予約管理システムのエビソルが描く、アフターコロナの飲食店 田中宏彰代表に聞く
コロナ禍で打撃を受けた飲食業界ですが、感染者数が減り、営業時間の短縮や酒類提供制限の要請が解除され客足は上向き始めました。飲食店の予約管理システムを手掛けるエビソルは、ネット予約の情報をリアルタイムで登録する「ebica(エビカ)」のサービスを拡充、飲食店の機会損失のリスクを減らしています。田中宏彰代表にアフターコロナの戦略と展望を聞きました。
飲食店スタッフに代わり、自動で予約受付
――消費者の行動が「ネットで調べて電話で予約する」というスタイルから「ネットで予約」という形に変わり始めています。
「サービスを立ち上げた2011年当初、ネット予約は全体のたった5%でした。当時は『リクエスト予約』という形で、ネットで予約をした後に店から折り返し電話がきて、初めて予約が成立していたんです。だからネット予約の意味がほとんどありませんでした。
転換点はスマートフォンやタブレットなどデバイスの性能の向上と、Wi-Fiの普及です。消費者の飲食店の探し方が大きく変わりました。雑誌で調べて予約するという消費者の行動が下火になり、ネット予約が一気に広がったのです。
とはいえ、ネット予約は今も4割程度。ネット予約がわれわれのビジネスチャンスでもあるので、この比率を高めていきます」
――ネット予約サービス「ebica」の内容について教えてください。
「飲食店のスタッフに代わって、予約管理を自動化するデータベースを提供しています。『食べログ』や『ぐるなび』といった日本のほぼ全てのグルメサイトが、当社システムの空席状況をリアルタイムで確認し、予約できるかどうかを判断します。複数のグルメサイトと提携する大手チェーンを中心に1万店舗以上の飲食店に利用していただいています。
開店前ギリギリの時間帯に全てのグルメサイトに全席開放してもダブルブッキングしないことが強みです。椅子取りゲームをリアルタイムで自動化するというとイメージしやすいと思います」
複数のグルメサイト導入で、集客効率が向上
――予約サービスを導入する前の飲食店はどのような運用だったのでしょう。
「飲食店側は1つのグルメサイトしか使えませんでした。複数のグルメサイトを使うと、二重予約のリスクが大きかったからです。スタッフが見逃すなどの人為的なミスも少なくありませんでした。しかし、これでは飲食店側の機会損失につながりかねません。もしかしたら、使っているA社のグルメサイトよりも、B社のほうがユーザーの受けがいいという可能性もあります。
『ebica』を導入し複数のグルメサイトを使うことで、こうしたリスクを減らすことができ集客効率が上がります。自社サイトがある場合は、新規はグルメサイトから、常連さんは自社サイトからなど異なった入り口から集客することもできます」
――前職は人材業界ですが、起業のきっかけは何だったのでしょうか。
「もともとインテリジェンス(現・パーソルキャリア)で人材採用という角度からさまざまな業種、業態の企業支援をしてきました。インテリジェンスではネットマーケティングを長期で担当し、採用業務のデジタル化を進めました。当時からアナログサービスをコンテンツ化してネットにエントリーさせることが得意でした。インテリジェンスでの人材採用というアプローチを生かしながら、飲食店のマーケティングをトータルで支援するサービスを作りたかったのです。
日本の飲食サービスは世界的にも競争力が高い。今はコロナ禍でインバウンドが止まっていますが、外国人観光客に日本を紹介する時にキラーコンテンツになるのが食事だと思っています。飲食店のマーケティングを効率化し、各店舗が自力でできるようなサービスを立ち上げたいと思っていました。
インターネット予約は、宿泊や交通の分野ではネット黎明期から始まっていたサービスです。ヤフートラベルや楽天トラベルが代表的な例です。一方、飲食業界は同じホスピタリティー産業であるにもかかわらず、デジタル化が進んでいない業界でした。旅行で交通や宿泊と並んで大事なのは食事のはず。でも、食事だけが体験コンテンツがアナログだったので、変えたいと思ったことが起業の理由です」
コロナ禍で飲食店が休業 「Go To Eat」が追い風に
――コロナ禍で飲食業界は大きな影響を受けました。貴社にはどのような影響があったのでしょうか。
「昨年春の緊急事態宣言の時は、飲食店が休業して厳しい状態でした。『(ebica)の利用料金が払えない』と契約する飲食店からの相談もあったほどです。お世話になっている飲食店に役に立てることはないか考え、ベトナムの開発チームがテークアウトの仕組みを作るなど、できることをひたすらやりました。
追い風になったのは昨年10月の『Go To Eat』キャンペーンの時。主要グルメサイトでポイントが付与される仕組みで、これまでグルメサイトを使ったことのない地方の飲食店の利用が急増しました。昨年10月の予約総数は前月比1.7倍に増え、ネット予約が電話予約を逆転しました。
また、飲食店の1店舗あたりの週次の予約数を見ると、5社のグルメサイトを使った場合、1社だけのサイトよりも約3.4倍予約件数が多いことが分かりました。使うサイト数に比例して予約件数が伸びました」
AIの電話予約サービスもスタート 予約業務を網羅
――他社とはどう差別化を図っていますか。
「事前予約はネットに移行しているものの、気が向いて店に行こうとする人の場合、直接店舗に電話をするケースがほとんどです。そこで昨年、人工知能(AI)を使った電話予約サービス『AIレセプション』の提供をスタートさせました。
LINEの電話応対AIサービス『LINE AiCall』の仕組みを活用し、AIスタッフがオンライン上で『ebica』と連携し空席情報の確認や予約まで行います。電話予約の対応漏れも防ぐことができ、スタッフの業務効率化につながります。ネット予約、電話予約も一元管理できるようになり、予約業務が全て網羅できるようになりました。コロナ禍での進化だと思っています」
――会社が成長していく中で、採用戦略はどう描いていますか。
「創業当時からこだわっているのが多様な人材を採用すること。男性、女性とも同じ比率で採用して、エンジニアとセールスマーケティング(営業)も同数、中途採用もしますが新卒も1期目から採用しています。社員は100人弱ですが、開発、営業のマネージャーも子どもがいる女性です。多様な人材がそれぞれの強みを生かせる環境で働くことが、ベストだと考えています」
――飲食店の時短営業も解除され、徐々に明るい兆しが出ています。中長期の戦略をどう描きますか。
「環境が激変する中でどう方針を打ち出すかが重要になってきます。グルメサイトもPayPayグルメがスタートするなど、変化が大きい。すぐに飲食店に客足が戻るとは思っていませんが、コミュニケーションの場である飲食店やサービスがなくなることはありません。
一方、高齢化や人口減少が進む中で、飲食店はオーバーストア状態です。コロナ禍の前から課題でしたが、年間で約3000万人もの外国人観光客が訪れていたため問題が先伸ばしになっていました。業界全体で考えていかなければなりません。当社は今、海外のグルメサイトのプラットフォーマーと提携を加速しています。インバウンドが復活した時に、来日した人が母国のグルメサイトを使い、日本の飲食店を探し、予約ができる体制を整えたいと思っています。外国人観光客に良質な体験をしてもらい、日本の飲食店を世界に発信していきたいと思っています」
株式会社エビソル 会社概要
所在地: 東京都渋谷区恵比寿4-5-27 パティオクアトロ3F
代表者: 代表取締役 田中 宏彰
設立日: 2011年10月20日
資本金: 59,746,500円(資本準備金含む302,619,500円)
事業内容:飲食OMO事業、インバウンド事業、グローバル事業