株式会社ビデオマーケット – 視聴者と制作者が 正しく結ばれる 映像流通を
高橋利樹氏 映像配信サービスの先駆者、株式会社ビデオマーケット 代表取締役社長
今やすっかり日常に溶け込んでいる、手にしたスマホの画面を見つめる人の姿。人々が見つめる画面の中身は様々だが、多くの人が観ているモノの一つに映像配信サービスがある。
つい最近までレンタルショップに足を運び、DVDを借り、テレビで視聴していた映画やアニメが、昨今当たり前のようにスマホで視聴できるようになっている。
株式会社ビデオマーケット代表取締役社長、高橋利樹氏はガラケー時代からこの映像配信サービスに着目して市場を開拓し、今も第一線で活躍している人物だ。
配信第1号は 「鉄腕アトム」
「配信サービスを開始したのは2006年です。当時はまだ回線の容量が小さく、高画質な映像を送ることができなかった。一般的なアニメ作品は1秒間に24コマでできていますが、当時の回線容量ではそのコマ数はとても対応できなかったので、それを1秒間に6コマ程度のカクカクした低画質のものにして配信することにしました。様々な映像権利者に話して回りましたが、みんな断られてしまった。その中で、最初に乗り気になってくれたのが手塚プロダクションさんでした」
サービス開始当時のことをそう話してくれたのは、株式会社ビデオマーケット代表取締役社長、高橋利樹氏。
株式会社ビデオマーケットは、スマホなどのモバイルツールを中心にVideo on demand(VOD)サービスを展開している会社だ。
設立された2005年当時はまだガラケーが主流の時代。NTTドコモの「iモード」など、ケータイからネットに接続できるサービスはあったが、多くの人は電話やメールのツールとしてのみしかケータイを使用していなかった。
「そんな中でサービスをスタートさせたのですが、元々世に無かったサービスですから、当初から驚きを持って受け入れられた。30分丸々映像が観られるのですから。最初の配信は手塚プロダクションから提供された『鉄腕アトム』。日本のテレビアニメ第1号のアトムが、ネット配信の第1号にもなったというのに縁を感じますし、オマージュでもあります」
その後、回線の容量が大きくなるに従い、高画質の映像配信ができるようになっていたのだが、市場が拡大する大きな転機となったは、スマートフォンの嚆矢となったApple社、iPhoneの発売だった。
「日本でiPhoneが普及し始めたのは2010年頃からですが、そこから映像配信サービスが一気に広まっていった。当時はケータイなどのモバイルで映像配信するサービスと、PCでの配信サービス、そしてTVの三者はハッキリと区別されていたのですが、スマホによってその垣根がなくなった。特にパソコンの業界の人は、新しいビジネスチャンスとしてモバイル配信を捉えて参入してきた。私たちのように元々モバイルにいた人間にとってもマルチモバイル展開をするきっかけになりましたね」
今ではWi-Fiを通じてスマホやTVなど様々なデバイスで高画質な映像を視聴できるようになった。
「ガラケーの小さな画面でカクカクした映像を見ていた時代に比べたら、よくここまで進歩したなあと思います」と、高橋代表は笑った。
ビデオマーケットサイトトップ
より早く、上質な作品を届けられるTVOD方式
「現在、様々な映像配信サービスがシノギを削っていますが、その料金システムによってスタイルは大きく異なります」高橋代表は、その方法は大きく分けて4つあると言う。
1つ目が無料での動画共有サービス。YouTubeなどがこれにあたるが、これでは著作権に関わるものは配信できず、主に一般の視聴者が映像をアップし共有するツールとしての役割を果たすものだ。以前はこういった無料配信サービスで著作物が違法に配信されていて、クリエイターたちが被害を受けていた。
2つ目が有料の動画配信サービスで、作品1つあたりいくら、とその都度単品で購入するサービスだ。トランザクショナルVOD(TVOD)と呼ばれており、iTunes StoreやGooglePlay、Amazon ビデオなどがこれにあたる。高橋代表のビデオマーケットもこのシステムで映像作品の配信を行っている。
3つ目がTVODに対してサブスクリプションVOD(SVOD)と呼ばれる動画配信サービスで、これは月額定額で見放題、というものだ。今盛んにCMを出しているHuluやdTV、Netflixなどだ。
最後の4つ目がアドバタイジングVOD(AVOD)で、視聴者は無料で見ることができるが、途中でCMが入るモノ。AbemaTVやGYAO!などだ。
「これらのサービスにはそれぞれメリット・デメリットがありますが、私たちがTVOD方式を用いているのは、この方法が新作映画を最も早く配信できるからです。定額制のサービスは『見放題』と銘打ってあるので人気はあるのですが、そこで配信されている映画は早くて一年以上前に公開されたもの。単体購入のほうが圧倒的に早く新作映画を視聴することができるのです」
映画作品の場合、劇場公開による興行収入から始まり、公開数ヶ月後のDVDやブルーレイの発売、そしてレンタルで収益を得ていく。ビデオマーケットのようなTVOD方式だと、映画の製作者はレンタルと同様に収益が得られるのだが、月額定額のSVOD方式では、一回の視聴から得られるのはホンの1円未満、ということになってしまうのだ。結果、新作映画の配信はDVD発売より更に数ヶ月後になってしまう。
「映像作品は鮮度が命」と高橋代表が話すように、新作映画の配信が数ヵ月後・半年後になってしまうと視聴者は興味を失ってしまう。新作配信が遅いSVOD方式のHuluやNetflixが今、巨額を投資してオリジナルドラマなどを充実させて視聴者を逃がさないようにしているのには、このような理由があるのだ。
