株式会社ビジネスパスポート与謝野肇氏|『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』。 自律型社員育成のキーワードは本人の〝気付き〟
株式会社ビジネスパスポート与謝野肇氏 彼を知り己を知れば百戦殆うからず
◆取材:綿抜幹夫
自律型社員育成のキーワードは本人の〝気付き〟
『人は城、人は石垣、人は堀』などと戦国の昔から言われる通り、組織にとって最も大切なものは人材だろう。だが、昨今はその人材が育たないとお嘆きの経営者が何と多いことか。そんな企業にとっての最大関心事を、管理職40年のベテランビジネスマンの経験と知恵及び独自に開発した診断テストを活用して、解決に導くコンサルタント集団が株式会社ビジネスパスポートだ。代表取締役社長・与謝野肇氏にその概要をお聞きした。
人材の衰退が企業を弱体化する!
にこやかに現れた与謝野社長は、その柔和な表情やソフトな語り口に似合わないほどの『歴戦の雄』だ。明治維新後の重工業や、戦後の復興、高度経済成長を金融で支えた日本興業銀行で要職を歴任。平成8年には興銀インベストメントの社長に就任し、ベンチャーキャピタリストとしての辣腕を振るった。
そして現在、自ら設立した株式会社ビジネスパスポートで、人材育成のスペシャリストとして活躍中だ。
「この会社の前身は、平成10年に社団法人関東ニュービジネス協議会で経営者の研究会として発足しました。そこで勉強会が行われるようになったのですが、私は興銀代表でここの理事を長く務めてきたのです。その勉強会ではいろいろなことが話し合われてきましたが、大きな関心事として『人材』のことが取り上げられました」
いつの世も、組織にとってもっとも大切なのが『人』であることは間違いない。
「終身雇用、年功序列が壊れ、転職が当たり前になってきた世の中では、自分のキャリアは自分で責任を持たなければなりません。自分のことを本当に理解しているのか。自分の強み、弱みはわかっているのか。その理解がなければ本当に自分に合った就職や転職はできないのではないでしょうか。そこで、学生向けに自分を見つめ直すツールを作ろうということになり、完成したのが『BPASSサーベイ』という診断テストです」
『BPASSサーベイ』は2万人の日本人データとそのアルゴリズムをベースに千葉大学名誉教授・多湖輝先生の監修の下、NPO法人自己啓発支援機構と株式会社ビジネスパスポートのベテラン経営者陣が適性診断業者である株式会社イーファルコンと共同で開発。個人の持つ適性・適職を客観的に知ることができる優秀な診断ツールだ。
「当初は、様々な大学で利用されましたが、市場として学生相手は難しかった。やはり学生はお金がないので、自腹を切ってまでこういう診断をなかなか受けない」
平成16年、与謝野氏が会社を退いたことを機に、NPO法人だった前身組織を株式会社に改組、代表取締役に就任した。
「社名である『ビジネスパスポート』は、人がビジネス社会へ出ていくには『パスポート』が必要だという思いからつけました。ここで言うパスポートとは、自分自身を知り、強みをしっかり認識しているということ。そうすれば自分に合ったいい会社で働くことが出来るのです」
残念ながら学生の意識はそこまで高くはなかった。そこで、ビジネスの方向性を社会人にシフトしていった。
「多くの企業の方々からお話を伺ったところ、求められているのは『自律型人材』でした。今は指示待ち管理職や消極的管理職があまりにも多い。また、職場での動き方に自信の持てない気迷い人材もたくさんいるのです。こういう人材を我々は『他律型人材』と名付けたんですが、つまり、自分の行動を他人の判断や基準で決めようとする人のことです。分かりやすく言えばマニュアル人間でしょうか。こういう人材のせいで今の企業は競争力の低下を招いていますし、その結果、企業の魅力低下にもつながる。これは由々しき問題なのです」
企業の成長や発展を、人材面からのアプローチで実現する。これはその企業がどんな業種であろうとも共通する根源的な方法論であろう。
「そこで、企業の自律型人材育成のお手伝いを我が社の中核事業に据えました。特に、管理職はどんな会社にとっても組織運営の中核を担わなければなりません。上司へのフォロワーシップ、部下へのリーダーシップ、そして仲間へのメンバーシップ。この『3大シップ』を駆使しなければいけない重要な立場が管理職です。にも拘らず、指示待ちや消極的な他律型管理職ばかりでは、組織が崩壊します。今は何とかして自律型管理職を育てていかねばならないのです」
何故こんな他律型管理職が多くなってしまったのか。与謝野社長は次のように考える。
「バブル崩壊後、それまでの終身雇用体制が崩れ、企業はリストラを余儀なくされました。その対象となったのが中間管理職です。だが、その中間管理職は人数を削られても仕事の質・量ともに変わらない。結果、彼らは猛烈に忙しくなりました。経営側は彼らに数字として表れる成果を求めます。そうすると、管理職は案件を獲得するために自ら外に出て動かなければならなくなる。マネージャーよりプレーヤーの比重が増していきました。そうなれば、当然部下の育成・管理といったマネジメントの部分がおろそかになる。上司と部下の関係が希薄になってしまうんです」
この考えに至るには、与謝野社長自身が生き馬の目を抜く金融の世界で、サラリーマンとして大成した経験が大いに関係している。
