◆取材:加藤俊 /文:大木一弘

リンカーズ株式会社 前田佳宏氏

大手メーカーが企画する商品のうち、実際に量産に至るのは、わずか5%に過ぎないという。残り95%が頓挫する理由として、「アイディアを形にするためのパートナーが見つからなかったから」という意見が意外と多い。

製造業の世界では、どうしても技術が盗まれることを恐れ、情報をオープンにできない場合が多い。そのため、どのような技術を持った会社がどこにあるかわからないため、メーカーが最適なパートナーを探すことが構造的に難しい。

ところが、ここにきて、そうした製造業の課題を解決できる可能性をもったサービスに、注目が集まりだした。専門家を介在したビジネスマッチングプラットフォーム「Linkers(リンカーズ)」である。マッチング率90%以上というから、どのようにマッチングを行っているのか?

 

■どのような技術をもった会社がどこにあるかわからない世界

現在、日本国内には46万社ほどのモノづくり中小企業があると言われている。その多くは、大手メーカーの下請けを行っている企業だ。モノづくりは1社だけで完結することは殆どなく、複数の企業が手を組んで製造を行うことが多い。そのため、メーカーが製品を完成できるか否かは、求めている技術を有する最適なパートナーに出会えるか否かに大きく左右される。

実際「アイディアを形にするための最適なパートナーが見つからない」ことを理由に、大手メーカーにおいて企画される商品のうち95%ほどが、量産に至らずに頓挫している。

商品案や探している技術をオープンにできないメーカーと、どのような技術をもっているかをオープンにできない下請け候補企業。端から両者クローズドな状態にあるから、「最適なパートナー」を見つけることが如何に難しいか。これは製造業が抱える宿痾といえる。

 

■リンカーズとは

2015年4月24日、三菱東京UFJ銀行主催で『Rise Up Festa』というベンチャー支援型のイベントが行われた。その最終選考の最中、熱の入ったプレゼンで聴衆を沸かせたサービスがあった。持ち時間をオーバーするも、見事優秀賞を受賞。

―「Linkers(リンカーズ)」だ。

 

そこから遡ること一年、2014年1月から本格稼働したリンカーズは、全国に1200名以上いるコーディネーターと呼ばれる専門家を核とし、大手メーカーと中小企業をマッチングするクラウドソーシングサービスだ。

専門家とは、一人50~60社の情報を有する都道府県の産業支援機関に所属する中小企業支援者が大半。そうしたコーディネーターがNDAを結ぶことにより、技術をオープンにできない製造業も安心して利用できるプラットフォームを謳い、事実サービスローンチ一年にして、トヨタやパナソニックなど錚々たるメーカーが利用するサービスとなった。

 

利用の流れは明解だ。まず、大手メーカーはパートナー探しをリンカーズへ依頼する。この時点で、50万円程度の手付金を支払う。「手付金のために社内稟議を通す必要が出るため、調査だけなどお試し利用がありません。本気の案件ばかりになる」とリンカーズ株式会社の前田佳宏社長は言う。

 

大手メーカーが手付金50万円程度で、リンカーズへパートナー探しを依頼

リンカーズが大まかな情報でコーディネーターへ一斉に募集をかけると同時に、自社データベースでキーワードマッチングを行う

コーディネーターから寄せられる提案や自社データベースの情報をもとに、複数回の絞り込み選考を行う。選考段階ごとに少しずつ情報を明かす

(選考通過の都度、リンカーズはコーディネーターへ現金に換金できるポイントを付与)

最終選定段階(23社程度)で各中小企業ともNDAを結び、大手メーカーと各中小企業により商談がなされる

商談成立時に大手メーカーは、リンカーズへ成果報酬として50万円程度を支払う

 

募集開始から商談成立までは、1か月半~2か月の短期間。この1年で約140案件が扱われ、90%は成功している。年商は1億数千万円ペースで伸びている。

しかし、ここまで急速に広まった理由はどこにあるのか。

 

■成功の理由

更に遡ること一年。2013年、東経連ビジネスセンターとDistty株式会社(現リンカーズ株式会社)のタイアップによって、Web上の常設展示会「eEXPO(イーエキスポ)」が誕生している。東北を中心に500社の企業が参加し、2014年末で1300商品ほどが登録され、東日本大震災でバラバラになった企業がどこにあるかわかるデータベースとなった。ここでの専門家とのネットワークがリンカーズに活きている。更に、サービスをスタートさせる動機の源流もここに見える。

