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近藤宣之氏(株式会社日本レーザー)インタビュー【第1回】『グローバル時代の経営者の条件とは』

◆取材・文:渡辺友樹 obi2_interview

日本レーザー株式会社 近藤宣之氏 (2)

株式会社日本レーザー代表取締役、近藤宣之氏。同社を「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞・中小企業庁長官賞、「勇気ある経営」大賞受賞に導いた近藤氏に、グローバル時代を生き抜く経営者の条件を大いに語っていただいた。

3行まとめ

・損か得かではなく正しいか、正しくないかで判断せよ。多くの場合、その場では損をする判断が結果的に正しい。
・運の良さは経営者に必須。必ず運が良くなる方法は、「いつも笑顔で、感謝し、成長して、人のせいにせず、起こったことをすべて受け入れる」。
・中小企業が生き残るには、自社品・自社ブランドを持ち、それらを独自のチャンネルで売ること。ただし、下請けや問屋など従来のルートも実績を維持せよ。英語は絶対条件。

 損得ではなく正しいか、正しくないか

日本レーザー株式会社 (4)

筒井:近藤さんとは、田中清玄先生の流れを汲むプライベートクラブ『南山会』(現会長は清玄氏の長男の田中俊太郎氏)でご一緒させていただいておりますが、その田中清玄先生は自伝の中で、「対象になりきること」「現実と歴史をよくみること」の大切さを強調しています。この前者を経営者の視点から解釈すると、「会社そのものになりきること」になると思います。これを踏まえて、まずは近藤さんの考える「経営者の条件」をお聞かせください。

 

近藤:経営とは選択の積み重ねです。選択とは常にリスクと可能性とを判断すること。その意味で経営者は聡明かつ善良でなければいけません。的確な状況判断ができる聡明さと、「損得」ではなく「正しいか、正しくないか」による決断をできる善良さが必要です。しかし、下した選択が、正しいか正しくないかというのは時間を経なければ分からない。人間は放っておいたら生存本能によって、自分にとって得なこと、自分が生き延びるためにプラスになるかどうかで意思決定をするものです。そして、得になると見越して下す判断は得てして、大きい存在からみれば正しくなかったりする。その場では自分に損な意思決定の方が、結果的には正しい判断である場合が殆どなのですが、人間の視座からはなかなかその判断がつかない。

 

塩入:そうですね、おっしゃる通りです。確かに。

 

正しかった損 1:株を自腹で購入

日本レーザー株式会社 近藤宣之氏 (3)

近藤:損か得かということについては、私自身の体験談としてよくお話しするエピソードが3つほどあります。

ひとつめは、日本レーザーが債務超過になり銀行から見放されて、それで1994年に親会社から僕が乗り込んできたときのことです。日本レーザーはもともと日本電子の100%の子会社でしたが、日本電子の資本が入っていない小さなレーザー商社を吸収したので、日本電子の資本が2/3、それ以外が1/3という比率でした。この1/3には個人株主がいて、そのうち前任の社長や会長が持っていた株、それから混乱期で辞めていく人も多かったので、そうした個人株主の株をどうするかということになった。

もともと日本電子が支配株主ですから、個人株主の株も日本電子が買い取って、持株比率を増やすのが通常ですよね。僕は日本電子の取締役兼務で、日本電子の意向で派遣されてきた立場ですから、僕も本社にかけあって、個人株主の株を引き取ってくれと頼めばいい。そうすれば済んだわけですが、そうすると「近藤はやっぱり親会社から来た雇われ社長なのだ」と、近藤個人としてリスクを負ってやる気があるのかと思われてしまう。

これはリーダーシップを執る上ではプラスではないと考えたんです。で、僕が個人的に買取ることにしました。親会社に引き取ってくださいと言えば引き取ってくれたかも知れない、でも自分で買取ることにした、これは損なんですよね。雇われ社長として、行けって言われたから来ただけのことなんですから。

 

それから、じゃあこの株を買取るときにいくらで買い取るか。額面は500円ですが、未上場の株で、債務超過になっていて価値がないから100円でも10円でもいいわけですよ。でもここでまた考えて、債務超過といえども額面は500円だし、彼らは500円で買ったんだから500円で買い取るのがいいだろうと。でポケットマネーで300万円で買ったんです。会社再建できなかったら誰も引き取ってくれない。親会社も引き取ってくれないですよ。完全に個人のリスクです。

可能性とリスクという両面からみると、リスクとしては個人で買った株を全て失うリスクがある。可能性としては、うちの社長は親会社の役員兼務とはいえ自腹を切った、本気だな、と社員がついてくる可能性がある。その時点では損か得かでいえば損な判断だったけれども、結果的には正しかった。

 

筒井:その判断をするにあたって、近藤さんの中にもうここ(日本レーザー)に骨を埋めようという覚悟があったのですか?

