個々の社員に合わせて カスタマイズされた教育サービスで 次世代リーダーを育成する 株式会社フィールドマネージメント・ ヒューマンリソースの試み
株式会社フィールドマネージメント・ヒューマンリソース 代表取締役 小林 傑氏
昨今は後継者が見つからず、困っている経営者は多い。日本政策金融公庫の調べによれば、中小企業で後継者が決まっている企業はわずかに12.5%しかない。また、現在後継者を探している企業は22%、自分の代で事業をやめるつもりという企業は52.6%にものぼる(※1)。経産省の試算では、後継者不足問題が解決されなければ、2025年までに約650万人の雇用と約22兆円分のGDPが失われるという(※2)。
そんな後継者不足に悩む企業に対し、リーダー育成のために社員一人ひとりにカスタマイズされた人材育成サービスを提供する会社が、株式会社フィールドマネージメント・ヒューマンリソースだ。同社の代表取締役 小林傑氏に、同社のサービスができた経緯や強みについてお話を伺った。
※1:日本政策金融公庫総合研究所「中小企業のうち後継者が決定している企業は12.5%、廃業を予定している企業は52.6%~「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」結果から~」<https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings200124.pdf>
※2:帝国データバンク「「後継者不在率」 低下傾向 2019 年は 65.2%、2 年連続低下 ~全年代で不在率低下、「60 代」は初めて 5 割を下回る~」<https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p191104.pdf>
1対1のフィードバックで、得た知識を実践で使えるように育てる
フィールドマネージメント・ヒューマンリソースは、組織づくりや人づくりに特化したコンサルティング会社だ。同社で行っている人材育成は、研修で学んだことを自分の仕事で実践し、定期的に1対1での面談を行って、その人が出した成果・アウトプットについてフィードバックやアドバイスをして修正してもらう、というサイクルを繰り返すことが特徴だ。得たスキルを仕事の中で実際に使い、落とし込んでいく感覚を磨いてもらうことを目的としている。
世の中には、階層別に一律で受ける研修コースも多い。ただ、1~2日で仕事に必要なことを学ぶことはできるかもしれないが、知ること・わかることと、その知識を落とし込んで実践で使えるようになることは全く別次元の話だ。
「シンプルな研修パッケージの商品を作って拡販したほうが、ずっとラクではあるんです。しかし、ほんとに大事なのは一人一人に合わせて、その人が身に着けたものを仕事の中で使えるようにして成長させていくこと。なので、僕たちはそちらに軸足を置いています。」と小林氏は力強く語る。
しかし、小林氏は社会人になりたての頃は全く異なる業界・業種の仕事で社会人生活をスタートさせる。そもそも、どのような経緯でこの一見手間暇のかかる非効率かつ難易度の高いビジネスを立ち上げたのか。
組織・人事領域の「成果が目に見えにくい」という課題
小林氏は、大学卒業後の2000年4月から、有名旅行代理店のJTBで営業や企画の仕事をしていた。しかし、その3年後の2003年、組織・人事領域のコンサルティングを行うリンクアンドモチベーションに転職する。リンクアンドモチベーションは、リクルートに勤めていたコンサルタント7人がスピンアウトして立ち上げたベンチャー企業。小林氏の入社当時は50人ほどの小さな会社だったが、のちに1000名を超える規模にまで成長を遂げる。小林氏はその中で最終的には大手企業向けの組織人事領域のコンサルティングをする部隊で執行役員まで登り詰めた。
リンクアンドモチベーションに飛び込んで8年ほど経ったある日、大学の同級生で現在株式会社フィールドマネージメントの代表取締役をつとめ並木裕太氏と出会う。そこで、当時外資戦略コンサルタントファームに勤めていた並木氏が、独立して経営コンサルティング会社を立ち上げるという話を耳にしたのだ。
並木氏から話を聞いてみると、コンサルタント側がクライアントに戦略的なアドバイスをしても、自分たちが思い描いていた戦略の10%ほどしか実現してもらえない、という悩みを抱えていた。ちょうどその頃、小林氏も、組織・人事領域はやりがいがあるものの、営業などと違って成果が見えにくいという悩みを抱えていたのだ。
「僕たちがビジョンや経営戦略を実現するための組織づくりや人づくりをサポートしても、トップや戦略が変わるとその内容もガラッと変わってしまうことがあるのが難点でした。なので、きちんと企業に価値を提供するためには、もう少し上流の戦略的なものとセットで組織や人づくりのサポートができればとずっと思っていたんです。並木と僕が一緒にやれば、上流から下流まで、戦略を描くところから、人を育てて組織として実行、ということが一気通貫でやれます。そうすれば、お客さんに対してより価値が出せるし、それが比較的目に見えるものになるのではないかと思ったんです」
そう考えた小林氏は、2011年に並木氏の立ち上げた株式会社フィールドマネージメントにジョインすることになったのだった。
