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株式会社ササキ ハーネス・ケーブル製造のササキ 航空宇宙産業への参入で第2の発展ステージへ!

◆取材:姜英之

 

株式会社ササキ (2)

株式会社ササキ 代表取締役会長 佐々木弘勇氏(写真右)・代表取締役社長 佐々木啓二氏(写真左)

産業機械の血管と神経のモノづくりスペシャリスト!!

機械や装置の隅々にまで張り巡らされ、電力や信号を伝え、様々な部品や回路をつなぐ役割を果たすハーネスやケーブル。人間に例えると血管や神経に相当する大切な部品だ。そんな『血管と神経』のスペシャリストとして大企業も一目置く存在なのが株式会社ササキ。創業者である会長と若き2代目社長を直撃した!

 

サッカー名門校で鍛えたリーダーシップ

OLYMPUS DIGITAL CAMERA動力用ハーネス:各種産業機器の動力用ハーネス。大型機械から精密検査機器用まで製作しています。

株式会社ササキは、1995年、佐々木啓二社長の父親である弘勇氏(現会長)が、ワイヤーハーネスの製造・販売を目的に設立した。佐々木弘勇氏はそれまで農林水産省の官吏だったというから、同社は異色のスタートといえる。それから21年。昨年設立20周年を期して息子の啓二氏にバトンタッチ、代表取締役社長の座を譲った。

代表者承継にあたって「摩擦はなかったか」との問いに、弘勇会長はこのように答えた。

「全然、ありませんでしたね。私は、もともと技術屋ではありませんし、もう私の時代ではない。これからは、若い人の技術力と知恵を持って会社をさらに大きくしていってもらいたいというのが、私の念願だったし、現社長が必ず期待にこたえてくれると思っていました」

弘勇会長が息子の啓二氏に社長職を任せるにあたって、無類の信頼を寄せていたのが、トップの指導力であった。従業員のうち、20代が圧倒的に多い中で、若い人々をぐんぐん引っ張っていく啓二社長の能力は、学生時代からのスポーツ経験で培われたようだ。

「小学校から大学までサッカーに明け暮れていました。高校は地元韮崎高校。そのサッカー部は全国的にも知られています。多くのプロ選手を輩出していて、あの中田英寿も私の後輩です。大学は明治大学。体育会サッカー部に所属していました。こちらも強豪校で、現在イタリアで活躍する長友佑都もOBです」(啓二社長)

高校3年の頃にはキャプテンも務め、明治でも活躍したという啓二社長。その頃からリーダーシップが備わっていたのだろう。

そして、大学卒業後、啓二社長は某大手企業に入社する。

「いずれ父の会社を継ぐにしても、一度他人様の飯を食ってこいというのが父の方針でしたし、実際この時の経験が現在の社長業にずいぶん役立っています」

 

ところで、弘勇会長がササキを興したきっかけは何であったのか。

「もともと農林水産省にいたのですが、このまま斜陽産業である農水の役所にいても先が見えていると。さらに私は職場結婚で、妻と同じところで働いているのもどうかって気持ちもあって、民間に移ったのです。そこで30数年勉強しました。そして19年前、大手装置メーカーの軒下をお借りしまして、4人で始めた会社がササキです。それから倍々ゲームで人が増えまして、もう20周年を迎えました。私の代で今は従業員が92人ですが、息子の代には将来200人、300人の中堅企業に発展させてもらいたいですね(笑い)」

設立20周年を迎え、会社組織の改革に合わせて世代交代が行われたが、啓二氏が社長職の重責に圧迫感を受けることはなかった。

「世の中では、創業者が会長なんて名誉職に退いても、それこそ『院政』を敷くことがよくあるようですが、父は実務について一切口出ししません」(啓二社長)

これに対し、弘勇会長は、

「財務的な部分、例えば銀行とのお付き合いとか、あるいは地元との交流みたいなものは私がまだ引き受けています。これは創業者としての義務みたいなものですから」

事業承継に対して弘勇会長は実にあっさりしていて、啓二社長もそのことをありがたく思っているようだ。

 

 

時代を見据えた経営戦略と優れた中長期組織戦略

OLYMPUS DIGITAL CAMERA通信用ハーネス:各種産業機器の神経に該当するハーネス。髪の毛程の微細ケーブルから製作しています。

大中含めて数あるハーネス・ケーブルメーカーの中で、株式会社ササキが揺らぎないモノづくりメーカーとして成功している秘訣は、まず、何といっても時代の動向を見据えた経営戦略と中長期の組織戦略のたまものであろう。

