IPO前後の企業成長に不可欠なフリーランスとの協業とは?その1~株式会社みらいワークス
ベンチャー企業がIPOを目指す際、限られたリソースの中で、トップラインの業績向上や労務・人事制度の整備、監査法人や証券会社対応など多くの課題に直面する。従来はその都度、IPOコンサルティング会社に依頼したり、専門人材を採用する必要があった。しかし、近年では、企業の業務委託への意識が高まり、必要な知見を持ったフリーランスのプロフェッショナル人材の力を活用し、効率的かつ効果的にノウハウやリソースを獲得するケースが増えている。
今回は、本業としてフリーランスのプロフェッショナル人材を企業に紹介するとともに、自社においてもあらゆる局面でフリーランスの力を活かすことでIPOを果たした、株式会社みらいワークス代表の岡本祥治氏に効果的なフリーランスとの協業方法を聞いた。
(本稿は、4月23日に実施された、「IPO2.0 ~上場前後の多様な課題を解決するフリーランス活用レシピ、教えます~」セミナーをもとに編集したものです。)
フリーランスの活用にあたっての考え方
フリーランス業務委託によるみらいワークスのビジネスモデルはどのようなものか?
当社は2017年12月にマザーズに上場したのですが、会社設立後5年9か月という短期間で上場できたのは、フリーランスの方々の支援があったからこそと言っても過言ではありません。実際には上場前だけでなく、上場後も含めてフリーランスの方々に活躍頂いており、今回、あらゆる局面でどのように協力いただいたかをご紹介します。
さて、みらいワークスのビジネスモデルは、大企業を中心とする企業から業務委託で仕事を受け、フリーランスに再発注するという形態をとっています。前期実績では約30億円の売り上げ規模となっており、フリーランスについては現時点で8,700名の方々に登録いただいています。その内訳は、個人事業主、1人会社の社長、ベンチャー経営者などの優秀なプロフェッショナル人材です。
クライアントの対象業界は、金融、保険、IT、製造、製薬、人材、サービスなど多岐にわたり、業務領域としては、戦略構築、業務改革、システム導入のPMOなどです。また、即戦力が必要な経営企画部門であれば、社員の代替としての人材供給も行っています。
そこに至るまでのみらいワークスの道のりは?
当社の企業理念は、「日本のみらいの為に挑戦する人を増やす」です。なぜこのような旗を立てたのか?それは次のような経緯によります。私は、大学卒業後、特にやりたい事がなかったので、色々な業界を見ることができてスキルを伸ばせると考え、コンサルティングファームに入社しました。5年間コンサルタントとして戦略から業務、ITまで一通り経験した後、ベンチャー企業に転職し2年ほど勤務しました。しかし、30歳を目前にして、まだやりたい事が見つからず、そんな中、もっと日本の事を知りたいと思うようになり、47都道府県を全部回ることにしました。地域ごとに、歴史、文化、人、食と世界に対して誇れるものは沢山ありますが、一方で経済が廃れているという状況に非常に危機感が湧きました。このままでは、自分たちのアイデンティティの強さを持っている日本の良さがなくなってしまうのではないか?そこで、日本全体を元気にすることを考え起業したのです。
まず、初めに自分自身が1人会社を立ち上げ独立し、フリーランスとして仕事をやり始めました。地方を元気にする事業という枠の中で、具体的に何をやるかは決めず、新規事業を立ち上げては潰してを繰り返し、事業を進めていました。
当時は、資本金1円で会社が創れるようになる法改正があり、インターネットとパソコン1台で起業ができるという環境になって、起業やフリーランスに参入する方が巷でも一気に増えました。ところが、経済環境的には活況は長く続かず、2008年にリーマンショックが日本にも波及し、皆苦境に陥ったのです。自分自身、起業は大変だと思いましたが、それ以上に周りの多くの起業家、フリーランスの方々は苦しんでいました。幸い、自分自身は営業が得意だったため、受注は取れる。そのうち、受注した仕事を一人で対応できなくなり、周りに仕事をパスすることを始めたのです。その結果、フリーランスの方々に大いに喜んでいただき、コンサルタントとしてお客様に喜んでいただくことよりも、こちらのほうにやり甲斐を感じたのです。
その中で、顧客企業と仕事を適切にマッチングさせるために、フリーランスの方々にそれぞれ何をしたいのかをインタビューをしていくと、ほとんどの方のやりたいことが、地方創生、中小ベンチャー支援、海外進出支援など、すべて日本を元気にすることに通じる仕事でした。フリーランスの方々は皆優秀で、そういった個人が活躍する場を創る社会インフラが必要なのではないかと思ったのです。これがみらいワークス起業の背景です。
ワークスタイル・ライフスタイルの変化により、企業による優秀な人材の活用方法が変わる?
