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株式会社ブルジョン 香りを纏った人生

◆聞き手:綿抜幹夫 /文:渡辺友樹

 

株式会社ブルジョン (2)

株式会社ブルジョン 代表取締役社長 大瀧章雅氏

ルームフレグランス『LINARI』日本正規代理店

麻布十番の路地を入った一角にある「ビストラン エレネスク」。ワインバー、ビストロ、フレンチを兼ねると表現すれば良いのだろうか。いわゆる隠れ家といった趣の雰囲気の良いお店だ。開店準備中の店内に入ると、ほのかに甘く上品な香りが漂ってくる。この香りの正体が、大瀧章雅社長率いる株式会社ブルジョンが輸入するルームフレグランスだ。今回はこのルームフレグランス輸入事業について伺うのが目的だが、取材場所となったビストラン エレネスクの経営も同社の事業のひとつである。飲食店経営も順調な同社に、このたびドイツの高級ルームフレグランスブランド『LINARI(リナーリ)』の日本における正規代理店として白羽の矢が立った。

ワインに惚れ込んだ半生 株式会社ブルジョン (1)

─まずは大瀧社長ご自身の経歴から、簡単にお話しください。

 

株式会社ブルジョン (4)

大瀧:学生時代、サッカー仲間と、サッカーの盛んなヨーロッパに旅行に行く計画が持ち上がりました。せっかくならその旅行資金もヨーロッパに関係することで稼ごうと、アルバイト先としてワインバーを選んだんです。ここでブルゴーニュワインと出会い、ワインの世界に引きずり込まれました。良質なワインを抜栓した瞬間、そこに広がる香りに、こんな素晴らしいものが世の中にあるのか、というほど感動したんです。このアルバイトにのめり込み、マネージャーまで務めたのですが、実は、お店を任されて忙しくなり、旅行には行けなくなってしまったんです。

卒業後、仕事としてこの道に進んで、フランスにワインの勉強に行き、帰国後は三つ星フレンチレストランの『ピエール・ガニェール』東京支店のマネージャーや、いくつか共同経営なども経て、こうして自分のお店を開くに至りました。

また、学生以前からセレクトショップや雑貨といった分野にも興味を持っていたこともあり、いずれは雑貨やカトラリー、食器などの輸入を手がけて、幅広く事業を行いたいという希望がありました。ですから、今回『LINARI』の代理店として指名されたことは、私にとっても喜ばしいことなのです。

 

 

香りとデザインを追求したルームフレグランス

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─今回、御社が日本での代理店を務めることになった『LINARI』のルームフレグランスはどのようなものか、紹介してください。

 

大瀧:『LINARI』オーナーのレイナー・ディエシェはドイツ人で、大学では建築やプロダクトエンジニアリングを学び、その後インテリアショップを経営していました。このため、2003年に彼が設立した当『LINARI』ブランドの商品は、ルームフレグランスもインテリアの一部であるという考えのもと、デザインが非常に重視されていることが特徴です。また、実際の香りについても、彼のイメージを元に、パフューマーが上質な香料を使って調香した、非常にクオリティの高い唯一無二の香りとなっています。

 

 

「体験」「記憶」を通して「香り」を売っていく

─確かに、先ほどお店に入ってきた瞬間からずっと良い香りがしていますし、店内に置かれた『LINARI』のルームフレグランスは、お店の雰囲気にもよくマッチした、とてもおしゃれで洗練されたデザインだと感じます。ところで、これまでは、失礼ですが御社より大きな会社が『LINARI』の日本代理店でした。代理店の規模としては小さくなるわけですが、御社がこれからいかに『LINARI』を拡販していくかについてはどのようにお考えでしょうか。

 

大瀧:これまでは国内に30ほど取扱店舗があり、通販も積極的に活用していました。弊社に代わってしばらくは、売り上げとしては落ちるでしょう。しかし、せっかくご指名いただいたのですから、引き続き通販を含め、弊社ならではの販売戦略を採りたいと考えています。

具体的な戦略としては、訪れた先でふと「体験」した『LINARI』の香りが忘れられず、欲しくなってしまう、という販売モデルを計画しています。『LINARI』に合うラグジュアリーホテル、旅館の離れ、会員制クラブ、ウェディング会場などを自分たちで探し出して、実際の商品を置いてもらうことで、そこを利用する方にそれとなく香りを体験していただくのです。なんとなく香る、ほのかにいい香りがするな、という程度です。既に始めているところもあり、確実に効果は得られています。

「あの香りが欲しい」という問い合わせが相次いだため、実際に販売していただいているケースがあるんです。香り、嗅覚というものは、人間の記憶にストレートに訴え、心に残るものです。