弘勇会長は、すでに遠い昔、旧世代の人間でありながらもアナログからデジタルへの時代転換を敏感に洞察する眼力を備えていた。電気を使うもので、ケーブル類が使われないものはない。すなわち、あらゆる産業機械で同社の製品に需要があるということである。そしてその需要こそが、同社創業の原点だと弘勇会長は言う。製造業の下請けとしては、金型作りやそれを使った加工などが花形だった時代において、「父は目の付け所が違った」と啓二社長は言う。

 

「一見ニッチに見えても、電気を使わないなんてありえないわけです。ところが、ハーネス屋なんてぜんぜん聞かない。大企業か、本当に町の小さな工場くらい。だからこそチャンスがあったんです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA束線ハーネス:上記通信用ハーネスを産業機器に合せて束線化する製品。後工程の煩雑な作業を吸収し工数削減に役立ちます。

さらに弘勇会長は、「今では異業種の方たちまでもが我が社の工場見学にお見えになります。見られることで、会社全体が引き締まると言いますか、よりよいものを作っていこうという空気が醸成されますね。同業者にも門戸を開放しています。これには『みんなでもっと発展していこう』という部分と、『うちは業界の先頭を走っているぞ』という自信もあるのです」

啓二社長は、「我々の仕事は細かい手作業の部分が多いので、若い戦力が必要になります。ですから、お年寄りの内職のような形では、複雑化する現状にとても対応できません。そういう意味で、高齢化が進んでいる同業者は年々減ってきているように感じます。我が社では若い従業員を積極的に育成していますから、遠くない将来、我が社なくして産業機械の業界は成り立たないと言われる存在になれるんじゃないか、と、心密かに期待しています(笑い)。初代が土台を作り、2代目が成長させ、3代目で安定させる。私がその2代目ですから、成長の柱を構築していくことが使命ですね」

 

 

高い信頼性と魂を込めたモノづくり

株式会社ササキの強みは、製品の信頼性を基にした独特の顧客獲得と、ほかのメーカーではなしえない800種類もの豊富なケーブルを確保しており、そのためにこれまで16万個もの図面を作ってきたという「本当の多品種少量生産」を実践していることだ。

啓二社長曰く、「メインの顧客である東京エレクトロン様に鍛えていただき、機械や装置に関するハーネス・ケーブルの分野で膨大なノウハウを蓄積することができました。また、ビッグネームのお客様から信頼を得ますと、そのご紹介などで様々な分野の会社から声を掛けていただき、この3年で63社の新規お取引先が増えました」

 

弘勇会長は、「我が社は、民生用は作っておりません。全てが産機(産業機械)と呼ばれる分野のものです。ですから、どうしても多品種少量生産を求められます。それに対応できるだけの技術と高い信頼性が最大の武器ですね。大量生産のケーブル類は海外で作られることが多いのですが、今日明日にこの1本というようなオーダーをくださるお客様が国内にはたくさんいらっしゃいます。逆に海外進出されたお客様でも、こういう短納期のオーダーメイドのような製品は、量産工場ではとても対応できないので、私どもをご指名くださるのです」

つまり、海外製の安い商品とはまったく別のところで勝負しているわけであるから、この面での心配はなしということである。

「価格競争に巻き込まれるような量産品には手を出しません。そういうものをご希望でしたら、海外の工場にご発注くださいと言って、丁重にお引き取りを願います(笑い)」(弘勇会長)

 

「同じものを何万個作って欲しいと発注されましても、我が社には対応できるだけの人間が揃いませんし、そもそもコストが全く折り合いません。その意味では土俵がぜんぜん違うのです。我が社が扱うのは量産品ではありませんから、自動化ができません。最後は人間の手で組み立てないと良いものが完成しない。これはもう職人の世界ですね。手作業で多品種少量に応対できること、つまり小回りが利くことが、我が社の強みの一つです。海外の現場で困っている。明日には成田から部品を持って現地に飛んでいかないといけない。そんなお客様のオーダーにもお応えしてきた実績があります。また、高い信頼性があればこそ、ご指名いただけるのです。ケーブルやハーネスは機械にとって血管や神経と同じ。間違いがあれば、機械は動かなかったり誤作動を起こしたりしますからね」(啓二社長)

