障がい者の法定雇用率を確保するためのブレイクスルーをこの会社は持っている。今、多くの企業が悩むこの問題に、「1人でも多くの障がい者雇用を創出し、社会に貢献する」という理念を持って立ち向かっているその会社、株式会社エスプールプラス。その思いについて、和田一紀社長に伺った。

法定雇用率問題を農業で解決する

株式会社エスプールプラスは、障がいのある方の就労支援と企業向け貸し農園の経営を行っている会社だ。 今、日本の多くの企業が直面している問題が、「障がい者の雇用の促進等に関する法律」に基づく法定雇用率だ。この率は一般の民間企業では2.2%(平成30年から)というもので、令和3年4月までにさらに0.1%上乗せされる。

これを達成していない企業には多額の納付金が課せられる。その額は不足人数に対して1ヶ月5万円。無視できない数字だ。

各企業は当然、この目標を達成したい。しかし「障がい者をどのように採用すればいいのか」「どう対応すればいいのか」「どんな仕事を与えればいいのか」という現場レベルの壁にぶつかってしまう。

「それを解決するのが弊社です。弊社では企業の要望する人数に応じて障がいのある方々を紹介し、企業に採用してもらいます。しかし彼らが働くのはその企業のオフィスではなく、弊社の持つ安全、清潔に整備された、障がいのある方へ配慮された農園です。そこでやりがいを持って農業に取り組んでもらうのです」

その仕組みはこうだ。

企業は株式会社エスプールプラスが所有する農園や施設を参画企業がレンタルし、そこで参画企業が自社で雇用した障がい者に農業をしてもらうのだ。

農業や障がい者の雇用継続をサポートするスタッフは、株式会社エスプールプラスが用意している。

「障がいのあるスタッフの皆さんには企業の社員として農園で農作業をしてもらっています。企業は法定雇用率を確保することもできますし、彼らに配慮された職場を提供することもできる。彼らを雇用したい企業と働きたい障がいのある方々の課題を解決することが弊社です。」

 

障がい者雇用には社会的意義がある

なぜ、和田社長はこの業態に注目したのだろうか。

「弊社は2010年の設立です。雇用機会に恵まれない方へビジネスを創り出すというエスプールグループの指針から『障がい者×農業』に元々注目していました。スタート時は、ただ単に障がい者の方々に農業の仕事を提供し、そこで収穫できた作物で収益を生み出す、というだけでした。しかし農家の方の生産力は圧倒的で、到底太刀打ちできない。障がいのある方が作った野菜ということで買ってくれる人もいましたが、利益としては微々たるもの。それでしばらくは赤字続きでした」

そのような状態だったので、創業期から私が責任者として事業を運営していましたが、社内からも事業の撤退を求める声が大きかった。 だが障がいのある人々にも人並に稼ぎ、暮らしたい人々が大勢いる。彼らに職を与えるという大事な社会的意義があった。

「今でこそ少しは良くなりましたが、当時は知的障がいのある20人のうち1人がやっと最低賃金程度の給料を得ている、という状況でした。彼ら彼女らの多くが、収入がない状態だった」

現在日本には、身体障害が436万人、知的障害が108万2千人、精神障害が392万4千人いるとされている(内閣府調べ、2018年)。そのうちの一定数の割合の人々が経済的に困窮している。

特に知的障害に関してはその多くが生来のもので、就学しても特別クラス・特別支援学校で他の生徒と分けられて毎日を過ごす。成人後も一般的に企業に入社するのは難しく、各地域に設けられている障がい者地域作業所などで仕事を貰い、僅かな所得を得ている。

このような経済状況ではずっと親元で生活するより他なく、結婚もできず、生涯を1人で過ごすことになる。

「しかし彼らの中にも働きたい、自立して生活したいと思っている人々は沢山いるのです。彼らにもチャンスは与えられるべきです」

 

社会が彼らを必要としている

和田社長はその思いの下、この事業を軌道に乗せるためのために走り回った。しかし当時はまだ障がい者雇用への理解も少なく「雇うくらいなら納付金を払ったほうがいい」という企業も多くあったという。

「今はそういった企業も少なくなりました。東日本大震災の後、日本からITバブル以来覆われていた『儲けられればいい、儲けた者勝ち』といった風潮が消え、人の繋がり・絆といった思いを大事にするようになった。『雇用を創出する』『社会に何か貢献できる事業をする』ことに目を向けるようになったと思います」

それでも困難はつきまとう。2014年にあった大雪では当時運営した農園のハウスが概ね倒壊、甚大な被害を受けた。また2019年秋に立て続けに来た台風も施設に大きな傷跡を残した。

「それでも、撤退などは考えていません。農業に天災はつきもの。だからそのリスクを常に想定してバックアップを準備しています。働いている障がいのある人々の人生も生活もかかっています。だから逃げることはできません。この『逃げない』『継続する』という姿勢が、この事業には大切だと感じています」

農園では1400人ほどの障がいのある方々が就労しているが、彼らの収入は格段に向上し、今では自立し、結婚する者も現れるようになった。

また、この企業理念とビジネスモデルは自治体からも注目され、さいたま市を始めとして愛知県豊明市・みよし市・春日井市・東海市など、数多くの自治体と提携関係を結んでいる。

「障がいのある方々はなかなか自分から情報を集めて就職しよう、とは思ってくれない。それは今までの社会が彼らを差別し封じ込めてきたからだと思います。しかしこれからは彼らの活躍できる場を、自治体と企業が協力して提供していかなければなりませんし、寧ろ彼らが必要とされている。弊社がその間の橋渡しをしていけたらいいですね」

 

雇用支援のリーディングカンパニーを目指す

元々は農業にも障がいのある方にも縁はなかった、と言う和田社長は、なぜこの事業に熱中するようになったのだろうか。

「私は株式会社リクルートを退社し、2006年にハワイでフリーペーパーの経営に副社長として参画しました。そこが軌道に乗った後、改めて自分がこれから何ができるのか、を考えるようになった。34歳の時です」

社長をやってみたい、社会に何か貢献できる事業をしたい、という思いを胸に日本に帰国した和田社長が知り合ったのが、エスプールグループの浦上会長だった。

恩師の紹介を通して、浦上会長と知り合い事業責任者のオファーを受けた。

事業開始当時は赤字が続いたが、収支は就任3期目にやっと黒字に。そしてやっと今、大きな成果を見せ始めている。

障がい者と企業、そして自治体を巻き込んで株式会社エスプールプラスはさらに飛躍しようとしている。

「もっと様々な障がいのある方々へもチャンスを提供できるようになっていきたい。目指しているのは雇用支援のリーティングカンパニーです」と話す和田社長の目には、社会という大きな相手に対している自信が漲っている。

 

和田一紀

大阪府出身。1996年株式会社リクルートに入社後、求人事業に従事。その後フリー誌「ホットペッパー」の立ち上げに参加。2006年株式会社リクルートを退社、ハワイで日本人観光客向けフリー誌の副社長として経営に携わりハワイ市場にて売上高1位、マーケットシェア1位に押し上げる。2011年にエスプールグループ浦上会長と出会い、株式会社エスプールプラス社長に就任。

株式会社エスプールプラス

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