企業の魅力を多面的に伝える採用ドキュメンタリー番組で、 就活生と企業をつなぐ 企業専門のインターネットTV局 カウテレビジョン
髙橋康徳氏 取材相手との記念写真 (右)株式会社カウテレビジョン 代表取締役社長
「人はいつか必ず死ぬ。それが今日でないとは限らない」。誰もが頭では分かっていることだが、それをわが事と感じられるか否かで人生の過ごし方は随分と変わる。
株式会社カウテレビジョンは、創業社長・髙橋康徳氏がそれをわが事と感じ、真摯に向き合ったからこそ生まれた会社だ。転機になったのは、テレビ局の報道記者として訪れた9・11直後のニューヨーク。
そこでのある出会いから「今日死ぬとしても胸を張って死ねる仕事をしたい」と思ったことが、企業専門のインターネットTV局「カウテレビジョン」の設立につながったのだという。拠点の福岡を中心に、設立からの14年間で取材した企業は600社弱。
独自のアプローチで社会問題を解決することをミッションとし、「世界一働きやすいメディア」をめざす同社の歩みと取り組みを、髙橋社長に伺った。
企業の価値や魅力を映像で伝える
経営の3要素といわれる「ヒト・モノ・カネ」のどれもが不足しがちな中小企業では、経営上の悩みは尽きないが、近年特にクローズアップされているのが人材採用の難しさだ。一昔前なら、リクナビやマイナビといった大手媒体を使えば、応募者を集めるのには困らなかった。
しかし、急激に売り手市場へと進んだ今では地方の有力企業であっても優秀な人材を集めるのは至難の業。いい会社なのに、その価値や魅力が学生たちにうまく伝わらず応募者が少ない、人が採用できない企業が全国的に増えている。
一方、学生たちの方も売り手市場とはいいながら、最初の3年間で新卒就職者の3割が離職するのは約30年間ほぼ変わっていない。
カウテレビジョンがめざしているのは、そんな「企業から見たら採用難。でも学生から見たら就職難」の状態を解決することだ。具体的には、テレビ番組として企業を取材し、その企業の価値や魅力が伝わるドキュメンタリー番組を制作。番組を通じて学生に企業の価値や魅力を伝えることで、企業の採用に貢献するサービスを展開している。
社会性を第一とする 企業姿勢
同社のサービスが同業他社と大きく異なるのは、まずその番組のクオリティだろう。「採用ドキュメンタリー」の作成に当たっては、企業に2ヵ月かけて取材に入り、社長はもちろん社員4〜5人、取引先、地域社会、顧客に至るまで取材した上で12、13分の番組に仕上げる。
「学生さんが就職先を決める時、社長だけ、社風だけ、給料だけ、理念だけで決めてもどれも不十分。多面的な価値を総合的に判断するのが就職先選びだと思うので、事実でもって多面的な価値をきちんと伝えていかなければいけません」と髙橋氏が強調するとおり、多面性という点は同社のこだわりであり大きな強みだ。
また、企業のプロモーションVTRを作るのではなく、自社メディア「カウテレビジョン」のテレビ番組として企業を取材し、その番組を企業にレンタルすることで、採用活動に使ってもらうというビジネスモデルになっているところもポイント。
第三者からの紹介である分、高い信頼性と説得力のあるものになっている。
だがそれらを超えて最も大きい違いといえるのは、経営姿勢や価値観に関わる部分かもしれない。
「通常ビジネスというと、まずいかに儲けるかという経済性、次に独自性、最後に社会性という順番が一般的だと思うんですが、我々は社会性─社会の役に立つことを第一にしています。社会が困っていることに独自の方法でアプローチし、結果としてそこに経済合理性を成立させましょうというもので、社会性、独自性、経済合理性という順なんですね」との髙橋氏の言葉通り、同社の事業はまず「経済性より社会性」。
同時に、パーソナルメディアなのだから、全員を同じように扱うより社会への多くの貢献を重視する「中立性より貢献性」、放映時しか見られない一過性メディアであるテレビと違い、5年前、10年前のログも辿れる蓄積性の高いメディアであるネットの特製を活かし、時を経ても色あせない価値を蓄積していこうという「事実性より普遍性」も、同社が優先する価値観として、全社員の間に根付いている。
この3つを掲げて、日本一働きたいメディア企業を作っていくのが髙橋氏の今の目標だが、これらの思いは自然に生まれてきたわけではない。そこには、髙橋氏に深い印象を残したある出来事があった。
突きつけられた問い 「何のために生きるのか?」
髙橋氏の前職は、フジテレビの系列局・テレビ西日本の報道記者。新卒で入社し、31歳で退職するまでの8年間で約3000本のニュースやドキュメンタリー原稿を書いてきた腕利き記者だ。
転機となる出来事が起きたのは29歳の時。アメリカで9・11同時多発テロが起こったのを受けて、フジテレビ系列のテレビ局から3人が現地に派遣されることとなり、髙橋氏はそのメンバーの1人に選ばれたのだ。現地入りした髙橋氏は、約半月をかけて未だ混乱の中にあるマンハッタンの取材を進めていく。その時取材対象の1人として出会ったのが、ジェシカさんというユダヤ人女性だった。
