プライム・スター株式会社 – 企業経営と人の生活、そして環境をも変える LED照明の幅広い可能性を伝えたい
LEDの電球が各家庭に普及し特に珍しいものではなくなったのはいつ頃からだろうか。「電気代の節約になる」「蛍光灯より長持ちだ」と利点が強調され、売上は順調に伸びる。パナソニックが2019年3月に蛍光灯の生産を終了し、LEDに完全転換すると発表したのも記憶に新しい。
そんな右肩上がりの市場で今、注目されている人がいる。「LED照明器具は非常にたくさんのメリットがあります。しかし特に日本市場には多くの問題点があるということも理解しておかなくてはいけません」。
そう話すプライム・スター株式会社代表取締役の下田知代氏にお話を伺った。
ガラパゴス照明の日本
LED照明の国内市場が拡大したのには2011年の東日本大震災が大きな契機となった。
全国の原子力発電所が停止、日本中が節電を意識し始めた7年前から照明器具市場におけるLED照明器具のシェアは急速に拡大、当時はおよそ半数を占めていた蛍光灯を一気に駆逐することになった。
そんな照明業界で注目を集めているプライム・スター株式会社は、LED照明等を中心とした省エネ照明器具の製造・設計・販売やコンサルティング、電気工事、蓄電池分野への参入、補助金コンサルティング、新電力紹介などを行なっている会社だ。
「弊社の扱う照明器具が他社と大きく違う点は、国際的な規格『EMC国際規格CISPR』に適合していることです」と下田代表は製品に自信を示す。
CISPR(シスプル:国際無線障害特別委員会)は無線障害の原因となる不要電波(妨害電波、ノイズ)に関しその許容値と測定法を国際的に合意することによって、国際貿易を促進することを目的として今から84年前(!)の1934年に設立されたIEC(国際電気標準会議)の特別委員会だ。工業機械・自動車・モーター・コンピューターなど凡ゆる機器に伴う電磁波を調査し、その電波妨害に関する基準を定めている。
「他社の商品が取得しているのはほとんどの場合CISPR15(電気照明及び類似機器の無線妨害特性の許容値及び測定方法に関する条項)のみ。しかしそれだけでは医療機関など、電磁波(ノイズ)による機器の誤作動の危険が疑われるところでは使用することができない。
そこで弊社ではCISPR15のみならず、CISPR11(同じく工業・科学及び医療用装置に関する許容値及び測定方法条項)、そしてCISPR22(同じく情報技術装置からの妨害波の許容値及び測定方法条項)の3つに適合するものにしています。これによって病院・放送局・オフィス・商業施設・学校など様々な施設で使用することが可能になりました」
それでは、現在販売されている他社の商品ではそれらの施設で使用できないものもあるのだろうか?
「実は今、日本で販売されているLED照明器具はCISPRなどの国際的な規格に適合しているものではありません。国内の工業規格であるJIS規格にはそういった他の機器への影響がある電磁波への基準が設けられていません。各メーカーによる自主判断に任されているのが現状なのです」
以前、LED照明器具が製品化されJIS認定を受けるに当たり、日本照明工業会や経済産業省が第一に危惧していたのは、従来の蛍光灯機器との互換性があると危険ではないか、ということだった。
事実、蛍光灯用の照明器具に蛍光灯と似た形である直管LEDランプを誤って接続、使用したことによる火災の事例は後を絶たず各都道府県消防庁では注意を促している。このやり方で使用してしまうと内部に過電圧がかかり、高周波・過電流が発生、異常発熱してしまうのだ。
「そういった危険性が、事業者がLED照明に切り替えることに逡巡してしまう原因でもあります。『有益なのは分かっているが、いったい何を使えばいいのかわからない』と」
LED照明のコンサルタント
現在、各メーカーがバラバラの基準で作っているLED照明器具。その種類も、設置のために工事が必要なもの・そうでないもの、電源が外付け型なのか内蔵型なのか、器具一体型かなど多種多様で複雑だ。
「そういう状況ですので、今は最初に設置したメーカーのものを、例え他に性能が良く安価な商品が発売されたとしても使い続けなければならない、ということになってしまっています。またLEDは長く保つので交換までのスパンが長い。
ですので市場は今後数年で拡大期が納まり安定、横ばい期に入ると考えられています。今はそれまでの間、各メーカーがベースランプの設置数のシェアを競っている『天井の取り合い』の時期なのです」
下田代表はそう話す。そんなメーカーの思惑も事業者を困らせている原因の一つだ。そこで下田代表はLED照明を導入するためのコンサルティングも行なっている。
「この事業をスタートさせたのは2008年頃からでした。その時多くの事業者と話をしましたが『LEDを知っているのだが、規格が分からないし、どのメーカーのものがよいのか分からない』という人がとても多かった。確かに日本の有名メーカーの商品は高いし、対して中国のメーカーのものは安いが性能に心配が残る。そこで『じゃあ代わりに私が調べます』と提案したんです」
下田代表は様々なLED照明を比較し、性能や規格がカタログとあっているのかどうか。それを分析してクライアントの要望に適切なものを提案していった。そういったコンサルティングが成果を重ね、遂にはUR都市再生機構がLED導入を検討していた際に参加することができた。
「それがこのビジネスの道が開けた瞬間でしたね。2010年の末頃のことでした」
金融業だったからこそチャンスに気づいた
LED照明が近い未来のスタンダードになるになることは間違いないが、では何故下田代表はこのLED照明に興味を持つことになったのだろうか。
「実は私は『照明屋さん』になることを目指してきたわけではないんです」と下田代表その経歴について話してくれた。福岡県で生まれた下田代表は九州大学に進学、法学部で学んだ。