「私が若いサラリーマンだった頃、お客様の処には必ず課長と一緒に伺いました。そこで課長のやり方を学んだ。まさにこれこそがOJTだったわけです。社内での様々な書類(稟議や提案書)も、課長にことごとく手直しされました。その過程で多くのことを学び、社会人としての基礎を積み上げて成長できたのです。こういう人材育成が日本企業の礎だったと言っていいでしょう。
だが、バブル崩壊以降、上司と部下のコミュニケーションが大きく衰退してしまった。しかも、担当者時代に上司から教えられてこなかった若手が、十数年を経て今や中間管理職の立場になっています。だから、管理職として何をどうやっていいのかわからない。中間管理職とは何たるかをわかっていない。課長であっても単に『偉い担当者』に過ぎないのが現状でしょう」
日本の会社組織の強さの源泉であった上下や仲間同士の濃密なコミュニケーションは消え、その結果チームワークが崩壊する。本来、組織の中核たる中間管理職の低迷ぶりは、大手も中小零細も同じだろう。
「ですが、大企業には自力で解決できる人も力も金もあります。私たちは中小企業に向けてその解決の手助けをしたい。50~1000人規模の会社がお客様です。中小企業の魅力は往々にして社長の魅力、人間力だったりしますよね。そんな社長は社業に一生懸命過ぎて、人材育成が大事と思っていても、なかなか手がつけられないというのが現状ではないでしょうか。しかし、先程申し上げたようなザラザラした職場環境を考えると、今こそ組織として人材育成に真剣に取り組むべきと思います」
自律型人材育成のために
組織再生のためには、その中核を成す管理職を再生すること。それが与謝野社長のたどり着いた結論だ。
「組織がうまく機能していない現状の元凶は、多くの管理職がただ上から何か言われることを待っている指示待ちだからです。彼らは上がどういう役割を担って欲しいのかを理解していない。考えて動くということが出来ていない。そこで『自律型管理職』の育成が急務なのです」
では、どうやって育てていくのか。そのための管理職研修をビジネスパスポートは提案している。
「最も大切な基本は『気付き』です。当事者にどうやって自分のことを気付かせるか。先ほど申し上げた『BPASSサーベイ』(図1参照)により、管理職としての自分の強みと弱みが何なのかに気付いてもらいます。さらに、各人が職場で抱えている様々な課題に付き、同じ職場の管理職同志で徹底したグループ討論をしてもらう。皆で考えて皆で結論を出すことにより、各管理職は自らに求められている役割や課題解決の方法論に気付いていきます。
また、同時に管理職経験40年のベテランビジネスマンが講義により『管理職とはこういうことが求められているんだよ』ということを丁寧に伝えます。そうした過程を通じて気付きが得られれば、各人は自分がどう動くべきかが自然に見えてきます。それを翌日からの行動計画として作成してもらいます。その際大事な事は、決して人に頼らず自分で考案し、自分でこう動こうと決意することです。半年後にしっかり動けたかどうか上司とフォローアップも行います。
こうした、気付き、行動計画、フォローアップといったサイクルを定期的・継続的に実施することで、自律型管理職としての意識変革が徐々に進み、その波及効果も大きくなります。この研修を、新任管理職、ベテラン管理職、そして役員にまで取り入れてくださっている会社もあります。偉い人同志では、お互いのことを指摘するのが難しいものですが『BPASSサーベイ』の客観的データがあると話し合うきっかけになるのです(図2、研修特徴参照)」
この管理職研修は、被験者の潜在的能力を引き出すきっかけとして役立つことはもちろんだが、企業にとっても、社員それぞれの強みを活かす組織作りに役立てることが可能だ。何故ならば、
「『BPASSサーベイ』は各人が職場で日頃話し合う項目によって表示されているので、個人にとってはもちろんのこと、企業にとっても使いやすく、分かりやすいと言われています。特に項目そのものが企業の人事考課項目とほぼ同じであるため、多くの企業で人材の適正な配置やキャリアプランの作成、昇進・昇格、あるいは採用試験などの参考資料としてご活用頂いております」
今、日本の『仕事力』は落ちていると与謝野社長は言う。
「昔のような先輩や上司が部下を鍛え、チームワークで仕事に取り組む体制が崩壊しているからです。少子化で親が子供の面倒を見過ぎる。だから自分のことを客観視できない。学校でもそういうことは教えない。そして、会社にもそういった機能が期待できないという現状だからこそ、私たちの研修で自分を知ることが大切なのです」
筆者も、あまり普段意識することのない『自己』を知りたくなってきた。この『BPASSサーベイ』を受ければ、あるいはもっと読み応えのある原稿が書けるようになるかもしれない。
「私たちはコンサルタントとしてお手伝いすることで、顧客企業がどんどん成長されることこそ最大の喜びです。特に、私たちシニア世代の知識や経験を次代につないでいくことが、今の日本にとって意味のあることではないかと思っています」
ビジネスシーンの最先端を走り続けてきた大ベテラン・与謝野社長には、まだまだこの国のために活躍してもらわなければならないようだ。
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◆2014年2・3月合併号より◆