「この女性は、ご主人をテロでなくされた被害者の1人でした。ご主人はツインタワーの屋上にあったウィンドウ・オブ・ザ・ワールド というイタリアンレストランのソムリエだったんです。
実は前日は2人の結婚記念日で、ご主人の開けたワインで乾杯してお祝いし、〝また1年よろしくねと〟言って、翌日の朝〝いってらっしゃい〟と見送ったのを最後に、彼はテロに巻き込まれて帰らぬ人となってしまった。そんな話を聞かせていただきました。
〝こんなことになるのならもっと〝I LOVE YOU〟と言ってあげたかったとか、友達に会わせてあげたかったとか、前日の夜盛大に祝いたかったとか、僕らの前で涙ながらに語ってくださったんですね。それで取材を終えて、僕らが立ち去ろうとした時、彼女が僕の腕をぐっと掴んで言ったんです。
〝私があなたというメディアマンを通じて、社会に一番伝えてほしいのは、私自身の身の上話や夫の話ではなくて、あなた自身今日死ぬかもしれないということよ。あなたの人生も今日終わるかもしれないのよ〟。
それから結婚しているか尋ねられたので、日本に妻がいますと答えると、〝あなたの大切な人も今日命を落とすかもしれないのよ。若かろうと年寄りだろうと、いつ命が終わるかは保障されていない。そのことを、この体験談を通じて発信してほしい〟と言われました」
当時の髙橋氏はテレビ局の特派員記者。年収は1千万円を超え、仕事に不満はないとも思っていた。けれど、この「何のために生きているのか?」との問いかけを正面から受け止めた髙橋氏は、自分の中に思いも寄らない答えを発見する。
「今29歳の自分が、これから先も報道記者として30、40、50歳とやっていくのかと考えた時、Yesという言葉がなかったんです。今日死ぬとして、胸を張って死ねるのかと問いかけた時、自分はこのままじゃ死ねないなと思ったんです」。
なぜこのままでは死ねないのか。何が足りないのか。その理由を心の中に探した髙橋氏は、程なくして一つの結論にたどり着く。「8年間で3000本書いたニュース原稿のほぼ99%までが事件や事故、災害といったネガティブニュースだったんですね。
でも本当にやりたいことはそうじゃなかった。自分は命をかけて何をするのか考えた時、わずかですがヒューマンドキュメンタリーを取材した時のこと、その時、取材する方もされる方も、見る方も嬉しい、いわゆる〝三方良し〟が成立しているのを感じたのを思い出しました。そこに人生の光を感じたんです」。
テレビ局で身につけた力をどこに使うか。心の内に指針を見い出した髙橋氏は、今度はその目では社会の現状を見渡し、「日本がもっと元気になるアクセルメディアを作ろう」と決意する。そして、31歳の時にテレビ局を辞め独立。自分の信じる「100%ポジティブ」をテーマとして、カウテレビジョンの事業母体を立ち上げたのだ。
取材現場
理想をコンパスに 100年企業をめざす
2018年5月には、全国の信用組合や行政、大学、企業と連携して地方と東京を結び、地方活性化の取り組みを進める第一勧業信用組合(東京都新宿区)とも連携。福岡のクライアント企業と東京を橋渡しする存在として、新たな役割を担い始めている同社だが、さらに未来への展望としては、「2104年時点でどうなっていたいか」という100年ビジョンを持っている。その内容は次の通りだ。
1)私たちのスタイルが世界標準になっている
2)コンテンツが世界中で教育に役立っている
3)世界の文化スポーツ振興に貢献している
4)世界一働きたいメディアになっている
5)世界平和に貢献したといわれる、ノーベル平和賞を受賞するぐらいの存在になっている
「これは理想ですが、現状から引き伸ばした目標だと10%アップぐらいで止まってしまう。だから、理想から出発して引き戻すことで課題を抽出し、社員たちが主体的に取り組んでいくという社員主体経営をやっています。私は創業者ですが、現場を運営しているのは社員たちです。
社員がこの会社に勤めてよかったと感じられる、この会社に勤めることで仕事を通じて社会に貢献していると感じられるような会社を、これからも作っていきたと思います」と、髙橋氏。毎日を全力で生きている人ならではの、力強い声を聞いた。
<プロフィール>
髙橋康徳(たかはし・やすのり)
1972年、宮崎県延岡市生まれ。広島大学理学部卒業後、1996年に、フジテレビ系列局であるTNCテレビ西日本に入社。報道記者として8年間で約3000本の番組原稿を作成する。2001年に、9・11直後のニューヨークに派遣され、そこでの取材経験から起業を決意。04年に独立し、05年にはインターネットTV局カウテレビジョンを開局。株式会社カウテレビジョンの代表取締役となり、現在に至る。
<企業情報>
株式会社カウテレビジョン
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