測り知れない!?期待値&可能性

いろいろと危惧する声は少なくないが、それでもやはり、この国の技術力は捨てたものじゃない。電子機器誤作動の原因の一とされる電気的瞬断を、なんと最短50ナノ秒(ナノは10億分の1)区切りで高速サンプリングするという、恐ろしく高精度で使い勝手のいい瞬断発生・測定装置を、町の中小企業が開発し、今や国際規格にもなろうかともっぱらの評判だというのだ。開発したのはファインシステム(東京都八王子市)。従業員数僅か18名の文字通り〝小さな巨人〟集団である。さっそくその創業オーナーであり、エンジニアの田仲信志氏を直撃した。詳しくリポートしよう。

 

 

驚異!!断線時間を50ナノ秒単位で調節、発生、測定

まずは件(くだん)の測定装置「EV100/イベントディテクタ」と、瞬断発生機「EGJ─10/イベントジェネレーター」について簡潔に述べておく。

 

ひと言でいうと、自動車の電装品、モバイル通信機器の稼動基板などで発生する、超高速のイベント(電気系統の瞬断)を検出する装置と、それらの装置の「基準器」として使用するイベント発生器である。EV100を使えば、振動や衝撃、温度や湿度の変化といったストレスとイベントの相関関係が明らかになり、それを基準にすれば、トラブルの素を未然にキャッチし、対処することができるというわけだ。また、EGJ─10はみずから発生させたイベントをEV100で検出させ、EV100が正常にイベントを検出しているか検証するための基準器になる。断線時間は実に50ナノ秒単位の調節が可能だという。断線時の抵抗値は5Ωから5キロΩの範囲で4段階に設定ができるほか、オシロスコープで電圧の波形を見ながら、正しく検査されているかどうかもリアルタイムで確認できるというのだ。

 

「ご存知の通り電子機器は、年々小さくなる一方でどんどん高機能化し、ハイスペック化してきました。通信速度も通信容量も、かつての回路基準ではとても間に合わないほど早くなり、大きくなっています。それだけ基板に詰め込むと言いますか、基板に無理をさせてきているわけですね。当然、さまざまなトラブルが起こり易くなります。それを未然に防ぐためには、回路基準のグレードを上げることも然ることながら、それに見合ったスピーディーで精度の高い検査・測定システムなど、万全のバックアップ体制を整えておく必要があります」(田仲氏、以下同)

 

ちなみにこの分野においては国際規格と呼べる基準はまだ確立していないようで、これが今後その柱になっていく可能性が高いのではないかと、専門家筋は口を揃える。

 

それにしても今や電子機器、電子部品は、人々の日常生活からありとあらゆる産業分野にまで、片ときも切り離せないほど深く根ざしている。にも拘わらず、その後ろ盾とも言うべき検査・測定の分野に、明確な基準がないとはどういうことか。

 

「これまで世界のエレクトロニクスをリードしてきた日本と欧米とで、考え方がまるで違うからです。日本の技術者は、モノを計って、それがどういうメカニズムで、どう変化するのかを知ろうとしますが、向こうの技術者は、モノを計って、どこがどうなっているかが分かれば、それでことは足りると考えるんですね。要するにモノを大切にするという考え方と、モノは使い捨てにするという考え方です。しかしそれも近年は大きく様変わりしてきましてね。エコロジー意識が高まるに連れて、リユース、リサイクルといった日本式の考え方が主流になってきたように思います」

 

それには厳格な検査・測定が欠かせないということで、今や測り知れないほどの期待値と可能性が、この装置には秘められていると言って過言ではないのだ。

 

イオンマイグレ―ションによる短絡を素早くキャッチ

話は前後するが、ここでファインシステムというこの企業が、どういうモノづくりをしており、どういう特長を持っているか等についても簡単に述べておきたい。

 

いわゆる電気計測器メーカーである。電気計測器と言っても幅は広いが、同社が得意としているのは電子機器、電子部品の寿命やストレスによる劣化の具合、程度を計測する分野で、一般的には絶縁信頼性測定器、導通信頼性測定器などと呼ばれる。ズバリこの分野では、知る人ぞ知る〝超有名〟企業と言っていい。何がどうして超有名になったかというと、

 

「業界初と言っていいかと思いますが、世界でも珍しい、私ども独自の高速高精度な多チャンネル同時測定技術です」

 

 

同社の大看板との呼び声も高い、HR300(イオンマイグレーション/絶縁信頼性評価システム)を例にとって分かり易く説明しよう。

 

