2014年に第2次安倍改造内閣の目玉政策として始まった地方創生の第1期が2019年度で終了する。この政策パッケージは 各自治体が人口ビジョンに基づく地方版総合戦略を策定し、過度に大都市圏に転出超過になっている状況を、転入転出が均衡する水準まで持って行こうとする、非常に野心的な取り組みだった。しかしながら、実際には地方から都市部の大学に通う若者を地元への就職を機に引き戻したり、地方に興味があるビジネスパーソンが現在の都市での仕事を辞めて、地方に移り住むことは容易ではないなどの理由から未達成に終わる見込みである。

そこで、第1期の政策を見直し2020年から始まる第2期地方創生で注目されているのが、「関係人口の拡大」という施策なのである。現在発表されている第2期地方創生基本方針(まち・ひと・しごと創生基本方針2019)の中には、都市にいながら副業で地方を支援できるといった形態を可能とし、徐々に関係者を増やし、将来的に地方移住につなげていこうという戦術が描かれている。丁度この流れの中で、株式会社みらいワークスは都市部のプロフェッショナル人材の地方企業への副業マッチングを行うために、株式会社groovesとの合弁会社、スキルシフトを設立すると発表した。もともと起業の動機となっていた「日本を元気にしたい」を理念として、地方創生に取り組みたいと考えていたみらいワークス代表岡本氏に、なぜ今のタイミングなのか話を聞いた。

 

スキルシフト設立の狙い

 

-まずはスキルシフトとはどんな事業なのでしょうか?

 

岡本:スキルシフトは、都市部のプロフェッショナル人材等と、人手不足の地方の中小企業を副業でマッチングさせる仕組みです。この背景には、まずは地方の厳しい現実があります。帝国データバンクの発表によると、2015年以降人手不足による倒産が増えているとの話がありますが、特に地方企業においてはその課題は深刻です。そのような中、政府は地方創生の次のステージとして、2020~2024年に将来的な地方移住にもつながる「関係人口※」の創出・拡大を施策の一つと位置づけています。

 

地方の実態としては、人手不足といっても数の面もありますが、質の面も見逃せません。地方中小企業では、特に現状を打開するための新規事業やマーケティングなどの人材が不足しており、こういったニーズに丁寧に答えたいというのが今回の合弁会社設立の狙いの一つになります。

 

※関係人口とは:移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のこと。

 

出所:「総務省 地域への新しい入り口『関係人口』ポータルサイト」 http://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/

 

-現状スキルシフトに登録されている案件にはどのようなものがあるのでしょうか?

 

岡本:例えば、次のようなもので、月額3~5万の副業案件が多いですね。

 

例1)民泊のマーケティング支援

案件的な、高圧ガスの製造販売ならびに機械工具の販売を営んでおります。今回、新規事業で「簡易宿泊所」を2020年2月2日にOPENします。そのマーケティング運営に関わるサポートをお願いします。

 

募集条件・スキル

宿泊・観光に関わる経験のある方。SNSの活用に詳しい方。

 

例2)めだかの販促

弊社は観賞用「長州夢めだか」の生産、販売をしております。近年、メディアに取り上げられる機会が多く、急速に人気の高まっている「長州夢めだか」を首都圏エリアへ販売促進できる方をお待ちしています。

 

募集条件・スキル

首都圏での販売促進経験者、低コストにて市場開拓された方。

 

例3)木製品の商品開発

長年、顧客のオーダーに沿った木製品の商品づくりを行ってきましたが、自社ブランドでの新たな商品づくりに取り組みたいと考えています。ユニークな商品作りのアイデアやご経験をお持ちの方、ぜひご応募ください!

 

募集条件・スキル

新規の商品作りの業務経験をお持ちの方。木製品が好きな方は尚歓迎。

 

このように地方ではなかなか見つからない人材へのニーズが強いです。

 

 

みらいワークス岡本氏としての地方創生への思い

 

-地方創生政策でまさに関係人口増加の方針が出て、今、事業環境は整ってきているように見えますが、もともと地方創生は岡本社長にとっては非常に思い入れの深い事業だったのでは?

