鎌倉を拠点に結婚式の前撮りブランド「縁-enishi-鎌倉ウェディング」を展開する株式会社アバントの周鉄鷹さんが今年、新たな勲章を獲得した。今や世界が評価する彼女に、写真にとの向き合い方と信念を伺った。

 

 

WPPI初挑戦でゴールドメダル受賞

毎年2月にアメリカ・ラスベガスで開催されるWPPI(ウェディングアンドポートレートフォトグラファーズインターナショナル)は世界中からプロアマ問わず結婚式やポートレートの写真家や映画関係者が集う業界最大級のコンベンションだ。ここでは業界トップのフォトグラファーによるセミナーやワークショップの他、カメラメーカーの最新機器のプレゼンなども行われていて、今年で39回目という歴史を重ねている。

 

このコンベンションの中で特に業界関係者から注目を集めるのが、ウェディングフォトグラファーたちがその作品を競うフォトコンテストだ。そこには全世界から写真家3000人以上が参加し、審査員も40人以上、部門は40にもなる。

この「ウェディングフォトグラファーのアカデミー賞」ともいえるWPPIに初参加にもかかわらず出展9作品中5作品が入賞、2部門で3位、ゴールドメダルも受賞したのが、フォトグラファーにして株式会社アバント代表取締役の周鉄鷹さんだ。

 

 

「衣装は元より、撮影技術と写真に込められたストーリーを評価していただけた」と話すその受賞作品の一つは、厳しい甲冑に身を包んだ男性を後ろから見守る白無垢の花嫁、というもの。花嫁の手はその目もとに添えられ、流れる涙を隠しているようにも見える。

周さんの高い技術と作品性が、世界的にも評価されたということだが、周さんは「結婚式の前撮り写真は芸術作品である必要はない」と話す。それは何故か。

 

「完璧な一枚」を提供したい

 

周さんの撮影する結婚式の前撮り写真の大きな特長は、細部にまで行き届いたこだわりだ。

「衣装・ポーズ・背景・技術そしてストーリー……全てを含めて『完璧な一枚』をお客様にお渡ししたい。写真は良いのにポーズが合わないとか、衣装が崩れている、という写真ではダメです」

 

結婚式の前撮り写真は一生の想い出になる。10年後20年後に見ても「いい写真だね」と思ってもらえるものでなくてはならない。

中国などアジア圏では結婚式の前撮り写真の豪華なことが以前から日本でも取りだたされている。その価格は高いもので200万円にもなり、中国の写真スタジオでは各時代のセットが用意され、時には撮影のために遠隔の景勝地や海外まで足を伸ばすことがあるという。年間1000万組以上が結婚する中国の市場規模は16兆円以上とも推定され(日本の約8倍)、そのうち結婚写真には4分の1の費用がかけられているともいう(出典:東洋経済オンライン「中国の女性が結婚写真に世界一こだわる理由」)。

 

 

特に周さんのこだわりが感じられるのが、着物の写真だ。

「着物の柄には『意味』があります。それを身にまとった時、そしてちゃんとした着こなし・立ち振る舞いをした時に最も美しく見えるように織られている。そのルールに従って撮ってあげなければならない」

例えば、新婦の着る白無垢・色打掛を締めるのに使われる「おからげ」という紐。これは移動する際に衣装が着崩れることを防ぐためのもので、着けたまま撮影しているフォトグラファーも多い。しかし着けたままだと着物にシワが寄って柄が見えなくなってしまう。

 

「この『おからげ』が使われている理由は単純で、そのほうが手間がかからないから。しかし私は、衣装とそれを着る人が美しく見える事が何より優先。『おからげ』を使わずメイクのスタッフにも手伝ってもらい最も美しく見える状態にして撮影します」

メイクスタッフも、そういった和装のセオリーを熟知している人に頼んでいるのだが、衣装について人に任せることで周さんは撮影に集中することができる。カメラのセッティングやライティングに専念できた結果、より絵作りに専念できるという。

 