だからこそ、魂を込めてモノづくりに打ち込んでいると弘勇会長は言う。

「まあ、どんな部品であれ、なければ製品は完成しないのでしょうが、我が社は特に大事な部分を担っていると肝に銘じているのです」(弘勇会長)

 

株式会社ササキが多品種少量生産で成功したのには、もうひとつ理由があった。

「会社の規模からすると大きな投資だったのですが、会長にお願いしましてIT化を推し進めてきました。これによって、工程管理が厳格化しましたから納期遅延が一切なくなり、製造過程での効率化がぐんと高まりました」(啓二社長)

そして弘勇会長も、必要な設備投資を惜しまなかった。

「ただ、計数管理だけはしっかりやれと全従業員に厳命しています。数字はうそをつきませんからね。『だいたい』でやっていたらいいことは何もないんです。私は技術屋ではありませんので、電気のことを言われてもさっぱりわかりません。ですから、管理部門に集中してやってきました。我が社は量より質で勝負しようと決めていましたので、製品の品質には目を光らせてきました。お客様にお渡しする製品に遅れも不良も一切出しません。これは胸を張って自慢できる部分です」(弘勇会長)

株式会社ササキは、今年3月『JIS Q 9100』の認証を取得した。これによって文字通り、第2世代の新しい発展ステージが築かれそうだ。

「『JIS Q 9100』は、すでに取得した『ISO 9001』をベースに航空宇宙産業特有の要求事項を織り込んだ、日本で制定された世界標準の品質マネジメント規格です。これを取得することで、航空宇宙産業界にササキの存在をアピールし、新たなビジネスチャンス獲得が期待できるのです」(弘勇会長)

「これを取得している企業はまだ四百数十社しかありません。この分野に入っていくために、この認証取得はいわば『錦の御旗』のようなものです。なぜ航空宇宙産業かと言えば、やまなし産業支援機構が中心となって、タスクフォース(特定の課題を達成するために一時的に設置される組織のこと)が結成されまして、その中に航空機産業参入があり、そこに参加しようと考えたからです。今、このタスクフォースに8社参加して、一緒にやっていこうとしています。どうせやるなら、先頭を切って『JIS Q 9100』を取得しようと思い立ちました。そこで社内に専門のチームを作って半年で取得にこぎつけたのです。もちろんわが社が初めてです」(啓二社長)

 

宇宙飛行士・若田光一さんの活躍もあって、国内の航空機産業は今熱くなっている。これに賭ける株式会社ササキの決意にも強いものがある。最後に、今後の展望について一言ずつ伺った。

「話題のボーイング787は約4割が日本製。三菱重工が増産体制に入ったとか、IHIが新工場建設だとか、航空機業界は盛り上がりを見せています。ホンダの小型ジェット『ホンダジェット』や、三菱航空機『MRJ』など、国産ジェットも話題ですしね。航空機は国を挙げて育てていかなければならない分野です。そこに入っていければ、我が社の大きな柱になるはずです」(啓二社長)

「現状の従業員100人体制から、200人、300人を実現するために、ここが頑張りどころですね」(弘勇会長)

さすが甲斐の国の企業。まさに『人は城、人は石垣、人は堀』を地で行く。やがてササキの名は、業界を席巻する『無敵の軍団』として鳴り響くことだろう。

 

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プロフィール

佐々木弘勇(ささき・こうゆう)氏…昭和14年3月生まれ。平成7年有限会社ササキ(現株式会社ササキ)創業。平成22年、山梨産業大賞(経営革新部門)受賞.平成25年、代表取締役会長就任。

佐々木啓二(ささき・けいじ)氏…昭和45年山梨県韮崎市生まれ。韮崎高校卒業。明治大学政経学部卒業。平成25年株式会社ササキ代表取締役社長就任。

株式会社ササキ

〈韮崎工場〉 〒407-0175 山梨県韮崎市穂坂町宮久保1155-1

TEL 0551-22-3733

http://www.sasaki-harness.co.jp/

〈宮城工場〉 〒981-3623 宮城県黒川郡大和町テクノヒルズ31

TEL 022-346-1511

 

2014年9月号の記事より
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