たとえば、子どもの頃、地面に寝転がって遊んだ土の香り、芝生の香り。おなかを空かせて家に帰ると、さんまを焼く香り。朝、味噌汁の香りにつられて布団から抜け出す。こんな風に、ふと蘇る何気ない光景は、その殆どが香りと共にあるのではないでしょうか。また、街中で意図せず記憶の中に連れ込まれるときなど、ふと漂ってきた香りが過去への入り口になることも多いですよね。

 

 

「良質なものを厳選」して豊かに暮らす

─「体験を通して購入する」ことの重要性ですね。子どもの頃の記憶の話など、まさにその通りです。また、お考えの販売方法は「香り」を売ることと親和性が高いと思います。では、そのような方法で『LINARI』の香りを世の中に浸透させることの意義はどこにあるとお考えでしょうか。

 

大瀧:『LINARI』のルームフレグランスは、およそ1万4000円から1万7000円といった価格帯です。半年から8カ月ほど香りが持続するとはいえ、決して安い買い物ではないでしょう。しかし、通販では気軽にあらゆるものが買え、気が付くと実はそんなに欲しくないものまで次から次へと買わされてしまっている時代にあって、実際の体験を通じて購入することで、本当に質の良いものを広めていきたいという気持ちがあります。何でもある時代、何でも買える時代だからこそ、良いものを厳選して身の回りに置くことで日々を豊かにしていく、そんな生き方ができれば、みんながもう少しずつ幸せに暮らせるように思うんです。

 

 

「縁」がすべての人生

─なるほど。モノや情報が溢れた時代にあって、豊かに暮らすことへの大瀧社長なりのひとつの提案であると感じます。では、現在のご自身に至るまでに、幸せとか、心豊かに生きることも含むご自身なりの価値観や人生観を築く土壌となっているのはいったい何なのでしょうか。

 

大瀧:私は、経済的に裕福ではない環境で、大学にもアルバイトをして通いました。就職活動のとき、外資系金融機関など、複数から内定をいただきました。しかし、アルバイトをしていたワインバーで得られる人と人との縁や出会い、これが私にとって、収入や福利厚生よりも、なによりの魅力だったのです。ハタチそこそこの若造が、大好きなワインを通じて魅力ある社会人の方々や人生の先輩たちと出会える環境は、とてもかけがえのないものだったんです。今ではテレビですっかり有名になった企業経営者との出会いもありました。そうした縁からまた更に縁が広がり、多くの尊敬できる人と出会い、色々なことを教えてもらえる。

35歳で事業を起こすとき、資金はゼロからのスタート、金融機関を説得してという形でしたが、そうした大変なときにも、それまでに縁のあった色々な方に様々な形で支えていただきました。このお店を出すときも、ある先輩から麻布十番にこんなお店があったらいいなあ、などとアドバイスをいただいた経緯がありましたし、ビジネスも含めて今日の自分はすべて「縁」があってここにあるんです。逆に言えば、これらの縁がなければ私には何もない。すべては縁であることを日々噛み締めながら、縁をビジネスにつなげていくことを意識しています。

 

 

後記

取材を終えて帰宅しても、あの香りがなんとなく鼻に残り、またあの香りに包まれたいと思ってしまっている自分に気付く。取材中に話のあった、子供時代の記憶の例を挙げるまでもなく、香りとは目に見えないものなのに、ここまで大きな効果のあるものなのかと改めて実感する。

考えてみれば、大瀧氏が強調していた「縁」も、目に見えないものだ。「香り」や「縁」という目に見えないものが人と人の出会いを導き、やがて生活の糧としての仕事に繋がり、さらにまた広がっていく。目にも見えず、手に掴むこともできないが、なんと素敵なものだろうか。あの香りに包まれたときの心地良さはきっと、良質な縁に囲まれたときのそれと似ているのだろう。「縁」の「香り」を自分のものとして纏った人生は、幸せだ。

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プロフィール

大瀧章雅(おおたき・ふみまさ)氏…1974年、千葉県に生まれる。青山学院大学在学中にブルゴーニュワインに開眼。

2002年よりワインを学ぶため渡仏。ブルゴーニュを中心に200の生産者を訪れ、収穫や仕込みを手伝う。その後も毎年渡仏し、収穫や仕込みを手伝う。2003年に神楽坂のブルゴーニュワイン専門店の立ち上げなどに従事。2006年より青山のピエール・ガニェール・東京にて新規事業を任せられる。2009年よりBistaurant R.N.S.Q.のオーナーとなる。2014年、ドイツの高級ルームフレグランスブランド『LINARI』の日本正規代理店として指名される。

株式会社ブルジョン

〒107-0062 東京都港区南青山4-17-33 グランカーサ南青山201

℡03-6447-4980

2014年9月号の記事より
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