対前年比で売り上げ倍増も!? SECエレベーター絶好調
SECエレベーター株式会社 ‐ 対前年比で売り上げ倍増も!? SECエレベーター絶好調
◆取材:綿抜幹夫 /撮影:周鉄鷹
SECエレベーター株式会社/代表取締役会長兼CEO 鈴木孝夫氏
上げ潮に乗って体制強化も着々
破竹の勢いとはこのことだ。アベノミクス効果でもあるまいが、今期の売上高が上半期を終えたこの11月末時点で、前年度の通期実績を、ほぼ確保したのではないかと見られているのだ。独立系企業としては業界最大手のSECエレベーター(東京台東区)である。
高経年化による既設機のリニューアル需要が堅調に推移していることと、マンションやビルの着工件数が、リーマンショック(2008年)以前の水準にまで持ち直したという背景もあってのことではあるが、それにしてもこの伸び率は半端でない。
そこで同社の創業者であり、会長(CEO)の鈴木孝夫氏に話を聞いた。なるほど。それにはそれだけの理由が、確かにあった。
ビッグネームというだけでは顧客は安心も満足もしない
SECエレベーターと聞いても、よくは知らないという読者もおいでだろうから、まずは同社の基本情報を簡単に紹介しておきたい。
元プロボクシング世界チャンピオンの、具志堅用高氏がTVCMをやっているといえば、(はは~ん、あの会社か)と頷かれる向きは少なくあるまい。北海道から沖縄県まで、全国に合わせて160拠点のサービス網を持ち、製造販売から保守管理、リニューアルまで、エレベーターとエレベーター周りの設備のことなら、すべてお任せという総合エレベーター会社である。約1000人のエンジニアを擁し、全国で常時約4万機の保守管理を請け負っている。
これは三菱電機ビルテクノサービス、日立ビルシステム、東芝エレベーターに次ぐ業界4位、または5位に相当する規模であり、内容と言っていい。ちなみに資本金は20億円で、売上高はここ数年、130億円程度で推移している。その売上高が今期は、なんと倍増しようかという勢いだから驚く他あるまい。
「とにかく忙しいですよ。なんと言ってもエレベーターのリニューアル需要が急増していますから。現に前期は、前々期に比べて4割増でしたし、今期もすでにそのくらいの伸び率にはなっていると思います。
理由はやはり、既設機の高経年化ですね。1980年代までに設置されたモノはほとんどがその対象になりますし、それ以降に設置されたモノでも、ダブルブレーキの未装着など安全装置が十分でないケースが少なからずありましてね。
それが2009年の法改正や、ここ数年の防災意識の高まりもあって、言わばプチリニューアルに繋がっているというわけです。それらを合わせると毎年15,000機ほどの需要がありましてね、それを三菱さん以下の5~6社が競い合って、受注しているというのが今のこの業界の実情です。
その意味ではウチだけでなく、他社もこのところは相当忙しくしているんじゃないでしょうか」(鈴木氏、以下同)
とまれ三菱以下、並みいるビッグネームを相手に受注競争を勝ち抜くのは、そう容易ではあるまい。しかし鈴木氏は、とくに気負うこともなく、「あくまでこれは目標ですが、全需要の1割、つまり1500件くらいは毎年ウチが受注したいと思っていますし、現にできると思いますよ」と言う。その根拠は何か。
「これはリニューアルに限ったことではありませんが、受注できるかどうかを握る鍵は、まずは何をさて置いても安全性・安心度ですよ。これが相当高いレベルで担保されていないと、受注など覚束ないと思っています。
次が価格ですね。顧客にとって安全性と安心度、それに機能性などが同じ程度だったら、少しでも割安感のあるほうを選ぶに決まっているじゃないですか。あと一つは、それが顧客にとって省エネとか、エコロジーにどう繋がるかという問題ですね。
確かにビッグネームにはビッグネームの強みもあるでしょうけど、今の顧客は目が肥えていますからね、それだけでは安心も満足も全然しないと思いますよ。だって超一流とされるホテルのメニューが偽装されていたり、日本を代表するメガバンクが、違法な融資を平気でやっちゃう時代ですから(笑い)」
至極もっともだ。
ビルやマンションを丸ごと安全かつクリーンに
要するに安全性と安心度、価格、省エネとエコロジー性については、どんなビッグネームにも引けは取らない、というのが氏の言う1割の根拠である。そこで価格については後述するとして、少しくその他の4つの鍵について、話をしておきたい。
まずは安全性だ。2009年の法改正で、新設のエレベーターに二重ブレーキが義務付けられたのは周知の通りだが、業界に先駆けて、その必要性を逸早く唱えていたのが誰あろう、実はこの鈴木氏である。現にSECが製造し、設置したエレベーターには、すべて独自に開発した「〝2〟ダブルブレーキ」(つまりは4重化ブレーキ)が装着されている。
早い話が氏は、エレベーターの安全の追求についての草分け的存在であり、誰よりも深く真摯に取り組んできたという意味では、この分野のオーソリティーと言っていい。ちなみにちょうど1年前の金沢市(アパホテル金沢駅前)のエレベーター死亡事故は、ブレーキが二重化さえされていれば、起きなかったというのが多くの専門家たちの見立てである。
次に安心度だが、先述したようにSECは全国に160拠点のネットワークを構築している。これは何か異常が発生したら、全国いつでもどこでも、30分以内に現場に駆け付けるという顧客との約束を厳守するためだ。言うまでもないが、エレベーターに限らず、車でも家でも家電でも、形のあるものはいつか必ず壊れるときがくる。
問題はそのときがくる前に、如何に点検をし、如何に兆候を見逃さず、如何に適切な手を打つかである。160拠点はまさにそのための基地であり、各基地に常駐するエンジニアたちは、法で定められた点検項目以外にも、多くの点検義務を自らに課しているという。もちろん創業以来43年間の長きに亘って培った、独自のノウハウが背景にあってのことだろう。
