オビ 企業物語1 (2)

マイカーアカデミー ‐ 安全運転を宅配するカスタムメイドの出張教習所

株式会社ドリームネット

株式会社ドリームネット 代表取締役 宮下俊一氏

◆取材:加藤 俊/文:松平 敬志郎

 

東京郊外に暮らす主婦Aさんは、都心の会社に通う夫を送り出し、子どもを幼稚園に送り迎えする幸せな日々に、小さな悩みを抱えている。雨の日の送り迎えがやはり辛い。ガレージには夫の車があり、自分も運転免許を持ってはいる。しかし、教習所の卒業検定試験以来1回もハンドルを握った覚えがないため、夫の車を壊さずに子どもを無事に幼稚園に送り届ける自信がない……。

こうした悩みを抱えるペーパードライバーに対して、マンツーマンでの運転教習を行う出張型のスクールが今、大きな注目を集めている。

 

■等身大のカーライフに即した運転技能教習

「どういったことにお悩みですか。どのコースを希望されますか」

埼玉県新座市にあるドリームネット社には、まるでホテルのコンシェルジュのような電話受注応対の声が響き渡る。

同社が展開するマイカーアカデミーでは、「いつも買い物に行くスーパーまでの道路を運転して、スーパーの駐車場にスムーズに車庫入れができるようになりたい」などの具体的な依頼者の要望をヒアリングし、完全にカスタマイズされた運転指導カリキュラムを提供する。受注後は依頼者の自宅まで指導員が出張し、依頼者が実際に使用するマイカーを使って、身近な生活圏内の交通環境を利用してレッスンを行うため、高い習得効果が見込める。

指導員が派遣されるエリアは本社のある埼玉を中心に関東全域をカバーして長野まで拡がり、遠方の場合は時間ごとに区切られたコース設定により料金調整する。短時間で学びたい人向けに「いちにち集中コース」や夜間コースも準備し、依頼者のライフスタイルに最適な教習が提供されていく。

 

■親身の運転指導でペーパードライバーを励ます

〝ホメて育てる〟独自の指導スタイルで生活に根ざした運転指導を行うマイカーアカデミーには、多数の感謝の声が寄せられている。

「本当に10数年ぶりの運転で公道を走る事も恐かったのですが、一緒に乗っていただけて、何とかなりそうな気がしてきました。まだまだ目配りが足りず不安ですが、安全第一で頑張ってみようと思います。駐車場での練習は分かり易くすぐ実践できて、ありがたかったです」(マイカーアカデミーHP「お客様の声」より)

 

若者のクルマ離れが叫ばれ、路線交通網の整備が進む中で、都市部に住む生活者が車を利用する機会は減少し続け、マイナビニュースの調査結果では、回答者の3人に1人がペーパードライバーという結果が報告されている。その一方で、都市部においても業務に運転を必要とする職種は多く、マイカーアカデミーでも異動の時期になると男性の依頼者が圧倒的に増えるという。

地方への転居や子供の進学などのライフスタイルの変化により突然に立ち上がるペーパードライバー克服の需要に対し、多くの自動車教習所が「ペーパードライバー教習」と銘打った再教育課程を設ける中、マイカーアカデミーで圧倒的な支持を集める株式会社ドリームネット代表取締役の宮下俊一社長に、事業成長の秘訣を語ってもらった。

 

オビ インタビュー

 

―マイカーアカデミーを始めた動機は  

 

宮下:人に喜んでもらえる仕事は、やはり嬉しいものじゃないですか。この仕事を始める以前は佐川急便に24年間勤めていたのですが、昔は配達すると「ありがとう」の言葉を頂けた宅配便の仕事も、今では「時間通りに持ってこいよ」に様変わりしてしまいました(笑)。

寂しい気持ちの中で佐川急便で管理職になり、新人や交通事故を起こした人間に対して安全運転を指導する仕事に携わりましたが、そこで教えているうちに、同じことをペーパードライバーの方にしてあげれば喜んでもらえるのではないかと気づいたわけです。

 

―起業された当初から顧客は存在したのか  

 

宮下:創業時からホームページやチラシを使って告知したものの、ペーパードライバー教習自体が認知されていないので、最初は月に1人でもお客様が来れば上出来みたいな有り様でした。ありがたいことに、その惨状を見ていた昔の職場から助け船が出されて、佐川急便の宅配代理店契約を結ぶことになりました。最初は私1人で軽自動車を購入して仕事を始めたのですが、そのうちに配達メンバーも増えてきて、宅配事業のほうが先に当社の主力事業となりました。

 

―マイカーアカデミーが急速に支持を拡大した理由は

 

宮下:マイカーアカデミーもなんとか創業3年目から軌道に乗せていくことができました。最初はお客様を増やすために競合社のやり方を研究していたのですが、ある時から自分の足許を見つめてオリジナリティを追求する方向に切り換えたのです。当社に依頼されるお客様は、8~9割が女性なのですね。

また、当社の指導スタッフは、私のように宅配会社で安全運転指導員をしていた人間や教習所で何年も勤めた信頼できるスタッフで固められています。ならば、安心感と信頼性をお約束しようと決めたわけです。ホームページでは、当社らしく「運転技術指導の宅配便」としてマイカーアカデミーを位置づけています。

 

―マイカーアカデミーの今後の成長戦略は 

 

宮下:今後は企業に向けての安全運転技術の宅配を強化していきたいと考えています。全国で事業を展開されている企業の場合、店舗や支店の数だけ業務用の車両を確保し、その数だけ運転を担当する社員がいるわけです。

13_Dream_net01同社の運転診断書。多数の項目によりドライバーの運転能力を分析している

一方、車両保険はおそらく一括割引されるフリート契約を適用されていますから、事故の多発は大きなコスト負担となっていきます。安全運転の実務経験だけでなく、宅配会社の運行管理責任者業務を通して事故予防運転のノウハウを持つ当社では、より実践的な安全運転教育プログラムと同乗研修での運転診断書を提供し、運転を担当される方の適正な配置と指導にお役立ていただければと考えています。

 

―最後に、マイアカデミーのような斬新なサービスで起業される方へのメッセージを

 

宮下:おかげさまで、創業当初は受注拡大に四苦八苦していたマイカーアカデミーも、今では年間で1200人超のペーパードライバーの方にお声かけいただける「安全運転指導の宅配サービス」に成長することができました。どんなに優れたサービスであっても、幅広いニーズに支えられるようになるまでには時間を要しますが、世の中が必要とするサービスであれば必ず事業は軌道に乗るものと考えます。石にかじりついてでも継続していくことが大切だと思います。

オビ インタビュー

プロフィール

宮下俊一(みやした・しゅんいち)氏…1957年10月長野県生まれ。拓殖大学中退後、佐川急便のドライバーを経て、2005年に株式会社ドリームネットを設立。代表取締役として現在に至る。

 株式会社ドリームネット

所在地:埼玉県新座市野火止3-13-19

TEL 048-475-4107

http://www.dream-net.co.jp

売上:5億円(マイカーアカデミーは5,000万円)

従業員数:100人(マイカーアカデミー指導員は10人)

 

2015年5月号の記事より
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