鶴岡信用金庫 佐藤祐司氏 地域を守り活性化し繁栄させる。それが使命

◆取材:加藤俊

 

鶴岡信用金庫 専務理事 佐藤 祐司氏

小説家・藤沢周平の生まれ故郷であり、小説のモデルにもなっている山形県庄内地方は、豊かな自然に育まれた農水産物の生産地として知られている。また近年では最先端の技術開発の場としても注目を集めている。

その庄内地方において、「ヒト」「モノ(アイデア)」と同じく、事業を展開する上で不可欠な要素である「カネ」に関して、さまざまな活動でサポートしている鶴岡信用金庫は、地元の中小企業から絶大なる信頼を獲得している。

 

同金庫は大正15年に設立。山形県庄内地方ならびに新潟県村上市(旧岩船郡山北町に限る)を事業区域として、地元の中小企業者や住民が会員となって出資して運営されている金融機関である。同金庫の佐藤祐司(ゆうし)専務理事は、信用金庫と銀行との違いを次のように語る。

 

鶴岡信用金庫4

「信用金庫は、株式会社である銀行とは違う協同組織金融機関です。根底となる理念には相互扶助の精神があり、会員とともにお互いがいろいろな意味で成長していく共存共栄を目指しています」

信用金庫の営業地域は限定されており、営業地域を守り、活性化し、繁栄させることを使命としている。では、いかにして地域を守り、活性化させているのか。それには、地道な努力がなされている。

 

ビジネスマッチングと産学連携で企業をサポート

地域活性化の方策のひとつとして、「ビジネスマッチングへの取り組み」がある。これは、地元企業が保有する技術、特徴ある製品・商品などさまざまな情報を広くPRできる場を提供するとともに、地元企業の共通課題である販路の拡大を目的としている。

具体的には、仙台市の夢メッセで開催される東北最大級のビジネス展示商談会「ビジネスマッチ東北」に会員の地元企業が出展することにより、ビジネスマッチングを図っている。ただ、出展を促すだけで終わりではないところに、鶴岡信用金庫らしさが見られる。

 

「『ビジネスマッチフェア東北』では、私どもの職員が各企業のブースでお手伝いをしています。なぜそのようなことをするのか。それは、その企業がどのような技術を持ち、何を売り(強み)にしているかなどを、職員が身をもって学ぶことができるからです」

単なるビジネスの場の提供だけではなく、企業について学び、事業展開や販路拡大のヒントを得ようとする真摯な姿勢が示されている。

 

「ビジネスマッチ東北2012秋」(平成24年11月8日開催)には、14の企業と、山形大学農学部、鶴岡工業高等専門学校、東北公益文科大学が出展し、平成25年末現在、商談件数318件、商談継続件数42件(いずれも平成25年末現在)という実績を上げている。同金庫の呼びかけとサポートがなければ、この実績はなかったことである。

 

また、山形大学農学部や東北公益文科大学、鶴岡工業高等専門学校とは産学連携に関する協定を締結し、「産学連携による新技術開発支援」にも取り組んでいる。取引企業が抱える課題の解決、技術相談へのアドバイスなど、それぞれの教育機関からアカデミックなサポートを受けられるように同金庫が橋渡しの役割を果たしている。

 

鶴岡信用金庫1

「具体例の一つとしては、ホテル・旅館向けの畳の製造を営んでいる取引先と高専が連携して、廃棄処分されてきた古い畳表を土壌改良材や水質浄化材としての炭に活用したビジネスモデルを作っています。庄内地方は技術力が高いので、すべて庄内地方で調達できるのが強みと言えます。私どもは、ビジネスモデルがうまくいくように、資金面はもちろん、できる限りのサポートをしていきたいと考えています」

 

 

魅力的な企業を作り労働人口の流出を防ぐ

同金庫がビジネスマッチングや産学連携などに積極的に取り組む理由の一つに、若者が県外に就職する割合を下げたいという思いがある。

景気が上向きつつあるといわれる昨今だが、給与や福利厚生などの条件面から、若者が大企業に就職したがる傾向は根強い。一方で、庄内地方には技術力の高い中小企業が存在するものの、その認知度は低い。そういったギャップを埋めることで、庄内地方に魅力的な企業があることを若者に知ってもらって県外流出に歯止めをかけ、雇用を確保したいというのが、同金庫の考えだ。

 

「雇用の確保は地域活性化にとって大きなポイントです。だからこそ、ビジネスマッチングで企業の魅力を高めると同時に、産学連携で地元に素晴らしい企業があることを知ってもらいたいのです。

庄内地方で育った若者が首都圏の大学に進学するのはいいですが、首都圏の企業に就職して、なかなか地元に帰ってこないのが問題なのです。大企業に入っても、自分のやりたいことができないかもしれない。もしも自分がやりたいことがはっきりしているのなら、それを実現できる企業に入ったほうが絶対にいい。大企業のように勤めて組織に縛られるのではなく、自分がやりたいことが実現できる中小企業のほうが生きがいや働きがいを感じられると思います」

 

 

住み働く場所としての庄内地方の魅力とは?

