東京和晒株式会社|伝統的染色業の復活に懸ける男 手拭作りファンを増やして業界活性化!
東京和晒株式会社 伝統的染色業の復活に懸ける男
◆取材:加藤 俊 / 文:小川 心一
東京和晒株式会社/代表取締役社長 瀧澤一郎氏
手拭作りファンを増やして業界活性化!
繊維・ファッション業界における川中・川下分野(織物業、染色業、縫製業、ニット製造業)はそのほとんどが中小・零細企業に支えられている。だが、多くは委託加工に甘んじており、最終製品(アパレル)の輸入拡大による受注減、単価減少等によって、非常に厳しい状態に置かれている。この先細りの業界を憂い、新たな需要を創り出そうと奔走する東京和晒株式会社、瀧澤一郎社長を訪ねた。
手拭から始まる市場創造への道
ランキングはご覧のとおり、見事に和テイスト一色である。2位から5位までが日本の伝統的な繊維・ファッション製品で占められており、言わば、日本文化の最たるものと誰もが見なしているのだ。それでありながら、国内における伝統的な繊維・ファッション業界の環境は悪化の一途を辿っているらしい。瀧澤一郎氏が社長を務める東京和晒株式会社も例外ではなかった。
「国内で染色工場を経営していても、圧倒的な内外価格差から海外との競争には勝てません。我が社も2年前に本社工場を閉鎖しました。あらゆるシミュレーションをし、2つのコンサルチームも入れて出した結論でした」
苦渋の決断で自社での製造を諦めた瀧澤社長。しかし、この業界に賭ける熱い思いは消えず、むしろ伝統文化の担い手として、こんなところで倒れるわけにはいかないという覚悟が固まったそうだ。
形を変えてでも、業界を活性化させなければならない。その原動力となったのが、すでに15年の経験があった製造仲介の仕事だった。
製造仲介は、お客様の要望を実現するべく無いものを創りだすという、ある意味では「新製品の開発」のような作業だ。東京和晒は長年のノウハウに基づき、顧客へ120%の満足の提供を目指して製造仲介に取組んでいる。
「うちは製品を作りたい人と、それを実際に作る職人との仲介を15年くらいやっています。ここ数年で、この事業も採算ベースに乗るようになってきました。我が社は、この業界の会社や職人が生き残れるようなネタを創造したり、ナビゲートできたりするようになればいいんです。現状の仕事だけで採算をあわせるのではなく、自ら市場を創り出していきたい。今の時代、ただ待っていても仕事は来ません。そんな中でどうやって受注を増やすのか。業界全体の仕事を増やすためにはどうしたらいいのかが、我が社に課せられた命題だと思っています」
瀧澤社長が活路を見出すのは「手拭作り文化」
「昨年、東京で開催されたIMFの年次総会でお配りするお土産のコンペに応募しました。『日本らしさ』が求められるお土産です。東京の伝統工芸技法を用いた手拭をご提案し、30以上の提案があった中、見事勝ち残りました。3本セット箱入りで、2千円×1万セット=2千万円の売上がありました」
外国人にとって、より日本らしいものとしての手拭の価値が認められたわけである。
実は、これは単なる偶然ではなかった。
「当社は8年前より『手拭実染塾』という体験講座を開いています。実際にプロの職人がやっている作業が体験できるものです。すでにこの講座から10人以上が職人になりました。この講座を通じて様々な手拭クリエーターとアイデアを交換し、感性を磨くようにしているのです」
これまでのように「ただ出来たものを市場に投入する」だけではなく、手拭作りの魅力に目覚め、「作り手・売り手」となった消費者に、更に市場を拡大していただく環境作りをするために何が出来るのか? その連続であるという。
「地元の方よりも、遠くでも好きな人のほうがより多くやってきます。20代後半から30代の女性が8割を占めていますね。ここは手拭作りが好きな人同士のコミュニケーションの場でもあります」
現在、瀧澤社長は手拭以外でも、市場創造の活動を積極的に行っている。浅草にある『お祭りミュージアム』の運営がそうだ。東京都が助成金を支出した、お祭りに関わる布物と、布物にまつわる無形の文化を伝承し、全国に伝える情報発信基地となっている。
お祭りと伝統文化を愛し、業界の未来を思う瀧澤社長の新しい取り組みはまだ志半ば。それでも、挫けるわけにはいかない。日本人が日本人らしくあるためにも、伝統文化は継承していかなければならないからだ。そのためには、更に多くの作り手の育成を目指すという試みだ。全ては、瀧澤社長の双肩にかかっている。
●プロフィール/たきざわ・いちろう氏…昭和32年東京生まれ。昭和55年学習院大学理学部卒業。創業明治22年の老舗繊維加工会社の4代目社長。
●東京和晒 株式会社
〒124-0012 東京都葛飾区立石4-14-9
TEL 03-3693-3333
http://www.tenugui.co.jp
◆2013年7月号の記事より◆
▸雑誌版の購入はこちらから
▼記者が選ぶおすすめ記事 ▼
印刷工業会(PAJ)理事。母親の偉大さがわかる人情記事。
スクリーン印刷会社(プリント屋)。強みは版も含めての内製化。
株式会社スパークル 未来を見通す眼力で事業は急拡大! 次のステージに思いを馳せる業界の寵児
TPPはあくまで〝条約〟ですからね。最後は国会が承認しなければ批准もできないんです。交渉の結果が日本にとって不利益ばかりになれば、政府がどれだけ進めようとしても、国会はノーを突きつけることができます。