「誰でも簡単に」で広がる新しいコミュニケーション AI解析でメンタルヘルスケアにも活用 ~リモートウェル株式会社 澤孟澄氏に聞く
コロナ禍でオンラインコミュニケーションツールが普及し、時間や場所の制約を超えて対話ができるようになった。ビデオ接客ツール開発のリモートウェル株式会社は、「誰でもすぐ繋がる」をコンセプトに、QRコード読み込みだけですぐに利用できるコミュニケーションサービスを事業の柱にする。人の表情や言葉の抑揚などをAIが解析し、メンタルヘルスケアに役立てるサービスにも注力する。2度の事業転換を経て、今の事業に成長可能性を見出したリモートウェル代表の澤孟澄氏に事業内容と今後の展望を聞いた。
15歳の単身渡英で変化したマインドセット
――15歳の時に単身渡英し、イギリスの高校と大学を卒業しました。渡英を決めたきっかけは何だったのでしょうか。
私自身は日本で育ちましたが両親が香港出身で、小さい時から英語力をつけたいと思っていました。当時は日本の中高一貫校に在籍していましたが、環境を大きく変えたいと思い、留学を決めました。
イギリスのクラスメートは国籍やバックグラウンドが多様で大きな刺激を受けました。
私は両親が事業を営んでいたこともあり、子どもの時から起業に関心があったため、経済や数学を選択していました。寮のルームメートの英国人はファッションデザイナーを目指していてコンピューターグラフィックや生地などの素材を学ぶ科目を選択していました。日本の学校では「今からそんなに選択肢を狭めて大丈夫なの?」と言われそうですが、英国では皆が将来の目標に向かって突き進んでいたことが印象的でした。
帰国後の起業で直面したカベ
――大学卒業後に帰国して、すぐ起業したのですか。
起業はしましたが、すぐに今の事業を立ち上げたわけではなく紆余曲折がありました。最初は当時まだ日本ではなじみが薄かったオンラインサロンを米国から取り入れるサービスを始めました。サロンを活用し日本のファッションアーティストに作品発表の場を提供したのですが、うまくいきませんでした。今振り返ると本当にアーティストがほしいサービスを作っていなかったのだと思います。この失敗からお客さまの声に耳を傾けることの大切さを学び、今に生かしています。
次は京都の宿泊施設向けのDX支援をしました。2019年のことです。家族経営のような小規模な旅館やホテルから引き合いが多く、波に乗っていた矢先、コロナが直撃します。当時は複数の旅館やホテルのチェックイン・チェックアウトを遠隔でまとめて行い、リモートでコミュニケーションをとれるツールを開発していました。それが今のリモートウェルの土台になっています。2021年6月にリモートウェルを立ち上げました。
QRコード読み込みだけで通話可能に 自治体も移住相談に活用
――リモートウェルのサービスの特徴は何でしょうか。
当社のサービスは「誰でも簡単にすぐ繋がる」をコンセプトにしています。オンラインコミュニケーションツールは数多くありますが、多くがアプリのインストールや、ミーティングURLを発行する必要があります。
当社のツールはQRコードを読み込むだけで簡単に通話を始めることができることが大きな特徴です。現在は保険代理店や不動産会社といったBtoC企業で多数利用されています。配置薬(置き薬)販売を行っている製薬会社では、薬箱にQRコードを貼り付け、顧客とのやり取りに使っています。
自治体との連携も進めていて群馬県高崎市にもサービスを提供しています。高崎市では移住希望者との面談などで使っています。
ビジネスからファンミーティングまで 新機能の中身とは?
――新しいサービスも増えています。
リモートウェルと平行して、新たに、インフルエンサーやコンサルタント向けの1on1オンラインコミュニケーションツールで、ユーザーが自分の時間を『販売』できるオンライン通話サービス「Cropa」を7月より開始しました。例えばタレントやアーティストがファンミーティングイベントを企画するとします。参加したい人は即時決済で、すぐにイベントに参加できます。その場で延長などの手続きも可能です。LINEとも連携し、配信者とユーザーの間でやり取りができます。
Cropaは現在、1日2000人ほどが利用していて、コンサルタントや弁護士などとの面談や、タレントのファンミーティングなどで活用されています。意外なところでは占いでもよく使われているんです。当社にとっては、利用者の決済手数料収入などが収益源になります。
――今後、どんな分野に注力していきますか。
今進めていることは、コミュニケーションツールで蓄積したデータの解析です。話している人の表情やしぐさ、声や話し方を解析することで、人の感情やコンディションを可視化します。リアルタイムで解析することで、相手がどう感じているのかが分かり、話し方や抑揚を変えることでより円滑なコミュニケーションにつながります。採用面接や営業といった多くの場面で活用されることを想定しています。
さらにこの機能を従業員のメンタルヘルスケアとしても提案したいと考えています。コロナ禍で在宅勤務が増え、従業員の心身の変化が見えにくいという課題があります。そこでリモートウェルでリアルタイム解析したコンディションデータを従業員ごとに蓄積し、AIが数値化することで、メンタルケアが必要な従業員に対して適切なケアにつなげる一助にしてほしいです。近日中にプロトタイプを作成し、今秋にはローンチする計画です。
2022年6月には総額約2.4億円の資金調達を行いました。調達資金でコミュニケーションデータのAI解析の開発や、ビデオ接客ツールであるリモートウェルの機能拡充や導入企業の拡大を進めます。