株式会社茜谷 –ジオダブルサンド工法で耐震&液状化にストップ!
被災地の人に安心を届けるために
近頃はあまり報じられていないが、東日本大震災以降、東北を中心に液状化現象に苦しんでいる人々が、未だ数多くいる。多くの企業が様々な技術を駆使して対処しているが、さほど効果を挙げてないのが現状だ。そんな中、従来とはまったく違う発想の「ジオダブルサンド工法」なる新技術をひっさげて登場したのが株式会社茜谷だ。自社の利益より何より、「被災地復興を真剣に願っている」という茜谷聡社長に、同工法の特長と、そこに至った背景となる経営哲学について詳しくうかがった。
経営者失格!?
異色の経営者、というべきだろう。不況にあえぐ多くの日本のモノづくり中小企業経営者からすれば、単なるきれいごとにしか聞こえないかもしれない。あるいはもっと踏み込んでいえば、偽善めいて聞こえかねない種類のものだ。茜谷社長の話すひと言ひと言が、である。いわく、
「神様は、人間に超えられない壁は作らない」
「一生懸命にやっていると必ず人が集まってくる」
なにやら教祖の言葉めいていて、失礼ながら、大正4年から続く伝統ある企業の4代目とはとても思えない。しかし、
「私は脇が甘いといいますか、いつも理想を追いかけていて、正直、利潤を追求しなければいけない経営者としては失格だと思っています。いや、謙遜ではないんですよ。ほんとにそう思っています。もちろん、従業員の生活を預かっている身ですから責任は重大ですが、いつも必ず手を差し伸べてくれる人、背中を押してくれるがあらわれて助けてくれるんです」
と、きわめて謙虚でもある。しかもこれまでに歩んできた苦難の道と、これからやろうとしていることのユニークさや可能性、社会的な意味合いを考えた時、誰もが襟を正して耳を傾けることになるだろう。
「私は、折板屋根雨樋工事のためのSA工法というものを開発し、特許を取得しました。これは、雨樋を補強するSA金具を取り付けるだけで、雨水の穴開けも不要、雪や強風に対する強度も大幅に向上して、しかも施工期間も短縮できるという画期的な発明です。国土交通省の新技術情報システム『NETIS』に登録され、国が認めた新技術・新工法のお墨付きをもらっています。ところでこの『NETIS』登録までがまさに茨の道でした。たいへんな時間と労力がかかったわけですが、技術的に絶対の自信がありましたし、登録されるまではあきらめないと決めていました」
「国が認めた」ということは、市場や依頼主に対して大きなポイントになる。しかし、国ということは、相手は官僚であり役人、ということだ。この国の行政の常だが、新技術の精査と称して無駄に時間を浪費するばかりになる(要は放り投げてあるだけなのだが)。承認を「与える」、登録を「許可する」側は常に上から目線の尊大な態度を取り続け、その新技術がどれだけ市場で切望されているか、そのような実際の現場の声などは一顧だにしない。
その意味で茜谷社長の苦労は察してあまりある。「もう無理なんじゃないか」と思った社員も少なくなかっただろう。しかしそれでもあきらめず、ついに登録に成功する。その思いの強さ、努力し続ける姿勢、そしてキッチリ結果を出す底力に、社員たちは感銘を受け、つき従う。
「SA工法の時にさんざん苦労しましたから、今度のジオダブルサンド工法については、スピードアップできる自信があります。一刻も早く、この技術で被災地の皆さんのお役に立ちたい」
ということで、まずはその新工法について詳しく見ていこう。
耐震・液状化対策の決定打に!?ジオダブルサンド工法
名付けて「ジオダブルサンド工法」。これがいま、茜谷社長が心血を注ぐ新工法の名前だ。「ジオダブル」とは、大地・地球を意味する「ジオ」に、補強材と防水シートをダブル層にして挟み込むという技法からきている。
発案者は、茜谷社長の右腕として、なくてはならない存在の吉宮邦雄氏。同社の特販部課長である。
「今までの液状化対策の工法は、すべて縦方向の工法で考えていました。それを吉宮は、横で考えてみようと。聞いた瞬間、私は『おもしろい!』と直感しました。縦軸だと、地盤までパイルを打ち込まなければならなかったりして、たいへんなコストがかかります。だったら横でなんとかしてみようと。Xグリッドの補強シートは引っ張り強度に優れていて、これはおよそ240キロニュートン、つまりダンプカー2台で両方から引っ張っても切れないくらいの強さがあるんです。これに防水シートも加えて考えようと」
「縦」から「横」への転換。根本的に重要な発想の転換は、実はもう一つあった。それは、自然エネルギーを「逃がす」という考え方だ。