「私が大学生活を送っていた1990年代初頭は、やっと男女雇用機会均等法が制定され、各企業が女性総合職の採用を始めていた時期。しかし就職の際にはまだまだ男女の壁が感じられました。それで女性でも手に職をつけないとと思い銀行に就職をしたのです」
ショールーム
採用されたのは当時の安田信託銀行(現みずほ信託銀行)。そこではマーケットを担当した。株のアナリストとして市場を調査して企業価値を算定するという仕事を任されていた。
「992年年に入行し、04年に年に退社するまでこの仕事に従事していました。それで退社後もそれまでの知識や経験を活かせる中小企業の鑑定をする仕事を始めたのです。中小企業の経営者に銀行との付き合い方や株式上場の仕方、ベンチャーキャピタルからの資金調達の方法などをアドバイスする、コンサルタントとして」
コンサルティングを通じて様々な中小企業と知り合っていくうちに、隠れた新技術を知ることが多くなった。その中に、LED照明があった。
「ある外資系企業から、日本にLED照明を導入したいのだが日本での展開方法について教えて欲しい、という依頼を受けたのが出会いでした。実は当時はまだLED照明というものを知らなくて(笑い)。そこで詳しく調べたら電気代を大幅に減らすことができる新商品だということがわかった。これは使える! とその時思ったんです」
当時はリーマンショックの直後で、どこの企業も経営に苦心している時期だった。下田代表はこの新技術が経営に与える影響に気づいていた。
「電灯を付け替えるだけで電気代を50%も減らすことができる。売上げが上がらなくても確実に利益が上がるのであれば、例えば初期投資を自己資金から出さなくても金融機関や投資家から集めてきて、そして経費を圧縮することで生まれたキャッシュフローから返済に充てることができる」
払っていた負担を軽減することから資金に自由が生まれる、という金融機関出身ならではの発想だった。
展示会でスタッフと
電気代節約だけが価値ではない
こうしてLED照明事業に参入した下田代表が、東京ビッグサイトで行われていた展示会に参加していたまさにその時、東日本大震災が起こる。
「展示会の最終日でした。そして余震が続く不安な状態の中で発生した福島第一原子力発電所の事故。日本中の原子力発電所が止まり、メディアが節電を叫ぶようになった」
そんな中で下田代表は、自分の仕事の可能性を新たに感じるようになる。
震災を予測することはできない。しかし省エネで長持ちする製品を提案し使ってもらうことは、環境を守ることに繋がる、と。
「『創エネ・省エネ・蓄エネ』。この3つをこれからは考えていかないといけない。節約するだけでなく、新たなエネルギーを生み出し、また蓄えていく。ですから照明を売っているだけではなく、人の暮らしやすい環境を創り守っていくこと。それが弊社の理念です」
プライム・スター株式会社が掲げているのは「Human Centric Lightingヒューマン・セントリック・ライティング」。人を中心に考えた照明、という考え方だ。
「LED照明のデメリットはその眩しさです。仕組み上、ある程度の電気を通さないと発光しないLEDは常に強力な光を放っている。人間の生活リズムは体内時計でコントロールされていますが、それをLED照明は乱してしまうのです。普段なら太陽の光を浴びて体が自然に調節できるリズムが、強い人工的な光で狂わされてしまう。そういう不快感を軽減する照明を私たちは考えています」
例えばスイッチをオンオフするだけではなく、必要な場所だけ強くし、不必要な場所では明かりを絞れるようなもの。ずっと均一な色だけではなく調節できるようにし、夜間は安らぎを与える電球色に変えられるもの。AIと連動して音声認識で点灯するもの、などだ。
「人の生活や住環境、健康を守れるものにしていきたい」と下田代表は話す。
ショールーム
LEDを普及させると環境・社会は大きく変わる
「今、LED照明市場は低価格競争になっています。しかしそれでは各メーカーの消耗戦になってしまうだけ。ですからそこに違う価値観を提供できる存在、『人に寄り添う照明』を提案できる会社でいたいと考えています」
東日本大震災から4ヶ月後には、東京赤坂に「TOKYOセツデンSTATION」をオープンさせ、LED照明の普及に力を注いでいる下田代表。そこでは海外メーカーの製品も含め約30種類ものLED照明器具を用意し、訪れた人々が自分の目でその性能を確認することができる。
「そこではLED照明のレンタルサービスなども行っています。長期にわたってご利用し試してていただくことで、実際に電気代が少なくなっていることや明るさなどを実感してもらいたい。またこういったショールームをどんどん全国各地に広げていきたいと思っています。そうして複雑で使いにくいもの、というイメージを打ち消したいのです」
「『明かりのコンシェルジュ』として私たちを使ってもらいたい。そうすることで、私たちの理想とする環境・社会に近づけると思いますから」と話す下田代表。
……東日本大震災から7年半。オリンピックが間近に迫り、東北の悲劇は遠い過去のものにされてしまったようだ。節電・計画停電などと騒がれた日々もまた忘れ去られている。しかしそれは目を背けているだけで、日本の電力が際どいバランスの上に立っていることには変わりない。
国際規格に従う高い品質と、環境へのこだわり。下田代表は明かりという生活に密着した技術から今、変えられることを考えている。
<プロフィール>
下田知代
1969年、福岡県生まれ。九州大学法学部を卒業後、1992年に安田信託銀行(現みずほ信託銀行)に入行。2004年に同行を退社し、2007年にLED照明の製造販売施工を手がけるプライム・スター株式会社代表取締役に就任。以後現職。
<企業情報>
プライム・スター株式会社
〒107-0052 東京都港区赤坂4-8-14 赤坂坂東ビルディング8F
TEL:03-6869-6606