「子育ては女性が行うもの」という日本の古からの風習を、今の世界情勢や世の中の流れではなく根本から変えたいと様々な活動を行っている団体があるのをご存じだろうか。

現役の産婦人科医師でありながら、「子育ての楽しさ」「子育てが日本を元気にする」という理念のもと、日本はぐケア協会を運営する代表理事の平林大輔氏は子育てに関する啓蒙活動やイベントを行っている。平林大輔氏が目指す「子育て」はどんなものなのか、話を伺った。

◇子育てとは楽しいもの

平林大輔氏

「子育てとは本来、楽しいものです。そして、男性なら男性として、女性なら女性としての関わり方があり、子どもの成長にはどちらのアプローチも大切です。そのような、昔からの役割を継承しつつ、未来に向けての新しい形の子育てへと進化させていくサポートを行っています」と、日本はぐケア協会代表理事の平林大輔氏は語る。

日本はぐケア協会は、実際に子育てを行っている男性や女性がサポーターとして関わり、子育てに関する体験記などをホームページや各種SNSで配信している。

 

「私は出産に携わる女性の様々な大変さを、産婦人科医師として目の当たりにしています。今でこそ、出産で生命の危機を感じることは少なくなりましたが、少し前までは出産は命がけの行為であったことを忘れてはなりません。そのようなプロセスを経て、10ヶ月という長い時間をかけて、自身の中で新しい生命を育んでいくことは女性にしかできないことで、それは文字通り称賛に値します。

一方で、生物学的に男性が妊娠出産に関われるのは、本当に一番初めの性行為の部分だけです。その後は、別に男性がいなくても子どもは生まれ、場合によっては女性のみで育て上げることも可能です。ただ、だからこそ、男性にはむしろ積極的に、妊娠、出産、育児に関わって頂きたいと考えています」と平林氏は語る。

 

「私自身、子どもが生まれてから父親として成長させてもらいました。忍耐・優しさ・余裕・努力など、子育てから学べることは本当に多いと感じています。実際に我が子が成長している姿を目の当たりにすることで感動をもらうこともできます。すっかり忘れていた視点から新たな気づきをもらうこともあります。

また、我が子と接する時間が長ければ長いほど、子供の初めてを目にすることもありますし、子供の頑張る姿を見ることで、自分自身が頑張ろうと思い、仕事やプライベートを充実させることもできると私は考えています」と平林氏は熱く語った。

 

正確な統計資料は見つからないが、共働き家庭が増えた昨今でさえ、子育てについては母親(女性)が行っているのが主流である。男性が子育てに参加するのは休日が主であると言えるが、平林氏はどのように考えるのだろうか。

 

「現在の社会制度の中で、男性が子育ての中心になるのは至難の業と言えるでしょう。しかし、平日の夜や土日を上手に活用し、子育ての時間を確保することは可能なのではないでしょうか。男性が子育てに積極的に参加することで女性自身のプライベートな時間が増え、夫婦関係も良くなると言えると私は思います

そして何より、自分の子供と関わることはとても楽しいです。こんな楽しいことを経験せずに人生を終えてしまうのは非常にもったいないと、私は思います。私自身、好きで今の仕事を選びましたが、子どもと過ごす時間の楽しさに気づいてからはそちらの方が優先順位が高くなり、今では仕事から子育てへと、費やす時間をシフトさせていっています」

 

◇子育てへの積極参加する方法

大川直哉氏はIT企業である株式会社エクレアラボの役員であり、二児の父親でもある。多忙な役員を務めながら、どのように子育てに参加しているのだろうか。

 

「実際に長女が生まれるまでは、子育ては妻に任せることしか考えていませんでした。古い考えかもしれませんが、男が外で働き、女が家を守るという古い考えが私自身になかったとはいえません。また、私自身が父親になる自覚がなかったのかもしれません。

しかし、長女が生まれてから、家事に育児に奮闘している妻の姿を見て、少しでも妻の負担を減らしたいという思いが、子育てに積極的に参加するキッカケでした。自分の子供を育てることは父親として当然のことです。また、我が子の笑顔を見るたびに仕事をもっと頑張ろうと思える活力を与えてくれるので男性にはオススメです」と大川氏は語る。

 

世の中の多くの男性は、育児のほとんどを女性に任せている現状である。

深夜までの残業やしごとの疲れで育児にまで気が回らない仕組みが日本文化として色濃く残っており、この仕組みが男性を育児から遠ざけ、女性に負担を強いている原因の一つであるのは間違いない。