何でもそうだがモノには寿命がある。振動や衝撃など、さまざまなストレスにもさらされる。電子部品も例外ではない。前述したが、今やプリント基板はありとあらゆるパターンや情報が、詰め込めるだけ詰め込まれている。そこで起き易いのがソルダーレジストと、パターンを構成する金属の化学反応である。これが起きると導電性物質が溶出し、本来は絶縁状態にあるパターンとパターンの間に入り込み、電気的に短絡させてしまう。この状態をイオンマイグレーション(正式名称/エレクトロケミカルマイグレーション)と呼ぶ。これが続くと基板は100%故障に繋がる。したがってこのイオンマイグレーションをどれだけ正確に計測できるかが、基板の故障を未然に防げるか否かの鍵を握ることになる。

 

しかし問題はこの現象の挙動速度である。イオンマイグレーションは、発生から収束までが約数百マイクロ秒〜数百ミリ秒程度(マイクロは100万分の1、ミリは1000分の1)。とにかく計測するのが難しい。通常の絶縁抵抗測定器では、イオンマイグレーション現象の挙動が早すぎて捉えきれないのだ。これをモノの見事に解決したのがHR300で、そのHR300に搭載されているのが、独自に開発した高速高精度の多チャンネル同時測定システム、ということである。

 

先の瞬断発生・測定装置も、この技術の応用から開発されたことは言うまでもない。

 

顧客といっしょに問題解決機動力こそ最大の顧客サービス

止むことのない技術革新と技術開発は、ある意味でこの国の中小モノづくり企業のお家芸と言っていいだろう。それにしてもこの会社のそれは、あまりに矢継ぎ早で、目を離している暇がない。創業(1995年)から僅か17年だというのに、すでにこの種の測定器分野では、「国内はもちろん、世界でも有数の技術力と開発力を持っていますね」(業界アナリスト)と、もっぱらの評判なのだ。

 

ついでに言うと同社がカバーする範囲は、上記した絶縁信頼性や導電信頼性の評価にとどまらない。コンデンサの特性評価や寿命評価、酸化膜やウェハレベルの信頼性評価などを含め、今や全国の至るところで、エレクトロニクスに関するほとんどすべてのシステムソリューションに、不可欠の技術としてしっかりと組み込まれているのだ。

 

「経営の合理性という視点から見ますと、もしかすると取り扱い品目を幾つかに絞って顧客に提供したほうがいいかも知れません。でもそうすると、単なる技術の押し売りになるような気がしましてね。ですからいつも顧客の中に入って、顧客といっしょになって問題解決に努めるという姿勢で、ずっとやってきたんです。そうすると〝思い立ったら吉日〟じゃないですけど、あれもこれもとやらなければいけないことが次々と見えてきましてね。気が付いたら、電子機器やシステムの後ろ盾と言いますか、危機対応のための総合インテグレーターのような業態になっていた、というわけです」

 

ちなみにその〝思い立ったら吉日〟が、実は同社の企業理念にも謳っているある意味のキーワードで、小さな会社にとっては、機動力こそが最大の顧客サービスだと氏はいう。

 

最後に、昨今言うところの産業の空洞化や経営環境の悪化を鑑みて、今後、日本のモノづくりはどうあるべきかを訊いてみた。

 

すでにその傾向は見えてきていますが、アジアの人たちだって生活水準が上がってきますし、そうなると我々と同じようなモノを欲しがり、同じようなモノをつくり、同じようなモノを売るようになりますよ。日本だけが特別ということではありません。それがグローバル化と言うものでしょう。問題はそのときに我々が何をしているかですが、ひと言でいえば絶え間ない技術革新でしょうね。それを続けていけるかどうか。その覚悟があるかどうか。結論から言うと私にはあると思います。続けていけると思います。日本だけが特別ということはけっしてありませんが、日本人が世界的に見ても優秀であることは、まず間違いない筈ですからね」

なるほど、言われればそうだ。こればかりは測るまでもあるまい。

田仲信志(たなか・のぶし)

1958年生まれ、東京都出身。日本大学生産工学部を卒業後、とある中小企業に入社し、約15年間、測定ソフトの開発に従事する。1995年、ファインシステムを設立。代表取締役社長に就任する。

株式会社ファインシステム

〒192─0032 東京都八王子市石川町2956─6 ファインビル2F

TEL 042(631)4771 URL