ACALL株式会社 – ロボットに「おもてなし」の心を。 来客対応サービスの 効率化を提案する
長沼斉寿氏 ACALL株式会社代表取締役
昨年5月に経産省が認定する「おもてなし規格認証」を取得した株式会社ACALLは、自社開発したソフトウェアロボットを活用して来客対応業務を効率化するサービスを提案している。
「ロボット」が来客の「おもてなし」をする、とは具体的にどのようなサービスなのだろうか? それが企業にどのような利益をもたらすというのか。
ACALL株式会社代表取締役、長沼斉寿氏に伺った。
人の温もりを持ったシステムが「おもてなし」てくれる会社
企業を訪問する際には当然、先方にアポイントを取る。それは何度も訪問しているところでも同じだ。大企業であればエントランスに受付嬢が常駐していて、自分の身分と、誰と約束をしているかを告げ、取り次がれるまで待つ。
その間に受付嬢は約束相手の部署に連絡する。社長であれば秘書課に連絡する。その連絡を受けた秘書は社長に来客のことを伝え、再び受付に連絡、通すように言う。更に会議室が空いているかどうかを確認、お茶などの用意を始める。
一方、エントランスでは受付嬢から入館許可を得た訪問客が、セキュリティカードを受け取り、警備員の並ぶゲートを通り中に入っていく。
「こんな一見、どこにもある一連のプロセスは本当に人を使ってやらねばならないことなのでしょうか?」
ACALL株式会社代表取締役長沼斉寿氏はそう問いかける。
日本の労働人口が減少する中、今後多くの職種がロボットなどの機械に替えられていくことは間違いない。「AIの発達で今後なくなる職業」といった特集が週刊誌などで取り上げられることもしばしばだ。既に単純労働は多くロボットに切り替えられているが、更にAIが発達することによってより多くの職種も人の手を離れていくだろう。
「2045年がシンギュラリティ(数学的見地からコンピュータ・テクノロジーが指数関数的に進化し続けると、2045年に人類が予測できる領域を超え、その後の全ての発明はAIが行うようになるという「特異点」。米AI研究者レイ・カーツワイル氏の提唱)といわれている。それが目前に迫っている中、会社組織は未だに不必要な人件費をかけて人を使っている。しかし労働人口が減るっている今、会社は人がやるべき・人にしかできないジャンルの仕事に力を注ぐべきです」
それは第一にクリエイティビティを要する仕事、と長沼代表は話す。
「ルーティンでできる仕事は、人がやらなくてもいい。例えば来客を相手に取り次ぐだけの仕事、セキュリティカードをチェックするだけの仕事、アポイントを確認するだけの仕事などです」
しかし、それらの仕事を何もかも機械に置き換えてしまったら、そこには無味乾燥な世界が広がるだけなのではないだろうか?
「勿論、人の温もりは必要です。昔は受付嬢にそれぞれの会社の個性があった。何度も訪問しているうちに顔も覚えてくれるし、取り次ぎもスムーズになった。そういった対応から会社の性格を知ることができるようでした。しかし今はどうでしょう?受付業務はアウトソーシングされ、毎回違う派遣社員が座っていて、何度訪問しても身分を聞かれ名簿に記入させられる。この対応に人の温かみはあるのでしょうか」
大事なのは「ヨコの情報共有」
「そこで弊社は、自社開発した独自の『OMOTENASHIエンジン』を用いた『来客対応RPA(Robotic Process Automation)サービス』を提供しています」
訪問者が窓口に設置してあるモニタをタッチし、訪問相手を選択すると直接相手に繋がり、来訪を伝えることができる。またそれを受けた相手は会議室の空きの確認やドリンクのオーダーなどもシステム上から行うことができる。
「訪問客のデータや来訪履歴などもそこで確認することができる。こういった今まで人がやっていた情報の共有をロボティクスを使って行うことが、弊社のサービスの大きな特徴です」
人が対応することの最大の意味は「ヨコの情報の共有」にある。担当者・受付・秘書などがそれぞれに持っている訪問者の職業・個性・好みなどの情報を共有することで「もてなす」。しかしそれがタテに分かれて共有がなされていないと、対応が無機質になる。
「それが機械化の弊害でしたが、今は人がやっても同じ。マニュアル的な対応に終始し、まるでロボットと同じような対応しかされない。だったらそれを『人の温かみを継承したロボティクス』に替えたい、と考えているのです。それによって間に人を介することなく、直接希望する人同士が会って対応することができる。人のコストをかけることもないし、スムーズに商談に入っていける。それが本当に人の温もりを感じられる対応であり『おもてなし』だと思います」
起業の動機は「人が幸せに仕事をすること」
