obi 12

ビスタシステムズ株式会社 営業ゼロ・口コミだけで広がる生産管理システム

◆取材:綿抜幹夫 /文:渡辺友樹

 

中小企業向けにサービスを展開「日本人よりも、日本人らしく」

ビスタシステムズ株式会社

ビスタシステムズ株式会社/代表取締役社長 高 奎波(こう・けいは)氏…1964年生まれ。中国遼寧省出身。1986年、大連理工大学卒。2006年、ビスタシステムズ株式会社設立、代表取締役社長。現在に至る。

現代の企業運営に欠かせない生産管理や販売管理のシステム。しかし、その外注コストに頭を抱えている企業は多いのではないだろうか。結果、後回しにしてしまっているケースもあるだろう。管理や購買、調達といった地味な部門に予算を回せない懐事情はどこも同じでその心中はよく分かるが、一方で、管理が杜撰な組織に中長期的な成功例が見当たらないのもまた、事実であろう。

東京都千代田区で生産管理システムや販売管理システムの開発・販売を行うビスタシステムズ株式会社は、一風変わった経営術を取り入れ、高品質・低価格のシステムを提供している会社である。中小企業向けにサービスを展開している同社の強みや今後について、中国出身の高 奎波(こう・けいは)社長に詳しく話を伺った。

 

世界を見据える日本の中小企業に、高品質・低価格のシステムを提供したい。

まずは、高奎波社長のこれまでの歩みについてざっと紹介していこう。同氏は遼寧省出身の中国人。1986年に大連理工大学を卒業後、中国の大手鉄鋼企業に就職する。14年間に渡るサラリーマン生活の間、しばしば日本に出張して風土や文化に親しんでいたこともあり、その後の人生の舞台を日本に移す決断をする。来日後、5,6年間ほどの準備期間を経て、平成18年(2006年)にビスタシステムズ株式会社を立ち上げた。

そんな同氏に、ビジネスの場として日本を選んだ真意を改めて問うてみた。

「中国の中小企業は、その町や地域内だけで商売をしていることが殆どです。しかし、日本の中小企業はごく少人数であってもその商品が世界中で売られ、全世界を相手にビジネスをしている。そんな企業を数多く目の当たりにし、感銘を受けました」

さらにこう続ける。

「世界に向けてビジネスをするには、必ずシステムが必要です。日本の中小企業は優れたシステムを求めています」

中小企業はシステムがなければ競争できない。世界の市場を見据えているなら、なおさら管理をおろそかにはできない。しかし、昨今の経済状況である。中小企業には、大手にシステムを発注する予算はなく、ここに、高品質・低価格のシステムを提供する同社に対する需要が存在するというわけだ。

 

 

営業がいない技術者集団として、30余名の組織に拡大。

ITの時代と言われて久しいが、その分ライバルも多い。同社はいかにして差別化を図っているのだろうか。競争力に対する自信の中身は、品質は言うまでもないが、低価格であることが特に大きいようだ。

詳しく聞いてみると、低価格の実現は、管理費削減の結果であることが分かる。同社は正社員20名、グループ全体では30名余だが、特筆すべきは、その全員が技術者で、営業職がいないことだ。いや、営業がいないどころか、一般的な企業のように社員ひとりひとりが社長、専務、事務、営業…といった役職や職種を専任しているのではなく、誰もが複数の業務を担当している。この体制が管理費の削減に繋がっているのだ。

同社のように中小企業をターゲットにしていると、しっかりと実績さえ作れば、営業をかけずとも紹介によって新たな顧客を得られる。中小企業には、業界や地域内で強固な横の連携があり、優良なサービスや取引先を紹介しあうことは珍しくない。更に言えば、同社自体も中小企業。専任の営業担当がいなくても、紹介による新規獲得で回せる規模なのだ。

ひとつの役職や職種に専任する社員がいないこと。技術者集団で、営業がいないこと。これらは、既存の企業イメージにあてはめてみると、思い切った経営術だ。しかしながら、この組織づくりからは、中小企業のコスト削減という観点において大いに学ぶところがある。

 

 

