本稿は、去る2月6日に行われた「プロフェッショナルの日」制定イベントhttps://www.biglife21.com/companies/17694/のパネルディスカッションから切り出して編集したものです。今回は守屋実さんへの質問を通して、新規事業のプロフェッショナルとは何かを明らかにしていきます。

 

守屋実氏

 

岡本:守屋さんは、49歳にして49件の新規事業創出を実現され、最も新規事業のプロにふさわしい方です。49件の内訳は、ミスミで新規事業専任担当者として17件、独立起業されたのち18件、週末起業が14件。そして2018年には、これらの中からブティックス、ラクスルが2か月連続で上場を果たしました。今後も上場する企業が出てくると伺っております。

 

プロフェッショナルとは何か、どうしたらプロになれますか?

守屋:私が思うには、第一想起されるのがプロですね。人がその道の第一人者は誰かと考えた時、あの人だと思われる存在。そのためには圧倒的な量稽古が必要です。ある日突然プロになっていたということは決してない。裏で圧倒的に量稽古をすることで、当該分野において、あらかたの経験をし、何が起きてもこういうことだろうと検討がつくようになる。全体が俯瞰して見えて、適切な対処の仕方がわかるというのがプロの境地ですね。

 

岡本:第一想起される方って1人しかいないのですか?

 

守屋:いや、「その道」が、プロ毎に分割されていくので、結果としてたくさんいる、という感じです。得意な分野を掛け合わせて、百分の一×百分の一で一万分の一の存在になろうという話があると思いますが、それに似たイメージです。どんな小さい分野でも1位になるといった進み方が正しいのではないでしょうか。

 

この人はプロだと思う人は?

守屋:ザ・プロという人は、ミスミの社長だった三枝さん。ホワイトカラーってここまで力の差が出るものなのかと思いました。いっしょにやるのが辛かったです。圧倒的な差を見せつけられました。三枝さんのおっしゃるには、経営は共通しているから、どんな分野の業態でも見えるという。とは言え、動物病院向け事業をやっていた当時、こちらはすでに6年の事業経験があって、しかも動物病院8,000件あるうちの6,000件をお客様として獲得していた状態。なのに三枝さんと一対一で打ち合わせをしたら、コテンパンにやられてしまった。経営は共通とはいえ、動物病院なんて知らないはずなのに、やったことのないことでも対応できる。何でこんなにわかるんだと驚くほどのプロで、足元にも追いつけない、と思いました。

 

プロになるため心掛けたことは?

守屋:何と言っても量稽古です。やり続けていれば誰もが何かのプロになる。テクニカルに言えば、自分は何のプロかを伝えることができるようにしてきた。自分の場合は19歳から、30年間新規事業をやってきたということですが、自分は何者なのかをどう表現するのか?

 

例えば、芸人だとすると、芸風を伝えることが重要になるわけです。それが上手く伝えられると、この企画だから是非あなたに来てもらいたいとアサインされ、上手く伝えられないと使いようが分からないからアサインされない。だから私は、自分を説明するために「49=18+17+14」というキャッチコピーを考えたのです。でも、この一行のキャッチコピーでさえ、「何か数式言っていたよね。やたら新規事業やってる人」みたいな。なかなか覚えてもらえないのが現実です。でも、それだけ覚えてもらえたら御の字だとも思っています。

 

資料を作ったら、実際にたくさんの人に伝えてみて、ちゃんと伝わるか、自分としてしっくりきているか、何度も確認して、何度も直す。そうしていくなかで、自分自身のアピールの仕方がまとまってくるし、その道を磨かなきゃと思えてくるし、人もそのポイントで見てくれるという良い循環になる。説明していてしっくりこないとすれば、何らかの逡巡があるから。逡巡があると、ロスが生まれる。説明できるようになると加速度がつく。結局、わかりやすくないものはわかりにくいのです。しっくりくると自己肯定感が生まれ、加速度がつく、あるいは減速しなくなる。

 

岡本:自分は何者かと言い切れるようになったのはいつからでしょうか?

守屋:新卒から数えると20年余り経ってから、という感じでしょうか。最初は、そもそも自分が何者か考えもせず、とにかく頑張り続けたら、気がついたら新規事業が好きになっていて、この道で頑張ろうって思えてきた。最初から、もっと自己肯定できるようになっていれば、もっと道を究めていれたかも知れません。

 

プロになれる人の傾向は?

 

守屋:心底好きなものがある人、でしょうか。好きだったら放っておいてもやるでしょう。それくらいの人がずっと好きを極めていくと、その好きのプロになるのだと思います。

 

岡本:やっていると、楽しいことと、自分が得意なことと違うということが見えてくることがあります。

 

守屋:上手くいかないこともありました。30年間やっていた中で、3度続けて失敗した時期がありました。心が折れましたね。上手くいかないことが続くと、あの人とやると、次も難しいかもねとかまわりの人が喋っているのが聞こえてくる。

 

それでも田口さんに、「弁護士はなぜ弁護が得意なのか?それは弁護ばかりしているからだ。しかしながら、新規事業の担当者は、その事業がうまくいくとその事業の責任者として事業とともに出ていってしまい、二度三度と失敗したらそれ以降アサインされることはない。だから、いつも立上げ経験の浅い人間が事業を立ち上げることになり、毎回、同じような過ちを繰り返してしまっているんだ。だから、あなたは新規事業だけを延々とやりなさい」と言われました。なので、やり続けて得意になって楽しくなってきたというのが自分のケースです。

 

失敗体験はありますか?

守屋:新規事業は、基本、上手くいかないことが多いです。失敗だらけなのですが、その心構えがあったうえで失敗するのか、ぼーっとしていて失敗するのかで大きく違う。量稽古していると、その失敗の危険性が見えてきて察知できるようになる。このままいくとヤバいかもしれないと。察知できていて失敗するのは、プロとしてはありかと思います。

 

 

守屋 実 (もりや みのる) 新規事業のプロフェッショナル

 

1969年生まれ。明治学院大学卒業後、株式会社ミスミ(現ミスミグループ本社)に入社。新市場開発室にて新規事業の開発に従事。2002年には、新規事業の専門会社である株式会社エムアウトを、ミスミ創業オーナーの田口氏とともに創業、複数の事業の立ち上げおよび売却を実施。2010年に独立し、守屋実事務所を設立。設立前および設立間もないベンチャーを主な対象に、新規事業創出の専門家として活動。自ら、投資を実行、役員に就任、事業責任を負うスタイルを基本とする。ラクスル株式会社、ケアプロ株式会社、ブティックスの立ち上げに参画、2018年にはブティックス、ラクスルが上場。最近は、AuB株式会社、株式会社ミーミル(UZABASEグループ)、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の経営に参画している。