この事業が成り立っている背景として、日本人の働き方の価値観が大きく変わってきていることがあげられます。以前はワークスタイルや職場、仕事を先に決めて、それに合わせて人生設計をするといった考え方でした。それが、90年代後半になると自身のライフスタイルを中心にワークスタイルを設計して働き方を選ぶ人が増えてきています。
働き方の価値観の変化を踏まえ、当社としては、「プロフェッショナル人材が挑戦するエコシステムを創造する」というビジョンを掲げています。プロ人材がライフスタイルに合わせて、転職するのと同じような感覚で、独立起業し、様々な経験を積んで、再就職したり、また起業したりする。そんなキャリアの選択が可能になる多様な個人のライフスタイルを支援していきたいと考えています。
人材を供給する業界を俯瞰すると日本には、有料職業紹介を行っている会社が約2万社ありますが、ほぼ就職、雇用の部分しか対応していません。そこで、我々は起業、フリーランスも含めて、ワンストップで多様なキャリアをサポートし、プロフェッショナルが挑戦する世界を作っていこうとしています。
創業時からのフリーランスとの協業の実例
創業当初のシステム、事務課題におけるフリーランス依頼
さて、2012年3月に遡りますが、みらいワークスの創業は、3名体制から始まりました。
事業開始とともに、早速、人材マッチングのプラットフォームを作る必要が出てきました。これは人材データベースと商談データベースのマッチングをシステム的に行うというものです。業務フロー上どうしても必要ということになり、当初はアクセスで組むことに決めました。しかし、立ちどころに適任者がいない状況に直面しました。そこで、外部からフリーランスの方を採用することで対応したのです。その方は、1年間働き、結局正社員になっていただきました。
3、4か月経つと、人数も増え7人体制となって、事務管理業務の必要性が出てきました。そこで、女性2名のフリーランスの方に来ていただくことにしました。縁故から人を探して、イベントの運営事務の業務委託をやっていた方などに入っていただきました。
創業当初からメガバンクの銀行口座開設の実現
起業して間もないころは、資金調達面ではデットファイナンスを活用することが多いかと思います。このときに必要なのが金融のプロです。通常ベンチャー企業は、当初は信用金庫、地銀しか付き合えないということですが、営業上の信用作りも考えるとメガバンクの口座はぜひ欲しいものです。
当社の場合はそこをフリーランスの方に依頼しました。もともとメガバンク出身の方を顧問として入れ、口座開設までもっていって頂きました。その方は、30代前半でフリーランスに転向されたのですが、当然に銀行内部の手続きをよく知っており、内情を知っていると口座開設も簡単にできてしまうといったことがあります。
プロを使えば、情報の格差、知識の格差がなくなるので、ものごとが円滑に進むという効果は大きいです。
労務ガバナンス、株式事務、上場準備におけるフリーランス活用
IPO実務への対応
次に、上場準備期間に入ったころの話です。当社では、2015年7月から上場準備のために監査法人や証券会社に審査を受ける段階に入ったのですが、これにはまずショートレビューへの対応ができるようにする必要がありました。そこで、監査法人や、証券会社と契約を結んでもらえる体制をまずつくるため、一気にテコ入れするときにフリーランスの方に手伝ってもらったのです。
また、上場を目指して人の採用も増やしていく過程で出てくることは、社内の人材教育です。これも社内リソースだけでは手が回りませんでした。そこで、フリーランスの方を採用しました。その方は現役の外資系SIerの人事部長だったのですが、副業として当社に来ていただき、新人教育とともに、経営理念、ビジョンの刷新のための合宿ワークショップのファシリテイターなどをやっていただきました。
経営アドバイザーとしてシニアの顧問を活用