 

岡本:20代の前半には外資系コンサル会社に勤務をしたり、趣味で海外旅行をするなかで、どちらかといえば目は外を向いていました。ところが、30歳を前にしたあたりから、人生において自身は何をやっていくべきなのか振り返ったとき、むしろ、日本人としてのアイデンティティを強く意識するようになりました。日本人としてのアイデンティティを何か考える時には、やはり47道府県全部回ったほうがよいと思い、実際に全部回ってみました。

 

地方に行くほど、さらにまたその田舎に行くほど、想像以上に良いものがあります。それぞれの地域は歴史、文化、人、食といったあらゆる面で奥深く魅力に満ちたものでした。一方では、経済的に廃れていく様子が鮮明に見える。これは、今から12、3年前のことですから、今ではもっと深刻化していることでしょう。当時でさえシャッター商店街があたりまえの状況がありましたからね。

 

資本主義社会だから、こういった競争がおきるのは当たり前かもしれませんが、一方でロードサイドの大型店だけが繁盛している状況に非常に違和感がありました。そこで、資本主義は変えられないとしても、日本の良さを生かしながら、経済活性化をやれる方法はないのかとずっと考えていました。そこから、「日本を元気にしたい」と言う今の企業理念につながるテーマが出てきたのです。

 

ただ、当初は自分自身で地方の中小企業をコンサルして元気にしていくと考えていていましたが、地方の会社では東京ものがきても相手にしてくれないという実態もありました。そうこうするうちに、リーマンショックがきて自分自身が食べていくのに必死な状況に陥りました。いつかやりたいと思いながらも、やり方もわからない上に、あきらめざるを得ない状況だったわけです。

 

しかし、徐々にプロフェッショナル人材に仕事を提供するみらいワークスのビジネスモデルが出来ていく中で、日本の未来のためにプロフェッショナル人材が挑戦するエコシステムというビジョンが見えてきたのです。

 

-今ここで、地方創生に踏み出すことは時代の流れが来ているという認識でしょうか?

 

 

 

岡本:我々が考えていたプロフェッショナル人材が活躍し日本を元気にするといったエコシステムの考え方に、だんだんと時代が寄ってきているように感じています。まずは、安倍政権がフリーランスを活用しましょうという政策を政権として打ち出し、フリーランスが世の中で認められてきたという状況があります。また、高度プロフェッショナル人材政策によって、プロフェッショナル人材といった存在も認知されるようになりました。そして、働き方改革の政策により、通常の雇用者の副業も解禁となり、スキルをもった人材が、雇用形態にかかわらず活躍していく、我々が描いた世界観に近づいてきた。

 

考え始めたときは、絵空事に近かったものが実現が可能となってきたということです。ようやく、みらいワークスとしても収益をあげ、市場を作り、上場もすることで軸が定まってきましたし、いよいよやりたかったことに着手する条件が整ったかなかなと思っています。

 

 

地方創生に関わりたいフリーランスのニーズを満たすためでもある事業

-登録しているフリーランスの方々にはどのように見えているのでしょうか?

 

岡本:地方企業がプロフェッショナル人材のスキルを活かしたいというニーズを持つと同時に、フリーランスサイドの地方創生に関わりたいというニーズも強いのです。

 

みらいワークスのビジネスモデルの原型は、我々が仕事を作り出しフリーランスに仕事をパスするというものでした。その時、仕事を紹介するにあたっては、適性なマッチングの観点から、フリーランスの方が何をやりたいのか聞いたほうがよいと思い、一人一人インタビューして聞いてみたら、概ね3つのタイプに分かれたのです。

 

その1つが地方創生に関わりたいでした。2つ目が中小ベンチャー企業支援そして、3つめが海外とのつながりの強化、つまりインバウンド、アウトバウンドの仕事です。先述の企業理念にもつながる話ですが、この3つともどれも日本を元気にする仕事だったのです。

 

ただ、自分でやってみてわかったことでもありますが、いくら地方を元気にしたいと言っても、社会貢献的な仕事だけでは食べていけません。地方創生をライフワークとするならばライスワークが必要となってくるのです。

 

順序として、今まで登録者に対してやってきたのはライスワークとしてお金を稼ぐ手段を提供していく現ビジネスモデルとなっているもの。これからは、やりたいことをやりながら、生活水準も確保できるポートフォリオを組んでいく働き方もあるのではないかと思います。このようなライフワークすらも応援できるような存在になっていきたいです。

 

このように、もともとやりたかった地方創生であり、いろんなアイデア自体はあったのですが、スタートに踏み切ったのは今回groovesとの出会いが大きいです。

 

 

groovesとの出会いによって地方創生への思いが具現化

 

-groovesとの出会いの経緯は?

