ノロウイルスだけじゃなかった!

株式会社アルタン 驚異の柿渋パワー

◆取材:綿抜 幹夫

 

13_altan02食中毒といえば、やはり夏場の暑い時期に多く発生するもの思われがちだ。事実、発生件数的には7月から9月にかけてが最盛期と言われている。

ところが、2006年暮れから2007年初頭にかけて、それまでほとんど認知されてこなかったノロウイルスによる感染症と食中毒が猛威をふるった。食中毒では比較的安全とされた11月から3月に多発することや、保育園、学校、高齢者施設、病院などでしばしば集団発生することから、ノロウイルスは社会問題として大きく取り上げられている。

 

この脅威に絶大な効果を発揮するのが、アルタン株式会社の「アルタンノロエース」。そして、そのパワーは対ノロウイルスにとどまらないことが分かってきたのだ。

 

ノロウイルスの脅威から人々を守るために

とにかく近年、やたらとその名を聞くようになったノロウイルス。このウイルスを原因とする食中毒は全世界に広がっており、年間数十万人から数百万人にも及ぶ患者が発生している。日本における食中毒患者の約半分はノロウイルスと言われており、昨年末から今年にかけての大流行は社会問題として大きく取り上げられた。

 

ノロウイルスによる胃腸炎は重症化することは稀で、それが原因で死に至ることはほとんどないのだが、下痢、嘔吐、腹痛、発熱など、その症状は激しい。吐瀉物を喉に詰まらせることによる窒息や、誤嚥性肺炎による死亡は後を絶たず、体力が弱いお年寄りなどから集団で発生すると大いに危険なのである。

 

残念ながら、ノロウイルス感染に対する有効な治療法(治療剤)はまだ存在せず、対処法は、十分な水分の補給と安静のみ。また、従来からの予防法として、食材等の加熱処理(85℃以上で1分間)や塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム等)、ヨード剤(ポピドンヨード等)、アルデヒド剤(グルタラール等)などによる消毒が挙げられていた。だが、これらとてすべてが確実に効果ありかと問われれば、確証はなかった。

広島大学大学院 生物圏科学研究科 食品衛生学 島本整教授

広島大学大学院 生物圏科学研究科 食品衛生学 島本整教授

そのうえ、これらの消毒剤は人体に有害なため、食品に混入することは許されない。調理器具などの消毒に用いる際には厳格な注意が必要である。だからこそ、ノロウイルスに確実に効いて、なおかつ安全な消毒剤の開発が急務だった。

 

そこで立ち上がったのが、アルタン株式会社。ノロウイルスは二枚貝に集積することが知られていたので、牡蠣(かき)の生産地・広島県にある大学なら抗ノロウイルスに関する研究が進んでいるものと考え、広島大学大学院・生物圏科学研究科島本整教授に共同研究を依頼。そして、わずか1年余りの猛スピードで完成させたのが「アルタンノロエース」である。

 

 

 

ノロウイルスの特異性が検証を阻んでいたが……

比較的最近になって確認されたウイルスとはいえ、なぜノロウイルスに効果的な薬剤が開発されなかったのか。それは、人間の小腸内でのみ増殖するという特異性に原因があったからである。

そのため、消毒剤を開発するためには、人体実験を行うか、培養可能な近縁のウイルス(ネコカリシウイルスなど)を用いるかしかない。当然、どこが開発するにせよ後者の方法が選ばれていた。その結果、発売された薬剤はノロウイルスに本当に効果があるのか実証されたものではなかったのだ。

 

そこでアルタンと広島大学は、胃腸炎患者由来のノロウイルスを用いてウイルスゲノムを測定するリアルタイムRT-PCR法を利用し、ウイルスゲノムの消失を指標として、抗ノロウイルス効果の検証を行った。そして見事に成功。

これで検証方法は確立した。あとは「何が」効力を発揮するのか、だった。食品に混ざっても安全な製品とする必要があったため、成分はエタノールと食品添加物に限定した。中でもポリフェノール類のタンニンに的を絞っていった。

研究を続ける中で、幸運もあった。アルタンの顧問を務める先生が樹木医をやっており、面白いアイディアを提供してくれたのだ。なんでも木の治療等で枝を切った後の切り口に、柿渋を塗るのだそうだ。ウイルスが入って腐らすのを防ぐための、昔からの知恵なのだという。

 

SONY DSC柿渋は、古くより中国では漢方薬、日本でも民間治療薬として用いられてきた歴史がある。また、清酒の製造工程では清澄剤としても使われており、食品あるいは食品添加物としての安全性に問題がないことも分かっていた。

これならノロウイルスにも効くかもしれないと早速試した。すると、予想を超える驚くべき効果を示したのだ。なんとウイルスゲノムが99%消滅。柿渋タンニンの強力な抗ノロウイルス作用が明らかになったのだ。

 

 

商品化、そして話題に!

