不良品を合格品に生まれ変わらせる バフ屋小林研磨の研磨技術のすごさとは
見渡す限り田んぼや畑が広がり、春にはあちらこちらで国の天然記念物にも指定されているヤマザクラが咲き乱れる。そんな茨城県桜川市の片田舎に、小規模ながら凄腕をもつ研磨屋がいる。それが有限会社小林研磨だ。
同社では、量産品は他社に任せ、小ロットや一点ものの研磨を請け負うことにこだわる。そのほか、検品であえなく不良品になってしまった製品に手を入れ、良品に生まれ変わらせることも得意だ。そんな同社の代表取締役 小林衛輝氏に、同社の研磨技術のすごさについて語ってもらった。
プレス加工も研磨もできる研磨業者を目指した
小林研磨は、バフを使った研磨「バフ研磨」を行っている会社である。バフとは、金属の表面仕上げに使う綿やフェルトのことだ。約50年前、小林氏の父親が小林研磨の前身である小林製作所を創業し、家族で研磨業を営んでいた。小林氏はその2代目だ。創業当初はカメラの研磨を主に手掛けていたが、やがてカメラの素材がプラスチックにとってかわられたこともあり、研磨業は廃業してプレス加工業に移行。以来、小林氏が20歳になる頃までプレス業をしていた。
ちょうどその頃、小林氏は仕事中に大けがを負い、入院することになる。入院中にテレビを何気なく見ていると、ちょうど研磨業を取り上げた番組が放送されていた。研磨業に従事する職人がどんどん減っているというのだ。その事例として、新潟県燕市にある研磨業を営む工場の様子が映し出されていた。
「テレビを見ながら、あらためて『研磨って何だろう?研磨で何ができるだろう?』と考えたんです。僕は子どもの頃からずっと研磨をしている親父の姿を見てきました。だから「プレスも研磨も両方できます」と打ち出して、プレス屋にいながら研磨の仕事も取ろうかなと思いついたんです」
退院後、社名を小林製作所から有限会社小林研磨と変え、研磨の仕事を請け負うようになった。しかし、最初はどん底だった。さまざまな企業に営業に回ったが、20歳そこそこの若造を相手にしてくれるところなどどこにもない。どの企業にも門前払いされる日々が続いた。しかし、小林氏はあきらめず、ひたすら研磨の腕を磨き続けた。父親が一度閉じてしまった研磨業を再開し、本格的に軌道に乗せられた頃には30歳を過ぎていた。
ちょうどその頃、携帯電話が出始める。携帯電話が出始めて3年ほど経った頃、たまたま「携帯電話とデジカメの研磨をやってみないか」と引き合いが来たので、挑戦してみることにした。もともと父親がカメラの研磨をやっていたこともあって、できるのではないかと思ったのだ。父親には「カメラは精密で難しいから手を出すな」と反対され、実際に失敗を重ねたものの、持ち前の不屈の精神で創意工夫をこらし、独自の仕上げ方でスムーズにできるようになる。最初は茨城県内のメーカー2社から請け負っていたが、半年ほどたつと携帯電話・デジカメ以外にもさまざまな依頼が舞い込むようになっていった。
リーマンショックを転機にステンレス研磨へ
携帯電話やデジカメの案件があったおかげでリーマンショックが起きた頃も何とか持ちこたえたが、研磨業界では安い仕事を業界内で取り合うことが続いていた。もともと研磨業界は、外注を使うことはあるものの、基本的に夫婦2人で6~8畳の小さな部屋で仕事を請け負うのが昔から当たり前のスタイルだった。それを知っているからこそ、大手は「1日これくらい稼ぎがあれば生活できるだろう」と安く買いたたいてくるので、報酬もなかなか上がらない。
そこで、小林氏はステンレス磨きに目をつける。ステンレス磨きは材料費も高いが加工費も高いのだ。小林氏はそこから2年間設備投資を行い、近所から不良品のステンレス製品を譲り受けてきて、従業員にステンレス磨きの技術を習得させるため猛特訓をさせた。その甲斐あって、今はもう受注する仕事の8割がたがステンレス加工である。
そのうち、大手企業からも表面仕上げのサンプルを作ってくれというオファーが来るようになった。ところが、サンプルを200点以上作ったものの、正式な発注が来ない。自分が作ったサンプルを発注元企業が同業他社に持っていって「そんなに光沢を出さなくても、誰でもできるくらいの磨きでいいから、もっと安くできないか」と持ちかけたため、他社にすべて仕事を取られてしまったのだ。
しかし、ここであきらめないのが小林氏である。
「誰でもできるような研磨の仕事がよそに取られるんだったら、誰にも真似のできないクオリティーのサンプルを作ってやろうと決意したんです。そうしてたどり着いたのが、バフ目(磨きの跡)のない『目なし鏡面』と言われるものです。それも一時期他のところに持って行かれてしまったのですが、結局同業他社には真似ができず、うちに戻ってくるようになりました」
