不登校は、今や多くの家庭において身近な問題となっている。この数年で、社会全体の不登校に対する理解は確実に進んでおり、その対応も変化してきた。だが、まだ解決すべき課題も多い。

そんな中、子どもの不登校や摂食障がい、引きこもりで悩む親のサポートに取り組むべく「KET理子塾」を主宰した、鈴木理子さんの活動が注目を集めている。

鈴木さんは、娘さんの不登校を経験し家族関係を見直してきた。「KET理子塾」では、鈴木さん自身の体験を基にして、受講生に多くの気づきを与えている。

今回は、鈴木さんの視点から見る不登校問題の現状や社会の変化、必要とされるサポートについてお話を伺った。(取材・構成:わたなべちかこ)

娘の不登校が「KET理子塾」を導く

日本語講師・研修講師として15年間企業のサポートをされていたそうですが、講師業から、子どもの不登校などで悩む親御さんのサポートにシフトしていったのは、どのような心境の変化があったのでしょうか?また「KET理子塾」を立ち上げるまでの経緯や、主宰するに至った想いを教えてください。

鈴木:私が、不登校や摂食障がい、引きこもりなど、家族関係で悩んでいる方のサポートをするようになったきっかけは、娘の不登校です。当時、日本語講師や研修講師として企業向けにコミュニケーションスキルの研修をしていました。にもかかわらず、その経験が娘に対してちっとも活かせていないことに気づき愕然としたんです。

家族関係においてもコミュニケーションはすごく大事。この気づきをきっかけに、娘とのコミュニケーションを見直し、自分の思考癖や古い価値観を手放す努力をしました。もしこのときにやっていなければ、おそらく娘との信頼関係は取り戻せなかったと思います。家族全員、ずっと苦しい思いを抱えたままだったかもしれませんね。

娘との関係を修復していく過程で「より良い日本にするためには、企業をサポートするよりも子どもの笑顔を増やす方が先じゃない?」と考えるようになったんです。今の子どもたちが元気じゃなければ、未来の日本も元気じゃないですよね。

そこで、かつて自分と同じように子どもの不登校などで悩んでいる家庭に関われるだけ関わって、子どもの笑顔をもっともっと増やしたい!現在お悩み中の親御さんをサポートして、その家庭が元気になれば子どもも元気になる!その子どもたちがこれからの日本を支えてくれる!そう思うようになりました。

この想いをブログで発信し始めると、少しずつ読者が増え相談を受けるようになりました。講師業のかたわら家族関係の悩み相談に乗るうちに、これこそが自分のやりたいことだと確信したんです。そして「家族に笑顔を取り戻すKET理子塾」の主宰に至りました。

理子塾で学ばれた方の家族関係が良くなり、親御さんの笑顔を見ると、自分の行動が日本をより良くすることにつながっていると実感できます。

鈴木さんの娘さんが不登校になった約10年前と比べて、社会の「不登校」に対する対応は変化してきたと思いますか?また、今後はどのような変化が必要だとお考えでしょうか。

鈴木:この数年で、社会の不登校に対する理解は確実に進んでいると感じています。娘が不登校だった頃と比べると、状況は大きく変化しましたね。2022年の文部科学省の調査では、不登校の小中学生が30万人に迫る勢いでした。不登校の子どもたちは毎年増加傾向です。不登校の定義に当てはまらない別室登校の子どもたちや高校生の不登校も合わせると、本当に驚くほどの数になります。

当時は「学校に行かないのは、人の道から外れた」というような雰囲気がまだありました。ですから、私を含め不登校の子どもがいる親御さんたちは、社会の目をすごく気にしていたんじゃないかなと思います。しかし、そもそも教育のあり方自体を見直すべきだという意見も、最近は増えてきましたね。

多様性を認める時代になったにもかかわらず、学校では依然として一律の教育が行われています。これを苦しいと感じる子どもたちがいても不思議ではありません。私は、子どもたちが楽しく自主的に学べる場所としての学校の必要性は認めています。ただ、学校に行かない選択をする子どもたちがいても悪いとは思いません。

世の中の風潮も変化し、教育現場のあり方を変えようとする動きが徐々に広がってきているのは嬉しいです。これからもっと、子どもたちの未来を見据えた教育に変化していけば、不登校問題もずいぶん変わってくるはず。

子どもたちのまわりにいる大人が、古い価値観を変えられないのが不登校問題の鍵になっていると私は思います。未来を見据えた教育とは、まわりの大人が今の時代に合わない価値観を子どもたちに押し付けないことだと私は思います。

不登校は子どもに問題があるのではなく、親のせいでもない

KET理子塾で学び終えた親御さんの変化は印象的だったそうですね。今まで多くの親御さんをサポートしてきて、鈴木さん自身の気づきなどはありますか?

