酒井鈴木工業株式会社|産廃物を資源に変えよ! FRC砕石で地域活性化を狙う
酒井鈴木工業株式会社 産廃物を資源に変えよ!
◆取材:綿抜 幹夫 / 文:北條 一浩
酒井鈴木工業株式会社/代表取締役社長 ・ 酒田FRC有限責任事業組合/職務執行者 齋藤 茂氏(さいとう・しげる)…1949年、山形県酒田市生まれ。酒田工業高校(現在は酒田光陵高校)土木科を卒業後、建設業へ。最初の建設会社に16年間勤務の後、庄内の老舗建設業である鈴木工業に入社。2001年の合併を経て、2007年に酒井鈴木工業の代表取締役社長に就任、現在に至る。
FRC砕石で地域活性化を狙う
長引く不況の影響は、首都圏よりさらに地方で深刻化している。そんな中、本業をしっかり維持しつつも、突破口を求めて新規事業に打って出る企業も少なくないだろう。山形県酒田市の酒井鈴木工業は、土木、舗装、建築工事を柱にしながら、石炭灰を資源化する試みにトライしている。このチャレンジの理由や意図、目的について、齋藤茂社長に話をうかがった。
石炭灰を資源に再生
リサイクルも地産地消を貫く
資源の乏しい日本では、エネルギー問題は永遠の課題といっても過言ではない難問である。ましてあの3・11の悲劇以降、問題は複雑化し、袋小路に入ってしまった感さえある。こうして国家レベルでのグランドデザインが描けない現状の中、地方に目を向ければ、まだまだ微力とはいえ、いくつかの果敢な試みが見られる。今回注目したのは、石炭灰の再利用だ。
「火力発電所では、石炭灰を排出します。そのうち9割がフライアッシュと呼ばれる粉の灰で、1割が石炭屑のクリンカです。私どもの地元に酒田共同火力発電株式会社の発電所がありますが、地場で石炭灰の処理と有効利用を安定的に進めるべく、事業及び地元事業者の模索をしている状況でした。そこで弊社の技術を生かし、下水道の埋め戻し材としてクリンカを使うところから始めました」
齋藤社長はこう語る。しかし問題は9割を占めるフライアッシュをどうするかだ。当然、酒田共同火力発電からも協力を求められ、本格的な研究開発体制に入る。
「全国規模で見ると、石炭灰の処理に関して、それなりに先行しているプラントが存在しています。そこで、北海道から四国まで、主なプラントを見て回りました。そこでわかったのが、ほとんどのプラントでは、再生処理の結果として砂を作っているということでした。しかし庄内地域には最上川から来た砂丘砂が豊富にあって、盛土材としてはすでに十分な供給量です。ですから、庄内で砂を販売するのは難しいだろうと考えました。そこでまったく新しい製品をめざして、平成20年に再生砕石の勉強会を始めたんです」
道路の舗装工事の様子
平成20年といえば2008年。3・11の3年前だ。この勉強会を母体としてその3年後、つまり、まさにあの震災が起きた2011年の4月に酒田FRC有限責任事業組合が設立された。同年7月に着工したプラント建設は12月に完成。翌2012年の年頭から試験操業をし、3月より本格生産が始まった。
FRCとは「フライアッシュ・リサイクル・コンクリート」の略で、これはそのまま製品名でもある。製品にはFRC砕石とFRCドリームストーンの2種類があり、砕石は道路の路盤材料や構造物の基礎材などに使用される。いっぽうドリームストーンの適用範囲は軽量裏込材や軽量盛土材で、小名浜港の岸壁復旧工事などに活用されているという。
「この取り組みを始めるにあたってはかなりの出費が必要ですから、弊社1社ではとても無理です。そこで、販売が得意な会社、品質管理面で信頼できる会社などベストメンバーを集め、5社共同で有限責任事業組合の形でスタートしました。全部組合員の中で自己完結でき、地元の資源を地元に生かし、地元にお金を落とす地産地消の仕組みです。この取り組みがもっと早くスタートしていれば、震災の復興材として広く活用していただけたのにと、悔やまれてなりません。現在も少し県外に出荷はしていますが、もっと大規模に使ってもらえたかもしれません」
3・11は、多くの企業や個人に対して、エネルギー問題や環境問題を喉元に突きつける契機となったが、もっと前からFRCの事業に取り組んでいた齋藤社長の先見の明は賞賛に値する。それでもなお、「もっと早く着手していれば」と悔しさをにじませるその姿には、あるべき一つの企業倫理を見る思いがする。
戦後を生き抜いてきた企業の
矜持と曲がり角
FRCの被災地向け出荷の様子
酒井鈴木工業の創業は1947年。設立時の会社名は酒田堀江工業株式会社だった。会社の歴史はほぼそのままこの国の戦後史と重なる。復興の明るさと苦しさ、高度成長のにぎわいと躍進、バブル期の乱高下、リーマンショック、そして震災と、そのすべてを見てきた。社名を見ればわかるように、合併劇もあった。
