株式会社フルハートジャパン/株式会社ハーベストジャパン -確立された一貫生産体制の強み
ビジネスは、待つな、動け!
モノづくりのメッカ・東京大田区に位置し、リーマンショック後のV字回復を含め、めざましい成長を遂げているフルハートジャパン。エレクトロニクスを基盤としたコンピュータ応用技術・制御技術を核に事業展開を行うが、強みは何と言っても他社には真似のできない一貫生産体制。兄弟会社のハーベストジャパンと合わせ、同社を率いる若きリーダー・國廣愛彦社長に話をうかがった。
動く男・國廣愛彦社長の誕生
よく日焼けをしたエネルギッシュな笑顔をたたえて、國廣愛彦社長は現れた。現在37歳。2代目社長にありがちな線の細さは感じられず、精悍さが全身にみなぎっている。そのパワーで、社長就任以来、様々な点で社内改革に奔走してきた。
「当社の沿革から行きましょうか。設立は1968年11月で、電子機器の配線組立を目的として興されました。ウチの父とあと2名、合計3名で始めたので、社名は三大電機。当初は専務でもある叔父さんの家を間借りしてスタートし、そのあとアパートに引っ越すなど、かなり小規模の会社でした。10年目に東亜技電と名称を変更し、コンピュータ応用機器の設計・製造を始めます。27年前に現在の地に社屋を移し、21年前に社名をフルハートジャパンに変えるとともに、同年、茨城に板金加工及び電子機器の配線組立を目的とし、株式会社ハーベストジャパンを設立しました。この頃から社員もどんどん増えて、現在は104名にまでなりました」
話をうかがっていると、まるで「トキワ荘」のようではないか。トキワ荘というのは、1950年代に豊島区に存在したアパートの名で(1982年に解体)、手塚治虫をはじめ、藤子不二雄や赤塚不二夫、石森章太郎ら、後に日本を代表する漫画家たちが若き日に住んでいた場所だ。貧乏だが高い志を持ち、仲間であるとともにライバル同士でもあって、互いに切磋琢磨していた良き時代である。
「高度成長期は、額に汗して働けばどんどん良くなる明るい時代だったのでしょうね。しかし、私はそんな時代は話に聞くだけで、就職の際は氷河期と呼ばれた世代です。ですから、自分が社長を務める以上、社員の意識は今の厳しい時代を生き抜くために変えて行かなければならないと思いました。もちろん、今この会社があるのは先代が築き上げてきた実績があるからですし、お取り引き先も先代が作ってきた信用の上に成り立っていることは百も承知です」
新社長に就任したのは2008年。まさしくリーマンショックの試練の年である。特に力を注いで変革したのは、人事だという。新規採用に関しては、ハローワークからの連絡を待っているなど問題外で、地元・大田区の振興公社に足を運んでみたり、数百人が集まる合同面接会などにも積極的に参加するなど、精力的に動いた。
「私が社長になって、社員の半数が入れ替わったと思います。世代交代の時期でもありましたが、やはり私のやり方にはついていけないという方がいたのは仕方がないことです」
新社長はとにかくよく動く。こうだと決めたら有無を言わさず突き進むのがモットーだ。ぜひ紹介したい学生時代のエピソードがある。
「生まれは東京ですが、高校は日大山形に進学しました。親元を離れて一人暮らしがしたかったのと、野球をやりたい気持ちがあったからです。ところが日大山形に行ったら、野球部ではなくテニス部に入ってしまった。なぜかというと、当時好きになった女の子がいまして、山形県の酒田の人だったのですが、彼女がテニスをやっていたんです。それで、彼女に会うためには、インターハイに出場すればいいと思った。テニスにはまったく興味がなかったのですが、会いたい一心で必死に練習してなんとか出場を勝ち取り、大会の時には宿舎が一緒に!
