ユーグレナ由来の国産燃料、空の脱炭素へ一歩 ユーグレナ社が描く未来
世界で初めて微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に成功した東大発のバイオベンチャー、ユーグレナ社。ユーグレナはワカメやコンブと同じ「藻」の仲間で、培養方法によって体内により多く油をつくることができる。同社は今年6月、このユーグレナや使用済み食用油などを原料にしたバイオジェット燃料によるフライトを実現、「空の脱炭素」へ一歩を踏み出した。バイオ燃料事業の責任者、尾立維博執行役員エネルギーカンパニー長に商用化への意気込みを聞いた。
ホンダジェットエリートで鹿児島~羽田間をフライト
―今年6月、ユーグレナ社のバイジェット燃料「サステオ」を使った2回のフライトを成功させました。
「6月29日、プライベートジェット機「HondaJet Elite(ホンダジェットエリート)」で鹿児島空港から羽田空港まで約90分間飛行しました。プライベートジェットを共同所有する千葉功太郎さんたちの協力を得て実現しました。ジェット燃料は、使用済み食用油と微細藻類ユーグレナを原料として製造しており、石油系燃料と混合して提供しました。
また、このフライトに先駆け6月4日、国土交通省が保有する飛行検査機『サイテーションCJ4』にもバイオジェット燃料を使いました。羽田空港から米子で飛行検査を行い、中部国際空港まで計約2時間半のフライトでした」
―今回のフライトにはどんな狙いがあるのでしょうか。
「欧州から世界に広がった『飛び恥』という言葉を聞いたことがありますか。旅客機の輸送量当たりのCO2排出量の多さに異を唱えた言葉です。旅客機(ボーイング787-8)で東京~ロンドン間を往復すると約170キロリットルの化石由来燃料が必要と言われています。環境に配慮したバイオジェット燃料に切り替え、「飛び恥」ではない状態で旅行を楽しんでほしい。ただ、今はバイオジェット燃料の生産量が少なく、化石由来と比べると価格が高くなるという課題があります。当社の横浜の実証プラントで作る燃料は、1リットルあたりの売値が1万円ほど。化石由来燃料の約100倍と言えばイメージしやすいと思います」
―確かに価格差は大きいですね。
「国内で普及させるためには、私たちのビジョンに共感してもらうことが大事だと考えています。今秋から流行や先端技術に敏感な『アーリーアダプター』に向けて個人利用サービスを始める計画です。例えば九州の自然に触れるために旅行へ行く時に、バイオジェット燃料を使ったプライベートジェットで目的地に向かい自然を愛でる、というストーリーがある旅ができると思います。私たちのコスト削減の努力次第ですが、将来的には旅客機にも広がってほしいです」
横浜に実証プラント バスや運送車両などで導入進む
―環境負荷の抑制につながるため、世界でバイオ燃料の研究が進んでいます。ユーグレナ社はユーグレナを燃料にするという発想がユニークです。
「2005年に世界で初めて石垣島(沖縄県)で、ユーグレナの食用屋外大量培養技術を確立しました。ユーグレナにはビタミンやミネラルといった栄養素が豊富で、健康食品やスキンケア商品の加工・販売を行ってきました。また、ユーグレナは栄養素が高いだけではなく、培養方法によって体内により多く油をつくることができます。この油分を抽出して燃料の原料とするのです。
JX日鉱日石エネルギー、日立プラントテクノロジーとバイオジェット燃料の共同研究を発表したのが2010年5月です。研究は日本航空と全日本空輸の要望を受けてスタートしました。当時から温室効果ガスの排出量削減は、世界共通の課題でした。私は2016年にユーグレナの一員になったのですが正直、最初は『むちゃくちゃなことをやろうとする人たちだなあ』と思ったんです。でももし実現したらすごいことだし、商用化に貢献したいと思いました」
―2018年10月に約60億円を投じて横浜市鶴見区にバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントが竣工します。
「敷地面積約7800平方メートルの実証プラントでは、バイオジェット燃料や次世代バイオディーゼル燃料など年間で計125キロリットルを製造する能力があります。バイオ燃料は、原料を混合後、前処理、水熱処理、水素化処理、そして蒸留処理という工程で製造されます。まだ実証プラントなので、規模は大きくありません。ユーグレナでつくる燃料は本当に使えるのか、と思う方も少なくないでしょう。まずは皆さんに知ってもらうために、2020年にバスなどへのバイオディーゼル燃料の供給をスタート。今年8月末時点で、配送業者など約30社が導入しています。
また、実証プラントの完成を機に、当社では横浜市、千代田化工建設、伊藤忠エネクス、いすゞ自動車、全日空、ひろ自連をサポーターとして、「日本をバイオ燃料先進国にする」ことを目指す『GREEN OIL JAPAN(グリーンオイルジャパン)』を宣言しました。陸、海、空の乗り物にバイオ燃料を導入することを目標に掲げると同時に、日本をバイオ燃料の先進国にすることを目指しています。現在『GREEN OIL JAPAN』に賛同してくださっているサポーターは40社を超えています。」
2025年に商業プラント完成目指す 市場創出に期待
―商用化に向けたコスト削減について、具体的な計画はありますか。
「2025年の商業プラントの完成に向けて、国内外で立地選定を進めています。23年ごろには着工したい。商業プラントが完成すれば、バイオジェット燃料1リットルあたりの製造コストが100円台になり、2つぐらいケタが違う。一気に商用化への道が拓けます。
私たちが商用化することで『ユーグレナができるなら、自分たちもできるのでは』と大企業が燃料を生産し、新しい市場がつくれるのではという期待もあります。航空業界では2027年以降、国際線のCO2排出量を規制することで国際機関が合意しています。今後、バイオジェット燃料の需要は加速するでしょう」
―他に乗り越えなければならない課題はなんでしょうか。
「原料の調達が課題になります。今、バイオジェット燃料やバイオディーゼル燃料は使用済み食用油を主に使っていますが、使用済み食用油は使用した量に応じて出てくるのである意味では有限です。また使用済み食用油は、需要に対して供給量がそれほど多くなく、価格が高くなる傾向があります。そこで、私たちのオリジナルのテクノロジーであるユーグレナを大量に培養することが重要となります。並行して他の原料ソースがないのかも探していきます」
できるはずがない」と言われたことが実現 商用化を加速
―事業展開についてはどう考えますか。
「当社はバイオマスの5Fという考え方で事業を展開しています。バイオマスとは再生可能な生物由来の有機性資源のことです。5Fは、5つの頭文字をピラミッド型に並べたもので、重量単価が高い順に上からFood(食料)、Fiber(繊維)、Feed(飼料)、Fertilizer(肥料)、Fuel(燃料)としています。重量単価が高い食料から順に事業を展開することで、バイオマスの生産コスト低減と利用可能性の拡大を推進する、という事業戦略です。今はヘルスケア事業(食料)で収益を得ながらバイオ燃料の開発を進めています。ユーグレナから作った飼料や肥料などの研究も進めています。」
―温暖化対策は待ったなしです。今後の展望は。
「ユーグレナを原料の一部としてバイオ燃料をつくる。10年前『できるわけはない』と言われていたことが現実になっています。課題をクリアしながらバイオ燃料の商用化を加速させたい。
また、大量生産してコストダウンするなど企業としての努力は継続しますが、国の支援も必要です。税制面での優遇など支援を働きかけていきたいと思っています」