融通無碍(むげ)、といっていいだろう。

川口新郷工業団地協同組合(埼玉県/組合員事業所数84/石川義明理事長)が、今度の東日本大震災の被災者たちに向けて差し延べた手の、ユニークな形だ。実際に被災地を見、被災者の話を聞き、その上で「今、我々にできることは何か」を話し合い、組合員の希望や意見を集約して打ち出した、協組挙げての集団リクルーティングである。職と住居、暮らしをパックにして提供し、組合員事業所から募った義援金と積立金の一部をその財源としたところがミソで、早くも各方面から多くの共鳴と賛意の声が寄せられているという。同協組を率いる石川氏の話を中心に、詳しく報告しよう。

川口新郷工業団地協同組合  理事長 石川金属機工株式会社 代表取締役 石川義明氏

 

大儀は〝恩返し〟ボランティアというより共存共栄に向けたパートナーシップ

現在までに予定されている求人定員は、ビギナーの工員からベテランのエンジニアまで27~28人。すでに現地のハローワークや面接会場、バス会社などとの日程調整を終え、順次、福島県をはじめとした被災各地で合同の説明会・面接会も行われている。今後は会社見学、社宅など新しい住まいの確認、引越しと続き、順調に行けば7月中にも全員が新天地で再スタートを切る予定だ。その間にも所属する企業に新たな求人のニーズが生まれれば、随時、同じ手順を経て採用する。引越しや生活用品の購入、入居にかかる初期費用はすべて協組=企業側が負担し、その後の家賃も個々のケース次第だが一部を補填する手筈である。

 

財源には協組に集まった義援金と、積立金の一部を充てるという。繰り返すがこれがこの計画全体のミソ、つまり特色だ。一般的には、義援金は現地の行政機関、または赤十字社などを通じて被災者に配分される。それを自主活用しようというのだからそれ相応の大義が必要なのは言うまでもない。積立金も然りだ。本を質せば組合員企業ひとりひとりの〝血税〟である。やはりそれなりの大義が必要だろう。ではその大義とは何か。

 

「被災地から私どもに、大量の電力を安定して送り続けてきてくださった方々や、私どもの協力会社として部材や部品を作り、滞りなく送り続けてきてくださった方々への恩返しです」(石川氏・以下同)

ご案内の通り、川口市は日本一の産業集積率を誇るモノづくりの街である。新郷工業団地はそのシンボルといっていい。一方の福島県はその主要な電力源であり、部材工場のメッカだ。そんな関係から同協組は、大震災の発生直後、4トン車5台を連ねて物資の支援をしている。その過程で職員らが被災地をつぶさに見て回り、被災者や関係者らの話を目近で聞き、その結果を理事会に持ち帰ったところ、全会一致で今こそ恩返しすべきと決したというのだ。

 

「それも物資やお金といった当面だけの限定的な恩返しではなく、生業の立て直しとその継続に役立つ、将来を見据えた恩返しですね。そうするといずれまた、共存共栄でやっていける時代がくるじゃないですか」

 

となるとこれはもうボランティアというよりパートナーシップの域である。そのうえ義援金も全壊ならいくら、半壊ならいくらと一律に配分する公的機関より、よほどきめ細かで活きた使い方ができるというものだ。なるほど、これなら十分に大義は立つ。

 

とまれそれにはどうすればいいか。そのために今の同協組にできることは何か。それらを問い詰めていった結果が、要するに今回の集団リクルーティングだった、というわけだ。

 

84事業所を1つの大規模事業所とみなして電力の大口顧客契約

とはいっても街の一協同組合でやることだから、被災地全体から見れば残念ながら効果のほどは知れている。しかしこれが全国に広がるとどうなるか。ちなみに中小企業団体中央会の事業協同組合だけでも全国に約2万3000組合ある。少々乱暴な計算だが、その半分が10人ずつ被災地から採用しただけでも、ざっと11万人以上の被災者が再スタートを切ることができるのだ。ましてや大手を自認する企業の何割かが…と言いたいところだがそれは止めておこう。理由は言わずもがなだ。しかしせめてこの〝機に乗じる〟かのような撤退や海外逃亡だけは、絶対に避けてもらわねばなるまい。その理由ももちろん、言わずもがなである。

 

「ちょっとした意識改革で全国的に広がると思うんです。そのために我々も情報を発信しますが、行政にも頑張って力を入れて欲しいですね。もう少し認知が進むように」

 