次に、経営強化のための顧問の採用です。たまたまですが、当社のフリーランス登録者の中に、元カルビーの社長のご子息がいました。お仕事をしている中で、それがわかり、父上をご紹介いただいたのです。お会いしていろいろお話しているうちに、顧問をお願いしようという気になり、お願いしてみるとあっさりOKしていただけたのです。
経営顧問としては、経営全般のアドバイスや、私自身のメンターになっていただきました。
こういった実績のある方が傍にいていただけると我々の目線が上がるということもあります。通常ベンチャー企業がシニアを雇うとき、営業顧問として雇うケースが多いかと思います。つまり、営業リストを増やすという活用方法が一般的なのですが、今のように経営顧問として活躍いただく、別の方法もあります。しっかりした顧問がいることで、様々な企業に営業に行ったときに信用力が上がるということが後からわかりました。
IPOでマンパワーが不足する実務を臨機応変にフリーランスに依頼
当社は、2016年の9月期までが直前期で、それ以降に申請期に入ります。そのとき、フリーランスの方にIPO実務への助言や、内部統制体制の整備、工数がかかる部分のドキュメント作成などを手伝っていただくようにしました。直前期まで、当社のIPO準備は管理部の責任者1人で対応しており、それでは当然に工数が足りないので、スポット的に業務委託を活用し、フリーランスの方々にお願いしたのです。
営業と広報でのフリーランスの活用
事業成長を加速するタイミングでは、営業を強化する必要が出てきます。シニアの方に営業顧問としてコンタクト先を探していただくこともありましたが、一営業として仕事をしてもらう方々についてもフリーランスの方に手伝っていただきました。内容は、企業と商談を行い、人材を供給するための業務委託契約を実際に獲得してくるというものです。また、仕事を受ける余力を増やすため、フリーランス登録者候補の方々ともインタビュー面談を行なったりするなど、本業の実務をフリーランスの方々にもお願いしました。
いよいよ、上場が見えてきた段階では、広報もフリーランスの方に手伝ってもらいました。時期は東証の審査が決まったあたりです。当社事業は新しいビジネスモデルであったので、IPOを機に当社のビジネスを世の中に広く知ってもらう必要がありました。しかし、社員の中にはその分野の専門家がいません。そこで、お願いしたのは、GAFAクラスの企業で広報部長を務め、その後独立された方です。その方にアドバイザーに入って頂き、今でも広報ミーティングに月2回参加をして頂いています。
システム要員の確保
そして、直前期に業務効率化のためにセールスフォースを入れました。このシステム構築の必要性ですが、営業を増やした時、アクセスでデータベースを運用していると、10人が一気にアクセスすることはできません。誰かがログインすると、誰かが待機せねばならず仕事にならない状況になりました。また、Excelも何千行を超えると頻繁に壊れるといった事態が起こります。そこで、毎日バックアップが必要となり、効率が極めて悪いのです。
しかし、当社独自のビジネスモデルのシステム要件を完全に満たすためには、スクラッチで作る必要がありました。ところが、お金も時間ない。そこで、セールスフォースを導入することにしました。カットオーバーの直前2か月間、セールスフォースを扱ったことがある方を当社フリーランスの登録データベースから探し出し、この方には、週4日か、5日来ていただき、システム導入に漕ぎつけました。
また、社内ITインフラの運用もフリーランスの方に頼んでいます。お願いしたのは、1人会社の社長の方で、知り合いのシェアオフィスに入っていた方です。インフラのサポートが得意で、サーバーの管理、パソコンのキッティングなど、インフラ回りを一式やって頂いています。こういった業務の場合、正社員でやるよりコスト的に割高かも知れませんが、慣れない人がやって脳内シェアを取られるよりも、外部に出したほうが人的リソースの配分上効率が良いのです。
取締役CFOもフリーランスから採用!