 

「実際に、平日は接待などもあり子育てについて家内に任せている事実はあります。しかし、週2回は定時で帰るなど家族内で約束事を作り、仕事とプライベートを両立させ、休日のうち月2回は私が子供二人の面倒を見て、家内は自由に過ごすなど様々な工夫を行っています。幸い、弊社は子育てに理解がある企業ですので、家内が体調不良でダウンした際や学校行事の際も休めたりしています。子育てに120%以上理解して頂いているので、給与分以上の成果を上げられるよう日々の努力は怠らないようにしていますが笑」と大川氏は明るく語った。

このように「子育てと企業」は密接な関わりがあり、相互に尊重することで仕事とプライベートの充実が可能になり、企業も成果を上げると同時に個人も充実する素晴らしい循環を生み出している企業も出現し始めた。

大川氏は、「企業と家庭は切り離せないものだと考えています。企業が成り立たないと家庭にお金が入ってこないですし、家庭が崩壊していると、仕事にも悪影響を及ぼします。双方が権利ばかりを主張していたら成り立ちません。双方、権利と義務がありますので、尊重しながらお互いに歩んでいくことが大切だと考えています」

 

大川氏の理想の実現には障害が大きいものの、ぜひ実現して欲しい社会の一つとも言える。

 

◇子育てのかたちとは

日本人の子育ては「女性が行うもの」という風習が色濃く残っている。

しかし、共働き世帯が増えている昨今、従来の子育て理論では子育てが難しい世の中になっていると言える。

 

「インターネットの普及により、今までの常識が覆るものがでてきている。しかし、子育てについてはどうでしょう? 男女平等を目指す世の中であるにも関わらず、子育ては女性が行うものという今までの風習が残っている、出産は体の構造上、女性しか行えませんが、子育ては身体の構造は関係なく、男女どちらでも行えます。しかも、我が子であれば特にそう言えるのではないでしょうか」

 

平林氏の考えは日本人全員に聞いて欲しい意見と言える。

「男性こそ子育てに積極的に参加すべきなのです。こういう言い方は間違っているのかもしれませんが、父親にしかできないこともたくさんあります。もちろん、母親にしかできないこともあります。男女が子育てについて押し付け合ったり、どちらかがどちらかのサポートをするという意識でいたりするのではなく、お互いの役割の違いを理解し、それぞれの特長を活かしつつ、子育てを楽しむ文化を築ければ良いなと考えます」

 

「諸事情で子どもがいない方、また、シングルとして子育てをされている方も少なくありません。あるいは、LGBTのカップルの方々も、子育てを楽しむ権利はあると思います。そういった方々のために、社会的なサポートを充実させたり、養子縁組などの法整備や仕組みを改善したりして、子育てができる環境を国家として整えていく必要があると考えています」

 

平林氏が目指す子育てのかたちはどういうものなのか。

「子供一人ひとりに個性があるように、子育てに関する絶対的な正解はないと思います。しかし、子育てに寛容な文化を目指したいと考えています。昔は、大家族の中で祖父母や曾祖父母から可愛がられたり、近所のオジさんやオバさんに怒られながら遊んだりして、社会の仕組みや人との接し方を学びました。今は時代が変わり、そのような文化を目にする機会はほとんどありません。

しかし、昔の子育ても良いところがたくさんあったと思います。昔を否定するのではなく、昔の良いところは取り入れ、今の子育てに活用していくような文化を子育てされている方々全員で作っていけたらと思っています。子育てが発展すれば、社会全体も元気になると信じ、これからも努力していきます」

 

「そして何より、時間は、人生は有限です。いよいよ最期というとき、もっと家族と過ごしておけばよかった、もっと子どもと関わっておけばよかった、と思いながら死んでいくのは寂しいです。我々は普段、そういったことから敢えて目を逸らしながら生きています。ですが、「今」は今しかありません。そして、人は日々、成長し変わっていきます。今日この日の子どもに会えるのは今日だけです。そう考えると、たとえ5分でもいいので、毎日、子どもと関わってほしいなと思います」

 

子育てのしかたについては、絶対的な正解はないという平林氏の言葉は心に染みる言葉であったが、子育ての本質をとらえていると思わざるを得ない。様々な議論がある中で子育てについては、社会全体で取り組むべき事案だが、未来に向けての子育てをサポートする日本はぐケア協会には今後も目が離せないと言えるでしょう。

 

日本はぐケア協会 代表理事 平林大輔

株式会社エクレアラボ 取締役 大川直哉