今後は日本人を採用し、日中混合のチームを作りたい。

同社の組織構成にはもうひとつ特徴がある。日本人がわずか2名で、残りはみな中国人である点だ。この体制の今後については、「これからは日本人社員の採用に力を入れたい」という希望があるという。専任の人事担当者を置いていない現状もあり、新卒採用は時間やコストが嵩む。一方で、経験者採用は、中国人が多い社内の雰囲気に馴染めるか、また、同社の要求に応える技術力を持っているか、などが心配だと明かしてくれた。ちなみに現在、日本語が堪能な中国人社員は半数ほどだという。

「弊社の顧客は、ほぼすべてが日本の中小企業です。こうして日本でビジネスをする以上、取引先や顧客との仕様調整などで活躍してくれる日本人社員をぜひ採用したい。理想としては、日中混合のチームを作りたいと考えています。しかし、どのようにして優れた日本人の人材を探せばよいか分からず、慎重になっているのが実状です」

経営者としての悩みをこう語ってくれたが、実はこの慎重さこそが同氏の強みだろう。したたかさと言い換えても良いかも知れない。これがなければ、異国である日本で、ほぼ中国人のみ30名の会社組織は築けないはず。なんとなくの慣例や、なあなあの人情で企業を経営している経営者にはない強みがここにある。選りすぐりの技術者集団によってコストを削りに削った高品質・低価格システムが生み出され、愚直に、そして確実に顧客満足を得てきた同社の源泉はこれなのだ。紹介によって新規顧客を獲得してきたという言葉にも説得力がある。

 

 

現地法人も設立するなど、中国とのパイプも。

同社の武器は、高品質・低価格なシステムだけではない。中国とのパイプを持っているのだ。昨年9月に中国の鞍山に現地法人を設立したほか、上海、大連、蘇州、瀋陽と要所に協力会社がある。

かつて驚異の高度経済成長の中で技術力を高めた日本。一方、現在急速な成長のさなかにある中国市場。ここにビジネスチャンスありと嗅覚を働かせる経営者は少なくないだろう。市場がシュリンクし、アベノミクスの効果を実感できているのは一部の大企業のみという状況にあって、高い技術力を持つ日本の中小企業が中国市場に活路を探るのは良策だ。中国市場に打って出たい日本の中小企業にとって、同社が持つ中国とのパイプは大きな旨みと言っていい。

 

 

「郷に入っては郷に従え」─日本人よりも日本人らしく。

高品質と低価格にメリットを感じてもらうのが第一。営業活動よりも既存顧客へのサービスに注力し、紹介によって新規顧客を獲得する。このビジネスモデルは「特に日本では、信頼関係がなければやっていけない」と同氏は語る。当然ながら、設立当初は人脈づくりに苦労したという。設立後まもなく、実績もない状態から信頼関係を築くのは並大抵のことではないだろう。また、設立3年目に全世界を襲ったリーマン・ショックも、ご多分に漏れず同社にとっても大きなピンチだったと氏は述懐する。こうした幾多の困難を乗り越えてきた同氏に自身の経営観について訊ねると、「郷に入っては郷に従え」という日本の諺を例に挙げながら、こう語ってくれた。

「中国人である私が日本でビジネスをやっていくには、日本人よりも日本人らしくならければいけない。日本人よりも真面目にやらないと納得してもらえないんです」

インタビュー中、たとえば生年を質問したときに、「昭和」で答が返ってくる。何の変哲もないやりとりと言ってしまえばそれまでだが、30代半ばで来日した生粋の中国人である同氏が当たり前のように「昭和」で生まれ年を語る姿には、「郷に入っては郷に従え」を実践してきた凄みがある。悔しさをバネにせずにはいられないような経験もおそらく多々ありながら、粛々と弛まぬ努力を続けてきたことの、それはごくささやかな表れであろう。

柔らかく、控えめな物腰の同氏の眼の奥に時折キラリと光る野心と、それをコツコツと実現していく堅実な経営感覚。これは経営に携わる者なら、特に中小企業を率いる者にとっては、本来不可欠なものだ。しかしながら、今回の取材で対座した同氏の眼差しにそれを特別強く見出してしまったのは、これを備えた経営者が少なくなっているからかも知れない。  ■

obi2_human

 ビスタシステムズ株式会社

〒101-0032 東京都千代田区岩本町3-1-10 カネヒロビル9F

℡ 03-5825-7188

http://www.vista-sys.com

〈関連会社〉

鞍山龍騰展望科技工程有限公司

〒114000 鞍山市鉄東区一道街137-2

℡ +86-412-5526-989

 

2014年10月号の記事より
WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!

雑誌版の購入はこちらから