今一つは省エネ対策とエコロジーに向けた取り組みだ。実はすでに15年ほど前から始まっており、中心的役割を担っているのは新エネルギーサイエンス課なる部署である。
今では独自ブランドのLED照明器具や、太陽光発電装置やパネルなどを開発、年間約50億円の売上を計上するまでに成長しているという。先にエレベーターとエレベーター周りの設備はすべてお任せ、と書いたが、その意味もこれで少しはお分かりいただけたのではあるまいか。要するにエレベーターを柱にビルやマンションを丸ごと1棟、安全かつクリーンにする会社、それがSECというわけだ。
SECの今期の売上が飛躍的に伸びたのは、リニューアルだけでなく、新設エレベーターの受注がこれまでになく増えたことも、大きく影響していると氏は言う。
「ビルやマンションの着工件数が増えてきたのと並行して、ウチにも随分と引き合いがくるようになりましてね。去年までとは大違いですよ。とくにこの夏頃からはひっきりなしですから。もっとも(消費税の)増税前の駆け込み需要という色合いもありますから、そのあとの反動がちょっと心配ですけどね。ただしそれさえ乗り切れば、オリンピックとの関係もあってさらに伸びると思いますよ。こちらもリニューアル同様、毎年1万5000機ほどの需要が生まれると見込んでいます。
それに国内だけでなく、フィリピンやベトナム、シンガポールといった新興国の需要も、今後は急速に拡大すると思っていましてね。今、そのための体制強化を急ピッチで進めているところです」
事実上のワンマン執行部体制から4役員による新執行部体制へ
簡単に言うと、今後否応なく進むであろうグローバリゼーションを念頭に、創業以来続いてきた事実上のワンマン執行部体制を改め、各役員が権限と責任を分担し、それぞれがそれぞれの役割を全うすることで、より強い、新たな執行部体制を構築しようということだ。
「それに私も70歳になりましたからね。これからはいつ何があっても不思議じゃありません。一方会社は、多くの人の生活や将来がかかっていますから、私には存続させる責任があります。それを考えると、いつまでもひとりで会社を背負っているわけにはいかないということですよ」
これまた至極もっともである。とまれその第一弾は小誌既報(9月号=西村裕志当時専務の社長昇任)の通りだが、去る10月30日、今度はその第二弾として、関西支社支社長の高橋朋義氏が副社長に、九州支社長の稲森一幸氏が専務に昇任する人事案を正式に決めたという。
「今後は会長の私を含めたこの4人で執行部を構成し、さまざまな意思決定をすることになります。今後またいろいろと紆余曲折はあろうかと思いますが、取引先やメディアの皆さんには、温かく見守っていただきたいと心から願っています」
冒頭から述べているようにSECは今、文字通り破竹の勢いで、紛れもなく上げ潮に乗っている。その意味では新体制のスタートにとって、絶好の環境が整っていると言っていいだろう。
とまれ最後になってしまったが、前章で残しておいた今一つの受注の鍵、価格についての鈴木氏の考え方を紹介しておこう。
「価格設定をするときに、私の頭にいつもあるのは適正という言葉ですよ。冷静に、客観的に考えて、もっとも適正と思える価格を設定することです。ビジネスですから当たり前のことですが、しかしこの業界は、不当に高く設定する傾向が伝統的にあるんですよ。
私が業界に入った45年前は、なんとたった1回、僅か3~4時間の点検で、当時の技術者の1カ月分の給料に相当する価格だったそうですよ。当時はエレベーターを設置したメーカー系の子会社が、独占的に保守管理をやっていましたから、ユーザーは高いと思っても他に選択肢がないんです。仮に独立系の会社が保守管理をしようとしても、メーカーが部品を売らないから修理もできない。無茶苦茶な話ですよ。
そこで仕方なく公正取引委員会に訴え出たところ、何年もかかりましたけどようやく認められましてね。それがなかったら、競争原理も市場原理も働きませんから、ユーザーは未だ不当に高い保守管理費を支払わされていたと思いますよ。そんな歴史を乗り越えて今のSECがありますから、私は適正価格というものをいつも大切に考えているんです。
その結果、メーカー系の保守管理会社より低い価格設定になることはままありますが、とくに安く設定しているつもりは全くありません。あるのはくどいようですが適正価格。このひと言に尽きますね」
対前年度比で売上倍増もと囁かれているSECの飛躍的な伸び率の原動力は、既設機の高経年化や、ビル、マンションの着工件数の増加だけでは、けっしてないということである。
▼SECエレベーター株式会社の記事▼
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●「さあ登板だ! ~西村裕志新社長に訊く~ 感謝の心を自らの役割に替えて しっかり、着実に、皆さんの期待に応えたい」
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鈴木孝夫(すずき・たかお)氏…1943年生まれ。岩手県平泉町出身。東京電機大学を卒業と同時に、菱電サービス(現・三菱ビルテクノサービス)に入社。エレベーター関連の技術者として3年間勤務。1967年、同社の下請け事業主として東京杉並区を拠点に独立・創業する。1970年、有限会社鈴木エレベーター工業を設立(後に株式会社に改組)し、代表取締役社長に就任。1978年、株式会社SECエレベーター代表取締役社長に就任。2013年8月、新会社新エネルギーサイエンスを設立すると同時に、グループ全体を統括する代表取締役会長兼CEOに就任。
エス・イー・シー(SEC)エレベーター株式会社
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℡ 03-3833-1171
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