 

その後、商品化に向けての諸問題を解決し、2007年11月、「アルタンノロエース」の名称で発売された。それまでになかった製品であると同時に、天然由来の食品添加物・柿渋を使用していることから大いに注目を集めた。

同年10月の日本経済新聞には、「アルタンと広島大学がノロウイルスを99%以上消滅させるエタノール製剤を開発し発売した」との記事が掲載され、また2010年9月および2012年10月には、NHK総合テレビで抗ノロウイルス「柿渋パワー」製品として放映され、今年に入ってもテレビ朝日でも放送、その都度製造が間に合わないほど注文が殺到した。

 

発売開始後も製品の改良は続けられた。食品添加物のフェルラ酸が柿渋との相性が良いことを発見、1ミクロンのフィルターでろ過することにより、製造1年後でもごくわずかな褐色変化をする程度の、安定した品質の製品に仕上げていった。

 

評判が評判を呼んで、販売先も帝国ホテル、ワタミフードサービス、社会福祉法人くにみ園、山崎製パン等、その業種も多岐にわたる広がりを見せている。

 

 

柿渋パワーはノロウイルス以外にも……

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アルタンと広島大学は、柿渋を有効成分とする「抗ノロウイルス剤」の発明を2009年6月に特許共同出願(原出願2007年6月)。科学技術振興機構(JST)の支援を受け、日本以外にも、アメリカ、カナダ、中国、ベトナム、EU(フランス、オランダ等)に出願することができた。

これらが将来の海外展開における大きな基盤となるのは間違いない。

また、現在この特許技術についてアメリカ企業との間でライセンス契約交渉中でもある。さらに海外での合弁企業設立に向けて事業化を推進中だ。

 

ちなみに、これまでに特許に登録されたのは、日本と中国。他国は審査請求中である。

広島大学大学院 医歯薬保健学研究院ウイルス学 坂口剛正教授

 

この成果を受けて、広島大学大学院医歯薬保健学研究院ウイルス学坂口剛正教授は、アルタンとさらなる共同研究を行い、柿渋がノロウイルス以外にも広い範囲の種々(12種類)のウイルスを強力に不活化できることを発見した。

 

特筆されるのは、春先に保育園や幼稚園等で猛威をふるう手足口病の原因ウイルスであるコクサッキウイルスと、東南アジアで問題になっている小児麻痺の原因ウイルス、ポリオウイルスだ。これらにおいても、柿渋が決定的に効果があることを検証した。

この研究成果は、2013年1月25日発行の科学誌「PLos ONE」にも掲載された。「PLos ONE」とは、世界の研究者の70%以上が論文を投稿する際の第一候補ないし第二候補に選択すると言われている権威ある学術誌だ。化学・医学・工学分野の論文出版において、最大規模を誇る出版物と言われている。

 

様々なウイルスに効果がある消毒剤の開発が現実味を帯びてきた。今後は新たな製品開発とともに、この製品をより必要とするであろう病院や福祉施設へのアプローチが急務だ。現状は「アルタンノロエース」が医薬品として取り扱ってもらえないため、保険の点数制度の壁に阻まれ、病院への導入が難しくなっている。

製品の圧倒的な効能で、制度の壁を突き崩し、広く一般に普及させる戦いは、これからが本番だ。だが、その未来は明るいに違いない。

 

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アルタン 鈴木氏

プロフィール

アルタン株式会社/鈴木賢一氏(代表取締役社長)

〒144-0033 東京都大田区東糀谷3-11-10

TEL 03-3743-5705

http://www.altan.co.jp/

町工場・中小企業を応援する雑誌BigLife21の記事より

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