庄内地方は自然災害も少なく、安心して生活できるのが魅力の一つ。昨今の国内外での自然災害による被害を考えると、庄内地方に住み働くことのメリットはかなり大きいと言える。また、鶴岡市には慶應義塾大学の先端生命科学研究所(先端研)があり、先端研の研究者だった人が最先端の技術をもとに起業している。こうしたことは、庄内地方の良さを示していると言えるだろう。この点に関して、佐藤専務理事はこう語る。

 

「米国のマサチューセッツ州などのように、首都から300〜400㎞離れた所に著名な大学の研究施設がある事例は、世界の先進国ではよくあることです。慶應義塾大学が先端研を鶴岡市に作った理由の一つは、この地域ではいろいろなアイデアが出やすくて魅力的だからだと聞いています。また、庄内地方は安心・安全の面で評価が高く、地域のコミュニティーの良さも残っています。そういう場所に住まない手はない。確かに不便な面もありますが、東京まで飛行機で1時間ほどで行けます。他の地域の人たちから見れば魅力的な地域であることを、今の若い人たちが十分に認識して、ぜひここで生活してみようと思ってもらいたいです」

 

 

世の中に役立つ企業であるかがポイント

若者が生まれ故郷に戻ってきても、働く場所がなければどうしようもない。同金庫では、庄内地方に就職先をいかにたくさん作っておくかが重要な仕事だと考えている。そのため、辛抱強い対応で、企業を育てる努力をしている。

1つの事業を立ち上げて、その事業が採算ベースに乗るまでに10年はかかるといわれている。佐藤専務理事も自らの経験から、取引企業が新しい分野で事業を始めた場合、その事業が成功するか失敗するかは、1年や2年ではわからないと実感しているという。

 

「『あの事業をやって2〜3年目が大変だった。10年やってきて、ようやく少し黒字になってきた』とおっしゃる経営者の方が結構いらっしゃいます」

とはいえ、信用金庫は地域金融機関であるので、事業が成功に至るものかどうかを入念にチェックする。では、そのポイントとは何なのか。佐藤専務は今までの経験から、経営者の考え方や理念の重要性を説く。

 

「この企業、そしてこのビジネスモデルがあれば、もっともっと世の中の人たちが幸せになる、あるいは安心・安全に暮らせる社会づくりに役立つのだという強い信念を示せる社長であれば大丈夫だと思います」

相互扶助、共存共栄が理念である同金庫にとって、会員である企業の動向は、そのまま跳ね返って来る。だからこそ、きめの細かいサポートを心がけている。企業は、大なり小なり、悩みを抱えているもの。それもちょっとしたことで乗り越えられたりすることも少なくない。

 

「経営改善や計画書策定などのお手伝いで、経営破綻しないように、いろいろな意味でアドバイスしていくことが一番大事なのだと思います。悩んでいる経営者の方々は、助かるための道がたくさんあるのですが、ただなかなか有効な情報が入ってこない。そのために悩んでいる方も結構いらっしゃいます。私どもは積極的にお話をして、何とかその事業がうまく行くようにアドバイスするように取り組んでいます。私どもも必死です。信用金庫は地域とともに歩むもの。この地域から離れることはできません。地域の企業が衰退することは、すなわち私どもにとって大切なお客様を失うことになってしまうことになるわけですから」

 

まさに、共存共栄を旨とする協同組織金融機関である信用金庫らしい考え方である。

 

 

信金のネットワーク利用で1万人以上の観光客を創出

モノづくりとは異なるが、観光に関しての地域活性化対策の実績を紹介したい。

全国の信用金庫の上部団体である信金中央金庫の調査によると、庄内地方では観光客が1時間に平均して1000円を落としているという。さらに、1泊すると3万円近くに跳ね上がる。庄内地方の人たちの1人当たり年間消費額は100数十万円という調査結果とあわせて考えると、1泊旅行の観光客数十人で1人分の年間消費額は補うことができるという計算になる。

 

日本各地の信用金庫には年金友の会などお客様の組織が存在し、年間12万人が旅行しているというデータや、年間50億円が動いているという試算もある。

 

鶴岡信用金庫では平成19年度から、信用金庫業界のネットワークを利用し、東日本の約120の信用金庫に庄内地方のさまざまな情報を2カ月に1回発信している。そうしたところ、徐々に芽が出てきて、いまは約30近い信用金庫のお客様1万3000人ほどが庄内地方を訪れ、小売店などいろいろな意味で波及効果が出ている。具体的な事例としては、埼玉県の飯能信用金庫が昨年1〜2月にツアーを組み、約4000人を送客したのが最も大きな実績である。

このように、観光客であれ、働き手であれ、同金庫は庄内地方への人口流入のためにさまざまな手段を講じている。中でも観光への取り組みは、売り上げと雇用の増加による地域の活性化に寄与している。これは、少子高齢化の今、他の地方の参考になる好例と言えるだろう。

 

 

鶴岡信金が今後取り組んでいくこと

このように、まだまだ可能性や資源のある庄内地方だが、鶴岡信用金庫は今後、どのように地域活性化に取り組んでいくのだろうか。

鶴岡信用金庫は、これまでの実績から卸・小売業や建設業については強い。また、医療・福祉・介護分野に進出するためのノウハウを持っており、再生可能エネルギーの分野に関しても、いろいろ勉強しながら取り組んでいる。さらに、農業の6次産業化については、アグリビジネスに対する専門知識を持った職員の養成にも力を入れている。

 

そうしたことを踏まえて、佐藤専務理事は中小企業経営者に次のようなメッセージを送ってくれた。

「庄内地方の経営者や従業員は非常に真面目で誠実で、しかも辛抱強い。モノづくりや農水産物の生産、そしていろいろなサービスの提供にも、心のこもった仕事ができるのが庄内地方の良いところ。仕事をするには良い地域で、本物が作れ、必ず結果がついてくると思いますので、ぜひ皆さんには自信を持って各々の事業に取り組んでいただきたい。それを応援するのが、私ども鶴岡信用金庫の使命だと考えています」

 

プリント

鶴岡信用金庫3

佐藤 祐司氏(さとう・ゆうし)…1957年山形県生まれ。法政大学卒業後、鶴岡信用金庫に入庫。2008年に

専務理事になり、現在に至る。

●鶴岡信用金庫

〈本部〉山形県鶴岡市馬場町1-14

TEL 0235-22-2360

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