リーダー育成に強みに持つFMHRを創業
はじめは、フィールドマネージメント内でマーケティングや新規事業開発等の戦略コンサルティングをしていた小林氏だが、しだいに組織や人づくりに特化した事業に注力したいと考えるようになる。
そのきっかけは、ある大手航空会社でマーケティングをテーマにしたプロジェクトを手掛けたことだ。戦略をつくるだけでなく、その戦略を組織内で実行できるようにするという戦略と組織と育成をセットにしたプロジェクトがあった。そこで中心的な役割を果たしていたプロジェクトメンバー達が、プロジェクト期間1年のうちにみるみる成長を遂げたのを目の当たりにしたのだ。
「中心となって関わっていた方から、『今までこんなに仕事が楽しいと感じたことはなかった。ありがとう!』というお声をいただいたんです。それは、前職時代にいただいていた感謝の言葉とは、全く温度感が異なるものでした。この経験から、戦略から人や組織づくりまでをセットにして一気通貫でやることはやはり価値があるんだ、と確かな手ごたえを感じました」と小林氏は当時を振り返る。
これをきっかけに、組織人事や特にリーダー育成に注力した部門をあらためて立ち上げたほうがいいと判断した小林氏は、2015年1月、組織や人事領域だけのコンサルティング会社であるフィールドマネージメント・ヒューマンリソースを立ち上げ、代表に就任した。
企業経営者に「実践するコンサル」と認知されたい
小林氏が自ら会社を立ち上げたのはもうひとつ理由がある。自分が机上の空論に頼るのではなく、「実践するコンサル」であることを対外的に証明するためだ。企業経営者からすれば、企業経営をしたことのない人間にどんなに正論を言われても、「経営もしたこ とがないのに何がわかるんだ」と思われるだろう。目標は、社員が経営者の経験をもち、なおかつコンサルティングもできるという、〝経営経験×スキル〟を併せ持つハイブリッド型のコンサルタント集団になることだ。
経営の経験をしてもらおうと、フィールドマネージメントグループ全体でいろんな事業を自分たちで立ち上げ、社内起業の機会を提供している。たとえば、ジムを経営したり、スポーツチームを経営したりする者もいる。
小林氏が、立ち上げた会社で自らトップとなって採用活動も行い、自分で組織や人事領域のサービスも作ってきた理由はここにある。
「自分で組織を作って組織経営していることで、クライアントはこちらが行うアドバイスに納得しやすくなります。また、グループ会社で戦略のコンサルティングも行っているので、戦略を立てるところから実行するところまでのサービスを一気通貫で提供できる会社として、他社と差別化を図ることができるのです」と小林氏は熱く語ってくれた。
後継者候補のリーダーシップ育成にも一役買う存在になる
日本の企業の99%を占める中小企業の経営者が目下困っているのが、後継者候補探しである。跡継ぎがいなくて困っているところも多い上に、オーナー企業ではトップダウン型の経営を行っていることも多いため、自らリーダーシップを発揮して部下を引っ張っていくという経験を積んでいない社員も少なくない。しかし、社員の中でリーダーシップをもって企業を存続させてくれるような人物をしっかり見極め、個々の業務内容や能力に合わせた手厚い教育をしていかなければ、本当のリーダーが育たない、と小林氏は警鐘を鳴らす。
「時代環境がめまぐるしく変わる中では、もっと自ら考えて新しいことに取り組み、経営を動かしていくような新しいリーダーが増えていかなければ企業が生き残っていくことは難しいでしょう。そのためには、個々にフォーカスした次世代リーダーの育成を目的とした教育が不可欠です。だからこそ、僕たちのような1対1でフィードバックしたりアドバイスをしたりするサービスが役に立つのです。今後は、オンライン上で個別フィードバックするなど様々な方法でクライアントをフォローすることで、より自分たちの強みを磨いてとがらせていきたいと思っています」
SNS広告が個人の趣味嗜好に合わせて出てくるように、次世代のリーダーを育成するには、個々の能力や課題に合わせてカスタマイズされた人材育成が欠かせない。しかし、今の日本の企業では部下の育成が人事評価の対象にならず、熱心に取り組もうという気持ちにならない幹部社員も多いだろう。しかし、誰かがアドバイスやフィードバックしない限り、社内で育成されるべき人が育たない。その役割を、今後はフィールドマネージメント・ヒューマンリソースが担っていくのかもしれない。
プロフィール
小林 傑(こばやし すぐる)氏…1977年生まれ。神奈川県出身。2000年に慶應義塾大学を卒業後、日本交通公社に入社。2003年にリンクアンドモチベーションに転職。執行役員として組織⼈事コンサルティングに従事した後、2011年、新機軸の経営コンサルティングファームであるフィールドマネージメントに参画し、マネージングディレクターを務める。2015年、同社のグループ会社として、組織・人事領域を主軸とするフィールドマネージメント・ヒューマンリソースを設立し代表取締役に就任。
株式会社フィールドマネージメント・ヒューマンリソース
設立:2015年1月27日
所在地:東京都渋谷区神宮前5-7-20 神宮前太田ビル5F
WEB:http://fmhr.co.jp/
事業内容:組織開発・人材育成