株式会社ダイアログ ‐ 物流業界のIT化に新たなモデルケースを
株式会社ダイアログ 物流業界のIT化に新たなモデルケースを
◆取材:綿抜幹夫
システム&コンサルの合わせ技で在庫管理を最適化
物流業に向けた自社開発のWMS(Warehouse Management System、在庫管理システム)で、業界に新風を吹かせようとする若き企業がある。昨年11月に設立されたばかりの▶株式会社ダイアログだ。少数精鋭のエンジニア&コンサルタント集団である同社を率いる岡澤一弘社長に、物流業界におけるIT化の現状と、それを踏まえて自社での在庫管理システム開発・提供へと至る思いを聞こうと、東京都品川区の同社を訪ねた。
IT化の波に遅れをとった物流業
岡澤社長は1982年、千葉県茂原市生まれ。中央大学経済学部を卒業後、電気機器メーカー大手の株式会社キーエンスに就職する。同社では、「ハンディターミナル」(宅配業者のドライバーが持ち歩いている『ピッピッ』という機械といえば思い浮かぶだろう)の営業マンとして、物流や製造業の倉庫内システム改善に多く携わった。この経験を活かし、次なるキャリアとして物流システムのコンサルタントやマネジメントを行う会社を立ち上げた同氏だが、外部に発注したシステムを使ってのコンサルティングに限界を感じ、自社でシステムを開発し提供していく業態へのステップアップとして、昨年11月、株式会社ダイアログを設立する。
ビジネスパーソンとしてのキャリア10年間の全てを物流業界で過ごしてきた同氏は「物流は、IT化が遅れた業界です」と語る。倉庫における在庫管理は、人や時間、コストを投入すれば、ある程度「やれてしまう」ことがその理由のひとつであり、このため、物流業はITエンジニアにとって必ずしも魅力ある業界ではないという。
「優秀なITエンジニアは、よりやりがいを感じられ、より社会貢献度が高く、そしてより大きなプロジェクトに関わりたいと考えるものです。物流業界は、大手はどこも自社でシステムを持っていますし、IT部門への予算も少ない。キャリアアップのために、華のあるシステム開発ができる舞台を夢みて金融機関など他業種に転職していくエンジニアや、在庫管理以外の部署に異動したがるエンジニアは少なくありません」
株式会社ダイアログの設立にあたっては、他業界で活躍していた優秀なエンジニアを口説き落とすことに成功した同氏だが、一方で物流業界からのエンジニア離れも実感しているという。
必要な機能だけを備えたシステムを、顧客ごとに開発
同社のシステムを利用している現場の雰囲気と、利用現場(SBSゼンツウ株式会社)外観
同社の在庫管理システムの大きな特徴は、その低価格にある。低価格の理由としては、スキルの高いシステムエンジニアを抱えることで、ライセンスフリーのソフトウェアを使って開発できることや、顧客が必要としている機能だけを備えた無駄のないシステムを開発していることなどが挙げられる。
ソフトウェアのライセンス契約にかかる費用は、サポート代が占める割合が大きい。高いスキルを持ったエンジニアなら、メーカーからのサポートを必要とせず、ライセンスフリーのソフトウェアでもじゅうぶんシステムの開発や保守管理が可能なのだ。また、そうした高い技術力を持ったエンジニアだからこそ、低価格化のもうひとつの理由である、必要な機能だけを備えたシステムを顧客ごとに開発・提供することも可能になる。
「大手が提供しているシステムは、高価な分だけ多くの機能が備わっていますが、実際に倉庫でそのすべてを使うことはほとんどありません。中小企業の倉庫であればなおさらです。弊社は、お客さまごとに必要な機能だけを備えたシステムによって、コストパフォーマンスの高さを実感していただいています」
システムに対するコンサルティングの重要性
とはいえ、自社サービスの高品質・低価格をアピールしているIT企業は数多く存在する。それだけで勝負できるほど、甘くはないだろう。もちろん、同社にはほかに大きな強みがある。それが、同氏のコンサルティングやマネジメントの経験を活かしたコンサルティング業務だ。