「2001年に鈴木工業と酒井組が合併し、現在の商号になりました。建設業界も徐々に市場が縮小され、受注困難になっていく中で、生き残りをかけての合併です。鈴木工業はどちらかというと港湾土木の会社で、酒井組は道路舗装がメイン。同じ業種ではあるものの、互いに無いものを補い合える関係ということで一緒になりました」
同社の事業の中核は、昔も今も建設業である。柱は土木、舗装、建築施工の3本。齋藤社長自身、技師として技術畑を歩き、社長に就任してからは7年目に入っている。
「私がこの業界に入った頃は、ちょうど田中角栄氏の日本列島改造論が話題になっている頃でした。建設業はまさにイケイケでしたね。しかし平成7年あたりをピークに、その後、とにかく公共事業に予算がつかなくなってきました。そもそも公共事業は受注の波があるので、新規事業を模索する必要性は感じていたんです。しかし、いくら新規とはいっても、あまりにも本業から遠く離れるのは本末転倒と考え、それで自分たちが培ってきた技術を生かして環境や地域に貢献できること、しかも将来的に収益性を期待できることを考えた末、FRCに行き着いたわけです」
FRCの施工状況
新規事業とはいえ、FRC関連の動きは速い。生産開始後は、速やかに国土交通省の新技術活用システム・NETISに登録され、いわば国から正式に技術のお墨付きをもらう体制を整える。その9カ月後には山形県県産技術登録を済ませ、エコ商品マーク認定商品になる。翌年、山形県から、建設産業新分野進出優良顕彰。同年、3R推進協議会の会長賞を受賞。そして今年2月の特許取得、3月の財団法人きらやか銀行産業振興基金ベンチャービジネス奨励賞受賞と続く。
「石炭灰に関して、日本フライアッシュ協会という団体がありますが、ウチの工場を見に来て、『こんなにすばらしいものができているのか』と驚いていたことは、何よりも励みになりました。彼らはこの分野ではプロ中のプロですから。しかし、安定した収益を確保できるだけの受注量を得るのは、まだまだ先になりそうです」
活路を海にも求めて
新たな地域貢献のステージに
港湾工事の様子
国交省のNETISに登録され、3R推進協議会の会長賞も取得、しかも日本フライアッシュ協会も驚嘆するほどの高い完成度を持ちながら、FRCはまだまだとても十分な販路を確保できているとは言いがたい状況だ。画期的な製品が世に出ようという時、既得権をはじめ様々な障害にぶつかるのはこの国の常である。折しもこの取材の翌日、県に陳情に出向く予定になっているのだという。
「もう少し、県のリサイクル認定商品に見合う利用促進について、お願いに行ってきたいと思います」
むろん、企業としての自助努力も欠かさない。同社は次なる活路を海に見出そうとしているのだ。
「FRC砕石は、もともとブロック形状のものをわざわざ砕いて製品にしています。しかし海に使うとなれば、ブロックのままで使用し、藻場の育成に役立てることができます。藻場が育てば、魚が産卵をすることができて、小さな魚がいれば大きな魚も寄ってくる。また、海藻にアワビや牡蠣も着くようになります。そうなれば、高齢の方でも近場で漁ができるようになるんです。しかも、フライアッシュを使ってブロックができれば、コストは従来の3分の1から4分の1で済みます。私はこうして海の環境を改善し、漁業の人たちの役に立ちながら、同時に収益性も高めていきたいと思っています」
自然環境を守り、地域を守り、そして疲弊する東北の地域経済の中で、従業員と会社を守る。それが経営者の使命だと齋藤社長は強調する。
「私には特別な理念などありません。ただ、縁あって集まった従業員が自らの仕事に誇りを持って、今後も家族と共に幸せに暮らしていければそれでいいと思っています。そのために今、私にできることはすべてやる。ただそれだけです」
土木、舗装、建築に次いでFRCが4番目の柱になること。それは酒井鈴木工業だけの問題ではなく、庄内地域の願いでもある。
〒998-0064 山形県酒田市大浜1-4-62
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酒田FRC有限責任事業組合
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TEL 0234-28-8860
◆2014年6月号の記事より◆
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