当社の際立ったフリーランス活用成功事例は取締役CFOの採用でした。上場準備にあたっては証券会社に言われていた要件を着々と達成していたのですが、一つだけ、申請期に入るまでに専任の取締役CFOを置くようにと言われていたことが達成できていません。実に、申請期に入る前日まで取締役CFOがいなかったという状況だったのです。
話は少し前後しますが、たまたま、管理部長の女性の前職元同僚が、某上場会社の出資先のCFOでした。ところが丁度退任して、やることが決まっていないとの情報を得たのです。そこで、手伝ってもらおうということになりました。当初、業務委託でフリーランスを3か月やってもらったのですが、その働きぶりが非常によかった。そこで、その方に取締役になって頂く腹を決め、お願いしました。決まったのがぎりぎりのタイミングで、直前期の最終日、臨時株主総会を開いて、フリーランスから取締役になっていただくことを正式に承認したのです。
IPO後の事業推進におけるプロ人材の活用
Webマーケティングのプロをフリーランスで採用
IPO後は、既存事業のさらなる拡大のため、Webマーケティングを強化する必要が出てきます。我々が上場することで、競合も増えリスティング広告のコストはじわじわ上がってきました。しかし、内部にWebマーケティングに詳しい人がいない。そこで、フリーランスで登録してもらっている方の中から来ていただきました。
しかし、しばらくするとそのフリーランスの方は、某ユニコーンのベンチャーに就職するということが起こりました。そうなると、こちらとしては困るわけなので、先方の会社に就職する条件として副業を認めてほしいというお願いをしてもらい、フリーランスの契約を継続していただきました。
フリーランスの提案をもとに新規事業を実施
次に、新規事業でのフリーランス活用の話です。上場すると、投資家からキャッシュが入って来て、その期待に応え、企業を成長させるために様々な新規事業を展開していく必要が出てきます。しかし、社内だけだと限界があるので、新規事業要員もフリーランスから一部お願いをしています。
例えばその中に、フリーランスの立場から始まって、「ヘルスケアプロフェッショナルズ.jp」という新規事業を立ち上げ、そのままチームリーダーとして担当しているメンバーもいます。
もともと、その方はアメリカの心臓外科医で、法的に日本では執刀できませんが、日本の医療分野での仕事に関わっていきたいということでした。しかし、非常にエッジが立っていて、なかなか契約先が決まりません。そこで、当社の営業を手伝ってもらうことにしました。週3日稼働してもらっていましたが、本人ともよく話すなかで、ヘルスケア業界で新しいものを生み出してやっていきたいという強い意志を確認しました。
それならばと、自分のやりたい事業を、みらいワークスで実現していただくとこととしました。つまり、立場を変えればフリーランスが、新規事業チームをつくり、リーダーとなってみらいワークスを使うといったことも可能となるのです。
フリーランスと協業しての気づき
今まで述べてきたように、多くのフリーランスの方々に関わっていただいたのですが、働くにあたっては、人との関係性は契約内容に依存しないということがわかりました。どのような雇用形態であれ、決めたミッションをやってくれたらそれでいいじゃないかということです。よって、派遣であろうが、雇用であろうが、フリーランスであろうが契約形態ではなく、ミッションに拘ることによって外部人材の活用はよりフレキシブルに対応できるようになるのではないでしょうか。
要件定義の明確化が重要
しかし、このとき、一定期間で何をしてほしいかしっかり要件定義をしてお願いすることが重要です。ミッション、タスクがあいまいだと、結果として成果が出せず、期待と違うじゃないかということになります。我々からすれば、発注する側に問題があることも多いと感じています。
フリーランスも企業を活用することでイノベーションの芽が生まれる
これからの企業と個人の関係は、どちらかが優位ということではなくて、持ちつ持たれつの関係で新しいことに取り組んでいくといったことが重要かと思います。しかし、こういった取り組みはフリーランスの方々と仕事をやりながら生まれてくるものなのです。計画してやろうというよりも、やっているうちにイノベーションが生まれる。だからシェアオフィスなどで、いっしょに仕事をしてみて、化学反応を楽しみながらやっていくのが良いのではないでしょうか。
我々としては、フリーランスの方々の力を上手く活用して業績を上げていく企業が1社でも増えて行けば嬉しいです。
<プロフィール>
岡本 祥治(おかもと ながはる)
1976年生まれ。2000年に慶應義塾大学理工学部を卒業後、アクセンチュア株式会社、ベンチャー企業を経て、47都道府県を旅する中で「日本を元気にしたい」という想いが強くなり起業。2012年にみらいワークスを設立後、働き方改革やフリーランス需要の拡大とともに急成長し、2017年12月に東証マザーズへ上場。経済同友会会員、一般社団法人日本スタートアップ支援協会顧問。
株式会社みらいワークス
「日本のみらいの為に挑戦する人を増やす」の企業理念の下、独立・起業・転職をワンストップで提供するプラットフォームとして、フリーランスのプロ人材に特化したビジネスマッチングサービス及び転職支援事業を展開。