なぜ、長沼代表はロボティクスで「おもてなし」をしよう、と考えたのだろうか。
「昔からSF映画が好きでした。『マトリックス』や『マイノリティ・リポート』などの映画ではロボットと人の関係が変わっていく近未来が語られていて、それらを観ているうちに『人間らしさというのはどういうことなのか』というテーマを考えるようになっていた」と、長沼代表は話す。
鹿児島で生まれた長沼代表は、親の仕事の都合で兵庫県宝塚市に移り住み、そこで少年時代を過ごす。大学は地元、神戸大学の経営学部に進学し、起業に関するゼミに所属した。
「周囲にはベンチャー志望の者が多かったのですが、私はまず、大会社を知りたいと思っていたので、インターンでIBMで仕事を経験しました。当時のIBMはエクセレントカンパニーとして汎く知られていて、自分自身もその風通しの良さ、闊達に意見を言い合える雰囲気に感動した。それで卒業後はIBMに入社したんです」
当初、エンジニアとして入社した長沼代表だったが、その後は営業など様々な仕事を勤め、経験を積んでいく。
「夢中に仕事をしているうち『なぜ多くの人は人生の大半を仕事に捧げるのに、そこに幸福を感じられないのだろうか』と思うようになった」
IBMという大会社の中ではその答えを見出すことはできない。そう決心した長沼代表は5年間勤めたIBMを退社し、2010年に株式会社BALANCE&UNIQUEを起業した。これが今のACALL株式会社の前身になる。
起業の地に選んだのは地元神戸だった。そこには何か意味があるのだろうか?
「自分がどこに身を置いたら幸せなのか、と考えた時に、生まれ育った地元で働くのがよいと考えたのです。慣れ親しんだ街で仕事をし、余暇は家族と共に神戸の山や海で過ごす。それが自分にとっての最高の幸せのイメージだった。それに神戸は明治に開港してから外国の人や物を受け入れてきた歴史がある。それは人をもてなすという精神にも繋がります」
より使い易く、人の温もりがあるサービスを世界に発信する
また、今後の海外進出を考えれば、必ずしも東京に拠点を置く必要はない、と長沼代表は続ける。
「弊社の提供するサービスは世界でも稀有です。来客管理や入館管理などをタテ割りにしたシステムは今もありますが、それをヨコに結んでいるシステムはない。ですから充分にチャンスはある。来年には海外に進出します。まずはアジアに。今まで、サービスに関しては海外で生まれたモノが日本に入ってくることがほとんどでしたが、これからは日本の特性を活かした『日本発』のモノを送り出していきたい」
長沼代表は「そのためには多くの人に使い易いものでなければならない」と言う。
「弊社では自社でも来客対応に同じRPAサービスを用いています。社員たちが当事者意識を持って、自分の製品を使ってみる。そこで気づいた不便さは即座に開発チームにフィードバックし改善していっています。お客様の声だけでなく、自分たちの感性も大事にしていく」
そこにはこだわっています、と長沼代表は自信を示す。
現在1500社ほどのクライアントがこのシステムを利用している。MUFGなどの大企業も中にはあるが、このサービスに業種業態の差異はない、と長沼代表は言う。
「大企業も中小も、製造業もそれ以外も、お客様をもてなす心に違いはありません。そして訪問する方・受け入れる方の双方にとってその出会いが有意義でストレスフリーなものでするために、私たちは常にアップデートを重ね、ソフト・ハード両面を効率化しています」
最後に、起業以来、最も嬉しかった瞬間を長沼代表に伺うと「それはあるクライアントと契約を結んだ時」と答えてくれた。
「何の実績もない、ただ熱意だけしかない私たちを信頼し、最大のクライアントになってくれた」というその会社は京都の会社だったという。千年の都、おもてなしの心が息づく京都の企業には、長沼代表の思いに共感するところがあったのではないだろうか。
……前で手を合わせ訪問者をもてなす姿を現しているというACALL株式会社のシンボルマーク。その気持ちは世界にも通じている。
<プロフィール>
長沼斉寿
1982年鹿児島県生まれ。2004年神戸大学経営学部を卒業後、日本IBMで金融機関担当営業、金融市場向けIBMグローバルソフトウェア商品の日本国内へのプリセールス職を経て2010年株式会社BALANCE&UNIQUE(現ACALL株式会社)を設立。2015年に自社利用のために開発した受付アプリをもとに2016年7月にACALLとして事業化。
ACALL株式会社
〒650-0033 兵庫県神戸市中央区江戸町104 江戸町ビル 2F(本社)
〒107-0061 東京都港区北青山3-3-13 Guild Aoyama 2F(東京オフィス)
URL:https://acall.jp