 

岡本:もともとスキルシフトの事業は知っていましたが、直接的には我々が協賛する総務省の「異能vationプログラム※」での出会いがきっかけとなりました。

(※ICT分野において破壊的な地球規模の価値創造を生み出すために、大いなる可能性がある奇想天外でアンビシャスな技術課題への挑戦を目的とする)

 

このコンテストでgroovesがエントリーに入っていて、我々が賞を出したことを機に接点を持つようになりました。地方×副業と言うこの業態は、地方で困っている中小企業を助けるとともに、みらいワークスに登録いただいているプロ人材にも地方創生に関わるきっかけをつくることができるようになる。また、国が関係人口増加を打ち出していて、社会的にも取り組む意義がある。先方からも、みらいワークスと組むともっと伸ばせると感じてもらえたようです。そこで、合弁会社をつくって本格的に両者で力をいれていこうとなりました。

 

-連携によるシナジーはどのようなものがあるのでしょうか?

 

岡本:groovesはもともと地方自治体や地域金融機関とのパイプをもっているのでそれらを活かすことができます。具体的には現在、北海道石狩市、岩手県八幡平市、千葉県銚子市、富山県南砺市、岐阜県恵那市。また地域金融機関では、山口フィナンシャルグループ、しののめ信用金庫、銚子信用金庫といった、地域金融機関との連携も進んでいます。

 

みらいワークスとしては、仕事が作れるということが最大の強みでもあり、実際に中小企業が副業をどう切り出すかといったとき仕事を創出することができます。そして、もとより中小企業の課題解決ができるスキルの高いフリーコンサルタントには多数登録いただいています。

 

みらいワークスのコンサルタントとして、フルコミットということももちろんありますが、自身がコンサルとして独自営業し、仕事を持っている状況があって、その時例えば2割が埋まってないと言った場合に穴埋めにもなります。

 

最近は、地方にも変化があり危機感が高まってきたことで、よそ者を入れないという考えから、受け入れるスタンスに変わってきました。起業時から日本を元気にするために地方創生に関わるという思いをもっていたものが、世の中の流れもあり、groovesとの出会いがあって、ようやくスタートできたので今後は地方創生事業をますます加速化していきたいと考えています。

 

 

 

<プロフィール>

 

≪株式会社みらいワークスの概要≫

・本社所在地 : 東京都港区

・代表者 : 代表取締役社長 岡本祥治

・設立 : 2012年3月

・資本金 : 200,270千円(2019年6月30日時点)

・URL : https://mirai-works.co.jp

・事業内容 : プロ人材に特化したビジネスマッチング及び転職支援 「日本のみらいの為に挑戦する人を増やす」の経営理念の下、独立・起業・副業・転職をワンストッ プで提供するプラットフォームとして、プロフェッショナル人材に特化したビジネスマッチングサービスおよび転職支援事業を展開。2017年12月に東証マザーズに上場。登録プロフェッシ ョナル人材9,500名(2019年9月末時点)、クライアント数460社(2019年9月末時点)。

 

≪株式会社groovesの概要≫

・本社所在地 : 東京都港区

・代表者 : 代表取締役 池見幸浩

・設立 : 2004年3月

・資本金 : 851,327千円(資本準備金含む)

・URL : https://www.grooves.com/

・事業内容 : インターネットを活用した総合人材サービス業 創業から一貫して「より良い未来への「きっかけ」を提供する」ことをミッションに、人材領域にお いて事業を展開。「働くヒトの未来を創る”ワークシフトインフラ”の構築」を実現する、人材採用 プラットフォーム等を運営。

 

≪合弁会社の概要≫

・会社名 : 株式会社スキルシフト

・URL :https://www.skill-shift.com/

・本社所在地 : 東京都港区

・代表者名 : 代表取締役社長 岡本祥治 (株式会社みらいワークス 代表取締役社長)

・事業内容 : 地方中小企業と都心部で働く人材のビジネスマッチングサービス

・設立年月日 : 2019年10月1日

・資本金 (資本準備金含む) : 20,000千円

・出資比率 : 株式会社みらいワークス 80.1%、株式会社grooves 19.9%

・決算期 : 9月