鈴木:理子塾には、お子さんの状態を心配し、将来を不安に思って悩んでいる親御さんが入られています。皆さん本当に、どうしようもなく落ち込んでいる方ばかりです。私自身も娘が不登校のときは胃に穴があくほど苦しんだので、お子さんが学校に行かないつらさがよくわかります。

受講生の中には、オーバードーズやリストカット、自殺未遂まで起こしたお子さんを持つ方もいらっしゃいます。けれども、学びを終えた方々には当初の落ち込みが見られません。なぜなら、それは子どもの問題ではないと気づくからです。

理子塾を立ち上げてからの私の大きな気づきは、世代間連鎖がなかなか断ち切れず、親子関係に悩む方が非常に多いこと。自分の内面を見つめ直す意味がわかった親御さんは変化していきますね。その変化していく様子を見ていると、やっぱり子どもの問題ではないんだなってつくづく思います。

ただし、これは親が悪いというわけでは決してありません。私たち親も、子ども時代に刷り込まれた価値観に縛られて苦しんでいるんですね。その価値観は今の時代にそぐわないから手放していいはずなのに、気づかないから手放しようもない。それに気づかせてくれるのが子どもの不登校なのです。

世代間連鎖で持ち続けている古い価値観に縛られて子どもを見ているだけですから、子どもは何も悪くないんです。例えば、古い価値観を簡単にいうと「学校で勉強して、名の通った大学に入って、有名企業に就職するのが1番の幸せ」みたいな感じです。子どもがそのような道を歩んでくれると親は安心ですよね。

けれども、子どもの感情を無視してその価値観を押し付けていませんか?ってことです。そこに気づけないと、不登校になったお子さんはいつまでたっても動き出せません。

理子塾に入られた方の多くは、過去の私も含めて「そのままの子どもを見る」ことができないし、その意味すらわからない状態でした。子どもにも感情があって意思がある。子どもには子どもの人生があるという当たり前のことに気づかない親御さんが多いのです。これは、私自身の反省も込めての気づきですね。

KET理子塾で1番大切にしていることや、鈴木さんがサポートを続ける理由を教えてください。

鈴木:私が親子関係で悩んでいる親御さんたちをサポートするうえで最も大切にしているのは、まずは親御さんを受け容れることです。悩みの渦中にいる親御さんは「子どもを産まなければよかった」と泣きながら話される方もいます。たとえお子さんに対してひどい発言をしても、まずは一旦受け止めます。

親御さんの状態がよくないときに「子どもは何も悪くないですよ」って言ったところで理解できるわけありませんから。むしろ「やっぱり誰も助けてくれない」という絶望感を持たせてしまいかねません。

そのため、理子塾では親御さんのつらさや苦しみ、悲しみも全部受け止め、親御さんにとっての安心安全の場所にしています。そこを大切にしなければ、親御さんがお子さんを受け容れる気持ちにはたどりつきませんから。

同調ではなく、受け容れられたと体感すると、親御さんの笑顔が戻ってきます。その笑顔を見ると私は嬉しくて幸せになりますし、その向こうにいるお子さんの笑顔も想像できてさらに幸せを感じます。理子塾の卒業生が、お子さんとの旅行や、入学式、卒業式、成人式のときの写真を送ってくれると、本当にサポートしてよかったなぁってつくづく思いますね。

家族は最も小さな社会であり、最も大切な場所。家族関係がうまくいっていなければ幸福感は得られません。家族の笑顔を増やし、日本人の幸福感をもっともっと高めたい。これが私がサポートを続ける理由です。

子どもの心の土台を育て、親も自分の人生を歩んで幸せに

不登校のお子さんが復学したしないにかかわらず、ほとんどの受講生さんに変化があるのはなぜでしょう?KET理子塾とほかの不登校支援の違いを教えてください。

鈴木:元不登校の私の娘は、大学を卒業して今は就職しています。けれども、理子塾で学んだ方すべてのお子さんが、学校へ戻ったり就職したりしているわけではありません。理子塾で受講生さんに伝えているのは「子どもの心の土台を育てる」ってところです。2ヶ月、3ヶ月で学校に戻りますよっていうことではなく、時間をかけて土台を育てます。子どもの心の土台を育てていく過程で、学校に戻るお子さんもいます。しかし、復学自体を目標にはしていません。心の土台がしっかりしていれば、必ず人間は動き出しますから。

土台を育てるとは、例えば木の根っこを思い浮かべてください。木の根っこがひょろひょろだと強い風が吹くと倒れてしまいます。けれども、土の中で根っこがしっかり張っていれば、木の幹は太くなりたくさんの枝が伸び、綺麗な花が咲きます。根っこがしっかりしていれば、親という添え木がなくても、将来は自分でしっかり立って生きていけるんです。

