◆取材・文:加藤 俊 / 文:渡辺 友樹

 

小林敬 プロキュアメントオフィス (1)

小林 敬(Takashi Kobayashi)…2011年3月 プロキュアメント・オフィス・小林を設立。2013年3月株式会社シードパートナーとパートナー契約締結。モトローラ社、シーゲイト社、フレクトロニクス社、マグナ社といったグローバルカンパニーで培った購買・調達に関する業務経験、知見、ネットワークを活かしたコンサルティングを行っている。「社会人として数年目のモトローラ時代、先輩から、エンジニアがこういうものが欲しいと言ったときに、それならどこで買えますよと即答できるのが購買のあるべき姿だと教わりました。これが今でも私の哲学となっており、迷ったときにはこの言葉を思い出します」

 

モノを〝買うこと〟で儲ける。〝売ることで〟儲けるのではなく、〝買うことで〟儲ける。実はこれ、資材の調達や購買をする際の話である。こういうと、察しの良い経営者は、「なんだ、そんなことか。購買の経費削減?うちはちゃんとやっているよ」なんて独りごちそうだが、はたして本当にそうと言えるだろうか。実際のところは、数社から相見積もりを取り、最も安いところから買う程度の認識ではないだろうか。

 

「その相見積もりの相場自体が、既に分厚いマージンを含んだものです」と語る調達・購買系を主としたコンサルティングを提供する「プロキュアメント・オフィス・小林」のCEO、小林 敬氏。同氏曰く、「その程度の認識では、調達・購買のプロとしての仕事ではない」。

「中小企業の多くは、調達・購買に対する意識が甘い。調達コストをいかに削減するか。そのためには、ありとあらゆる手段を使って、調達業務に戦略性をもたせないと」

はたして、同氏の言う、調達業務に戦略性をもたせるとはどういうことなのか。今回の取材ではその㊙テクニックをぜひ伝授していただこう。

 

調達・購買を駆使して利益を出すという考え方

小林敬 プロキュアメントオフィス (3)

「クライアントには予算の事情もあります。そのため半永久的に私が関わることは現実的ではありません。私の役目は、あくまでも私がいなくなっても問題ないところまで購買のレベルを持ち上げることにあります」

ちなみに、同氏は、モトローラ社、シーゲイト社、フレクトロニクス社、マグナ社など、外国語を日常的に使用する海外での勤務も含めて、名だたるグローバルカンパニーの購買部を渡り歩いて来た経歴を持つ。社員の成績に対してシビアに評価を下すのが当たり前のこうした海外企業で数々の成果を上げ、受賞や表彰をされた経験も一度や二度ではない。

 

 

「電子機器の受託生産を行うEMS企業では、売り上げに対する利益率は1%前後のところが多い。そこまで切り詰めた極限のビジネスが当たり前の世界で、各社はどこで利益を出すかというと、購買・調達コストを徹底的に削減することによって出そうとします。それが、調達部門に求められるミッションです。買うことで儲けるとはそういうことなのです。

こうしたビジネスの現場で成果を出すためには、「グローバル調達」「グローバル購買」という言葉もあるように、世界中のどこそこで今日は何がいくらで買えるのか、社会情勢も含めて日々変動する相場に対して常にアンテナを張り巡らせておくことが必要です。グローバルカンパニーの購買では『お前は何をやった? 何ができた?』と日々成果を問われます。会社に貢献できなければ、明日の席の保証がない環境に何十年も身を置くことで、購買における様々なテクニックを身に付けてきました。

こうした企業では、日本とは違い、購買や調達部門の意識が高い。地味な職種というイメージは全くありません。むしろ、売ることで稼ぐ営業部門と双璧を成す、買うことで儲ける部門といった位置づけになります。この辺りの意識、日本は非常に遅れています。購買部門に、優秀な人材を意図的に配置しないような処遇をしている企業も少なくない。売上が伸びず、苦労している状況にあるならばなおさら、営業に力を入れるのと同じように、調達部門に対する意識改革をする必要があるのではないでしょうか」

 

 

購買に対する意識の低さ

とはいっても、話はそう簡単ではない。多くの企業が、購買は所詮、決まったことをやっていればそれでいい仕事というイメージを持っている。購買に配属され、モチベーションが上がらない人もいるはずだ。

 

「モチベーションが低いだけならまだしも、現場というのは、外部の人間が入ると、どうしても最初は反発するものです。ただでさえ日陰部署という意識があるところに、私という余所者が現れて、色々と口を出される。でも、コンサルというのはそれが当たり前で、拒否反応が起きることは想定内です。そのうえで、まず彼等の信用を勝ち得るためのノウハウがあるワケです。確かなことは、現場は成果が出始めればついてきてくれるということ。私が行おうとしていること、言わんとしていることが分かってもらえるようになれば、率先して取り組んでくれるものです」


 

中小企業が実践できる㊙テクニック

成果を出すために、実際にどういうことをするのか。ここでは、継続的に取引している調達先に資材購入の発注をする際、従来の購入額よりも安く仕入れるというミッションを想定して、あなたならどうするかを考えていただきたい。

 

「購買の極意とは、交渉術です。例えば、向こう何年の受注を約束するから、○○の値段に下げてくれないか。現在買っているもの以外にもこんな部品や材料の購入を検討できるとか、複合的に交渉をしていく。ただ単に値切るのではありません。

ポイントは、サプライヤにとっても良いビジネスとなり、長期的な利益に結びつく契約を目指して交渉していくこと

もちろん、昨今の経済状況ですから、マイナス方向の交渉が必要な局面も多々あります。そういった場合にはそれこそ泣き落としといった人間臭い手段を使うこともありますし、日々勉強し更新する知識、自分ならではの情報網、これまでに築いた信頼やネットワークといった、自分という人間のすべてをぶつけて交渉するのです。」

 

 

購買を、営業と双璧を成す花形部署へ

「『モノを売り込んで儲ける』のが営業の役目であれば、その対極にある購買の『モノを買いながら儲ける』ことの重要性や効果をぜひ購買後進国である日本の企業にも気づいてほしい。モノが売れないのならば、経費を削るしかないのだから、経営に苦しんでいる中小企業には、大きな救いの一手になるはずなのです。」

 

もちろん相手との交渉などは、プロフェッショナルでなければこなせないミッションな場合が多い。それでも、普段意識することもなく、ルーティンと化した調達や購買の在り方をもう一度見直すことで、購買を花形部署に変え、経営の健全化を計ってみてはいかがだろうか。

プリント

●プロキュアメント・オフィス・小林

〒223-0064 神奈川県横浜市港北区下田町1-18-28

yhb12277@nifty.com

http://procofficekobayashi.world.coocan.jp/

 

2014年7月号の記事より
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