取得できず計画は白紙、いよいよ軍資金も尽きてきたのが平成15年(2003年)、35歳頃だ。「これで普通に就職したのではリコーリースを辞めた意味がないし、それだけは絶対にするまいと思っていました」という同氏だが、このころ偶然にも、リコーリース時代のクライアントの社長と再会。

東芝系のOA機器の販売会社だったこのクライアントがちょうど経理の人材を探していたため、勉強したばかりの税理士関係の知識を活かして、業務委託の契約で手伝い始める。売上2億円ほどのこの企業で初めて経理に関するひととおりの実務を経験、半年ほど経つころ、今度はこの会社で営業を手がけることになる。リコーリース時代に営業として取引していたクライアントのため、同氏の営業の実力を知っていたのだ。

 

この会社の子会社である、社員数3名のソフト開発会社の営業職に就いた同氏、これが現在の同社へと繋がるシステム開発との出会いだ。全くの未経験、知識もなかったITの世界だが、ここでの2年間で社員数3名から15名まで拡大、集客にも成功し、売上も順調に伸ばすことに成功。

ある程度の結果を残せたことで、「この事業なら独立できる」と長年の夢だった独立に踏み切り、平成17年(2005年)7月、ニーズシェア株式会社を設立する。「会社名は、お客様、社員、お取引先、全ての方の想い(needs)を一緒にシェアリングしたい、分かち合いたい(share)という気持ちからニーズシェアとしました」

 

「既存顧客」「横の繋がり」を重視した営業スタイル

設立から10年、現在の同社は、既存顧客との契約を増やす形での売上が多く、クライアントの6割は、同社設立時に新規開拓した顧客だという。同氏の営業能力の高さはもちろんのこと、継続率が低いにも関わらず目先の案件を積み重ねて売上の数字を作り続ける企業も多い中で、クライアントに長期間に渡って取引を継続させる同社としての信頼の高さを伺わせる。

また、同氏は「横の繋がり」を重視している。西武信用金庫渋谷東支店の若手経営者の会である『西武ニューリーダーズクラブ21』の副会長や、全国規模で活動するソフトウェア技術集団である『ユーオス・グループ』の支部理事など、様々なパートナー会の幹事や役員を務めている同氏。

そうした場所で生まれる同業者との「横の繋がり」を密にし、互いのプロジェクトに人手が足りないときには社員を派遣するなどして協力し合う関係が、新たな案件の獲得に繋がっているという。

 

離職率が高く、短命な企業も多いIT業界

SEを客先に常駐させるシステム開発の世界。業界に参入して10年を経た同氏の実感としても、倒産する企業は非常に多いという。同氏はその原因として、受託開発の失敗、利益優先の経営、そして従業員をうまく使えないこと、の三点を挙げる。

業種柄、技術系の経営者が多く、自らの技術にこだわるあまり、持てる知識以上のシステムを開発しようとしたり、組織の規模以上の受託を受けたりという歪みを生む。また、経理関係がおろそかになって経営が傾いてしまう例も多いという。

そして同氏が最も大きな原因と考えるのが三点目、従業員をうまく使えないことだ。業界全体としてSEの定着率は非常に低く、うつ病などメンタルヘルスに不調を来してしまう者も多い。結果、勤怠が乱れ、そうなれば、会社としては本人をフォローしながらクライアントにも謝罪しなければならない。

他業種出身の同氏は、営業と顧客との間で「このSEはちゃんと出社しますよ」という会話が交わされることに驚いたといい、「『人』が命のIT業界なのに、人がうまく起動していない現実がありました。人が駒のように扱われていることも多い」と続ける。

 

社員の帰属意識を高めるために

こうした問題は、自分の会社にいるよりも、出向先に常駐している時間の方が圧倒的に多いSEが「会社への帰属意識を持てない」ことに起因すると語る同氏。対策として、同社では現在抱える30カ所ほどの現場に、SEを可能な限りチームで派遣しているという。

また、同氏自らが昼休みの時間帯にそれぞれの現場を訪れて社員と食事をし、不満や状況を聞くなどのコミュニケーションを取っている。さらに、グループや全社でのミーティングを月一回行い、社の方針や現状を全社員で共有しているという。こうした社員へのケアを設立以来10年間自覚的に行ってきたことが、現在のクライアントからの信頼や業績に繋がっている。

 

このほか、同社では社員の帰属意識やモチベーションを高めるために、資格を取った社員に報奨金を出す制度を導入している。自主性に任せているにも関わらず、その日の業務を終えた若い社員たちがそれぞれの現場から本社に集まって勉強したり、課長クラスの社員は講師として勉強会を企画したりと、社員の間に活発な動きがみられるという。

 

「IT業界で失敗する企業は、社員が帰属意識を持てないために辞めていき、おかしくなるケースが殆どだと思います。技術力がどうこうと言いますが、そこまで大きな差はないんです。

当社では社員に帰属意識を持たせることに努めていますし、こういう技術を身につけてこういう仕事をしよう、営業はこういう風に頑張って仕事を取るからと、そういう連帯感がすごく強いんです。社員たちも会社を良くしていこうという気持ちを持ってくれています。当社は離職率がとても低く、殆どの社員が創業からのメンバーです」

 

採用基準は「未経験で、性格がいいこと」

現在の30名から3倍強である社員数100名を目標と語る同氏。同社では未経験者の採用を盛んに行っている。ハローワークなどの媒体で「25歳以下の未経験者」を条件に求人を行い、面談した上で「性格がいい人だけを採っている」というが、昨年も5名採用し、現在その全員が戦力として活躍している。

SE職の求人は、スキルや資格を有し即戦力となることが評価され、その他の部分は問われないことも多い。未経験者限定、人物重視という同社の採用姿勢は特徴的だ。

 目標である社員数100名に向けて、事業部制を取り入れたいと語る同氏。志を共にする役員や幹部候補も育ちつつあるという。塾講師、営業職と人間重視で歩んできた同氏が、人間軽視のIT業界を変えようとしている。

 

オビ ヒューマンドキュメント道下秀世(みちした・ひでよ)氏…昭和42年(1967年)、東京都大田区出身。帝京大学経済学部卒業。リコーリース株式会社などを経て、平成17年(2005年)にニーズシェア株式会社を設立。代表取締役。その他、西武ニューリーダーズクラブ21副会長、ユーオス・グループ支部理事など。

 ニーズシェア株式会社

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