現在、結婚式での装いについては女性の6割以上がウェディングドレスを希望しているが、和装と両方着たいという人も3割ほどいて、仮にもう一度結婚式を挙げるなら?という質問にはほとんどが和装を選ぶという(ゼクシィ調べ)。実は結婚式で新婦の着る「引き振袖」は結婚式後には着ることができない。結婚の際にのみ着ることが許されている特別な衣装なのだ。

そんなルールのある和装の本来の美しさを際立たせる、周さんの写真へのこだわり。彼女の日本の伝統に対する強い思いがそこにはある。

 

外国人が日本で「伝統」を掲げるということ

 

周さんは中国の名門、魯迅美術学院を卒業後に来日し、東京学芸大学大学院でグラフィックデザインを学んだ。その後就職した映像制作会社でアルバムのデザインをしていた周さんは、そこの上司から写真撮影もしてもらいたいと言われカメラを手にすることになる。

「そうしているうちに長谷川敏雄先生というフォトグラファーの写真を見て衝撃を受けた。それで先生に弟子入りして本格的に写真を勉強することにしたのです」

「デザインも写真も基本は同じ。お客様に何を伝えたいか」と話す周さん。そこでの修行を経て独立、株式会社アバントを起業し2012年には代表取締役に就いた。

 

何故日本で起業したのだろうか?

少子化の進む日本より、圧倒的に巨大なマーケットを持つ中国のほうが先が明るいのではないだろうか。

 

「確かにそうです。しかし私の目標は会社の規模を拡大することにはないのです。全ての写真に注力し、最高の一枚にするのには限界がある。ですから、自分の目の届く規模で充分なのです。それに日本には素晴らしいロケーションがある。山、海、緑、雪……。過去と現在が混在し、現代的にアレンジされていない本来のままの伝統が息づいている」

日本人にとっては当たり前なものでも、外国人の自分には気がつく。その一つが和装の美しさだった。

「鎌倉で仕事をするとなった時に『鎌倉なら和装だ』と思いました。そして日本人より和装にこだわりたい、と考えた。そして外国人だからこそ日本の伝統を守らないといけない。先述の『おからげ』も見る人が見たら分かるもの。適当な仕事だと思われたくはありませんから」

 

お客様のために何ができるのか

 

WPPIでの受賞を経て大きく変わったことは、自らの技術が世界のレベルに達しているという自信になったことだという。そしてそれをお客様に提供していきたい、とも話す。

「『匠』というシリーズは、磨き抜いた完璧な一枚を提供することを目指しています。衣装や肌の質感、色。写り込んでしまった看板や人を消す処理は今までもしてきましたが、今後は更に建物や屋根などの細部にまでも目を配り表現を追求していきたい。あなたが手にするものは『世界トップレベルの一枚』だ、と胸を張って提供したいのです」

 

今、結婚式の前撮り写真の市場に大手の参入が続いている。起業から9年、今が正念場と考えている、と言う。

「『私たちはお客様へ何ができるのか?』。改めてそれを考えていた時、以前写真を撮ったお客様に『子供が生まれましたから家族で写真を撮ってもらえませんか?』とお願いされた。それが家族撮影や七五三撮影プランのきっかけでした。他の大企業が宣伝費用をかける代わりに、私たちはお客様とコミュニケーションを取り、人生のイベントのたびにまた利用していただきたい、と思ったのです」

 

……「日本の伝統を守りながら、外国人ならではの発想でお客様の要望にお応えしていく。厳しいお客様の目を満足させられるように」。外国人として、日本で伝統を守って成功したい。世界が注目する彼女のこだわりが、新郎新婦の新しい門出に最高の一枚を提供してくれる。

 

周鉄鷹(Thieyun Zhou)

1998年、中国魯迅美術学院グラフィックデザイン専攻映像分野卒業後、1998年7月に来日。東京学芸大学大学院グラフィックデザイン専攻卒業。

 

株式会社アバント

〒248‐0011 神奈川県鎌倉市扇ガ谷1‐13‐46

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