それは、ある専門家が発した言葉だったという。「ほんの一部の情報しか登録されていないね。本当に面白い情報がない。この企業はもっと面白いことをしているのに」。この言葉に前田佳宏社長は目を付けた。ならば、「公開されていないコアの情報、そうした非公開情報を含む、専門家の頭の中の情報で企業をマッチングしよう」。その思いがリンカーズに繋がった。そのさきのスタートも良かった。

 

■1年間探しても見つからなかったダンボールメーカーが、簡単に見つかった

最初の案件は、個人用ダンボール防音室「だんぼっち」用の防音ダンボールメーカー探しだった。これが当たった。「魔法のダンボール箱」として多くのマスメディアが取り上げたのだ。

このだんぼっちとは、簡単にいえばダンボール製の防音室のこと。製品化により、一人カラオケや動画配信など、マンションやアパート暮らしでは、気兼ねなくできなかった問題を一挙に解決できるとして、多くの生主(配信者)が飛びついた。

ところで、ダンボールは従来、音響設計の知識を要する製品ではない。だんぼっちの商品開発チームは一年をかけてダンボールメーカー探しを行ったが、音響設計のノウハウを持つダンボールメーカーには出会えなかった。諦めつつある中でリンカーズへ依頼したところ、すぐに2人のコーディネーターから提案があり、音響ルームを持っている神田産業との契約が一発で決まった。

2014年2月14日に一般発売した「だんぼっち」は、1年以上経過した現在も生産が追い付かない大人気商品となっており、別の段ボールメーカーへの再委託も行われている。

ランサーズやクラウドワークスなどの各種クラウドソーシングサイトが活用され始めた頃、多くの人が、疲弊した製造業や地域の産業を救う手立てとして期待した。やがて製造業間のクラウドソーシングも進むだろうと。しかし、現状ではそうなっていない。

リンカーズの登場は正にそこをつくものだった。ローンチから一年にして、トヨタやパナソニックなど多くの大手メーカーが利用しだしている。これは言い換えれば、それだけ登場が期待されたサービスだったということだろう。情報秘匿の仕組みとコーディネーターのネットワーク化、ここに成功したからこそ、リンカーズは中小企業の救世主になり得るポジショニングをとれたのである。

疲弊した産業を救うのは誰なのか? 確かに、リンカーズには可能性が見える。

 

 

オビ インタビュー

― 「Linkers(リンカーズ)」とこれまでのマッチングの大きな違いはどこにあるのでしょうか?

 

前田:コーディネーターを介在することです。コーディネーターが間に入るから、嘘はつけない。選考を進めながら「本当はできません」となると、コーディネーターに迷惑がかかりますから。コーディネーターは今後もどんどん増やして行きたいですね。

 

― 「Linkers(リンカーズ)」の今後の課題は?

 

前田:網羅性をさらにアップさせたい。マッチングでは多くの候補から絞り込みを行う必要があるため、常に50~100社くらいの候補をあげられるようにしていきたい。そのためにも、まずは自社のデータベースを60,000社規模の情報に拡充することです。コーディネーターが出張に出ているなどの理由でマッチングに参画できない企業をなくすため、とにかくヒットするデータベースで第一次選考を行いたいと思っています。選考の段階で絞り込む前の候補は、多い方が良いですから。

 

― 今後のリンカーズの展望は?

 

前田:日本にない技術を探すため、2015年5月にシリコンバレーへ営業拠点を設けます。シリコンバレーのベンチャー企業と日本の技術をマッチングする予定です。日本のものづくりを先導したいと思います。

 

オビ ヒューマンドキュメント

【プロフィール】

前田佳宏氏…代表取締役 Founder&CEO。2000年大阪大学工学部卒。京セラの海外営業、野村総合研究所のコンサルティング事業本部を経て、2012年にDistty株式会社(現リンカーズ株式会社)設立。「日本の産業へインパクトを与える」べく、「Linkers(リンカーズ)」の運営などを行う。

 

リンカーズ株式会社

http://www.linkers-net.co.jp/

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