株式会社ラモーダヨシダ|〝知らない者同士〟だったからこそ、クリエイターを受け入れられた・モノマチ成功の知られざる背景
株式会社ラモーダヨシダ 〝知らない者同士〟だったからこそ、クリエイターを受け入れられた。
◆取材:加藤俊
株式会社ラモーダヨシダ 吉田昌充氏
〜モノマチ成功の知られざる背景〜
大盛況に終わった「第4回モノマチ」。このイベントの実行委員長として、数百人のクリエイターや職人を取りまとめたのが、株式会社ラモーダヨシダの吉田昌充氏だ。ラモーダヨシダは、この地に根付いた財布メーカーであり、古くは多くの職人さんと協力して製品をつくっていた会社である。
それに加えて、今日では「mic」という革小物と財布を取り扱う自社ブランドを展開するなど、クリエイターとしての側面も併せ持つ。そんな吉田氏の、今回のモノマチにおける役割は、職人とクリエイターの間を取りもつこと。実行委員長という立場から見た、モノマチ成功の理由を伺った。
お互いのことを知らなかったから、モノマチは成功した
吉田氏は、初期の頃からモノマチに参加している。デザビレの鈴木村長に誘われたのが直接のきっかけだったのだが、その際強く意識したことがあるという。
「実は、この辺りは財布の産地で、ブランドものを除けば、日本で流通している財布の半分近くはここの地域が取り扱いをしています。でも、そういったことを消費者の方たちは知らないですよね。ですから、イベントに参加するのであれば、そのあたりのことも皆さんに知ってもらいたい。そんな思いもあって参加を決めました」
実際に参加してみると、吉田氏が予期しなかった化学反応が起きた。モノマチのイベントが瞬く間に大きくなっていったのだ。その背景について訊いてみると、
「この地域に古くから居ながら、皆がお互いのことを〝知らなかった〟ことが良い方向に作用したんです。もちろん僕は、財布の同業者のことは昔からよく知っていましたよ。でも、この地域に何十年も住んでいながら、他の業種の方たちのことはあまり知らなかったんです。そもそも接点がないですからね。でもかえって、それが良かった。新しいクリエイターがこの地域に来ても、昔から居る人間同士がまず知らない仲ですから、立ち位置が同じなんです。これが皆知り合いばかりだったら、クリエイターを受け入れる素地はなかったのかもしれません」
お互いを知らなかったからこそ、新しい人たちが来ても受け入れることができ、地域として纏まることができた。モノマチの成功の秘訣は思い掛けないところにあったのだ。
モノマチの面白さとは?
多種多様な業種が集まるこの地域ならではの面白さが出てきていると、吉田氏は言う。
「新しい発想もどんどん生まれていますね。例えば、業種を跨いだコラボです。色々な業種の人たちが知り合いになって仲良くなり、色々なことをやろうとする。参加している本人たちが一番楽しんでいますよ(笑い)」
実際に今回のモノマチでは、スタンプラリーならぬ「トッピングラリー」形式のイベントが行われた。専用のトートバッグを参加店で購入し、色々なショップをまわっていく中でバッグに付ける小物を買い足していき、自分好みにカスタマイズしていくというものだ。
「さらに職人さんたちも協力的で、色々な工場を回る〝職人見学ツアー〟を組ませてもらいました。一般の方たちにとっては実際の作業現場を目にする機会はなかなかないので、『新鮮な体験になった』、『面白かった』など数多くの反響を頂きました。これまで中間加工の職人さんたちは、あまり表に出る機会がなかったんですが、このツアーを通じて自分たちの仕事について知ってもらえるきっかけができた。このことには、大きな意味があると思います」
しかしこの点に関して、吉田氏は責任を感じているという。
「僕たちは、百貨店に並ぶような商品がどのようにしてつくられているかを、これまで消費者にきちんと説明してこなかったんです。例えば浅原さん(浅原皮漉所)は、本当に惚れ惚れするほど革の漉き方が上手いんです。あれは、とてもじゃないが、クリエイターさんが追随できる技術ではない。でも、いくら高度な技術が使われているからといって、高い値段でバンバン売れるかというとそうではないんですね。かえって、技術力がなくても高い値段で売れる商品があったりするんです。
どちらが良いとか悪いとかいう話ではないのですが、いま多くの消費者にとって、モノの〝良さ〟の価値判断は、表面的なデザインの良し悪しだけが判断基準になってしまっています。僕が言いたいのは、消費者の方に、モノがどうやってできているか分かって頂いたうえで、本当に〝良いモノ〟を選ぶ基準を身に付けてほしいということなんです。それを説明していく努力を僕たちは怠っていた。それを遅まきながら、モノマチでやっと発信し始めた次第です」
今後、モノマチをどうしていきたいか
最後に、今後モノマチをどのようにしていきたいかを訊いた。
「モノマチはクリエイター、職人の両方の立場を分かった上でやらないと、うまくいきません。その均整が非常に巧くとれているからこそ成功しているんです。これが片方に寄ってしまったら、色々な問題が生じてくるのではないでしょうか。だから今後もそのバランスを保っていきたいですね。それから個人的には、地域が活性化してほしい。この町の知名度や地位が上がってほしいとも思っています」
吉田氏がこう言うのには理由がある。地域の知名度を上げていけば訪れる人も増え、町が活気づき、経済も回る。そのお金を、ここで働く職人たちに還元したいという強い思いがあるのだ。
「日本のモノづくりの技術力は非常に高いレベルにあって、職人さんを尊敬する風土もあります。それなのに、職人さんには技術に見合ったお金がついてこない。この現状を変えたいんです」
この言葉の裏側には、かつてこの地域の職人に仕事を回していたメーカーとしての責任が感じられた。そして、職人の数が減り、日本国内に仕事を渡せなくなってきていることへの危機感も、そこには含まれているのだろう。
micの店内では、お財布が作られる工程も紹介している。
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●プロフィール よしだ・まさみつ氏…1962年東京都生まれ。成蹊大学卒業後、プラスチック加工会社に就職。営業職を経て、1988年ラモーダヨシダに入社。2002年より代表取締役に就任。
●株式会社ラモーダヨシダ 〒110-0015 東京都台東区東上野1-3-3 TEL 03-5816-1811 info@lmy.co.jp http://www.lmy.co.jp