閑話休題。

 

話の向きを川口新郷工業団地協同組合の集団リクルーティング計画に戻そう。そのきっかけや目的は前述した通りだが、やはりそれにはそれなりの下地があった、のも事実である。石川氏は〝恩返し〟という表現を用いたが、考えてみればそれもその筈で、同協組に限らず、日本のモノづくり企業は大量かつ安定した電力の供給によって、ここまで成長してきたといって過言ではないのだ。原発の是非はさておくとしても、その供給力だけは今後も維持してもらわなければ、経済そのものが立ち行かなくなるのは自明の理である。

 

ちなみに同協組の組合員企業は、最大でも従業員数60人くらいの中小企業、もしくは大手企業の支店または営業所だが、こと電力に関しては全事業所がいわゆる大口顧客、である。といってもそれぞれはとりたてて大量に電力を使っているわけではない。省電力機器やLEDを導入するなど、むしろ節電に積極的でさえある。それがなぜ大口顧客かというと、同協組が全84事業所をまとめて1つの大規模事業所とみなし、代表して東京電力と契約することで電力を一括購入し、配電しているからだ。これが同協組の主力事業で、安定した経営基盤とともに、組合員企業には電力を廉価で使えるほか、地球温暖化対策にも寄与できるなど、さまざまな恩恵をもたらしているという。

 

さらにいうと、今年(2月)は柏崎原発だったそうだが、同協組では毎年のように、全国の発電所の視察と研修を兼ねた組合員旅行を実施している。そんなこんなで、

 

「皆さんの電気に対する思いや節電意識はことのほか高いですね」

 

というわけだ。

 

環境の整備と保全には今後も全力注ぐ
都心から15キロの至近距離と多種多様な技術が強み

最後に、本稿の趣旨とは少々ズレるが、同協組の生い立ちと概要、今後の取り組みなどについて簡単に触れておきたい。モノづくりやその組合団体に関係する諸氏にとって、勝手ながら少なからず参考にはなろうと思うからである。

 

設立は1969年10月。その4年前に川口市が策定した、「川口市総合開発基本計画」に基づき、同市江戸袋周辺の土地(6万7000坪余り)が造成分譲され、国鉄(当時)川口駅東口周辺の商業・住居区域に混在していた鋳物工場や機械工場などモノづくりを中心とした多種多様な工場を糾合する形で発足している。前述した「共同受配電事業」がスタートしたのは1975年で、これによって安定した経営基盤を確立。以降、「駐車場の管理運営」や「高速道路大口多頻度割引制度の運営」ほか「福利厚生事業」、「外国人研修生らの受け入れ事業」など、さまざまな事業を展開してはいずれも成功させている。

 

中でも出色なのは「工業団地並びに周辺の環境整備保全事業・住工共生活動」で、とくに工業団地を取り囲むように整備された幅13メートル、周囲約1・8キロの緩衝緑地帯、「ゆうゆう歩道」は圧巻。今や周辺住民には欠かせない憩いの場ともなっており、また、4年前から始めた近隣住民・都民による住民参加型の「ばんばん祭(ざい)」と相まって、「住・工共生の都市型工業団地」を標榜する同協組としては、けだし面目躍如といったところだ。

 

これらは石川氏によると、

 

「都心から15キロの至近距離に位置していますし、市内唯一の工業専用地域です。その意味でも、環境の整備・保全と住工共生には今後も全力を注いていく所存です」

 

言うまでもないが、都心から15キロという利便性は受発注の上でも大きな強みだ。さらにいうと、同団地には伝統的なマイスター技術を擁した名工房から、世界でも最先端の設備を誇るハイテク工場まで、多種多様な企業群が共存している。というわけで、

 

「どんな注文にも、きちんとお応えできる体制が整っていると自負しています」

 

関心のある向きは、まずは同社ホームページをお訪ねありたい。

 

石川 義明(いしかわ・よしあき)

1952年生まれ。1975年、芝浦工大工業経営学科卒業。

 

川口新郷工業団地協同組合

〒334-0076埼玉県川口市本蓮4-3-38

TEL 048-285-1766

URL http://www.shingou.or.jp

 

石川金属機工株式会社

〒334-0075埼玉県川口市江戸袋2-2-18

TEL 048-285-2411

URL http://www.isikin.com/