 

近藤:いや、そんなことはないです。本社に戻ろうと思っていましたよ。行けと言われたときも、本社からキミは最年少役員だし、アメリカで経営再建の経験があるし、もっと若いときは日本電子本体の再建もやった。キミしかいないから行ってくれと。確かに他にいなかった。労務の経験もあって英語もできて、国内営業も1年間担当していましたしね。だから、まあ再建ができれば戻れるだろうと思っていましたね。

 

筒井:その時買い取った株は、本社に戻った後も個人的に持ち続けようと思っていたんですか?

 

近藤:戻った時に売ればいいと思っていました。自分が再建したということで、額面の500円でもいいからそのとき売ればいいやと。ところが、1994年に株を買って、そのずっと後、2007年に日本レーザーが日本電子から独立するときに、格付機関にデュー・デリジェンス(資産価値を適正に評価してもらうこと)をしてもらった結果、日本電子は10~15倍でないと売らないと言っていたところを6倍に下げ、個人株主は3倍ということになったのです。いわば一物二価で、支配株主からは6倍、個人株主からは3倍で買い取ることになった。つまり300万円で買った株が900万円になったわけですから、結果的には儲かった。けれどもこれは再建できたからであって、できなければドブに捨てていたわけです。

 

日本レーザー株式会社 近藤宣之氏 (1)

(次号に続く 2015年1月号掲載予定)「二つめは、就任して1年経ったときです。それまでずっと赤字だったのに、私が来たら1年で黒字になった。すると、近藤さん運がいいよね、就任1年目で黒字になって、何年かしたら本社に戻るんだろうねと言う社員の声が耳に入ってきた……」

そこで近藤氏がとった行動とは!?

obi2_interview日本レーザー株式会社 (9)近藤宣之(こんどう・のぶゆき)氏…1944年東京生まれ。1968年、慶応義塾大学工学部電気工学科を卒業後、日本電子株式会社に入社。電子顕微鏡部門応用研究室に勤務。全国金属労働組合同盟、日本電子労働組合執行委員長に就任。1983年まで同職を務めた後、総合企画室次長、アメリカ法人支配人、取締役営業副担当などを経て、1994年、株式会社日本レーザー代表取締役社長に就任、現在に至る。2007年に役員・社員の持株会などから構成されるJLCホールディングスを設立し、MEBOを実施。日本電子からの独立を果たす。同社は第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞・中小企業庁長官賞を受賞(2011年5月)。また東京商工会議所第10回「勇気ある経営」大賞・大賞を受賞している(2012年10月)。

2013年3月:経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」全国43社に入選、受賞。

2013年4月:経済産業省「おもてなし経営企業選」全国50社に入選、受賞。

2014年1月:平成25年度東京都ワークライフバランス企業認定(多様な勤務形態導入部門)。

2014年3月:経済産業省「がんばる中小企業300社」に入選、受賞。

株式会社日本レーザー

〒169-0051 東京都新宿区西早稲田2-14-1(東京本社)

TEL 03-5285-0861 FAX 03-5285-0860

日本レーザー|レーザと光の専門商社。光源、計測機器から加工装置まで

年商:38億円(2014年実績)

従業員:58名(2015年1月現在)

 

創光技術事務所インタビュアー

筒井潔(つつい・きよし)氏…経営&公共政策コンサルタント。慶應義塾大学理工学部電気工学科博士課程修了。外資系企業、ベンチャー企業、知財関連企業勤務を経て、合同会社創光技術事務所所長。

塩入千春(しおいり・ちはる)氏…創光技術事務所シニア・アナリスト。理学博士。京都大学理学部卒。京都大学理学研究科修士課程修了。総合研究大学院大学博士課程修了。理化学研究所研究員等を歴任。

合同会社創光技術事務所

〒150-0046 東京都渋谷区松濤1-28-8 ロハス松濤2F

http://soukou.jp

2014年12月号の記事より
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