日本の物流倉庫を変える ロボット工学技術者の秘策とは ラピュタロボティクス モーハナラージャ・ガジャン氏に聞く
「マシンとマシンをつなげ、人々の生活を豊かにする」を企業理念として、ロボティクスプラットフォームを開発するラピュタロボティクス(東京都江東区)。少子高齢化が進む日本で、物流倉庫の業務効率化につながるピッキングロボットや、人工知能(AI)を活用し複数のロボットのシステムを連携するクラウド技術を提供する。複数の大手物流会社が導入し、注目されている。代表取締役CEOのモーハナラージャ・ガジャン氏に、起業の経緯や強み、今後の展望について聞いた。
東工大でロボット工学を専攻 「倉庫現場の負担を減らしたい」
――起業の経緯を教えてください。なぜ日本市場を選んだのでしょうか。
私はスリランカ出身で高校卒業後、ロボットを勉強するために、2001年に文部科学省の奨学金で、来日しました。当時、スリランカでは内戦が長期化していました。福岡県の久留米高専で学んだ後、東京工業大学でロボット工学を専攻し、学士と修士をとりました。
その後、より専門的な技術を学ぶためにスイス連邦工科大学チューリッヒ校に進学し、博士号をとりました。在学中にロボット間で情報をやり取りし共有する「RoboEarth(ロボアース)」というシステム開発に参画しました。これはEUのプロジェクトで、ロボットの頭脳をクラウドで共有するためのプラットフォームです。
このテーマを世界に広げたいと考え、東工大で一緒に学んだスリランカ出身のクリシナムルティ・アルル(Arudchelvan Krishnamoorthy)氏と2014年にラピュタロボティクスを設立しました。少子高齢化が進む日本は、製造業などで人手不足が深刻な課題になっています。ロボットで効率化し現場の負担を減らしたいという思いがあります。
――物流倉庫で商品のピッキング作業を行うアシストロボットを2020年に日本で商用化しました。
意外に思うかもしれませんが、ロボットプラットフォームを標榜する会社は日本にはほとんどありません。グローバルでも数社ほどで、多くがスタートアップで黎明期です。
工場内で製品の組み立てや加工といった作業を行う産業用ロボットは発展しています。ですが現状では単純な繰り返し作業がまだまだ多い。ピッキングの現場で人が行う作業は、繰り返し作業は実は少ない。複雑な作業に対応するロボットはまだまだ発展途上です。
ロボットが多いと言われる製造業でも日本では100人に対して3台未満と言われています。物流の現場ではもっと少ない。それに大規模な設備投資ができるのは一部の大企業に限られています。中小企業を含め小規模な現場にも、複雑な作業に対応できるロボットを活用してほしいと考えています。
1時間あたりのピッキング数が約2倍に 従業員の負担も軽減
――「ラピュタPA-AMR」(以下ラピュタAMR)は、倉庫内のピッキング補助をするロボットです。強みは何でしょうか。
ポイントは既存の倉庫でオペレーションを止めずに導入できる点です。一般的にはロボットなどを導入するには、導線を設計するために大がかりな工事が必要で、高いハードルになっています。ラピュタAMRはハードウエアに依存せずに柔軟に対応できるのが大きな特徴です。
倉庫では従業員がピッキングカートを押しながら、巨大な倉庫の中を回り製品をカートに入れるため、移動距離が長く非常に時間がかかるという課題を抱えています。ラピュタAMRはオーダーを分けて複数のコンテナに割り当てたり、スタッフにどの場所に行けば、商品があるかを伝えたりします。
また、複数のロボットを同時制御するAIが、緊急の出荷要請が入っても優先順位を設定します。どのロボットにアサインすれば最適な動きができるのかを瞬時に決めるので、慌てることもありません。
――ラピュタAMRは日本通運など複数の大手物流会社で導入されています。どんな成果が出ているのでしょうか。
ある物流会社の倉庫では、これまで従業員2~3人で担当していたピッキングを、1人とロボットで完結できるようになりました。さらに1時間あたりのピッキング数が約2倍になり、生産性が大幅に向上しました。ロボットの画面に必要な情報が表示されるのでハンディを持ちながらの作業も不要になります。
別の会社ではピッキングから梱包作業まで全て従業員が行っていました。ラピュタAMRを導入後は、商品に合うサイズの段ボールを選び、商品棚の前まで移動し、従業員が商品を投入できるため、梱包にかかる負担が軽減しました。繁忙期の効率的な運用や、倉庫内のリードタイムの短縮につながっています。
サブスクモデルで目安の価格は1カ月で約10万円ですが、5人ほどで作業する小規模な現場でも対応できます。今まで「ロボットが遠い」と思っていた中小企業にも使ってほしい。
2022年は営業人員を拡充 コンサルにも注力
――これまで計約40億円を資金調達し、プラットフォーム開発や、パートナー開拓の費用に充てています。事業が成長する中で、採用も重要になってくるかと思いますが、採用戦略について教えてください。
東京では主にロボティクスの開発をしていますが、インドにも開発拠点を置き、コンピューターサイエンス関連の研究開発に注力しています。コロナ禍で移動が制限されているので、オンライン面談で世界中からのエンジニア採用にも力を入れています。今は全社で約20カ国から約140人のメンバーが参画しています。
ロボット導入社数が増えているので、2022年は営業メンバーを増やし、マーケティングも強化します。単なる営業ではなく、課題をヒアリングして解決策を一緒に考えるコンサルティングにも注力したい。また、海外に事業を広げるために米国で市場調査も始めました。イベントなどで顧客との接点を増やしていきます。
売り上げは非公開ですが、2022年は1000台販売を目標にしています。
――今後、どんな開発に力を入れますか。
AIを活用した「ラピュタio」の群制御技術は、どのメーカーのロボットにも搭載できる点が強みです。当社のソフトウエアだけ使えば、最適化したソリューションを組むことができます。パートナーと製品開発を進めます。
2021年12月に国立研究開発法人エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業に採択されました。群制御の技術を応用させて、自動運転のフォークリフトの開発を進めています。これは倉庫や建築現場での導入を想定しています。
自社で技術を持ち、ロボットは日本国内で製造している点も強みです。物流倉庫のDX化は世界の共通課題です。まだまだ伸びしろのあるロボット技術を活用し、最適化したプラットフォームを開発していきます。
(ライター・中田るい)