自信をつけた小林氏は、同業他社がやりたがらないような研磨の仕事を始めた。少ロットや1点ものの仕事でもイヤな顔ひとつせず進んで引き受ける。その噂を聞きつけた企業が、全国から小林氏のもとを訪れるようになった。秘密保持契約にかかわるのでホームページには載せられないが、小林氏をたずねたクライアントは、小林研磨の磨きの技術を目の当たりにして「こんなこともできるの?」と一様に驚く。
遠方から来たお客さんには「当日仕上げ」で対応も
小林氏は東京や大阪など、遠方から来るお客さんには、「当日仕上げ」で対応する。従業員には「これ今日持って帰ってもらうから、鏡面で仕上げて」と指示を出して、文字通りその日のうちに仕上げて持って帰ってもらうのだ。
「わざわざ遠くから来たお客さんをトンボ帰りさせてしまうと、そのお客さんが会社に戻ったときに『何しに行ったんだ』って怒られちゃうでしょ?だから3~4時間ほどいろんな話をしながら引き留めて、従業員が仕上げたものをその日に持ち帰ってもらうようにしています。そうするとお客さんもびっくりして『その日のうちに仕上げてくれる研磨やさんって初めてです』って言ってくれるんですよ」と小林氏は微笑む。
研磨の「その日仕上げ」には思わぬ副産物もあった。仕上がったサンプルを見ると、お客さんの中には「もう少し光沢を出せませんか」と要求してくる人もいる。小林氏もそういう要求を受けて、鏡のようなツヤ感の出る800番以上の鏡面用バフで仕上げて見せる。中には、2000番以上の非常に細かいバフで仕上げて見せたりすることもある。そうすればしめたものだ。お客さんが食いついてきて「ここまでできるのなら、ちがう製品でもできますよね?」と他の仕事もやらせてもらえるようになるからだ。そうして、販路を拡大していった。
塗装後に出た不良品を研磨の技術で良品に変える
また、最近新しい取り組みを始めた。それは、不良品を研磨の技術で合格品に変えることだ。小林氏によれば、アルミダイカスト製品を塗装したときの不良率がとても高いという。材料の加工に始まり、塗装・組み立てと最終段階まできたときに不良品が出ると、加工業者にとって今までかかった時間と費用が無駄になってしまい、相当なダメージになる。その上、不良品が増えると、それだけメーカーに対する赤伝処理も多くなり面倒だ。それを、小林研磨で引き取って良品に変えているのである。
「ダイカスト製品が不良品の山になってしまうと聞いたので、どうにかできないかと思って試しに1~2個持ち帰ってきて、表面仕上げとブラスト加工をしてみたらうまくいったんです。それから徐々にダイカスト製品の不良品を引き取るようになって、うちで仕上げをして検品に出したら、全部合格をもらえました。」と小林氏は自信を見せる。
最終的に加工した会社で不良品が出れば、そこまでの工程に至るまでに何かしらの問題があったとしても、発注者は当然その会社に対してクレームをつけてくる。それをどうにかしようと、小林氏はダイカスト屋や板金屋、塗装屋、メッキ屋などの仲間を集めて話し合い、近隣の工場とタッグを組み、一貫した生産ラインを組むことにしたのだ。自社で行う以外の工程を遠くの業者に依頼すると、自社で加工した品物をそこに運ぶだけで時間や人手が取られてしまう。だから近隣で加工をすべてまかなえるようにしたのだ。
小林氏は将来、ものづくり業界全体をもっと働き甲斐のあるものにしたいと熱く語る。
「僕はバフ研磨に汗を流す親父の背中を見て育ってきました。バフ研磨は一見地味で手も服も一日で真っ黒に汚れるような仕事ですが、研磨の世界はこれでOKという限界がなく、とても奥深いものです。僕は研磨業界に入ってすでに35年もたちましたが、これから先もまだまだ勉強し続けなければと思っています。研磨には、学歴も職歴も関係ありません。ものづくり業界全体をもっと働き甲斐を感じられる業界にして、ものづくりの楽しさや喜びをより多くの人に知ってもらいたいですね」
ものづくりの世界に「完璧」はない。
小林氏の研磨の技術・品質向上への挑戦はこれからもまだまだ続く。
【プロフィール】
小林 衛輝(こばやし えいき)
1965年(昭和45年)生まれ。茨城県桜川市出身。
プレス加工業を営む両親の影響で、子どもの頃からものづくりに興味を持つ。20歳の頃、プレス加工も研磨もできる会社として小林製作所を法人化し、名称も有限会社小林研磨へ変更する。以来、一点ものや小ロット製品の研磨加工や、アルミダイカスト製品で見られる不良品の再加工も手掛けている。
有限会社小林研磨
所在地:茨城県桜川市真壁町下谷貝57番地2
TEL&FAX:0296-54-0210
携帯電話:090-9374-6773(お問い合わせはこちらへ)
代表取締役:小林 衛輝
資本金:300万円
事業内容:
バフ研磨(ステンレス、アルミ、鉄、鋳物その他)
内径バフ鏡面
バフ鏡面仕上げ、ヘアライン
ブラスト仕上げ
設備:
バフレス 8台
エンドレス 3台
ベルト仕上げ用 5台
自動機 4台
ブラスト機 2台