先ほども申し上げましたが、理子塾で学んでいくうちに「不登校は子どもの問題ではない」と、だんだん腑に落ちてきます。自分の内面を見つめ直す意味がわかった親御さんはどんどん変化していきますね。そして笑顔が増えます。お子さんが学校へ行っても行かなくても「そのままの子どもを見る」ことができるようになって、親御さんの心も軽くなっていきます。

理子塾は、短期間で目に見える成果を出すようなやり方ではありません。子どもたちが将来自立して生きていけるように、心の土台をしっかりと育てるのを優先しています。

KET理子塾だけではなく、育児経験を活かして子育てに悩む親御さんを導くコーチの育成や、起業のサポートと幅広く活躍されています。今後の活動軸として何に重点をおいていくのか、これからの展望や予想図を聞かせてください。

鈴木:理子塾を立ち上げて、もうすぐ10期目がスタートします。受講生は毎回増え続けています。受講生が増えるのは、経営者として喜ばしいかもしれません。しかし、家族関係に悩んでいる親御さんがこんなにもいるのかと思うと複雑な心境にもなりますね。

コーチの育成や起業のサポートをしているのは、サポートできる人材が足りていないと感じているから。親子関係に悩む親御さんが増えている現状を知って「家族に笑顔を取り戻す」活動をしていくことを考えると、私1人では限りがあります。サポートできる人材がもっともっと必要で、増やしていきたい想いがあります。 不登校かどうかにかかわらず、幸せな子どもたちが増えてほしい。幸せな子どもを増やすためには、まず大人を幸せにしなければいけないと強く思います。幸せって、今幸せを感じている人から広がっていきます。「幸せが伝播する」といわれているように、幸せな人からどんどん伝わっていくんですね。

自分の幸せを後回しにしている人や「いつか幸せになろう」と思って今幸せを感じていない人からは、残念ながら伝わりません。幸せが伝播する法則があるのなら、子育てをしている親御さん自身が、今幸せだと感じられたらそれでいいんですよ。親も自分の人生を楽しんで幸せになる。その幸せな親の姿を見て、子どもは子どもで勝手に幸せを見つけていきますから。

不登校や摂食障がい、引きこもりで悩んでいる親御さんたちだけではなく、すそ野を広げて幸せな大人をもっともっと増やしたいと考えています。そんな野望があります(笑)。

ネットで検索すれば、不登校についてたくさんの情報が得られます。あふれるほどの情報から、何を信じていけばいいのか迷子になっている親御さんも多いかもしれません。そのような方に向けて、メッセージがありましたらお願いします。

鈴木:今現在お子さんの不登校で悩んでいる親御さんに伝えたいのは、早く学校に戻そうとしないこと。時間をかけてでも、子どもの心の土台を育てるのが何よりも大事です。土台がしっかり育てば、お子さんが自分で自分の未来を切り拓いていけます。そこから、学校へいくか行かないかはお子さんの選択です。

ネット検索すれば、不登校の情報がたくさん目に入ってきます。中3や高3のお子さんがいる親御さんは、やはり焦ってしまう。「なんとかしなきゃ!」という気持ちは間違ってはいません。しかし、無理に学校へ行かそうとすると逆効果になります。

「北風と太陽」のお話で例えると、強制すると反発を招いてお子さんは動き出しません。けれども自主性を尊重すればうまくいきます。このままだと子どもが引きこもりになるかもしれないと心配になったり、8050問題がちらついたりするかもしれません。でも、そういった親の不安をなくすために強制して学校へ行かせても、結局長続きはしません。何より、親子関係がどんどん悪くなる一方です。

大事なのは、子どもの心の土台を作ることです。根っこをしっかり張るってことを、これからもお伝えしていきたいですね。親御さんが焦らずに、子どもの心の土台をしっかりと育てることに目を向ければ、やがてお子さんは自分の道を見つけて進んでいきます。

※本記事はcokiでも掲載されています。

鈴木理子さん

◎プロフィール 鈴木 理子 一般社団法人 家族心理サポート協会 代表理事 慶應義塾大学文学部卒業 日本航空株式会社に国際線客室乗務員として入社し、約8年間乗務したのち退社 夫の転勤に伴いシンガポールへ 帰国後は日本語講師、研修講師として15年間で延べ約2万人以上をサポート 2022年7月 株式会社ファミリータイズ設立(個人事業主として2017年1月~) 「家族に笑顔を取り戻すKET理子塾」主宰 <保有資格> ・国家資格キャリアコンサルタント ・全米NLP協会認定NLPトレーナー ・ABH米国催眠協会認定マスターヒプノセラピスト ・タッド・ジェームスカンパニー認定タイムラインセラピー・マスタープラクティショナー ・エグゼクティブコーチング協会認定マインドフルネスコーチ ・一般社団法人やわらかセールスコーチ協会認定マスタートレーナー ・日本国際教育支援協会認定日本語講師 <書籍>鈴木理子 著(2021年8月出版)不登校は子どもからの「メッセージ」