もう、ドキドキで……。こんな話、どうでもいいですよね(笑い)」
その後大学に進み、就職したのは総合ファッションアパレル企業の三陽商会。今とはまったく違う職種だ。「親父の跡を継ぐ気はまったくなかった」が、説得されて、三陽商会はわずか1年半で退社。茨城のハーベストジャパンに営業マンとして入社する。
「そのあとすぐに本社勤務にしてもらえるのかと思ったら、〝ワンクッション置いたほうがいい〟と言われました。〝ワンクッションって何だよ?〟と思いますよね(笑い)。なぜかそのあと、政治家の秘書に誘われたり、いくつかの選択肢の中から4年間の海外留学を選ぶなどして、2008年にやっと2代目社長に就任しました」
一箇所に安住せず、次々に動くのが、この人の宿命のようだ。しかしその活力と情熱が、今のフルハートジャパンを支えているのは間違いないだろう。
小ロットで多品種 一貫生産体制の強み
フルハートジャパンが手掛ける技術は、実に多岐に渡っている。回路設計やアートワーク設計などの設計・開発をはじめ、制御盤製作、基板実装、メカトロ組立、精密板金加工、計装配管などを行う。部門としても、事務所・購買部門を筆頭に、ユニット組み立て・制御盤製作などを行う第一製造部門、プリント基板の回路設計・製作から実装、検査まで行う第二製造部門、さらに品質保証部門、加工品部門、設計部門を持っている。最大の特長は、自社内での一貫生産体制が徹底していることだ。
「加工技術として基板の組み立てと制御盤の組配軽装配管、メカトロ装置の組み立て、精密板金加工、それらすべてのソフト、ハードともに設計を行っています。パーツを一つひとつ作って納めるという会社は日本に何万とあるわけですが、弊社はシステム的に製品全体としてお客様に提供できるのが強みです。精密板金加工もやりますし、〝板金屋さんだと電気なんかやらないでしょ?〟と言われるけど、でもウチは電気も、設計も、基板の開発もやります。そうしたオールラウンドのプレーヤーでいられるからこそ、いろいろな仕事を受け、様々なお客様に対して、きめ細かな良いサービスが提供できるんです」
モノづくりに携わる日本の中小企業がさらされている大きな問題点として、主に東アジア地区を中心とした生産拠点の移転および流出と、それに伴う国内の空洞化、後継者不足などが挙げられる。海外進出の失敗、指揮系統の混乱による事業の失敗、世代交代の失敗などを尻目に、フルハートジャパンでは、設計から完成まで、社内で一貫して生産するというアドバンテージ、つまり、外に出さないことの強みを力にしてきたのだ。
「お取引先は100社を超えています。弊社が手掛けているのは、小ロット多品種の製品やサービスです。それゆえ、大量生産品を請け負っている会社さんに比べると非常に非効率的なのですが、その代わり、仕事が一気に減ってしまうということはない。例えば自動車部品を作っている会社さんなんかだと、リーマンショック中は、仕事が2割くらいになってしまったなんていう話をよく聞きますよね。ウチも正直、リーマンショックでやられて、いちばん悪い時は売上が半分にまで落ちこんだのですが、翌年からV字回復し、2011年度は過去最高益を上げることができました」
「あの会社抜きでは成り立たない」 そんなモノづくり企業へ
フルハートジャパンでは、近い将来、事業所の集約を考えているという。これもまた、新たな「動き」である。
「詳細についてはまだ発表できないのですが、現在、東京、茨城、それから岐阜にも中津川工場がありますが、これらを一箇所に集中させようというプランがあります。社員の便宜を考え、なるべくアクセスの良い場所を、と思っています。送迎バスなども整備するつもりです。工場の無駄なコストを省き、生産効率を高め、弊社の武器である社内一貫生産体制を、さらに強化させるのが狙いです」
社内の労働環境を改善することも、狙いの一つだ。モチベーションをアップさせること、社内美化、衛生面での質の向上など、メリットはいろいろある。
「作業場も手狭になってきましたし、〝きれいに効率的に作業しましょう〟なんて言っても、掛け声だけに終わってしまいます。そこで、これ以上はできないというくらいに良い環境を整備して、その中で、本当にプロフェッショナルなモノづくりを追求したいと考えています」
将来のビジョンをうかがうと、「正直、量産品に憧れがなくはないんです」と、本音をのぞかせた。
「量産品を扱えば数字も出やすいですからね。それと海外についても、安い労働力を求めて出ていくつもりはありませんが、それこそ夢物語で言えば、社員全員で移転して、心機一転、アジアの地で、皆で高度成長の醍醐味を味わってみたい、なんて気持ちもあります(笑い)。しかし、製造の様々な工程をトータルにまとめあげてコーディネートするような仕事は、やはり日本人でないとできないと思うんです。その意味では、海外に出た経験のある会社さんが、〝やっぱり日本で作らないとダメだな〟と思った時に真っ先に頼りにされる存在、〝ウチの仕事は、フルハートジャパン抜きでは成立しない〟と、そう言われるような企業に成長していきたいと思います」
日本のお家芸であるモノづくりを守るためには、不況という嵐が去るのを待っていてはダメで、嵐の前につぶされてしまうことは目に見えている。だから動く。守るために動いて、攻める。若き社長には、そのことがよく見えているのである。
國廣愛彦(くにひろ・よしひこ)
1974年、東京都生まれ。日大山形高校、日本大学商学部を経て、三陽商会に入社。わずか1年半で退職し、父であり前社長(現会長)の國廣紀彦氏の求めに応じ、株式会社ハーベストジャパンに入社。その後、2年半の海外留学と仕事を1年経験し、2008年より代表取締役に就任する。
株式会社フルハートジャパン
〒143─0024 東京都大田区中央3─20─8
TEL 03(3776)2126
株式会社ハーベストジャパン
〒319─0102 茨城県小美玉市西郷地1758
TEL 0299(48)2866