「そのような投資をしなくても、TVOD方式の私たちは、新作映画を次々に配信できるし、映画公開から時間が経っていないため、まだ話題性も十分です。現在、弊社で配信している映像作品は21万を超え、これは他社と比べて圧倒的に多い。そして最新作を早く配信できる。これが弊社の大きな強みです」
ジョブスとゲイツに衝撃を受けた少年時代
「小さい頃から家にPCがあって慣れ親しんでいました。当時PC好きが情報を集める方法はアスキーなどのPC雑誌しかなかったのですが、そこに載っていた記事の中にスティーブ・ジョブスとビル・ゲイツの名前があったんです」
幼い頃の高橋代表は、その二人の記事を読んで驚いた。
「既にアメリカのPC業界では革命児として知られていた二人でしたがとにかく若い。当時まだ中学生くらいだった私は、社長といえばご年配の方だというイメージがあった。それをこんな若い二人が社長として業界を変えていこうとしている。PCなどの新しい技術を使うデジタル業界ではそれができるんだ、と思った」
それで、自分もジョブスやゲイツと同じようにガレージベンチャーから起業して業界に新風を巻き起こしたいと思った、と高橋代表は話す。
早稲田大学法学部を卒業後、NTT移動通信株式会社(現NTTドコモ)に入社したのにも、理由があった。
「何も知らないで起業するというわけにもいかないな、と思って。大学生の頃からモバイルコンピューティングには興味があって、ケータイにポケットコンピュータを繋いでメールしたりしていたので、近いうちにそういう時代が来ると思っていましたから、それができる会社は、と思ってNTTドコモを選んだのです」
まだPCは家に据え付けられていて、固定回線と繋がっている時代。メールは家でPCを開いて見るものだったが、高橋代表はそれが持ち運びされる、モバイルの時代が来ると予見していた。
7年ほどNTTドコモで勤務した後、起業。
「当時はiモードの全盛期で、NTTドコモは大人気の企業になっていましたが、自分の夢はあくまで起業することだった。それに進化がめまぐるしいモバイル業界では、今後iモードに代わる何かが現れるのではないかと思っていました。」
その高橋代表の予想通り、2006年1月には世界最大のモバイルプロバイダとしてギネス認定されたほどのiモードだったが、その後スマホの普及により利用者は急速に減少に転じ、2018年現在に至ってiモード対応ケータイの販売は終了してしまっている。
「独立して仲間と共に作った会社は半年くらいで売却してしまったのですが、その後に参画した株式会社ビデオマーケットで自ら立ち上げた映像配信サービスには将来性がある、面白い、と思って会社を買い取ったのがきっかけです。当初は先述したように、配信する作品がなかなか集まらなくて苦労しました。
元々ネットの世界はフリー思想がある。情報やシステムを一部が独占するのではなく、公開してひろく利用してもらうことで利益を上げる、ディファクトスタンダードという考え方です。しかし、映像産業の人には著作権があるし、作品は監督やスタッフ・俳優など『個』を大事に創られるモノ。ですからお互いに話が噛み合わなかった」
2000年代初頭は、作品を出し渋っている映像業界に業を煮やしたネット業界が先に映像共有サービスのツールを作ってしまい、それに利用者たちが違法にアップロードする、いわゆる海賊版が横行することになった。
結果、映像業界からは「ネットは自分たちの利益を掠め取っていく」という認識を持たれてしまった、と高橋代表は話す。
「私がTVOD方式で映像配信サービスを行っているのには、『映像を制作者している方々に正当な対価を支払えるから』という意味合いもあります。私の父はテレビ局で働いていました。ですからネット業界の考え方と映像業界の考え方の両方が理解できる。両者が手に手を取って互いのメディアの強みを活用していけば、もっと多くの人が映像を手軽に観ることができるし、作り手がより多くの利益を手にすることもできる。そしてそれを次の作品に振り向けることができる。そういう好循環を作っていきたいと考えています」
「……サービス開始当初はガラケー向け配信用に映像の画質を下げて、と話していたので、映像会社の人からは怒られましたね。4Kの高画質でテレビ放送している時代に、逆に下げたいと言っているのですから(笑い)」
今では更に高画質で配信ができるように取り組んでいるという。社員は総勢約150人。エンジニアやデザイナーなど、仕事を外注せず全て自社内でできるようにしているのも特徴の一つです、と高橋代表は話す。
今後について伺ってみた。
「上場については考えています。上場することで社員にも安心感がありますし、映像を提供してくれる側も信頼感が増します。自分たちは視聴者と制作者の間を取り持つ仕事なので、自分たちがボロボロだと両者から愛想を尽かされてしまう。ですから常に公正にやっていかないといけないと考えています」
……「正しい映像流通をしたい」という強い思いで事業を進める高橋代表。今後、更に拡大していくであろう映像配信サービスの業界の中で、その第一人者としての姿は、今も大きな存在感を示している。
<プロフィール>
高橋利樹
1973年東京都生まれ。1999年、早稲田大学法学部を卒業後、NTT移動通信株式会社(現NTTドコモ)に入社。2006年に株式会社ビデオマーケットに入社後、2009年にMBOにより株式会社ビデオマーケット代表取締役社長に就任。以後、現職。
<企業情報>
株式会社ビデオマーケット
〒107-0052 東京都港区赤坂1-9-13三会堂ビル7F
TEL:03-3505-3555