株式会社おおかわ – 父と娘のコラボから生まれた看板商品「ほこりトリ」
老舗メーカー、街づくり、グッズ製作、町工場、住宅販売……今元気な5人の現役経営者
他社を知ることで広がるビジネスマッチングの可能性
「人とコミュニティの金融」「育てる金融」「志の連携」をモットーに、創業者支援や地方創生、経営者支援などに力を入れる第一勧業信用組合。その組合員をメンバーとする、働く経営者のコミュニティの会「かんしんビジネスクラブ」の第8回定期交流会が、2018年9月11日、東京都千代田区のスクワール麹町で開かれた。
ブランドを支えるのは「ものづくり」のストーリー
パソコンやテレビの液晶画面は、意外とほこりが溜まりやすいもの。拭いてもなかなかきれいに取れず「掃除が面倒…」と感じている人も多いのではないだろうか。
そんな人にぜひおすすめなのが、「株式会社おおかわ」が製造・販売する、かわいい鳥の形のお掃除グッズ「ほこりトリ」だ。
同商品は静電気を帯びやすく、ほこりが吸い付きやすいシリコーンゴム製で、液晶の表面をなでるだけできれいにほこりが取れる優れもの。
さらに水洗いして何度でも使える経済性、メイド・イン・ジャパンの安心素材で子どもが舐めてしまっても問題ない安全性、捺印マットやコースターとしても利用できる多機能性も兼ね揃え、2010年の販売開始から今でも人気の衰えないロングセラー商品となっている。
父と娘がつむぐ 「ほこりトリ」の物語
「株式会社おおかわ」は、東京都葛飾区の東水元でゴム製品の製造・販売を手がける町工場だ。1976年に現社長の父・大川誠十郎氏が創業。以来、工業用ゴムに特化した事業展開で、主にOリングやパッキン類などの部品を生産してきた。そこから掃除用品「ほこりトリ」が生まれた背景には、創業者父娘の絆の物語がある。
「ほこりトリ」の発案者は、誠十郎の娘の大川恵美子氏だ。もともとは法律事務所の秘書を務め、工場経営とは無縁だった恵美子氏だが、病気で余命2年と診断された誠十郎氏から「工場を継ぐ兄(現社長)を財政管理などの面から支えてほしい」と頼まれたのがきっかけで2006年に入社。
父について経営を学びながら、新製品の開発についても思いを巡らせていた。アイデアが芽生えたのは、そんな日々も3年を迎えようとした時だ。
「工場ではシリコン商品を多く扱っていたのですが、シリコンはホコリを吸着してしまう難点があり非常に手がかかる素材。ホコリがつかないようにオーバーコーティングしたりと、試行錯誤を繰り返していたのですが、逆に〝これほどホコリがついてしまうのであれば、その特徴を生かせないか?〟と考えるようになりました。そしてある朝、〝そうだ、ホコリを取る方に使えるんじゃないか!〟とひらめいたんです」。
早速、父・誠十郎氏に相談したところ「いいと思ったことはやってみろ」と背中を押され、早速製品化してみることを決定。そこからのスピードは速く、2010年には「ほこりトリ」のネーミングで、全国の東急ハンズで販売が開始されるに至った。
残念ながら、誠十郎氏は販売開始を見ずして亡くなってしまったが、同商品が型抜きではなく「コンプレッション成型」と呼ばれる複数の製品を1枚の大きなシート状に成型する方法により、最後は人の手で1つずつハサミで切り分けるという手間をかけて作られているのは、品質に妥協を許さなかった誠十郎氏のアドバイスによるもの。高い技術力にこだわりとプライドを持っていた誠十郎氏の心を受け継いで、「ほこりトリ」は一つひとつ丁寧に作られているのだ。
異業種との連携からコラボ商品開発へ
「ほこりトリ」のもう一つすごいところは、鳥の形の胴体部分に社名などを印刷することもでき、販促物としての利用も可能なことだ。使い捨てではなく、パソコン回りに置かれることが多い製品だけに長くPR効果が期待でき、ノベルティグッズとしての人気も高い。
製品は高く評価され、テレビや新聞など数々のメディアで紹介されたほか、2008年度「TASKものづくり大賞」大賞受賞、2009年度「東京都トライアル発注認定商品」及び2009年度葛飾ブランド「葛飾町工場物語」認定と数々の賞や認定を獲得した。
そうして、地域主催のブランド戦略に参加し、展示会への参加や産業交流会や産業フェア、工場見本市などへの出店を通して地域の異業種企業との交流が増えたことで、多くのメリットがあったと恵美子氏は語る。
「通常は接点のない異業種の皆さんと一緒に活動することで、お客様を紹介できたり、販路を共有できたり、コラボ商品を開発したり、思いも寄らなかった目線でものを作ることができたりと、さまざまな発見があるんです」。最近では、同じ葛飾区の友禅作家とコラボした商品開発を開始。オンリーワンギフトの制作も始まるなど、新たな事業にもつながっている。
必要なのは 「ものづくりのストーリー」
近年は、事業者の高齢化や業績不振で廃業する町工場も多く、町工場や中小企業にとって苦しい時代が続いている。だが新田理事長は、そんな時代だからこそ、今回ぜひ恵美子氏を紹介したかったのだという。
「おおかわさんも、ほかの葛飾区のモノ作りの方にも思うのは、みなさんストーリーをお持ちだということ。それがブランドや商品の付加価値になっています。本日彼女を紹介したかったのは、こういうものづくりを若い女性が一生懸命やっておられて、しかもそこにはストーリーがあり、付加価値を生み出していることを、ぜひとも紹介したかったからなんです」
今後の展開として「地域に密着した形で異業種企業と連携することで、新しいものがどんどん生まれています。それを活性化できるイベントの企画なども行っていますし、今後はほかの地域のみなさんともつながっていきたい」と話した恵美子氏。その歩みは町工場のみならず、ブランディング戦略や業務拡大に悩む中小企業にとっても、多くの学びに満ちている。
<企業情報>
東京都葛飾区東水元4─8─2
℡:03─3609─9123
FAX:03─3609─1007