「今まで日本人は、『自然のエネルギーは抑圧する』という方法のみ考えてきました。つまり、技術の力で抑えつけるやり方ですね。ところが私たちは、透水管という装置によって、『エネルギーを逃がす』方法を取りました。一種の遊び心です。そうすると未知の世界に行けるんですね。液状化現象というのは、わかりやすく言うと、地面の下から地表に向かって雨が降ってくるようなものです。まず、液状化によって流砂現象が起き、水と砂が分離する。水はその性質上、地表の弱い所を探して、砂を一緒に連れて上がってこようとします。そこで、透水管という、地表の弱いところよりもはるかに弱い部分を地中に作ってやると、そっちに水が入っていくんです。砂はシートで抑えられます。これがジオダブルサンド工法です」
ジオダブルサンド工法は、液状化の起きている土地や被災地など、異常事態にみまわれている「非日常」だけでなく、他の地域の「日常」にも大いに貢献できるという。
「正常時でも、地盤の圧密沈下やアスファルトのクラックを防止する効果があります。何よりもこの工法は値段が安いのです。そこがいちばんの魅力です。私はこの工法が、土木界の今世紀最大の発明になる可能性を秘めていると考えています」
と、茜谷社長は胸を張る。しかしそのすぐあとに、「実は欠点もあるんです。欠点についてもぜひお話しておきたい」とも言う。
「ジオダブルサンド工法は、イタリアの商材を使っています。そのため、注文してから材料が届くまでに約60日かかります。発注を受けて、『ではさっそく、明日から工事に入ります』というわけにはいかない。そのため、ある程度国内で備蓄をしなければならず、となると弊社のような小さな企業だけではまかないきれません。パートナー企業が必要になります。それからもう一つ。この工法は、30坪や50坪という小さな土地には施工できないんです。広範囲でないと対応できません。この2点は、あらかじめ申し上げておきたいと思います」
実に正直で、誠実な人である。
会社は大きくしたくない!?
ともあれ茜谷社長は、この事業で会社を大きくしようという気はさらさらないようだ。
「大きな企業になりたいという気持ちはまったくありません。小さいながらもキラリと光る中小企業でいい。大組織になって、ハンコを30個押さなきゃ何事も先に進まないなんて、あんなバカなことありませんよ。中小企業は、社員が良くて社長が良ければ、1日で動き出せるんです。そのフットワークの良さを生かさない手はありません。いま、吉宮と2人であちこちを行脚していますが、ウチはだいたい、2人で決めたらすぐ走り出します」
ちなみに茜谷社長の会話には、「遊び心」というキーワードが、引っ切り無しに飛び出してくる。
「私は、『今はこの世にないけれど、あったらいいな』という製品を考えるのが好きです。その際、発明や新商品にいちばん大切なのは、遊び心だと思うんです。その気持ちの余裕がなければ、新しい発想は出てきません。私は、遊び心と、それから我欲ではなく、本気で世のため、人のために何かをしたいという人たちとスクラムを組んで生きていくということが、モノづくりをする経営者としての本望だと思うんです。貯めたお金はあの世には持って行けない。手許には六文銭一つあればいいんです」
ジオダブルサンド工法は広い範囲で注目を集め、いま茜谷社長の元には、資力のある多くの名だたる企業がパートナーとして名乗りを上げている。
「ウチの会社は、材料のみを地元の代理店経由でゼネコンさんに提供して、それで利益が取れればいいのです。例えば宮城県なら、搬入のために仙台港を使えば、消費税の20%は宮城県に落ちます。私はそうやって、苦しんでいる被災地に収益が落とせるやり方を取っていきたい。そういうことを一つひとつ積み重ねていくことで、本当に日本を良くしたいと考えています。大手企業も役人も関係ありません。被災地の人が心から笑えるようにならなければ、何の意味もないんです」
どこまでも本気なのである。国でも政治でも大企業でもない、まっとうなモノづくりの本気だけが、この国の未来を変える力を持っている。そのことを改めて思い知らされた。
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茜谷聡(あかねや・さとる)
1956年山形県酒田市出身。東洋大学経営法学科卒業後、日本鐵板に2年間勤務したのち、地元に帰り、81年に株式会社茜谷に入社。その後、父のあとを継いで4代目の代表取締役社長に就任、現在に至る。
株式会社茜谷
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