「我々は、作ったシステムが何もしなくてもどんどん売れていくというイメージはしていません。システムは、的確にコンサルティングを行わなければ活用できないものなのです」との言葉どおり、同社では、顧客に対してシステムの利用の仕方、活用の仕方を説明・提案していくコンサルティング業務に力を入れている。受注段階から、顧客ごとのニーズに合ったシステムを開発すべく丁寧にヒアリングやコンサルティングを行うため、初期費用だけに注目すれば、多少は高価であるという。しかし、だからこそ必要な機能だけを備えたシステムを提供でき、ランニングコストも含めたトータルでのコストパフォーマンスの高さに繋がっているのだ。
当然ながらシステム導入後のサポートも充実しており、このように取引のどの段階においても顧客とのコミュニケーションを重視する姿勢、顧客それぞれに合わせたサービスを提供する姿勢は、キーエンスでの在庫管理マネジメント、そしてコンサルタント会社を経ての同社立ち上げというキャリアを持つ同氏ならではのものだ。エンジニアだけでなく、コンサルタントの採用や育成にも強く力を入れているという同社の、他社にはない特徴がここにある。
同一倉庫内で荷主ごとに異なるシステムを使っている現状
同社が自社でシステム開発していることの強みはまだある。システムの「小回り」が利くこと、つまりシステムをフットワーク軽くアレンジできることだ。これは大手が開発する大掛かりなシステムや、外注でのシステム開発ではなかなか難しいだろう。
物流業では、ひとつの物流倉庫の中に複数の荷主が入っていることが多いが、この場合、荷主A社にはB社のシステム、荷主C社にはD社のシステム…というように、同じ倉庫内でもシステム業者が荷主の数だけ存在する、という特徴がある。これは、ソフトウェアのライセンス契約の問題がひとつの理由となっており、我々がオフィス用ソフトを購入するとき、1つのライセンスで使用できるのは1台のパソコンのみ、という契約が付随してくるのと同じだ。もちろん、ソフトウェアに関する権利はしっかり保護されるべき重要なものだが、同一倉庫内で複数の業者・システムを使っており、一元的に管理されていない状態を、同社がビジネスチャンスと捉えるのは自然だろう。じっさい、倉庫内すべての荷主への提供は難しくても、多少のアレンジを施せば複数の荷主に使用可能であるケースは多いという。自社で優秀なエンジニアを抱えている同社だからこそ可能になるビジネスだ。
ソフト(システム)とノウハウ(コンサルティング)で
物流業に新たなモデルケースを
同氏の目標は、システムを武器にコンサルティングを行っていくことによって、物流業界における在庫管理システムのIT化にひとつのモデルケースを提示することだという。「システムとコンサルティング」、つまり「ソフトとノウハウ」による新提案だ。
物流は言うまでもなく、日本の産業の根底を支えている業種。日本経済が再浮上するには、製造業や物流業の活性化は不可欠だ。そしてまた、あまた存在する企業組織の9割以上を占める中小企業が元気にならなければ、日本経済の立て直しは成し得ない。
アベノミクスの恩恵にあずかっているのは一部の中堅・大手企業のみ。多くの中小企業にとってはまったくもって無関係な話というのが実状で、彼らはいまなお、苦境に立たされ続けている。
「昨年、設立したばかりの我々は、まだ小さな会社です。お金をかけて一気に仕組みを変える力はありません。ですから、他のシステム会社とパートナーを組んで、協力しあってモデルケース作りを進めていきたいと考えています」
同社が志を同じくする企業と手を組んで、物流業界の中小企業の力になり、日本経済の発展に貢献することを大いに期待したい。そんな同社の活躍はやがて、物流業界をITエンジニアにとってもあこがれの花形業界へと変えるだろう。 ■
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